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史上最強の汚ギャル   作者: bbb
6/13

暴走族と対決


ここは、下足室。



ロッカーが並んでいる。



俺は小山内あやめといた。




早く小山内あやめを帰さないと、学校に迷惑がかかる。




俺は小山内あやめを下校させるため、下足室にいた。




「やぁ~ん。みんな帰った後、女子トイレの個室に行こうよぉ」




「何、言ってるんだよ?」



「やぁ~ん。決まってるじゃんっ。さっき、邪魔されたんだからぁ」




「ぐだぐだ言ってないで、早く帰ろうよ。みんな来る前に早く急ごうよ」




「やだぁ。帰んない。残るぅ」




うぜぇぇぇぇぇ。



それから。



くせぇぇぇぇぇ。



「いいかげんにしろよっ!」



俺が本気で怒る。



ここで本当のコト、言うぞ?




「みんな有毒ガスを吸いたくないんだ。生徒が学校で倒れたんだ。誰のせいと思ってるんだ!」



俺の怒りが爆発っ!!




もう、誰のせいで、こうなったか、話してやるっ!




「小山内さん、体臭がキツイんだよ。その体臭が原因で学校が騒ぎになったんだ。この騒ぎは、小山内さんの体臭が巻き起こした事件なんだ。だから、マジメ君は悪くない!」




俺がキッパリと言い放つ。



小山内あやめは、俺の真剣な目を見ながら、こう尋ねてきた。







「個室でするぅぅぅぅぅ?」




俺の話を聞けぇぇぇぇぇ!!




俺が真剣に喋ってんだよぉぉぉぉぉ!!




聞けってばっ!




「小山内さん、ふざけないでよっ!」




俺がまた、キレる。



いいかげんに、しないと殴るぞ?




女でも、相手がテロリストだったら、殴るからな?



「やりぃ。帰れるぜっ。有毒ガス発生に感謝っ」




そんな声が下足室まで届いた。



これは、モヒカンの龍の声だ。



やべっ。



もうすぐ下足室に来る。



あいつ、また倒れる。



この小山内あやめは、生物兵器化していた。



これは、生物兵器だ。



猛威をふるっていた。



近づく者を死滅させる!?




だから、警戒レベルを引き上げないとな。



頼む。



厚生労働省。



小山内あやめを、なんとかしてくれ……。




このままだとモヒカンの龍が死ぬ。



テロリストと闘う、ジャック・バウアーな俺は、不潔テロを阻止するため小山内あやめを強行手段で下足室から連れ出した。




小山内あやめの腕をつかんで無理矢理、ひっぱって校門へと向かう。




なんとしても、帰るぞ。



引きずってでも、帰る。



「きゃ!」



小山内あやめの小さな悲鳴。



何なんだよ?



うるせぇなぁ。



「痛い、痛いよ。そんなに強く引っ張んないで!」




小山内あやめが怒る。



それでも、俺は小山内あやめを放さない。



「帰るんだ」



俺が小山内あやめに言った。



そんな時に。



パラリラ~パラリラ~



!!




え?



パラリラ~



……が、耳に入ってきた。



ぱ、ぱらりら?



この聞き覚えのある三連ラッパの音色はっ!






暴走族っ!?




「やん。ちんどん屋さん?」



小山内あやめが首を傾げる。



校門付近で俺の足はすくんだ。



脳が一瞬フリーズする。



何も考えられない。



こんな時に。



よりによって。



暴走族?



ありえねぇー。



相手できねぇし。



つーか。



誰に用があって来たんだよ?



頼むから、帰ってくれ。




暴走族は、校門の前でバイクを止める。



あれよ、あれよという間に、100人くらい、集結した。



大きな目立つ旗を掲げて学校前で、たむろする。




完全に、ケンカ売る気だ。



特攻服で金属バットを手にした奴が、バイクから降りてきて、俺の方に向かってきた。



用事があるらしい。




俺は話をするため校門に行く。



「モヒカンの龍、呼べ!」




男が俺に命令した。



そうか。



わかったぞ。



仲間がやられたから、その仕返しに来たんだ。



俺は思い出した。



モヒカンの龍が他校の生徒とケンカして、先生に詰られていたのを。



たしか、相手は暴走族の奴だった。



こんな日に来なくたって、いいじゃないか。



校門を封鎖するなよっ。



「ついでに、小山内あやめも呼べ!」



え?



