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史上最強の汚ギャル   作者: bbb
8/13

驚くべき真実


あれから、一週間が過ぎた。




今日は終業式。




いつもより朝早く目覚めた俺は。



いつもより朝早く登校した。



下足室には……。




誰もいない……。





と、思っていた。




でも!



マジメ君がいた!




挨拶をしようと、マジメ君のそばまで行く。



ロッカーの前にいて、何かしていた。



あれ?



このロッカー。



小山内あやめのロッカーだぞ?



なんでマジメ君、小山内あやめのロッカーを無断で開けてるんだ?



俺は気になった。



普段から、その小山内あやめのロッカーは鍵が、かけられていない。



したがって。



誰でも開けられる。



マジメ君は小山内あやめのロッカーを開けて、何をしてるんだ?




早朝、誰もいない下足室で、怪しい。



俺は、観察することにした。



それで、たくさんあるロッカーの陰に隠れた。




よく見ると。



マジメ君は、何やら持っていた。



マジメ君が手にしているモノは……。



うわばきだった。



奇怪だ。



実に、奇怪だ。




俺は、小山内あやめのうわばきを持ったマジメ君が何をしようとしているのか全然わからない。




とりあえず。




このまま、声をかけず、息を殺して見守るしかない。







えっ?




マジメ君!?





小山内あやめのうわばきを臭い始めた。



嘘だろ?



嗅いでるよっ。



一生懸命、うわばきのニオイを嗅いでいる。



何やってんだ、あいつ?



頭おかしくねー?




なんで、小山内あやめのうわばき嗅いでんだよ?



理解できねぇー。



あいつ、こえー。



マジ、こえーよ。



あんなことしたら、死ぬぞ?



もしかして……。



くっせー、うわばき嗅いで死ぬつもりか?



自殺するつもりか……?



だったら……。



やめろ!



死ぬな!



それに、数ある死に方でも小山内あやめのニオイで自殺することは残酷な死に方だ。



世の中で最も残酷な死に方だぞ?



それだけは、やめろっ!



「やめろ!」



俺が止めに入る。




マジメ君は目を丸くする。



俺の登場を想像もしてなかったようだ。




「死ぬつもりか?」




俺が聞く。




マジメ君は黙っていた。



そして、まだ小山内あやめのうわばきを放そうとしない。




「悪いことは言わない。その方法だけは、やめとけよ」




俺が説得にかかる。



マジメ君は俯いた。



「なんで死ぬんだよ?」



何があったんだ?



辛いなら、相談に乗る。



俺が、そう言おうとしたら。



「ほっといてくれよ」



マジメ君は、そう小声でつぶやくと、小山内あやめのうわばきを元のロッカーに入れた。



パタンっ。




ロッカーを閉める。



肩を落として、教室の方へ向かった。




小さな後ろ姿を見つめる。



これで、自殺を思いとどまってくれただろうか?



気がかりだなあ。



マジメ君のことを考えながら、俺も教室に向かった。



「うう……う……しくしく……」



俺が廊下を歩いていると、静けさの中で泣き声が響き渡っていた。




たぶん、マジメ君が泣いているんだろう。




あいつ、どうしちゃったんだよ?



教室のドアの前。



ドアは開けっぱなし。




そこから見えるのは、泣いているマジメ君の姿だった。



マジメ君は俺に気付かず、泣きまくっている。



マジメ君は自分の席に座っていた。



俺が席まで駆け寄る。



「どうしたんだよ? 嫌なことがあったなら、相談に乗るから話してみろよ」




こんなことを聞かなきゃならない俺の気持ちまで朝から暗くなる。



マジメ君は俺と目を合わせようとしない。




ひたすら、机に涙をこぼしていた。




「人に話したら悩み事が解決するかもしれないから」




俺が心を開こうとする。



でも、マジメ君は話そうとしない。



なんか喋ってくれ。



頼む。



そんな気まずい空気が流れる中。





「森野君がムカツクんだよぉぉぉ!」




泣きながら、マジメ君がキレた。



俺は、パニック。



何だって?



