おまけ
今日は、初Hの日。
とうとう……。
この日が来たか……。
汚ギャルとヤる日が来たんだ!
フツーの子とヤるより、ドキドキするっ!
今日が俺の性病感染日になるのかもしれない。
……と思ったら、恐怖だなあ。
でも、好きだし。
ずっと、我慢してたし。
もう、ヤるっきゃない!
覚悟を決めた!
お泊りセットを持ってきた俺。
ピンポンを押す。
ピンポンっ。
ガチャ。
重厚な玄関ドアを小山内あやめが、開けてくれた。
「入って」
小山内あやめが俺を招き入れる。
ペントハウスに入った。
「寒かったでしょ?」
リビングに向かう途中の廊下で、小山内あやめが尋ねてきた。
「うん。寒かった。じきに春休みなのに」
もう、半年が経過していた。
あれから、俺と小山内あやめは、順調に交際して、今に至る。
「さっ、こっちだよ」
小山内あやめが、リビングのドアを開ける。
相変わらず、豪勢な部屋だな。
って……。
あれ?
圭太と福田さん……?
それに、モヒカンの龍もいた。
なんで?
なんで、ソファに座ってるの?
「あやめ? なんで友達がいるの? 友達も、お泊りするの?」
俺の疑問に小山内あやめは、返事をすることなく、キッチンへと走っていった。
俺は、その場に立ち尽くす。
「よお。翔太。こっち、来いよ」
モヒカンの龍が、俺を迎えてくれる。
俺は、モヒカンの龍の隣に座った。
圭太と福田さんは、ぴったり体を寄せ合って座っている。
実は……。
この二人……。
俺と小山内あやめが付き合うようになってから、すぐ交際がスタートした。
『失恋して一番弱っている時に、口説くのは卑怯かもしれないけれど、君のことが好きなんだ。チャンスだから、君に猛アタックするよ』
その圭太のセリフが、福田さんには、かっこよく思えたらしい。
正直が、どうやら功を奏したようだ。
それで、二人は今ではラブラブ。
立派なカレカノだ。
その圭太と福田さんは仲良さげに、囁きあっていた。
二人とも、俺の斜め前にいる。
いいなあ。
イケメン&カワイイ高校生カップル。
お似合いだよ。
「お花見をするんだってよ」
不意に、龍が低い声で言った。
『お花見』?
「春休みに、桜を見ながら、飲み会するんだって。姐さんの提案」
「聞いてない。でも、楽しそうだな」
「まあな。俺も花見メンバーだぜ。5人で行くからな」
この5人で行くってわけか。
俺、あやめ、圭太、福田さん、モヒカンの龍の5人だな。
「どこの桜を見に行こうかって話で集まったんだ」
「そうだったのか」
「いつにするかとか、決めること、いろいろあるからな」
「そうか」
俺がモヒカンの龍と会話しているところへ、小山内あやめが、飲み物を持ってきた。
「はい。ホットの青汁だよ」
小山内あやめが、テーブルにマグカップを置く。
俺は、マグカップを取った。
「ありがとう。飲むよ」
これが、けっこう、おいしい。
最近、ハマってる。
「翔太に言ってなかったけど、お花見に、行く計画を立ててたんだ。それで、集まってもらったんだよ」
ホットの青汁を口にする俺に、小山内あやめが報告をする。
「いい計画だね」
そう言って、俺はマグカップをテーブルに置いた。
平和だなあ。
穏やかな毎日に、心から幸せを感じる。
彼女がいて、友達がいて、みんな仲良しで、春には、お花見。
最高だな。
「そうだ。汚ギャルさん。テレビ見たいんだよ。つけてもいい?」
圭太が、小山内あやめに頼む。
大画面テレビが、リビングにはある。
「いいよ」
小山内あやめが圭太に、リモコンを渡す。
圭太は、テレビをつけて番組を見ようとした。
「何が見たいの?」
福田さんが聞いても圭太は、テレビをつけて、テレビに夢中で答えない。
俺も気になった。
「やん! ウソ! 栄二君?」
小山内あやめが叫んだ。
見ると、テレビ画面に、学校をやめた、アイスピックの栄二が映っていた。
おい、どうなってんだ?
