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史上最強の汚ギャル   作者: bbb
5/13

真夏の事件簿


梅雨が去って、かんかん照り。



猛暑日で汗が吹き出てくる。





「あっちー」




Yシャツのボタンを第三ボタンまではずした。




そうして、胸から風を通した。



下敷きで、あおいで風を入れる。



あっつ~。



それから。



くっさ~。



俺の真横にいる女を、なんとかしてくれ。



6月より臭くなってる。




ニオイのパワーがアップしていた……。



今日は化学の実験で実験室にいる。




同じ班に小山内あやめがいた。



しかも!



お隣さんっ!



「や~ん。超ラッキー! 隣にカレシだよー」




小山内あやめが。




顔を緩ませっぱなしで、俺に寄ってくる。




俺の肩に……。




寄りかかる……。



寄るなぁぁぁ!



くせぇぇぇー!



猛烈に臭いから、勘弁してくれよ……。



うぅー。



死ぬぅ……。



ついてない、俺……。



「や~ん。あっつ。汗だくだよぉ。私、汗っかきなんだ。えへ」



笑うなぁぁぁ!



汗かきなら風呂入れぇぇぇっ!




くっせーんだよっ!!



ハンパねぇーよっ!!



その臭さ!!



夏でどれだけ辛いか気持ち、わかんねーのかよっ!




俺は下敷きを使って防御してんだぞっ!



二重の効果があるんだぞ?



暑さ対策と臭さ対策。



でも、ニオイは激しくて対処できてない。



どーすんだよ、俺?




早退しようかな?



小山内さんが臭いからって……。





手首をふりちぎらんばかりに、下敷きであおいでいた。




「ちょっと、森野君。下敷きであおぐの、やめてくれないか?」




俺の前にいた化学の実験をしているマジメ君に注意された。



ちなみに、マジメ君も同じ班。



コイツも、小山内あやめと同じグループで、損してる。



大丈夫なのか?




「実験で気体のニオイを調べてるんだ」



「あー、わりぃ」



実験の邪魔になるから。



俺はマジメ君に謝った。



これ、拷問じゃんっ。




下敷きが使えなくなったら死ぬ……。



どーすりゃいいんだ、俺?



「あれ? おかしいなあ。無臭になるはずが刺激臭だ。失敗したみたい」



試験管を手にした、マジメ君が首を傾げる。



「おかしいなあ。おかしいなあ。なんでだろ?」



マジメ君が考え込んでいる。



どーでもいいけど、早く終わらせようよ。



俺、やばくなってきた……。



くっさ~。




「ツーンとした刺激臭がする。目も鼻も痛い。変だなあ。おかしいなあ。こんな実験結果になるわけないのに」



「ちょっとぉ、しっかりしてよねー」



「ごめん。小山内さん。僕が得意になって一人で何でもするから悪いんだね」



「もぉ、間違えないでよー。頼むからー」



「ごめん」



マジメ君を小山内あやめが、そう言って責めていた。



マジメ君は困った顔でおろおろしている。



バタっ。



妙な音がした。



振り返ると、近くの班で実験していたモヒカンの龍が倒れていた。



バタっ。



また、妙な音がした。




今度は、同じ班のギャルが倒れた。




なんだ?



なんだ?



なんで?



「やん。二人が倒れた」



小山内あやめが驚いた様子で言った。



俺は、こわくなった。



急に、なんで倒れるんだ?



「窓を開けろー!」



先生が大声で指示する。



きっと、ただならぬことが起こったんだ。



何が起こったんだ?



「森野! 手伝え! コイツ運べ!」




俺は化学の先生とモヒカンの龍を運ぶことになった。



哀れな龍は、意識をなくしていた。



何なんだよ?



お前、どーしたんだよ?