何だって?



小山内あやめだって?



「小山内さんは関係ないだろっ!」



思わず、俺の声がうわずる。



「呼べっつってんだろーがっ!」



俺は男に怒鳴られた。



耳が痛い。



「小山内さんは、チーマーでも何でもない、女生徒だぞ?」



「知るか! 総長が相手したがってんだっ! それに、強い噂は広まってるしな!」




荒々しい口調で男がそう言った。



背筋がヒヤッとする。



小山内あやめの噂が暴走族にまで広まっていたなんて。



小山内あやめ、逃げろ!



その本人は俺のずっと後方にいた。



こちらをジーっと見てる。



神妙な顔つきだった。




「小山内あやめ!」




暴走族の中心にいた男が大声で叫んだ。



男の声は低く太い。



「お前とやりてぇーんだよ!」



校舎に向かって、男が叫び続ける。



「出てこいよ! お前のことなら何でも知ってんぜ! あの悪魔の栄二を倒して学校のボスになったんだろ! 女番長さんよ、姿を見せろっ!」



男は、小山内あやめが目の前にいるのに、気付いていない。



ずっと、校舎の方を見ている。



「窓から顔、見せろ!」



男がまたまたまた叫ぶ。



いや、すぐ近くにいるんだよ……。



俺が小山内あやめの方を見ると。



小山内あやめは、ボワッと真っ赤な顔をして突っ立っていた。



心配で小山内あやめに、駆け寄る。




「大丈夫か? 俺が守ってやるからな」



そう言って、赤い顔の小山内あやめをのぞき込むと、小山内あやめは、こう言った。



「やん。あの人、何? 私と『ヤリたい』って言わなかった? 超恥ずかしい。あの性欲、ヤバイっしょ?」



……。




殺されるよ?



「ねー、ねー。君たちぃ!」




小山内あやめが、暴走族に向かって声をかけた。



バカ女ぁぁぁぁぁ。



殺されても知らねーぞ?





俺は帰るからな?



「私に会いたくて来たのわかるけど、困るよ。ファンが多いと、断るのが大変」




汚ギャルが意味不明発言をした。



もう、知らない。



放って帰る。



「お前が小山内あやめか。弱そうだなあ。まあ、いい。お前に会いたくて興味があって来たんだ。先に、お前をぶち殺してから、モヒカンの龍をやるとするか。俺はお前の言う通り、ファンなんだ。断るなんて許さない。俺が誰か知ってて断る気か?」




「え? 誰なの? 知らなーい」




小山内あやめは、さっきから会いたがっていた強そうな男と対等の立場で話している。



コワさ知らずか。




「俺は暴走族三代目総長だ。それも無職連合のなあ」




男が、ニヤニヤしながら、そう言った。



無職連合?



聞いたことがある。



無職連合って関東で最強の暴走族。




それに、全国で一番になったはずだ。



つまり、全国一の暴走族ってこと。



でも。



名前が……。



無職って……。



俺は、モヒカンの龍と初めて暴走族の名前が「無職」であることを知った時に、ケラケラと腹を抱えて笑いあったんだった。




でも。




モヒカンの龍が属するチーマーグループが「ニート」という名前であるのを知った時も笑った。



つーか。



モヒカンの龍は、笑いまくってたけど、お前も「ニート」じゃんっと心の中でツッコミを入れたんだよなあ。




ああ、懐かしい。



つーか。



無職VS.ニート



……て、ことになる。



どちらも同じ。



社会的には弱そうな……。



「総長なんだ。総長が私のファンクラブを作ったんだね。そんないっぱい男の子のファンを集めてきて、ヤリたいって言われても困る。サインなら書いてあげるけど」




何がサインだよっ。



アイドルにでもなったつもりか?



