望郷星11
「元々俺達は鮫に食われる為にここに来たのだからな。襲われて上等じゃないか」と田村は息巻いた。
ゆっくりと林道を歩いていた田村が不意に立ち止まり、へし折れている木を指差してから言った。
「これは何かに噛まれて薙ぎ倒された跡だな。強烈なる牙の力だ。一体何に噛まれた跡なのだろうか?」
僕は恐怖感にすくみながら答える。
「分からない。しかしあの悲鳴と何かしら関係があるのだろうか?」
田村が首を振り言った。
「俺にも分からない。第一牙だけで木を薙ぎ倒す猛獣など象位しか想い当たらないし、あの金属音のような悲鳴は確かに走り去る女のものだしな。関連性など考えられないだろう」
恐怖感に滲んだ額の脂汗を拭い、僕は極めて短絡的な意見を述べ立てた。
「この木を薙ぎ倒した猛獣に少女が襲われて断末魔の悲鳴を上げたのが、あの悲鳴かもしれないな」
呼吸法を調える為に深呼吸してから田村が答える。
「憶測や推理ならば何とでも言えるだろう。と言うか、悲鳴はこの木を薙ぎ倒した猛獣そのものが上げたものかもしれないじゃないか?」
僕は衰弱して行く一方の身体を小刻みに震わせながら言った。
「砂浜に戻るか、あそこならば安全そうだし?」
首を左右に振り田村が答える。
「いや、ここまで来たのだから、この猛獣の正体が何なのかを見極めてから戻ろう。ついでにあの悲鳴の正体も知りたいしな」
震えるのを隠さず僕は言った。
「襲われちまうぞ、それでもいいのか?」
田村が意気込み答える。
「元々俺達は鮫に食われる為にここに来たのだからな。襲われて上等じゃないか」