「やん。この子、どうすんの? この子も倒れてるよ」



小山内あやめが同じ班のギャルを見て言った。



ギャルは、意識があるようだった。



こんな独り言を小声で言った。



「小山内……くさ……ニオイ……マジ……ヤバイ」





俺はそれで原因がわかった。



実験には失敗していない。



無臭だったんだ。



でも、小山内あやめの体臭が刺激臭で錯覚したんだ。



優秀なマジメ君が簡単な実験で失敗するはずがない。



絶対、ない。



それに。




倒れたのも……。



小山内あやめの悪臭が原因だ。



俺は、モヒカンの龍の腕を自分の首に回した。




先生も、モヒカンの龍の腕を首に回した。



「キャー」

「龍君」

「キャー。キャー。どうしてよ?」

「なんで倒れたの?」

「マジ、ヤバくない?」



モヒカンの龍と同じ班の女子が騒ぐ。



「なんか臭くない?」

「臭いよねー」

「小山内が臭いから?」




その班の女子がペチャクチャ喋っている。



そうだよ。



小山内あやめが臭いからだよ。




二人で龍をひきずりながら、実験室を出た。




小山内あやめが後ろから、ついてくる。



「ねー。ねー。実験にマジメ君が失敗して気絶したんだよねー?」



背後から小山内あやめが聞いてくる。



うっざ。



そんで。



くっさ。




「それって、マジメ君が悪くない? マジメ君のせいだよねー?」



違う。



そうじゃないんだ。



マジメ君は悪くない。



悪いのは。



全部。



小山内あやめ。



「もう、呆れるよー。マジメ君、変な気体を発生させるんだもん。超ムカツクよねー」



え?



今、なんて言いやした?



呆れるって?



超ムカツクって?




変な気体を発生させたのは……。



小山内あやめ……。




お前だよ、お前。



張本人で、犯人の、お前が言うなぁぁぁぁぁ!



階段を降りて歩いていた。




バタっ。



先生が倒れた。



え?



先生?



先生も変な気体にやられたの?



廊下で先生が気を失った。




ガーン。



こんなところで倒れんなよ―――――!



立ち上がれー!




「起きて下さい。先生、起きて。俺だけで龍を運べない。先生も倒れたら俺どうしたらいいのか、わからない。目を覚まして下さい」



RPGロールプレイングゲームで魔王によって、パーティーが全滅しかかっている。



夏は魔王が最強。



誰も強くて倒せない。



俺の冒険の旅は、どーなるんだ!?





タ・ス・ケ・テ……。



「せ、先生!? 倒れちゃった? 超コワイ!!」



魔王が自分で倒しといて自分で怯んでいる。



「やん! 次に倒れるのは私っ!?」



いや、安心しろ。



絶対に倒れないから。



「先生ー。起きてー。起きてよー」



小山内あやめが化学の先生に呼びかける。



先生は応答しない。




顔を下に向けて、寝たままピクリとも動かない。



死んだみたいだ……。




そこへ。




スタスタスタスタ。




足音がする。



誰か通りかかるぞ。



助けてもらおう。



男二人が倒れたら、どうにもならないからな。




誰かが。



曲がり角を曲がる。



俺たちは、ちょうど、曲がり角の近くにいた。



その人が、曲がり角を曲がったら声をかけよう。



スカートがふわっと視界に飛び込んだ。



あれ?



福田さん?



姿を見せたのは福田さんだった。



なんで授業中に廊下をスタスタ歩いてるの?




「あやめ?」



福田さんが驚いて、そう言った。



「美雨、助けてよ。先生も龍君も倒れたんだよぉ」




小山内あやめが福田さんに助けを求める。



「助けたいけど、無理かも」



「どうしてぇ?」



「私も腹痛で倒れそうなんだ」



「なんで腹痛なの?」




「腐った青汁を飲んで……」



腐った青汁……?



福田さん、なんで腐った青汁を飲んだの?




「暑いから保管状態が悪いと、腐ってくるんだね。生ぬるい青汁を飲んで腹痛になったの」




青汁は、小山内あやめの影響か?



健康にいい青汁で健康を害するとは……。




「そうなんだ。早く保健室に行った方がいいよ」



小山内あやめが福田さんの背中をさすりながら、言った。



俺も福田さんの背中を触りたくて触った。




「でも、保健室がどこか、わからなくて同じとこ回ってたんだ。ぐるぐるぐるぐる廊下を歩いてた」



ああ。



天然。



「案内するよ」



俺がそう言って、モヒカンの龍を廊下に寝かせた。



悪い。



龍。



許してくれ。



先生もごめん。



廊下で寝てて。



暗い廊下に……。



二人を置き去りにすると……。




決めた……。



「じゃ、行こ」



福田さんが場所もわからないのに先頭を歩く。



おい、おい、大丈夫なのか?



なんで先頭を歩きたがるんだ?