タレントにでも、なったのか?
「これ、毎週やってる話題のドキュメンタリー番組だよ」
小山内あやめは、番組に詳しい。
なんで話題のドキュメンタリー番組に、栄二が登場するんだよ?
栄二は工場のようなところで、額に汗して働いていた。
ワルだった頃の栄二とは違う。
油で汚れた作業着を着て、カナヅチで鉄を叩いていた。
カン、カン、カン!
栄二は、激しく叩いている。
鉄は熱いので、火花が飛び散る。
真剣な表情。
真面目に働いている。
こんな栄二を見たことがない。
「変わったね。こんな人じゃ、なかったよ」
小山内あやめが驚いている。
俺も同じことを思った。
急に、場面が切り替わる。
アイスピックの栄二は、工場の休憩室で休憩していた。
イスに座って、寛いでいる。
さわやかに白い歯を見せている。
「俺は学校をやめて働いてるんです」
栄二が、カメラに向かって語り始めた。
何があったんだ?
「イジメとか、マジ、許せねぇ」
栄二は俯いた。
片手がぶるぶる震えている。
「同じクラスの女子に、恐怖心を植え付けられたんです」
『同じクラスの女子』って……。
俺の彼女……。
小山内あやめ……?
ここで、ナレーションが入る。
「栄太君は、昔、チーマーのボスで他人に恐怖心を与える存在だった」
『栄太君』っていうのは、仮名だな。
本名は、坂田栄二だから。
そこで、一瞬、パッと、昔のヤンキー時代の写真が映った。
しゃがんで、タバコを吸っている写真。
いかにも、ワルって感じ。
これが、俺たちの知っている栄二だ。
「恐怖心を与えていたのに、与えられるようになって、初めて人の痛みがわかるようになったと言う」
そんなナレーションが、また、入った。
ドキュメンタリーっぽいなあ。
また、栄二が、こう語り始める。
「俺をイジメた女子は、今では学校で天下を獲って、のさばってるらしいです。恐怖のボスとして、恐れられているらしいです」
その言葉に小山内あやめが、俺に抱きついてきた。
ソファに座っていた俺に、抱きついて、こう叫んだ。
「こわい!」
え!
『こわい』って?
「栄二君をイジメた学校のボスに私も何かされたら、どうしよう! 翔太! 守って!」
何、言ってるの?
何もされないよ?
絶対、何もされないからね。
「そんな学校に、こわい女子がいたら、こわくて学校に通えないよぉ」
『こわい女子』って……。
お前……だよ……。
「か弱い女子で可愛いから、学校の女ボスに目をつけられるよ」
『学校の女ボス』は……。
お前……だよ……。
あの強い栄二を倒したのに……『か弱い』って……?
しかも……『可愛い』って……?
「私が強い子だったら、栄二君に悪いことをした女ボスをやっつけて、お仕置きするのに、私は弱いから怒りたくても怒れない」
取り乱す小山内あやめの背後に、福田さんが立っていた。
福田さんが、小山内あやめの肩に触れる。
「大丈夫だよ。女ボスなんて知らないよ。きっと、私たちの知らない人なんじゃない?」
福田さんが、小山内あやめに、そう優しく声をかけた。
福田さん……。
おもいっきり……。
知ってる人だよ……?
それは、福田さんの親友です。
俺は、栄二と同じチーマーグループで友達だった、モヒカンの龍を見た。
モヒカンの龍は、テレビに興味がないのか、自分のケータイを見てニヤついていた。
見ろよ。
アイスピックの栄二だぞ?
「ある日、臭覚攻めという、辛いイジメを受けたんです。最後は、緑色の液体を顔にかけられました」
栄二の語りは、続く。
「草っぽいニオイがしました。あれは、草の汁ですよ。緑色の液体は草汁です。だから、草食動物の幼獣が人間に化けて高校生として学校に通っていたんです」
栄二は、そこまで語ると、涙目になって、語りをやめた。
『緑色の液体は草汁』ではないよ?