不潔テロリストのくせに。



しかも、ファンクラブじゃねぇよ。




暴走族ですから!




「ぜひ、書いて欲しいね。お前の血でな」



総長は、不敵な笑みを浮かべた。



なんか。



意味、通じちゃってる。



違う意味だけど……。



総長は、巨漢だ。



「デカっ!」て感じ。



それに、肉付きもいい。



体を鍛えてるのが見てわかる。



二の腕の筋肉がすごい。



こんな奴と闘ったら、ひとたまりもない。



殺される。



小山内あやめ、逃げろ!



状況は、ヤバイぞ!




「裏口から二人で逃げよう」




俺は、小山内あやめに提案した。



裏口なら安全だ。



コイツらも、知らないはず。



小山内あやめの手を引く。




そうしている間に。




その総長が俺たちにゆっくり歩み寄ってくる。




しかしっ!




ピタッと歩みを止めた。




こ、これは?




いつものお決まりのパターン?



「う……」




総長の様子がおかしい。



総長が硬直する。



暴走族の何人かが心配して総長に駆け寄る。



様子のおかしい総長の顔をのぞき込んだ。



その瞬間だった。



「うわっ。酸っぱい。なんだ、この酸っぱいニオイは!?」



暴走族のひとりが、テンパる。



「小山内あやめにちょっと近寄っただけで目が痛い」




暴走族のまた別の奴が、そう言って、後ずさりした。



人によって症状はさまざまだ。



恐るべき、生物兵器。



その名も、小山内あやめ。




「これは、きっと、俺の苦手な光化学スモッグだ。光化学スモッグ警報が出てないか、調べて来い」



うろたえながら、総長が誰かに指示をする。



え?



何だって?



光化学スモッグが苦手だって?



人生で初めて光化学スモッグ警報を苦手とする奴に出会った。



しかも。



それは暴走族総長。



「とりあえず、建物の中に入って下さい。その方が安全です」




総長を気遣って、暴走族のひとりが言った。



「おう。悪い、悪い。俺は光化学スモッグがダメなんだ。目がチカチカする」



お前は総長のクセに、建物に避難するって小学生かぁぁぁぁぁ!



そんな巨体で光化学スモッグを苦手とするなぁぁぁぁぁ!




「総長! 光化学スモッグじゃありません。調べたら違ってました」




連絡係が総長のところへ来て報告する。



「じゃあ、何なんだ?」



総長が引きつった顔で小山内あやめを見る。



暴走族の誰かが叫んだ。







「サリンをばら撒きやがったな!」




暴走族が、そうして、騒ぎ立てる。



「サリンだ。サリンだ。絶対そうだ」




そんな声が飛び交う。



いや、違うよ。



小山内あやめの体臭だよ。





「待てっ。そんな薬品だったら、マスクしてないと俺の前にいる小山内あやめも危ない。マスクしてないということは……」




総長が、そこまで言いかけて、プルプル震え始めた。




お前も栄二の時とそっくりだなあ。



震えんなよ。




「これは小山内あやめのオーラだ」



総長の言葉にひっくり返りそうになった。



なんと!



オーラですと!



「オーラだ」

「そうだ。オーラだ」

「気をつけろ」

「オーラがあるんだ」

「オーラで総長がやられる!」




暴走族は混乱している。



オーラじゃなくて、体臭だから。



オーラなんか、小山内あやめには、ないから。




「えへ」



急に小山内あやめが笑った。



「小山内さん、どうしたの?」



俺が質問する。



「だって、私のこと、女優オーラがあるって騒いでるから」




ちげぇよ―――――!



声を大にして言いたい。



女優オーラなんかねぇよ―――――!



くっさい奴が何言ってんの?



臭さをオーラと勘違いされてるだけだぁぁぁぁぁ!



「うぅ!」



なぜか突然その総長が目を押さえる。




そして、地面に膝をついた。




「総長っ!」

「総長、目をやられた」

「なんて強いオーラなんだ」

「強いオーラを放ちやがって」

「畜生!」



暴走族がいちいち騒ぐ。



もっかい、言うけど……。




オーラじゃなくて体臭です。




「うぉー!」



総長の雄叫び。



うるせーよ。



そんな総長に冷静にツッコむ俺。




「目つぶしされた―――――!」




総長が叫び声を上げた。




嘘つけぇぇぇぇぇ!





