望郷星114
「滑稽な縁ですか。でもそれって滑稽ですかね?」と僕は彼女に尋ねた。
酔いを覚ます為に水を一口飲んでから僕はおもむろに言った。
「確かにそうですね。縁と言うのは不思議なものですよね」
彼女がワインを味わうように飲み、グラスをテーブルの上に静かに置いてから言った。
「男女間の縁に限定して話しをすると、絆が強いものが縁も濃いという事になりますよね。でも男女間の絆と言うのは俗に言う腐れ縁も多いし、一概に良いものばかりではありませんよね。そう思いませんか?」
僕は彼女の話しを聞きながら、又しても頭の心がジーンと痺れるのを感じ、彼女の話しは彼女がしているものではなく、ワイングラスの中に入っているビー玉がそのまま迷路で空中に浮かびながら、成美ちゃんの声で話しているのだという錯覚に囚われ、慌てて再度首を振り、その錯覚を振り払い答えた。
「そうですね。でも僕らの縁と言うのはどんな縁なのですかね?」
彼女が答える。
「男女間の絆と言うのは結局尽きるところそれぞれの心の問題に反映されて行くと思うのですよ」
僕は再度水を飲んでから尋ねた。
「ですからその心の問題に照らし合わして、一体僕らの縁とは何なのでしょうかね?」
彼女がワインを飲んでから息をつき答える。
「私達は心病んでいる者同士だと思うのですよ。ですからそれぞれの病んだ心の問題を酒席に持ち寄って絡み合っているのが私達の縁だと思うのですよ。滑稽な程にね」
僕は再び錯覚が起きない事を念じながら尋ねた。
「滑稽な縁ですか。でもそれって滑稽ですかね?」
彼女が頷き答えた。
「客観的に見れば滑稽ですよ。心病んだ者同士の縁なのですから」