あれは、青汁だったんだよ?
そして、小山内あやめは、『草食動物の幼獣』と間違えられている。
俺は、草食動物の幼獣と付き合ってるのか?
「栄二君、何、言ってるの? 草食動物? 幼獣? 頭おかしくなったのかな?」
草食動物の幼獣が言った。
自分が草食動物の幼獣と、思われていることに気づいていない。
アイスピックの栄二は、悩ましげな表情をしている。
ここまで、悩ませるなよ。
草食動物の幼獣……。
また、場面が切り替わる。
今度は、アイスピックの栄二が車椅子の老人の車椅子を押していた。
老人たちと楽しそうに談笑している。
栄二と、この老人たちとの関係が、知りたい。
「俺、ボランティア活動してるんです」
明るく栄二がカメラに向かって、そう語る。
『ボランティア活動』?
あの悪魔と呼ばれた男が?
ここで、また、ナレーション。
「栄太君は、こうして、時々、老人ホームに来て、お年寄りたちと戯れる。お年寄りに親切にしていると、過去のトラウマを一時的に忘れられるそうだ」
栄二は、老人に食事の介助もしていた。
おかゆを上手に、スプーンで食べさせている。
あの悪人が、善人になっている。
あいつ、こんなキャラじゃなかった。
絶対、こんな奴じゃなかった。
改心してんじゃん。
それも、これも、小山内あやめのおかげ?
おそるべし、小山内あやめパワー!
「俺、頑張ります。一生懸命働いて真面目にこれから、生きていきます」
そんな栄二の顔は、純粋に輝いていた。
生き方を見習いたいなあ。
「栄太君は学校でのイジメをバネに強く、たくましく生きていくのであった」
と、最後にナレーションが締めくくった。
「何はともあれ、よかったね。栄二君、とても元気そうだった」
さっきまで混乱していたのが嘘のように、小山内あやめが俺に笑顔を向ける。
喜怒哀楽が激しいなあ。
「そうだね」
俺が言葉を返す。
俺は、何気なく、青汁のマグカップを取って飲んだ。
小山内あやめは、「あー、お腹空いちゃった」と言って、キッチンの方に隠れてしまった。
「次回、予告」
俺は青汁を飲みながら、予告を見ることにした。
また、テレビ画面の方を向く。
「整形に失敗した女性」
パッと、小山内すみれが映る。
!
飲んでいた青汁のマグカップを、落とした。
ゴンっ。
絨毯の上に落ちる。
青汁が染みになる。
それよりも、画面に釘付け。
小山内すみれ?
お前も、か?
「一生ずっと不幸せな女性を、取材班は取材した」
どんな女だよ?
『一生ずっと不幸せ』って?
「セレブゆえに顔面が崩壊した女性、次週、放送」
予告が終わる。
これ、俺の彼女の母親だよ?
すごくねー?
「世の中には似た人が、3人いるっていうけど、今の整形の女性が、あやめのお母さんに、そっくりだったから驚いた」
福田さんが目を丸くしている。
福田さん……。
あれ……。
本物だよ……。
モロ本人じゃん……。
「今週は、つまらなかったよ。次週の整形の女性の方が面白そうだ」
圭太は、相変わらず、辛口。
真面目に頑張ってる奴を、『つまらない』とか言うなよ。
「圭太君……」
いきなり、福田さんが圭太に甘えモード。
何なんだ、福田さん?
トロンとした目で、圭太の肩に寄りかかる。
「どうした、美雨ちゃん?」
圭太が、福田さんに目を細める。
「キス……して……」
そう言いながら、福田さんが圭太の手を握った。
圭太は、その手を握り返す。
顔には、優しい微笑みを浮かべていた。
二人は俺の前で、イチャイチャした。
そして。
「圭太君」
「美雨ちゃん」
二人は、抱き合ってキスをした。
これで、福田さんがキスをするのを見たのは、2回目。
最初は、病院で先生とキスをしていた。
もう、いいかげんにしてください。
福田さん。
俺の前で堂々と、キスしないでください。
人目もはばからず、キスしないでください。
そういえば……。
この空間には……。
モヒカンの龍もいたはず……。
龍は……圭太が好きだから……ショックのはず……。
大丈夫かな……?