ぐしゃ。



……。



予期せぬことが起こった。



……。



福田さんよ……。



愛しい福田さんよ……。



堂々と……。



モヒカンの龍を……。



踏んでいた……。



モヒカンの龍は、病人なのに……。



かわいそうな奴……。




「胸、踏んでるよ?」



小山内あやめが指摘した。



福田さんは下を見る。




「嫌だ、何、この人? なんで廊下で寝てるの? 気持ち悪い。ミイラみたい」




モヒカンの龍は、福田さんに悪口まで言われた。



「だから……倒れたんだよ……」



俺が説明する。



福田さんは興味なさげに「ふーん」と言って、龍の体から離れた。



「あっ。そっちじゃないよ。保健室の近道はこっちだよ」



俺が福田さんに教える。



福田さんは反対方向に進もうとしていた。



「やだ。そそっかしくて、ごめんね~」



福田さんは頭をかきながら、照れ笑いしていた。



そして。




頭をかきながら、照れ笑いして……。



ぐしゃ。



往復で……。



モヒカンの龍を踏んだ。




「やん。また、踏んでるよ。美雨ったら軽率けいそつなんだから」




小山内あやめが軽く注意した。



今度は。



福田さんは、龍の腹を踏んでいた。



「大丈夫?」



福田さんが踏みながら龍に問いかける。



いいから、福田さん。



踏んでるから、どこうよ……。




「痛ぇーよ」



モヒカンの龍が目を覚ました。



福田療法が効果あったみたい。




ゆっくり福田さんは龍の体から降りた。




「くせぇーし。Wパンチだぜ」



そして。



苦しそうに、片目をつぶりながら、モヒカンの龍は起き上がった。



モヒカンの龍が復活したぞ。



やった。



「せんたくばさみ、せんたくばさみ、と……」



ズボンポッケから、せんたくばさみを取り出した。



モヒカンの龍は、せんたくばさみをつける。



「あれ? 姐さん? 翔太? 福田? こんなとこで何やってんの?」




マヌケ面で聞く。



寝起きで、ぼんやりした様子だ。



「化学の実験室で倒れたんだよ」



小山内あやめが龍に教えた。



「え? マジ?」



モヒカンの龍は、お尻と胸と腹を払いながら、立ち上がる。



そして、そばで倒れていた化学の先生に目をやった。



「なんで先生が寝てんの? ありえなくね?」




先生に視線を向けたまま、モヒカンの龍が言った。




「その人も倒れたんだよ。お前を運んでる途中でな」




俺が事実を述べる。



モヒカンの龍は小さく「マジで?」とつぶやくと、途方に暮れたようだった。



暗い廊下で沈黙する。




「とりあえず、小山内さんは福田さんを保健室に早く連れて行って、俺はモヒカンの龍と化学の先生を重いだろうから、保健室まで、ゆっくり運ぶ」




俺が指揮を執る。



モヒカンの龍は俺にウィンクした。



「わかったぜ。任せとけよ。保健室にレッツゴー」







状況を汲み取って、モヒカンの龍は、そう承諾すると、さっそく、テキパキと動き始めた。




ウィンクは、いらねーよ……。



けど、助かる。



こんな時に、男手があると、ありがたい。



俺と龍は、化学の先生を運んだ。



小山内あやめと福田さんは先に保健室に向かった。




そして。




俺たちは、保健室で合流して適切な処置を受けた。



化学の先生は、ベッドで眠ることになった。



福田さんも薬を飲んで、ベッドで眠ることになった。



しばらく、保健室で様子を見るらしい。



「じゃあ、私たち、行くね」



小山内あやめが保健室を去る時に、福田さんに声をかけた。




「うん。ありがとう。助かった」



ベッドから福田さんが微笑む。



こうして、俺たちは、保健室を去った。



三人で実験室に戻る。




実験室の出入り口には、深刻な表情のマジメ君が立っていた。



俺を見つけて、すぐさま、駆け寄ってきた。



どうしたんだ、マジメ君?



「どうしよう?」



マジメ君は間近で見ると、半泣きだった。




何を泣いてたんだ?




「クラスメイトが担任の先生に、このことを報告しに行ったんだ。化学の実験で有毒ガスが発生したって」




「それで?」




俺が聞き返す。



「二人も生徒が倒れたのは一大事だってことになって

事件だから、じきに避難勧告が出るらしい」



何だって?



避難勧告だって?




俺たちがいない間に、事が大きくなってたんだっ!




