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望郷星116

「お前は成美ちゃんなど殺していないし、何も悩んだりせず、この世界でお前の母さんとの慈愛を育めばいいのさ」と田村は言った。

青ざめた僕の顔を彼女が覗き込むような仕種をしてから尋ねて来た。




「大丈夫ですか?」





僕は照れ隠しをするように水を一口飲み答えた。




「ええ、大丈夫です。今日はもう酒は飲めませんが続けて下さい」




彼女が僕のグラスに水差しで水を注ぎ足してから言った。





「でも縁だけではなく、男女の営みなんて全て視点を変えて客観的に見れば滑稽そのものでしかありませんよね。でもそれを為している人達は皆真剣そのものに取り組んでいるからこそ、余計滑稽に見えるのですよね」





僕は青ざめた顔付きをしたまま答えた。





「そうですよね。視点と言うか角度を変えてしまえば、人のどんな営みも全て滑稽と言うか、戯画にしか見えませんよね」




彼女が声を立てて笑った瞬間、その笑い声に触発されてカウンターバーの背景と、彼女の姿が凍てつくように止まり、暗転してから真っ暗闇になった。





そして凍てついた時間に囚われ動けなくなった僕の目の前に、青く光り輝くビー玉が浮き上がり、そぞろ村瀬の声で語り出した。





「お前の思念は既に多次元宇宙の果てにあるこのカオスの坩堝たる惑星でバラバラになり壊滅崩壊寸前なのだ。だからこそお前はワームホールとなり成美を残忍無比に食らい、その思念の欠如分をごまかす為に、成美の在るが同時に無い偽物傀儡存在と会話を交わして、残忍に食らった己の罪の償いを偽善者よろしく為そうともがいているのが、今のお前の憐れな姿なのさ。そんな事も分からないのか、馬鹿め」




時の氷の狭間に阻まれ、凍てつき動けなくなった僕の身体から、まるで無理矢理分離し脱皮でもするように、もう一人の僕の分身がグルリと身体の内部で反転して、僕は反対側に向き直り、前後を同時に四つの眼で見詰める存在となり、迷路の空中に浮かぶ壊れたパラソルたる田村を凝視してから、口を動かし言った。





「田村、そんな姿でどうしたのだ。辛いのか?」





田村がしんどそうに答えた。





「ああ、ちょっとな。でも俺の事は心配するな。お前は成美ちゃんなど殺していないし、何も悩んだりせず、この世界でお前の母さんとの慈愛を育めばいいのさ」




僕は涙ぐみ答えた。





「有り難う、田村」





その僕の声を聞き付け青く光るビー玉たる村瀬が嘲るように笑い再度言った。





「馬鹿め、お前ら二人など死ぬ価値すら無いわ」

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