俺は、小山内あやめが目つぶしするとこ、見てねーぞ。



「俺に触れず、目つぶしするなんて何者なんだ!」



総長は続ける。



「こんな目つぶし受けたの初めてだ。しかも、俺の弱点が目だってことも見抜かれている。俺は子供の頃から眼科に通院している。通院歴は10年だ。まだ通っている」



お前、総長やめろよ。



眼科通院歴10年って、長過ぎだし。




「念だ。念の使い手だ。能力のある強い女なんだ。オーラが強くて近寄れないし」



総長がわけのわからん解釈を勝手にしている。



暴走族は総長の言葉に聞き入っていた。




その時!



「目ぇ、どーしたの?」



と、小山内あやめが総長のそばまで寄って行った。



これは、まずい。



総長、どうなる?




「目薬、持ってるよ。貸そうか? 目にゴミが入ったんだよぉ」



勝手に、目にゴミが入ったと決めつけた小山内あやめは、鞄を開けて目薬を探し始めた。





その間。




総長は、とんでもないことになって、暴走族のひとりが悲鳴に近い声でこう言った。



「そ、総長っ! 総長が脂汗をかいている!」




別の奴も同じように、こう言った。




「こんな総長、初めて見た!」




まー、脂汗か、暑いから普通の汗かどっちか見分け、つかないんだけどね。



でも、顔色は真っ青だった。



総長は、もだえ苦しんでいる。



そして、とうとう、泣き始めた。



泣いたか。




「目が痛い」



総長が訴えた。



涙が頬をつたって流れている。




「総長が泣いている!」

「総長が人前で泣いたのは、小3以来だ」

「たしか大好きな美菜子ちゃんにフラれて以来だ」

「総長を、あの総長を、泣かすなんて」

「小山内あやめは危険な奴」

「強いよ。強すぎる。あれは勝てないよ」

「『幽遊白書』の幽助か『ハンター×ハンター』のヒソカみたいな奴だなあ」



暴走族は、小山内あやめにビビッていた。



美菜子ちゃんにフラれたプチ情報はどうでもいい。



俺が気になったのは、小山内あやめがアニメキャラに、たとえられたこと。



とうとう、幽助やヒソカと並んじゃったよ。



二人とも妖怪系じゃなかった?




やっぱ人間じゃないのかなあ?



うーん。



奥が深い。



暴走族がこわがって小山内あやめから離れ始めた。



それぞれ、バイクに乗る。



帰るんだな、きっと。



そう思っていたら……。



「待て―――――!」




暴走族後方から男の声がした。



「開けろ。開けろ」



男がそう指示すると、暴走族たちは道を開けた。



バイクに乗った男が現れる。



男はバイクで校門を突き進んで、学校の敷地に入ってきた。



バイクごと突っ込むなんて、むちゃなことする奴だなあ。



「亮さん!」




暴走族のひとりが歓喜の声を上げた。




亮さん?



誰?




「亮さんだ」

「亮さん」

「俺たちの最後の希望」

「じき暴走族総長の亮さんだ」

「待ってたよ、亮さん」



ふーん。



たいしたことなさそう。



コイツも小山内あやめの体臭に泣かされるんだろうなあ。



特に今日は猛烈に臭ってるからなあ。



かわいそうな奴。



「俺の存在を忘れちゃ困るぜ」



見た感じ、ちょっと、ナルシストっぽい。



異色の暴走族だった。



他の奴は黒髪なのに亮さんだけ、茶髪でサラサラのロン毛だった。




なんか女っぽい。



本当に強いのか?



細いし、色白だし、虚弱体質っぽい。



亮さん?



大丈夫ですか?