「どうしよう? すべて僕の責任だ。もし僕が実験でミスして有毒ガスを発生させたのが、バレたら僕は内申書が悪くなるだけでは、すまされないよ。退学になるかもしれない。たった一度のミスでこんなことになるなんて思いもよらなかったよ」




マジメ君はそこまで話すと、メガネを取って泣き始めた。




手の甲で、涙を擦っている。




「大丈夫だよ。それに、お前のせいじゃないよ。これは、別のことが理由なんだ。だから、安心しろよ」



俺が慰める。



でも、マジメ君は聞く耳を持たなかった。




「ううん。僕が悪いんだ。死人を出すところだったんだ。いつも真面目に生きていたのに、僕の何がいけなかったんだろう?」




しくしく……とマジメ君は泣いている。



かける言葉は見つからない。




「津島学」





モヒカンの龍が、フルネームで呼んだ。



「気にすんな!」




笑顔でモヒカンの龍が、言った。




「龍さん?」



マジメ君が不良のモヒカンの龍を見た。



マジメ君のその瞳は、純粋に輝いていた。




「俺は生きてるぜ。この通り、どこも悪くない。だから、自分を責めんなよ!」




モヒカンの龍が強い口調で言った。



その言葉は、実際に倒れてしまった本人の言葉なので、俺の言葉より説得力があった。



「うぅ。龍さん……」



感極まって、マジメ君はまた泣き始めた。



「ほら、泣くなってー」



モヒカンの龍が腕をマジメ君の首に回した。



マジメ君の首を腕で絞める。



「お前、メガネ取ると、けっこうイケメンだな……」



ボソッと龍がつぶやいたような気がした。




いや……。



男の感動的な青春友情物語に水を差すので……。



今のは聞かなかったことにしよう……。




下心がありそうな龍は、ともかく、マジメ君は完璧、この事件の犠牲者だな。




一番の事件の犠牲者と言っても過言ではない。




これで、学校の先生に怒られたら……。



かわいそう過ぎる……。



何も悪いことは、してないのに、犯人にされちゃってるよ……。



それもこれも、小山内あやめのせい……。




でも、当の本人は……。



「もう! モヒカンの龍君にちゃんと謝りなさい!」



マジメ君に対して上から目線で物をぬかしていた。




威張るなぁぁぁぁぁ!



生きた有毒ガスぅぅぅぅぅ!



有毒ガスこそ、謝れぇぇぇぇぇ!




なんで事件を起こした中心人物が責められないんだよぉぉぉぉぉ!




お咎め(おとがめ)なしかっ!!



そんなところへ。



まさかの。



校内アナウンス。



「えー。こほん。突然ですが、化学の実験で有毒ガスが発生しました。そして、実験室で生徒2名が倒れました。今すぐ、グラウンドに避難して下さい」



これは、校長の声。



大変なことになったなあ。



まいったよ……。




「もう一度、繰り返します。実験室で有毒ガスが発生しました。危険なので今すぐ、グラウンドに避難して下さい」




まだ、校内アナウンスは続く。



「生徒も職員も直ちに逃げて下さい」





マジメ君の顔色が変わった。



「僕はもう、終わり。強制退学になる。自主退学ならまだしも強制退学なら他の学校さえ入れなくなる。僕の人生は終わったんだ」





マジメ君は、茫然自失ぼうぜんじしつといった感じだ。



モヒカンの龍が気の抜けた、そんなマジメ君の手を握った。



「実験室の前だから、ここにいたら危ない。一緒に逃げようぜ!」




二人は俺の前から姿を消した。






で……。




残ったのは、俺と小山内あやめだけ……。



ここにいたら危ない。



俺が危険に晒される。



マジで、有毒ガス女が背後にいるから……。



「は、は、早く逃げよう! 私たち毒ガス吸っちゃうよ?」



そう言って、小山内あやめが、あわてふためいていた。



しかも、自分の鼻と口を手で押さえていた。




あのね……。



手で押さえる必要ないよ……?



お前が毒ガスだからね……。



「え~ん。逃げ遅れたら死んじゃうよぉ……」



しかも。



小山内あやめ!



泣きかけている。



俺の方が小山内あやめといたら、死んじゃうよぉ……。




マジで、泣きたいのは俺だから……。



「グラウンドに行こうよぉ。危ないよぉ。みんな避難してる」



毒ガスが俺のYシャツの裾をつかんできた。



背後から強く引っ張る。



触んじゃねぇー!



毒ガス!



寄ってくるな!