チラリ。
俺が、隣にいる龍の顔を見る。
龍は……。
にやけていた……。
なんで?
圭太が目の前でキスしてるよ?
怒らないの?
モヒカンの龍は、圭太と福田さんを見ながら、照れ笑いしていた。
何を照れてるんだ?
わけわからん。
「俺も彼氏と毎日あんなこと学校でしてるんだぜ」
モヒカンの龍が、俺にそう耳打ちする。
え!?
何だって!
「俺、ずっと秘密にしてたけど、彼氏できたんだ」
え―――――っ!
『彼氏』っ!
ホモにホモのカレシができたのか?
「秘密にしてて、ごめんなあ」
モヒカンの龍は、すごく幸せそうだ。
嘘だろ?
嘘って言ってくれ。
こわい。
お前、マジでこわいよ。
男同士でキスとか……。
「今日は、彼氏、呼んであるんだ」
「彼氏、ここに来るのか?」
モヒカンの龍は嬉しそうに、うなずいた。
マジで?
俺、ここで対面するのか?
嫌だなあ。
カレシと、どう接したら、いいんだ?
「お前も知ってる奴だぜ」
「え? 俺も知ってる奴?」
「おう。さっき、ケータイで『翔太が来た』ってメールで知らせたら、『ビックリするはずだよ』ってメール返ってきた」
今まで、カレシとメールしてたから、顔がニヤついてたのか。
恋愛中ってわけだ。
ピンポン。
さっそく、か。
会うのが……こわい……。
誰が、カレシなんだよ?
「やん! なんで? 超ありえなくない?」
小山内あやめの叫び声。
誰が来たんだ?
しばらく、インターホン越しに対応している。
何やら、揉めているようだ。
数分後。
リビングのドアが開く。
小山内あやめが、リビングに入ってきた。
そして……。
その後ろに続いて……。
入ってきたのは……。
7:3の前髪。
黒縁メガネ。
地味系男子。
マジメ君……。
お前だったのか……。
なんで、龍と?
いつから、そんな関係に?
「龍!」
「学!」
二人が同時に名前を呼びあう。
やめろって……。
見たくない……。
俺は……頭を抱える……。
「マジメ君、そこに座って。今すぐ、飲み物を用意するからね。もう、驚いたよぉ。急に、来るんだもん」
また、小山内あやめは、キッチンへと走っていった。
俺も驚いたよ。
二人が付き合ってるなんて……。
コメディじゃん……。
つーか。
マジメ君……。
バイセクシュアルで……。
男でもイケるのか?
衝撃的だな……。
やがて、小山内あやめが青汁を持ってきた。
テーブルの上に置く。
マジメ君は、龍の隣に座っていた。
俺、龍、マジメ君の順番で座っている。
ソファは、ぎゅうぎゅう。
きっついなあ。
「ねー、お腹空かない? クッキーも用意したよ。みんな食べて」
小山内あやめは、気を利かせてクッキーもテーブルに置く。
「おい、みんな聞け!」
モヒカンの龍が、立ち上がる。
何だ?
「俺の彼氏を紹介する」
いいって……。
黙ってろよ……。
そのまま秘密にしてればいい……。
「コイツ、俺の彼氏」
ニコっと笑って、マジメ君を指差す。
マジメ君は、カーっと顔が赤くなる。
カミングアウトするなよっ!
「先月から付き合ってる」
何が、きっかけだ?
なんで付き合ってる?
