望郷星12
「危なかったな。倒れる時音はしなかったが、こちらに倒れて来て下敷きになっていたら多分お互いにおだぶつだったろうな」と田村が言った。
遠ざかる金属音の悲鳴が耳をくすぐるように聞こえた直後、目の前の巨木が姿なき猛獣の牙にかかり、幹を真っ二つにへし折られて、音も立てずに向こう側に倒れて行った。
それはまるでスローモーションのCG画像を目の当たりにしているような光景であり、固唾を飲んで唖然として佇んでいる僕に向かって田村が動揺一つせず、冷静そのものの口調で言い放った。
「危なかったな。倒れる時音はしなかったが、こちらに倒れて来て下敷きになっていたら多分お互いにおだぶつだったろうな」
僕は震える声で尋ねる。
「あ、あの目に見えない牙は何の化け物なのだ?」
田村がさらりと言って退ける。
「あれは多分透明なワームホールとしての鮫の牙に噛まれてへし折られたものだろうな」
「鮫がワームホールを象って地上を泳いで移動しているのか?」
田村がやんごとない感じで首を振り答える。
「いや逆だ。ワームホールが鮫を象って地上としての海を泳いで移動しているのさ」
僕は眉をひそめ再度尋ねた。
「ならばここはやはり暗黒の宇宙空間なのか?」
田村が事もなげに答える。
「いや、大した問題ではないが、無人島としての海の底であると同時に暗黒の宇宙空間でもある複合型空間だと思う」
息を呑み僕は尋ねた。
「それはやはり瞑想装置たる村瀬の罠だからこその複合型騙し絵なのか?」
田村が息を調えてから無機質に答える。
「多分そうだと思う」