「何やってるんだー!」



遠くから廊下にいる俺たちに向かって誰かが叫んだ。



廊下の突き当たりにいる男だった。



「逃げろー!」



男が再び叫ぶ。



男は近づいてきた。



よく見ると、花園だった。



「実験室の前にいたら危ないぞー!」




実験室の前にいても、いなくても、小山内あやめがいる限り、どこへ行っても、危ないんだけどね。





俺は、先生に言われて渋々、小山内あやめという発生源を連れて避難することにした。




いや、避難になってない。



テロリストの犯人を連れて逃げるのと同じ。



危ないじゃんっ。



不潔テロを発生させた小山内あやめは、がむしゃらに走った。



そんな走らなくても不潔テロリストの首謀者なんだから、走る必要ないよ?



わかってる?



小山内あやめが毒ガスを発生させたんだよ?



というか。



小山内あやめが毒ガスなんだよ?




その体臭が毒ガスなんだよ?



走ったら、余計に体臭がキッツくならない?



キツ過ぎて避難の意味がなくなるんだよ?



ねえ。



小山内さん。



走らないで。



お願いだから。



みんなのために。



走らないで。




俺は心から、そう思った。




グラウンドに着くと、みんながいた。



生徒のほとんど全員が集まっていた。



「あっちぃ。やってらんねぇ」

「こんな暑いのに、外へ避難かよ」

「クソ暑いよなあ」

「どうせ避難するなら、涼しいところが、よかった」

「私もう暑くて倒れそう」

「汗がダラダラ流れてきて体ベトベト」

「私も脇汗が染みになってるぅ」





生徒たちの愚痴は、こんな感じだった。




俺も暑い。



そして。



くっさ。



俺の体まで汗で臭かった。



体が汗まみれだ。



と、いうことは……?



小山内あやめは、どうなるんだっ!?



大問題だぞ?




不潔テロリストは、どこへ行った?



「小山内さーんっ」



俺は大きな声を精一杯、出した。



不潔テロリストの姿を生徒の中から探す。



その間。



太陽にジリジリ照りつけられた。



残酷なまでに暑い。



汗がボタっとグラウンドの砂に落ちた。



俺は汗を落としながら、途中ではぐれた小山内あやめを探し回った。



くっそ。



どこへ行ったんだ?



そうしていたら。




「美雨、美雨~」






小山内あやめの声がする。




たくさんの生徒をかき分けて声のする方へ近寄った。




小山内あやめは、どうやら福田さんを探していたらしい。



俺は、その声の方へ進んだ。



うわっ。



くっせ。



何なんだ!?



俺は脳がおかしくなって、パニックになった。




ありえねー!!



人間じゃねぇー!!



こんな臭いの初めてっ!!



危険過ぎて、小山内あやめに近寄れない。



尋常でないニオイに進めず、尻込みした。




こんな時に。



何を臆病になってるんだ?



小山内あやめを何とかしないと、えらいことになる。



もう、えらいことになっちゃってるけど……。



もっと、悪化する。



事態の悪化を防ぐんだ!



俺は、おもいきって、小山内あやめのところへ、駆けて行った。





くっさ―――――っ!!!




脳が拒否しているにも関わらず、俺は走っていって小山内あやめの腕をつかんだ。






「どこ行ってたんだ? 心配しただろ? こっち来い」





俺が小山内あやめに、そう告げた時には、俺は泣いていた。



ポロポロポロポロ涙がこぼれる。



泣くほどに……。



くっさ!



とにかく、別のところに魔王を封じ込めなければ……。



俺、死ぬ、かも……。



死が脳裏をよぎった。



魔王は、外の暑さで強さ(この場合は悪いニオイだけど)を増大させていた。



たぶん。



第一形態から。



第二形態に。



変化を遂げて大魔王になっていた。



強い!



強すぎる!



いろいろな意味で、この女、すごいよ!



誰も倒せるわけがない。



俺は、小山内あやめを校舎の中の職員トイレに連れていった。



ここは、一階。



もちろん、誰もいない。




職員トイレの中の女性用の個室に入れた。



小山内あやめを閉じ込める。



これで、マシになる。



「何したいのぉぉぉ?」



小山内あやめが楽しそうに聞いてきた。



何を喜んでるんだ?



非常事態だぞ?



全生徒の命がかかってるんだぞ?



自分がどれだけ臭いか、わからないのか?



俺は泣いたんだぞ?