亮さんは、軽く笑いながら、前髪をかき上げた。



その仕草が、気障キザだ。



バイクに乗ったまま、白い歯を見せている。



こちらに向かって笑いかけているかのようだ。




そして、また前髪をかき上げた。



前髪をかき上げる仕草が好きなんだなあ。



というか。



前髪が邪魔なら散髪に行けよ。






そんな亮さんは小山内あやめに何か言いたそうだった。



でも。



小山内あやめは亮さんの登場シーンを見ていなかった。



総長と喋っている。



「もう、ほら、これ、私のファンならあげる」



小山内あやめは総長にハンカチを渡していた。



総長は受け取って涙をいっぱい拭いていた。



つーか。



敵のハンカチ、受け取るんだ。



「ありがとう。ちゃんと、これは洗って返す」



「いいよ。それより、これからもファンクラブ総長として頑張ってね」



「いや、返すから」



「うちは生活に余裕があるから大丈夫。ハンカチの一枚や二枚、あげるよ。それと、目薬。これも開栓後だけど嫌じゃなかったら、あげるよ」




「それは悪いから、いいよ」



「いいって、いいって。遠慮しないでよぉ」



「本当にいいの?」



「うん。私のせいで泣いちゃったんでしょ?」




おっ。



わかってんじゃん。



そうだよ、小山内あやめ。



その通りなんだ。



「私に彼氏がいるのを知って、ショックを受けて泣いたのかなあってさ。目にゴミが入ったから泣いたことにしてあげるね。でも、本当は気持ち知ってるよ?」





は?



彼氏がいるのを知って……泣いた……って……?





「ご想像の通り、この人は私のカレシです。えへ」



明るく小山内あやめが暴走族総長に俺を紹介する。



紹介しても総長は目をつぶっているので見えない。




「私には君たちの気持ちに応えてあげることができないんだ。どうしても好きな人と別れて君たちと付き合うことはできないんだよ。わかってね。その代わり、永遠のアイドルでいてあげる。私はみんなの小山内あやめだから」




何だって?




永遠のアイドルだって?



アイドルでもないのに、アイドルぶってんじゃねーよ!



バカじゃねーの?



そばで聞いてて呆れるよ。



「もう、泣かないのぉ」




小山内あやめが総長を優しく慰める。




『もう、泣かないのぉ』って……。



小山内あやめが離れないからだよ?



離れろよ。



小山内あやめが近くにいることで、目の粘膜が刺激されるんだよ。



それと、永遠のアイドルとか、ほざくな!



勘違いも、いいかげんにしろ!



「お嬢ちゃ~ん」



バイクに乗ったまま、亮さんが小山内あやめを呼ぶ。



亮さんは、にっこり笑っていた。



「こっち来て遊ぼうよ」




亮さんが小山内あやめを誘っていた。




小山内あやめは相変わらず、総長と絡んでいた。



亮さんを無視。



しびれを切らした亮さんは黙ってバイクを押しながら寄ってきた。



俺はこの時に異変を感じた。



なんで?




なんで、コイツ、小山内あやめが平気なわけ?



臭くないのか?



ニオイ感じないの?



「小山内ちゃん」



亮さんは口角を上げている。




そして、小山内あやめを穏やかな目で見つめていた。




「僕を見てよ。僕の目を見て。絶対に僕が好きになるから。僕の魔法で君は僕の虜さ」




笑みを浮かべながら、亮さんは言った。



コイツ、何言ってんの?



頭、おかしくねー?



暴走族なのか?




そんで、じき総長って本当なのか?



「僕を好きになる。そして、君は僕の彼女になる。愛してるって耳元で囁くようになる」



ヤバイ。



そして。



違う意味で。



コワイ。



総長よりコワイ。



つーか。



キモくねー?



前髪をかき上げて、俺の方をチラッと見た。



そして、二度見。



今度は、俺に見入っている。



なんか文句あんの?




「フン。僕の方が勝ってる。君より勝ってる。僕の方が君よりもカッコイイ」



俺に対抗意識があるみたいだ。



でも、コイツ、ブサイクなんだけど……。



かなり、ブサイクなんだけど……。



キモキャラだし。



ひょっとして。



キモブサメン?




