望郷星111
「多分そうですね。私は貴方の自己同一性障害的発言に魅力を見出だしていますから。でも私はそんな自分の姿勢を自覚していますから、無自覚な精神異常者とは言えないかもしれませんが」と彼女は言った。
先が一切読めない暗中模索のまま僕は彼女との逢瀬を重ねる。
彼女が言った。
「貴方は自分が狂っている事を自覚していない精神異常者なのかもしれませんね?」
僕は酒で理性を損なわない程度に盃を傾けながら尋ねた。
「ちょっと待って下さい。聞き捨てなりませんね。それはどんな意味なのですか?」
飄々とした呈で彼女が答える。
「表層的代表例を言えばサイコパスとか。世間には自分が狂っていると分からない無自覚な精神異常者は沢山いますよね。行動は明らかに異常者なのに自分の事をまともだと思っている人達だらけだからこそ、犯罪は後を絶たないのではありませんか?」
僕は憤りを何とか抑えてから尋ねた。
「貴女は僕を潜在的な犯罪者だと言いたいのですか?」
率直な口調で彼女が答える。
「いえ違います。貴方が無自覚な精神異常者だからこそ、そこに魅力を見出だしている同類項だと私自身思うのですよ」
「それは貴女も無自覚な精神異常者だと言うのを認めている言葉なのですか?」
彼女が謎めいた笑みを湛え言った。
「多分そうですね。私は貴方の自己同一性障害的発言に魅力を見出だしていますから。でも私はそんな自分の姿勢を自覚していますから、無自覚な精神異常者とは言えないかもしれませんが」
「無茶苦茶な発想ですね」
彼女が事もなげに言った。
「そうでしょうか。私は至ってまともだと思いますが」




