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望郷星108
「狐と狸の化かし合いに勝つしか決め手は無いのさ」と母さんは言った。
僕は尋ねた。
「母さん、あんな風な百戦錬磨の未亡人に勝てる決め台詞と言うか決め手は無いのかな?」
母さんがしばし沈黙してから、きっぱりと答えた。
「無いね。ああいう言わば狐は男の裏側しか見ないからね。裏の裏をかいて愉しむ事しか考えないからね。だからその狐と狸の化かし合いに勝つしか手は無いのさ」
僕は唸り声を上げてから言った。
「何か俺にとっては人生最大の壁だよね、母さん?」
母さんがいみじくも微笑み言った。
「だからその人生最大の壁を越えていっちょ前になった姿を母さんは見たいのさ。あんた分かるだろう?」
僕は泣き笑いの顔付きをして答えた。
「俺に乳離れしろと言いたいのだろう、母さん?」
「まあ、そう言う事さ」