俺がムカツクって?




「僕の好きな小山内さんと毎日イチャつきやがって!」



え?



『好きな小山内さん』?




「しかも、さっきは僕の日課を邪魔しやがって!」



え?



『日課を邪魔』?




「僕が小山内さんのことを愛していると知らなかったのかー!」



マジメ君は、そう大声で怒鳴った。



あの……。



それは……。



知らなかった……。



ごめん……。



「僕の日課は、朝早く来て小山内さんのうわばきを臭うこと。誰にも見られない時間帯に来て、密かに臭うのが大好きなんだ」



変態か?



「この日課は、中学時代から続いている」



何だって!



中学からっ!?



「僕は小山内さんに片想いしてる。ずっと……」



切ない表情で、マジメ君はそのまま口を閉ざしてしまった。



物思いに、ふけっているようだ。



「中学から好きだったって?」



俺はマジメ君の話を聞くため、机に腰を掛けた。



マジメ君は俺がマジメ君の机に座ったので、迷惑そうな顔をした。




「そうだよ。中学からだよ。小山内さんとは中学だけでなく小学校も同じだったんだ」




「どんな奴だった?」



「どんなって言われても……」



「そんな男にモテるキャラだったのか?」



「ううん。違うよ。モテキャラじゃなかったよ」



「そうだよな」



「うん。でも、僕は好きだったんだ。セレブな小山内さんは私立小も私立中も受験がダメだったから、僕と同じ公立で勉強していたみたい。僕は庶民、小山内さんは貴族、ずっと身分が違うと思っていた。でも!」



「でも?」




「なんで森野君なんだ? 森野君も庶民じゃないか? だから、納得がいかない」




「俺は……好きじゃない……から……」



俺が小さくつぶやく。



でも、マジメ君の耳には届かなかった。



「おかしいよ! 小山内さんにふさわしい男は金持ちじゃないのか? 金持ちは金持ちと恋愛するんじゃないのか?」



「まー、落ち着けよ。それよりも、なんで小山内さんなんだ? 金狙いか?」




マジメ君の目つきが変わった。



軽蔑の目つきで見られる。



なんで怒るんだ?



「失礼だよ! 金狙いだなんて! 僕は純粋に愛しているんだ」



え―――――!





信じられねぇ。




「僕が好きになったのは修学旅行があったからだよ」



マジメ君の表情がパーっと明るくなる。



思い出してるんだ。




「修学旅行の旅先で足湯があって、数人で浸かっていたら、『小山内が来るぞー!』って声が聞こえて『みんな、逃げろー!』って騒ぎになったんだ」




ありえる、それ。



当時から危険視されてたのか……。




「生徒たちは『足湯が毒湯に変わる』と主張していた。だから、僕以外がいっせいに逃げ出したんだ」



お前は、その状況で逃げなかったのか?



足湯が毒湯に変わるのに?




「僕も逃げようと思ったけど、逃げ遅れたんだ。それで、足湯に二人きりで浸かることになった」




そう語った、マジメ君の顔はスケベそのものだ。



あんな奴と二人きりになって、何が嬉しいんだ?



「足のニオイが……小山内さんの足のニオイが……僕の鼻を突いた……」



それは地獄だ。



足湯地獄……。



「ぷわーんって臭ったんだ。ああ、忘れられない。あの日の、あのニオイ!」



マジメ君は自分の世界に浸っている。



やっぱ、頭おかしーよ。



コイツ、おかしーよ。




誰か、助けてくれ。



相手したくない。





「小山内さんの足のニオイは独特の香りがする。もう、僕は足のニオイの虜。ニオイなしでは生きられない」




臭いフェチかよっ!



世の中には、いろんな奴がいるんだな。




でも、それで、うわばき臭ってたのか。



納得。



「だから、ファンになった」




そうか。



わかったよ。



充分すぎるくらい、わかった。




「僕は小山内さんと結婚したい」




え―――――!



け、け、結婚っ?



「だって、結婚したら、何回もニオイを嗅げるじゃないか!」



まー、たしかに。



臭いフェチだったら、そうなるよな。




「それに、小山内さんとヤれるし」




え―――――!