座ったままの、顔が赤い、マジメ君が事情をこう説明した。
「僕たちは、フラれた者同士。お互いの傷を舐めあっているうちに、こんな関係になったんだ」
そうか。
そうだったのか。
「それに、覚えてるか? 俺たちは文化祭で小人役と王子役で絡みがあったんだ。共演者同士が意気投合して恋に発展するパターンだな」
モヒカンの龍が、えらそうな口調で言った。
「実は、劇の練習をしていた時に、心が揺れたんだ。僕は、あの時から、ちょっと、いいなあと思ってた」
俯きながら、マジメ君が、そう告白する。
「俺も。あの時から、ちょっと、いいなあって思ってた。いろいろと語り合ったし。それに、化学の実験で毒ガスが発生した時も、泣き顔が可愛かった。メガネ取った時の顔がけっこう俺の好みで……」
「もう、言うなって。照れるだろ? バカ!」
「へへっ。もっと、言ってやる。お前のメガネ取った時の顔がけっこう俺の好みで……」
「もう!」
「へへっ」
「それ以上、言ったら、キスで唇を塞ぐからな」
そのマジメ君の言葉に、鳥肌が立った。
やめろ―――――っ!
『キスで唇を塞ぐ』のだけは、やめろ!
ここで、始めるなよ?
絶対、するなよ?
「塞いで……みろよ……」
ポッケに手を突っ込んだ、モヒカンの龍が耳を真っ赤にして言った。
耳を真っ赤にすんな!
マジメ君が、本気の表情で立ち上がる。
お前も本気になるな!
マジメ君が、モヒカンの龍と向かい合う。
二人とも、見つめあっている。
微妙な空気になる。
ぶちゅっ!
積極的に、意外とマジメ君の方から龍にキスをした。
本当に、モヒカンの龍の唇を塞いだんだ。
こりゃ呆気に取られた……。
まるで、これじゃあ。
BLじゃん。
ん?
BLといえば……。
ソファに座っていた福田さんの目は……。
とても輝いていた。
目をキラキラさせて、じっと、見入っている。
そういえば。
福田さんの夢は、たしか男同士がキスしているのを間近で見ることだったはず。
夢が叶って……よかったね……。
カシャ。
福田さんは、腐女子パワーを炸裂させて、写メを撮り始めた。
やめろよ、福田さん。
「保存っと」
福田さんは、画像を保存したみたいだ。
パタっ。
興奮したマジメ君が、龍を押し倒した。
マジメ君……。
押し倒すなよ……。
みんな見てるよ……?
恥ずかしくない……?
二人は、絨毯の上で、アブナイ性行為をしようとしていた。
おい、小山内あやめのペントハウスのリビングだぞ?
やめろよ……。
マジメ君が、龍に覆いかぶさっている。
お前は、性欲に飢えたケダモノか?
クラスで一番の優等生が、何やってんだよ?
ケダモノと化したマジメ君は、龍の首筋に舌を這わせていた。
しまいには……。
『小説家になろう』の世界から消されるぞ?
「男同士でやめてくれ。見ていて気分が悪くなった」
圭太が、立ち上がる。
圭太は、顔面蒼白になっていた。
「もう、帰るよ」
そう言って、リビングのドアのところまで、行く。
福田さんも立ち上がる。
圭太のあとを追った。
「僕たちは、帰るからね。さようなら」
俺の方を見て、圭太は別れの挨拶をした。
俺は、黙って手を振る。
「美雨ちゃん、行こうか?」
「うん」
二人は、手を繋いで出ていった。
あー、行っちゃった。
この二人が、こんなところで、おっぱじめるからだよ。
そういうことは、よそで、ヤれ!
よそで!
俺は、立ち上がって、男同士で激しく愛し合おうとしていた二人に、近寄った。
そして、こう言った。
「よそへ行ってくれないか?」
「ここで、するのは、たしかに、よくないね」
上に乗っていたマジメ君が、行為を途中でやめた。
モヒカンの龍は、ほんのりピンク色の顔をしていた。
感じてたんだ……。
こわっ。
「悪かったね、森野君。よそで、するよ」
マジメ君は、龍の体にまたがったまま、そう言った。
またがったまま、言うなよ。
マジメ君は、立ち上がって、服装を整えた。
モヒカンの龍も立ち上がる。
二人とも、目と目でアイコンタクトを取っていた。
今度は、心で愛し合っている。
「じゃ、行こうか?」
マジメ君が、モヒカンの龍を促す。
龍は、マジメ君の後ろにぴったり、くっついた。
二人は、リビングを出ていった。
俺は、小山内あやめの方を見た。
「二人きりになったね」
小山内あやめが、寂しそうに言った。
いいじゃないか、二人でも。
「今日は、泊まるんだよね?」
小山内あやめが、俺のお泊りセットを見ながら、聞いた。
そうだった。
泊まるんだった。
彼女のところに、初めての、お泊り。
急に、そわそわしてきたな。
「翔太……」
小山内あやめが俺に抱きついてきた。
抱きしめられる。
俺も抱きしめ返す。
小山内あやめ……。
好きだ。
愛してる。
でも……。
くっさ!