「彼女は渡さない。小山内ちゃんから離れて。離れないと舌で顔を舐めるからね」




こっわ。



鳥肌が立った。



むしずが走る。



「僕の可愛い小鳥ちゃん」



小山内あやめの方に向き直る。



何なんだ、コイツは?




「また始まったよ」

「亮さんは女を見ると誰でも口説くから」

「小山内あやめを彼女にするつもりだ」

「彼女ずっと生まれてから、いないらしいよ」

「必死なんだな」



暴走族の連中は同情していた。



亮さんの必死さを同情の目で見ている。



そっか。



小山内あやめでも口説いて早いとこ彼女作ろうとしているんだ。



キモブサメンで女にモテないんだなあ。



わかる、わかる。



早く彼女ができるといいね。



でも、こういう奴って彼女ができてすぐ嬉しくなって自慢しまくってたら翌日にフラれるとか、ありえそう。




そんな奴に見える。




でも。



小山内あやめ、口説き落とされたりして?



まさか……。




それは……ない……よ……なあ……?



ちょっと、気になる俺。




二人を監視することにした。



「僕は君のために歌を作れるよ。歌ってもいいかな? 小山内あやめちゃん」




「何、言ってるの? 歌とか別に作ってもらいたくないよ。あんま興味ないし」




「え? あ、そうなの? じゃ、どうしようか?」



かなり、亮さんは焦っている。



落とせそうにないなあ。



「どっか行く? 食事おごるよ。どこがいい?」




「何も食べたくないから、行かないよ」



「え? あ、そうなの? じゃ、どうしようか? 小山内ちゃんって何が好きなの? 合わせるよ」



「別に合わせる必要ないよ?」



小山内あやめは、そっけない。



いつもの「やぁ~ん」も「えへ」もない。




「え? え? そう? あ、ごめんね。ちょっと、ズルズルズルズル」




え?




何、その、ズルズルズルズル?




「僕、鼻炎びえんなんだ」



何だって?



鼻炎だって?



大変だ!




「アレルギー性鼻炎で鼻水、鼻づまりがひどいんだ」




そう言って、ポッケからティッシュを取り出してはなを「チーン」とかんだ。



鼻づまりだったのか!




それで、小山内あやめのニオイが平気なんだ。




コイツ。



強い。




小山内あやめは鼻炎のコイツだけには勝てねぇはず。



逃げろ!



コイツは、最強だ!



「耳鼻咽喉科に」



そう言うと、亮さんは、手で7を作った。



そして、こう言った。



「7年通ってるんだ」



7年も?



暴走族やめて亮さんも総長も。



治療に専念して下さい。



「耳鼻咽喉科に7年も? 苦労してるね」



小山内あやめは驚いている。




「フッ。やっと僕に興味を持って……」




亮さんが、そう話し始めた途端。




「今日のところは、もう引き上げるぞ!」



暴走族のメンバーが、ずらかり始めた。



バイクに乗って、それぞれが帰っていく。



あっという間に、退散してしまった。



亮さんと総長を残して……。



しかも、亮さんは次の総長……。



「あっ。みんな待ってよ、待ってってば」



また、亮さんは焦っている。



焦っても、置いていかれた事実は変わらない。



「いつも僕だけ置いていかれるんだよ」



亮さんが小山内あやめに向かって愚痴る。




そんな感じのキャラだろうな。




亮さんは仲間のあとを追わず、残って小山内あやめに、ぶつぶつと愚痴った。



「スター性があるから嫉妬されて仲間に置いていかれる」




とか。




「普段から、脈アリなのに可愛い子をデートに誘っても断られる。おかしい」




とか。




小山内あやめと似た勘違い野郎だった。





心理カウンセラー小山内あやめは、親切にも、「うん。うん」と相槌を打って聞いてあげていた。




そんなことしてる場合じゃねぇよっ!




相手は鼻づまり。



特殊能力を身につけた最強の男で暴走族。




小山内あやめの体臭が通じないんだぞ!