あんな女とヤリたいのか?



こっわ。




「この高校を受験したのは、小山内さんが受験すると知ったからだよ。小山内さんと離れたくなかったんだ」





なんで優等生が、こんなひどい学校に来たのか、今になって、やっと理由がわかった。




もったいない……。



人生を棒に振ったな……。




学力の高い高校に進学してさえいれば、エリートになれたかもしれないのに……。






小山内あやめが狂わせたんだな。




「高校まで、ついてきたのに、小山内さんと森野君が結婚するなんて許せない」



結婚しねーよっ!



絶対、嫌だから!




「俺は、小山内さんのこと、好きで付き合ってるわけではないから誤解するなよ」



俺が打ち明ける。



マジメ君は俺の顔をじっと見つめる。



疑っているようだ。



「俺は、体育祭の打ち上げで、小山内さんと、酔った勢いもあり男と女の関係になったんだ。それで、責任を感じて付き合ってるんだ。ざっと、まあ、説明すると、こんな感じ」







「おかしいなあ」



マジメ君が不思議そうな顔をする。



何やら考え込んでいる。




どーしたんだ?



「それは、ないよ。だって、僕は二人が男と女の関係にならないよう葉陰に隠れて見張っていたからね」




あ―――――っ!



そういえば……。



コイツ、俺たちがヤったところ、見てたはず!



目撃者だよな……?



つーか。



あの時、小山内あやめが好きだから、見張ってたのか。






「二人はHなことは、していない」



「え!」



「してないんだ」



「え!」



「本当だよ、僕は見ていた」



「で、でも、俺のすぐそばに変なもんが落ちてたんだ。その、コ、コンドームなんだけど?」





俺がそう言うと、マジメ君がまた、考え込んでいる。



「たしか2ヶ月前だったね。もう、だいぶ前で徹夜したし、記憶が曖昧なんだけど、別のカップルが低木でHなことをしていたはず……」





マジメ君が落ち着いた口調で、そう言った。



まさか!



あの使用済みコンドームは、俺たちのじゃなかった?




「そのあとで、森野君たちは低木に来て、二人で爆睡したんだよ。だから、別のカップルのコンドームじゃないのかなあ?」




「ほ、本当に?」




「うん」




「本当に俺たちはヤってない?」




「うん」




やった―――――!




無罪放免むざいほうめん



これで小山内あやめから、解放される!



「ありがとう、ありがとう!」



興奮して俺はマジメ君の両手を両手で握った。




ブルン、ブルンと振る。




「やめてくれよ」



マジメ君は嫌がった。



でも、俺は止めない。




「暑苦しい!」



マジメ君が、そう言って、俺から離れようと、席を立った。



俺は、手を振るのを止めた。



そして、繋いでいた手を離す。



「俺は、別れるよ。これで、別れられる」



俺の言葉にマジメ君は驚いている様子。



そして、今度は、マジメ君が。




「ありがとう、ありがとう!」




と、手を握ってきた。



両手を両手で握りしめてくる。




暑苦しい……。




「ところで、小山内さんが好きじゃないとしたら、誰が好きなの?」




マジメ君から質問を受けた。




「福田さん」



俺が、カミングアウトする。




「あの福田さん? テニス部の子だよね?」



「そう。テニス部のね。小中が同じだった?」



「うん」



「どんな子だった?」




「知的なイケメンとばかり付き合っていた」



「知的なイケメンか。花園は、教師で知的かもしれないけど、絶対イケメンではないのに何がよかったんだろ?」



「花園先生と今は付き合ってるの? 福田さん、モテモテだよね。僕は、興味ないけど」



サラッと、マジメ君がクールに言った。



あれだけ可愛いのに、興味なかったのか。



臭いフェチだもんなあ。



変なニオイがない清潔感のある福田さんに関心がないのは、わかる気がするなあ……。



「彼氏がいるから、悩んでるんだ」



俺が本音を吐露する。



マジメ君は、相槌を打ちながら、こう言った。



「モテモテの福田さんを好きになると、苦労するね。でも、福田さんは昔から彼氏をコロコロ変えているからね。モテモテだから、彼氏が次から次へと変わるんだよねー」



「ってことは!」



「森野君にもチャンスがあるってことだよ」



「マジ?」



「うん、頑張って」



そうか!