言いたいことは、山ほどあった。



「あ~ん。超嬉しいよ。なんか胸がわくわく」



意味がわからんし。



暑くてイライラするし。



俺だけ被害者のような気もする。



ドア越しに小山内あやめが、こんな変なことを言ってきた。






「私とここでヤるつもりなんだ。えへ」








……。



あはは……。



面白い……。



テロリストさん、面白いよ……。



人の苦労も知らないで……。



そうだね……。



俺は……。



みんなのために……。



テロリストさんを……。



殺る……。



キ―――――。



個室のドアが開く。



恐怖の大魔王が出てきた。



「えへ。エッチしたいんでしょ?」



ニヤニヤ笑いながら、聞いてくる。



今日ほど、小山内あやめを殺したいと思ったことはない。




「学校でエッチするなんて、悪い子ちゃんなんだね。でも、その発想、私は嫌いじゃないよぉ?」




小山内あやめは、かなり赤くなっていた。



そして。



臭くなっていた。



「いいよ。ここで、する? もう、ドキドキしてきた。公園とか学校とか。翔太はエッチさんなんだ。えへ」



『エッチさん』じゃねーよぉぉぉぉぉ!



ふざけんなよぉぉぉぉぉ!



舐めたこと言いやがってっ!



マジで、殺すぞっ!



臭さ爆発させといて人を『エッチさん』とか言うなぁぁぁぁぁ!



「きゃ。しかも、ここ職員トイレだし。ドキドキが倍増だよぉ~」




ドキドキじゃなくて、悪臭が倍増だよぉ~。



かなり、いつもより臭くて、ニオイ倍増だよぉ~。



誰か、助けてよぉ~。



相手すんの嫌だよぉ~。



くっせぇーよぉ~。



「先生たちが来たら、どうしちゃう?」



小山内あやめが、毒ガスの発生源であることをバラす。



みんなに迷惑かけた犯人だってバラす。




「翔太? 涙ぐんでない? やだ……」



小山内あやめが、自分の口元を手で押さえた。



そして、泣き顔の俺を見てビックリしている。



「泣いてんじゃん。よっぽど、ヤリたくて、ヤリたくて、ヤれるから嬉しいんだね。嬉し泣きだね?」




ちげーよ―――――!



いいかげんにしろ―――――! 



「夏……だもん。男の子は性欲すごくなるんだってね。ここで、念願の2回目のエッチができるから、よかったね」



よくねぇよ―――――!



俺は職員トイレで大魔王に迫られている。



こんなくっさい奴と肉体関係持ったら、一生立ち直れない。




俺は、心を破壊される?



だから。



逃げないとなあ。



「こんな時に悪いんだけど、待ってくんない?」




急に、小山内あやめが中断を申し出る。



なんだ?



さっきまで、俺に襲いかかろうとしてなかった?




「かゆーい。かゆかゆかゆーい。かっゆ」



そう言いながら、股間を激しく小山内あやめは、かいている。



かくなぁぁぁぁぁ!



「夏だから、むれるんだ。ごめんね~」



言い訳すんな―――――!



しかも、謝るくらいなら最初から、かくな―――――!




「さっ。かき終わったから、ヤろっか?」



ヤれるかぁぁぁぁぁ!



アホぉぉぉぉぉ!



しかも、さわやかに言うなぁぁぁぁぁ!



小山内あやめが俺に体をすり寄せようとしてきた。



俺が、よける。



「もう、照れてるんだ」



照れてねーよぉぉぉぉぉ!



純粋に嫌ってるんだよぉぉぉぉぉ!



「したくないの? 私の気が変わっちゃうよ? 気が変わってもいいのぉ?」



頼む。



一生のお願い。



小山内あやめ。



気が変わってくれ。



したくないんだ。




その時だった。




「えー。こほん。グラウンドに避難している皆さん。よく聞いて下さい」



また、校長の学内アナウンスだ。



何を言う気だ?



「生徒の皆さんは、速やかに下校して下さい。繰り返します。帰る準備をして速やかに下校して下さい」




今日は、事件があったから生徒を帰すのか?



ということは、帰れる?



やった。



帰れる。




天の助けだ。



神様。



あなたの愛に感謝いたします。



「小山内さん、帰ろうよ」



俺は、そう言って、職員トイレを出た。



小山内あやめも、ついてくる。



「翔太、邪魔されて、がっかりしたでしょ?」



ううん。



よかった。



助かったよ。



このまま、こんな臭い女と職員トイレに閉じこもってたら、倒れてた。



襲われかけたし……。



俺たちは教室へと向かった。



向かう途中、真理や人生の生き方について考えた。



そして。







今日。



格言が生まれた。




それは。



小山内あやめは……。



夏場、ニオイがMAXになる。



夏はキケン! 



だから。



近寄るな!




……だ。






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