望郷星110
僕は夢を見ている。
僕は夢を見ている。
無重力状態の暗闇の海の中を口元に笑みを湛え漂う夢だ。
上下左右の感覚が麻痺し、僕はその海の中を喜悦の笑みを湛えて踊るように漂っている。
「ああ、ここは母さんの胎内の中なのだな。だからこんなに心地好いのだ」と思った刹那右足に激烈なる痛みが走り、右足を食いちぎられ、僕はあらん限りの声で絶叫を上げた。
その絶叫が成美ちゃんの悲鳴に変わり、黒い闇の中、その悲鳴が牙を剥き僕を八つ裂きにして行く。
だが僕の身体はほとばしる鮮血を出して八つ裂きになるのと同時に修復し元通りになり、成美ちゃんの悲鳴の牙がそんな僕の身体を容赦なく引き裂いて行く。
八つ裂きになっては修復し又しても八つ裂きになり、その都度僕は激烈なる痛みに絶叫を上げるが繰り返される。
その残忍なる繰り返しの中で僕は痛みから解放される為に死ぬ事を切に願うのだが、死ぬ事すら出来ない。
成美ちゃんの悲鳴が僕を八つ裂きにする度に、僕の夢を見ている二つの眼球は不条理にも八つ裂きにされている身体と分離し、その凄惨なる光景を真っ暗闇の中で不条理にも凝視し、目の当たりにしている。
その分離している僕の眼球の心臓の動機が高鳴り、真っ暗闇の世界から成美ちゃんのつんざく悲鳴に押し出されるように、僕は重い瞼を開いた。
自分が今いる場所が自分の部屋である事を確かめてから、上体を起こして額に滲んだ脂汗を手の甲で拭い、僕は独り言を呟いた。
「成美ちゃん…」