悩むことないんだ!



始まりがあれば終わりもある。



きっと、花園と福田さんは長くない。



すぐに別れる。



目が覚めるはずだ。



こんな男のどこがよかったんだろうって。



そうなったら、俺の出番!



福田さんの次の彼氏は……。




俺で決まりっ!



元気が湧いたぞ!



ありがとう、マジメ君。




「僕も小山内さんと森野君が別れて、森野君が福田さんと付き合うようになれば安心だよ」



マジメ君は、柔和な笑みを浮かべて言った。



そりゃ、そうだよなあ。



マジメ君からしてみれば、俺は好きな女の彼氏だもんなあ。



んじゃ、さっそく。



今日の学校帰りにでも言ってみるか。



小山内あやめ、さようなら。



俺は、小山内あやめと別れます。





☆☆☆




「やぁ~ん。これから夏休みだよぉ~」




小山内あやめは、ハイテンション。



そして、俺もハイテンション。




「そうだね。俺も嬉しいよ」



だって、別れられるから!



しかも、夏休み前に別れられる。



これで、夏休みは、デートに誘われないぞ!




俺たちは、学校の駐輪場にいた。



この三輪車を見るのも、今日で見納めか。




「ねー、翔太。今日はなんか用ある?」



自転車の鍵を外しながら、小山内あやめが聞いてきた。




「うーん」



「どっか行こうよ」



「えー!」



「暇なんだもん」



「忙しいから無理」



「超冷たーい」



「無理、無理、無理」



「翔太のバカぁ」



自転車に乗った小山内あやめは不機嫌になった。



無言でチャリをこぐ。



俺は、タイミングを見計らっていた。




いつ別れ話を告げようか?