ってことは、無敵なんだ。




小山内あやめより強いってコト。




油断は禁物だ。




逃げようぜ。




「小山内さん、もう帰るよ」



俺が小山内あやめを引っ張る。



「やん。焼きもちぃ?」



笑顔を向けて小山内あやめは、しぶとく、動こうとしない。



「そうじゃないよ」



俺がほとほと呆れたって感じで言葉を返す。




そう話し合っている間に。



うちの学校の。



チーマーグループ「ニート」の連中が。



俺たちを取り囲んでいた。




10人くらい顔をニヤつかせて、亮さんと総長を狙っている。




「これは、これは、誰かと思えば暴走族の有名な総長と亮じゃんかよ」




ああ。



亮さんも総長もついてない。



「今日は腕が鳴るぜ」

「たっぷりと可愛がってやるからな」

「覚悟しろよ」




「僕、いつも敵に囲まれるんだよなあ」



亮さんは悩んでいた。



そんな感じのキャラだろうな。






「ダメ!」



小山内あやめが同じ学校のチーマーたちに注意した。



亮さんと総長を庇う。



両手を広げて、亮さんと総長を守っていた。



「私のファンたちに悪さ、しないでよ」



ファンじゃねーよ。




亮さんは別だけど。




「姐さんの頼みなら、聞くしかないなあ」

「それに、姐さんは今日のニオイというか臭覚攻めがひときわ凄まじいからなあ」

「いつもより臭覚がやられそうだからなあ」




チーマーたちは龍の影響か、小山内あやめを崇拝しているようだった。




『姐さん』と呼んでいるし、小山内あやめに言われたら、弱腰になったし。




ケンカするのを、ためらっている。



「僕は何人いても、へっちゃらだよ。でも、総長が弱ってるからね。ボコボコにされるよ」





亮さんが、そう総長の身を案じていた。



小山内あやめが今のうちに、総長を亮さんのバイクに乗せる。



「乗って!」



小山内あやめが亮さんに言った。



亮さんがこう聞いた。



「逃がしてくれるの?」



「うん」



「ありがとう。小山内ちゃん」



亮さんは、バイクに乗る。



後ろには総長が乗っている。



総長はぐったりしていて亮さんに寄りかかった。



「チュッ」






!!!





亮さんは、小山内あやめの頭をつかんで、頭のてっぺんにキスをした。



え―――――!




あの。



くっさい頭にぃぃぃぃぃ!




一般常識では考えられない。



不潔テロがあったのに!




きっと、鼻づまりだから、できることなんだ。



俺は、亮さんの偉大さを知った。




「アデュー」




亮さんは、投げキッスをしながら。




そんな言葉を残して。



ブォ~という。



バイク音と共に。




消え去った。



最後の最後まで気障だなあ。



フランス語だし。




ふと。



視線を感じて、後ろを振り返った。



すると。




大勢の生徒が。



下足室やその前の広場から闘いを見ていたようだった。





見上げると、校舎の窓からも生徒たちが様子を見守っていたようだった。




みんな暴走族がこわかったんだ。




いや、それとも、小山内あやめがこわかったのか?




ニオイがこわいとか。



「小山内さんが暴走族を倒したぞ―――――!」




意外にも。




大声量でマジメ君が校舎の二階から叫んだ。



それを皮切りに。




「小山内あやめ、バンザーイ!」

「小山内あやめ、サイコー!」

「学園の女ボス、バンザーイ!」

「小山内さん、カッコイイ!」

「姐さん、バンザーイ!」

「姐さん、サイコー!」





と、生徒が次々に叫ぶ。





人気者になったなあ。



さっきまで悪の不潔テロリストだったのに……。



学校に迷惑かけてたのに……。




ん?



下足室の前の広場に……。



花園がいた。



笑顔で手を振っている。



先生も見てたのか!?



だったら、てめぇ。




助けに来いよぉぉぉぉぉ!!



教師なら助けに来い!!



あ―――――!




何はともあれ。



今日は、目まぐるしい一日だった。



疲れたよ……。



しばらくは、不潔テロもあったし、暴走族との絡みもあったし、疲れて寝込むだろーなー。




……って。




もうすぐ期末テストだった。




こんなんで、大丈夫なんだろーか?




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