望郷星113
「成美ちゃんという女性を諦めても好きだという心根が貴方のエキセントリックな魅力になっているのに残念ですね」と彼女は言った。
彼女がグラスの中に入っているワインを慈しむように見詰めながら言った。
「このワイン、ビー玉のように綺麗ですね」
この言葉を聞いた途端僕は頭の心が痺れるような感覚を覚え、酔いが急速に回り、僕は幻覚を見始めた。
海浜公園の迷路とカウンターバーが交じり合った境界線に、彼女がビー玉として浮いていて、空中を回転しながら僕に話しかけて来る。
「成美ちゃんという人はどんな人なのですか?」
僕は頭の中で迷路にいるビー玉は成美ちゃんであって、彼女ではないという否定をしつつ痺れる頭で考え答えた。
「成美ちゃん、君はそこで何をしているんだ?」
するとビー玉の回転が止まり彼女が笑い言った。
「私は成美ちゃんではありませんよ。酔ったのですか?」
僕は首を左右に振って幻覚を振り払い答えた。
「すいません、少し酔ったようです」
彼女が微笑み言った。
「貴方は本当に成美ちゃんの事が好きなのですね?」
僕はうろたえ弁解した。
「いえ、今はもう諦めましたから」
「でも好きなのは変わりないでしょう?」
「それはそうかもしれませんが、でも届かぬ恋心ですから」
彼女が小悪魔じみた笑みを湛え言った。
「成美ちゃんという女性を諦めても好きだという心根が貴方のエキセントリックな魅力になっているのに残念ですね」
この言葉を聞いて僕が絶句したのを見て取り彼女が続ける。
「でも人の縁と言うのは不思議なものですよね。貴方が成美ちゃんという女性に失恋したからこそ、私と貴方は出会ったのですから」