もう、この際。



今、言おう。



学校の校門近くにスロープがある。



スロープの坂を上るので、小山内あやめは自転車から降りた。



そこからは、上りながら、自転車を押す。



スロープの坂を上りながら、こう切り出した。




「実は、今朝、マジメ君に聞いたんだけど……」



「何?」



「俺たち、公園で、何もなかったんだって」



「何もなかったって?」



「おめでとう、小山内さんはまだ処女だよ」



俺が、そう告げると、小山内あやめは動きが止まった。




自転車を歩いて押していたが、坂の途中で止める。



俺も足を止めた。



「マジメ君は俺たちが何もしてないって言ってるよ」



「ウソっ!」



「嘘じゃないよ。本当だよ。本人に聞いたらわかる」



「だって、近くにコンドームがあったよ?」



「あれは、別のカップルが使ったんだ」



「それなら、私たち、Hしてないの?」



「そうだよ」



小山内あやめは、表情が強張る(こわばる)。



「俺たち、別れよう」



ここで初めて、別れを口にした。



心が軽くなる。



「嫌だよ!」



小山内あやめは、すんなり別れに応じない。



別れに抵抗があるようだ。




「俺たち、何もなかったんだよ? 付き合ってる意味ないじゃん」



「あるよ!」



「ないよ」



「あるよぉ。私は翔太のことが、好きなんだよぉ」



「俺は……」



それ以上、何も言えなかった。



小山内あやめは、泣きかけている。



目には涙が、溢れていた。



俺は……。



俺は……どうしたら……。




「私は……翔太が……好きだから……別れたくない……」



小山内あやめは、人目もはばからず、泣き始めた。



声を詰まらせて泣く。



俺は胸がチクっと痛んだ。



俺にはどうすることもできない。



思われても俺は小山内あやめのことが好きじゃないんだ。



俺が好きなのは福田さん。



小山内あやめの親友。



「ごめん」



咽び(むせび)泣く小山内あやめを前に、俺は、謝ることしかできなかった。




「私はぁ……翔太のことがぁ……好きなんだよぉ……。別れるなんて……言わないでぇ……」



そう言って、小山内あやめは泣きじゃくる。



俺は下を向いた。



まともに小山内あやめを見れない。




「こんなに幸せなのはぁ……生まれてぇ……初めてぇ……だった……」



そう言われても、困る。



小山内あやめとは、付き合えない。



俺を困らせないでくれ。




「私は……別れない……。翔太がぁ……好きなんだもん……」



「別れてくれ」



「いやっ!」




泣きながら、抵抗を続ける。



俺は、それでも、別れたい。



別れたいんだ。




「今までラブラブだったじゃん! 忘れちゃったの? 私、何かした? 悪いことしたなら、謝るよ? だから、捨てないでぇ……」





小山内あやめは、俺にすがってくる。



それでも、俺は嫌なんだ。



小山内あやめじゃ、ダメなんだ。




「うぅ……うぅ……嫌だよぉ……」



小山内あやめの嘆き声が、俺の胸をかき乱す。




別れたくても、別れられない。



でも、別れたい。



心の中で葛藤。



小山内あやめに好かれている。



だから。



小山内あやめと別れられない。



このままだと、離れられない。



離れて欲しいのに。




「小山内さん!」




マジメ君の声がした。



マジメ君は、スロープの上に立っていた。



坂をゆっくり下りてくる。



「森野君にフラれて、泣いているんだね」



マジメ君が優しい口調で言った。



そして、小山内あやめの前に立つ。



「僕を見てよ」




マジメ君が泣いている小山内あやめの頬に触れる。



そして、こう言った。



「ずっと小山内さんのことが好きだった。僕の彼女になって下さい」




小山内あやめは、目を見開く。




マジメ君の告白に気が動転しているようだ。




「僕だったら悲しませたりしない。小山内さんを泣かせたりもしないよ?」



マジメ君は小山内あやめの頬を撫で始めた。




小山内あやめは、泣きやんだ。




「森野君のことは忘れて僕にしないか?」




その言葉に小山内あやめの瞳が揺れた。




俺は、小山内あやめをマジメ君に押しつけるわけではないけど、小山内あやめがマジメ君と付き合うようになればいいと思った。



でも……。



小山内あやめは。




「うぅ……翔太ぁ……翔太ぁ……」



そう言って、また泣き始めた。




マジメ君は傷ついて表情が曇った。



俺も複雑な気持ちになる。



人の気持ちは、どうにも変えられない。



簡単には、いかないんだ。



マジメ君は小山内あやめの頬に触れるのをやめた。



小山内あやめから顔をそむける。



小山内あやめは、やっぱり俺が好きなんだ。



忘れられないんだ。



「僕じゃ……ダメ……なのか……?」




マジメ君まで悲しみが込み上げてきたのか、声を詰まらせる。



マジメ君は俯いた。



「翔太ぁ……翔太ぁ……翔太ぁ……」



小山内あやめは涙ながらに、俺の名を口にする。



でも、彼女にすることは、もう無理だ。



もう、嘘はつけない。



「ごめん。本当、ごめん。俺のことは諦めて。冷たいことを言うようだけど、他の人を探して欲しい。俺じゃ、どうにもできないから」




「嫌ぁ! 私を捨てないで! こんなに好きなのに!」



「わかってくれよ。俺も辛い。正直、こういうの嫌なんだ。人を傷つけて別れを言うのは本当に辛いんだ」



小山内あやめの俺への気持ちは情熱的だった。



こんなに今まで俺のことを慕ってくれる人は、いただろうか?



いや、誰もいなかった。



熱いハートの女だったんだ。



本当に……。



俺……。



悪いこと……したな……。



小山内あやめ……。



心苦しいよ……。




「小山内さん」



マジメ君が小山内あやめに向き直る。



メガネの奥の瞳に涙が浮かんでいた。



マジメ君も辛いんだ。



みんな三人とも辛いんだ。



人生って、悲しいことや辛いことが、いっぱいあって、なんで、うまくいかないんだろう?



なんで三人とも片想いなんだろう?



三人とも幸せになれないのか?



そういう運命なのか?



「僕は待つよ」



マジメ君が沈んだ声で言った。



その声は俺の心にジーンと響く。




「小山内さんが振り向いてくれるまで待つ」



そして、こう付け加えた。



「ちょっとずつ……ちょっとずつ……で……いいんだ……。僕のことを好きに……なる……努力を……して……欲しい……」





よほど悲しかったのか、そうして、マジメ君は激しく泣き始めた。



小山内あやめへの思いは本気だったんだ。



俺も福田さんへの思いは本気。



諦めたくない。




俺も片想いで、福田さんが彼氏と別れて、こっちを向いてくれないかと待っている。



同じなんだ。




「マジメ君……私は翔太が好きなんだよぉ……。どんな好かれてても……翔太のこと……好きだから……付き合えないよぉ……」



「知ってる……よ……」



「本当に……無理だから……」



「でも……僕は……諦めない……」



「私のことが……そんなに好きなのぉ……?」



「小山内さんしか……考えられない……」




ポロっ。



俺は、もらい泣きした。



マジメ君の純粋さ、一途な思い、すべてに胸を打たれた。



お前、すごい奴だったんだな。



そこまで好きなんだ……。



「10年でも……20年でも……待つ……」



マジメ君はキッパリ言い切った。




小山内あやめは、じっとマジメ君を見ている。



「中学の時から、小山内さんが僕を見てくれるのを、信じて待っていた」



「そんな前から!?」



「そうだよ。ずっと待っていた」



「全然それは気づかなかったよ」



「だから、待てる。何年でも待てる」



「マジメ君、ありがとぉ」



「え?」



「それ、すごく嬉しい」



「え?」



「なんか元気出てきた。それ聞いて、さっきまで、泣いてたのが、バカみたい」



「小山内……さん……?」



小山内あやめに笑顔が戻る。



「えへ」っと、いつものように笑った。




「そうだった。私は美少女で誰よりもイケてる、モテ子の中のモテ子だった。きゃっ。つい今まで、何を悲観的になってたんだろー?」




また、小山内あやめの勘違いが復活した。



『美少女で誰よりもイケてる、モテ子の中のモテ子』って冗談だろっ?



美少女でもなければ、イケてる、モテ子の中のモテ子でもねーよ。




「い・い・よ」



小山内あやめが明るくマジメ君に言った。



何が『い・い・よ』なんだ?



「付き合ってあげる」



え―――――!



1分前まで『無理』とか言ってなかったっけ?



女心と秋の空とは、よく言ったものだよ。



心変わりが、早すぎ!




「たまには、気分転換に他の男と付き合うのも悪くないかなーって。あくまで気分転換だよ? 私はモテ子。モテカワアイドルなんだから、付き合いたがってる男は、いくらでもいる。順番待ちしてるだろうから、まず、マジメ君から順番に付き合ってあげるよ」




え―――――!




『順番待ちしてる』って誰が待ってるんだよ?



順番待ちしてる奴、呼んで来い!





「おさ、小山内さん! 本当に僕でいいの? 僕を彼氏にしてくれるの?」




マジメ君は大喜び。



何はともあれ、よかったなあ。



「彼氏にしてあげる」



小山内あやめが意気揚々(いきようよう)と言った。




「ありがとう。小山内さん。愛してるよ」



マジメ君は有頂天うちょうてん



やっと、恋が実ったから。



そうなるよなあ。



「えっへん。エスコートして」



小山内あやめが、マジメ君に腕を組ませようと、腕を見せる。




「喜んで!」



マジメ君は顔をほころばす。



二人は腕を組んだ。



そして、歩き出す。



俺に、二人とも背中を向けていた。





イタっ!!




小山内あやめの……。




三輪車の……。



後輪に……。



足を……。



足の指を……。



踏まれていった……。



元カレって……。



どうでもいいのか……?



もう……。



俺って……。



どうでもいいのか……?




ちょっとだけ……。




寂しいような……。



そんな終業式……。




だった……。




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