「ヤバイ……」
思わず、俺が口走る。
しまった……。
『ヤバイ』って言っちまったよ……。
小山内あやめを傷つけた?
「ヤバイほど、したくなっちゃった?」
小山内あやめに、聞かれた。
いや……。
違う……。
ヤバイほど、くせぇーんだよっ!
「ごめんね。今まで、我慢させて、本当ごめん。ヤりたかったよね? すごく悪いなあって思ってた」
いや、いや。
我慢してることは、我慢してるけど。
小山内あやめが、くっさいから、性欲は、ほどほどだったよ?
「今日は、いっぱい、しようね」
小山内あやめが俺の顔を見つめながら、言った。
くっさ~。
くさ過ぎる。
くっさい気持ちを伝えたい。
「こっち来て」
俺は小山内あやめに手を引かれた。
ある部屋の前まで連れて来られた。
小山内あやめが部屋のドアを開ける。
そこは、小山内あやめの部屋だった。
ピンクと白を基調とした部屋。
白いレースのカーテン。
白い学習机とイス。
ピンクのベッド。
ピンクの壁紙。
白いチェストの上には、ピンクの写真立てが、いくつも並べてあった。
写真は、小山内あやめと福田さんが写っているのが、ほとんどだった。
やっぱ仲良しなんだ。
汚ギャルの部屋とは思えない、可愛らしい部屋。
スッキリしているし、ゴミひとつない。
お嬢様って感じだな。
本当は、汚嬢様なんだけど。
「翔太っ!」
小山内あやめが、俺をベッドに押し倒そうとした。
でも、俺は踏ん張った。
「ここで抱いて!」
小山内あやめが、俺をベッドに押し倒そうとする。
ぐいぐい押してくる。
すごい力だなあ。
全然、か弱くねーじゃん。
押し倒されそうなんだけど……。
そこまで彼氏と、ヤりたいのか?
「抱いて!」
いや……。
待ってくれ……。
くせぇーんだよ……。
小山内あやめ……。
くせぇーんだよ……。
「どうしたの?」
小山内あやめが、押し倒そうとするのをやめて、俺を見つめる。
その目は、切なそうだ。
俺だって、切ないよ。
小山内あやめが、くっさいから。
「その……あの……風呂に……入らない……の……?」
俺が遠慮しがちに、聞く。
小山内あやめは、俺から離れた。
体臭に気づいたのか?
「シャワーを浴びろって?」
小山内あやめが、険しい表情をする。
そんな顔すんなよ!
「私、お風呂が嫌いなんだ」
そりゃ、そうだろ。
それで、汚ギャルなんだろ?
「お風呂が嫌いなのに、入れって言うの?」
半ギレの小山内あやめ。
キレんなよ!
マジ、キレたいのは、俺の方だから!
「昼間だよ? お風呂に入るの、早くない?」
「Hする前は、昼間とか夜間とか関係なく体を洗うのが、相手へのエチケットだと思う」
「もう! わかったよ! 入ればいいんでしょ! 入ればっ!」
小山内あやめが激怒。
よっぽど、風呂が嫌いなんだなあ。
ここまで言わないと、風呂に入らないのか?
すげー女だな。
小山内あやめは、チェストの引き出しを開けて、風呂の着替えの用意をした。
「もう!」
荒々しく、そう言うと、ドアをバタンと、強く閉めて、部屋を出ていった。
どうやら、風呂に入りに行ったようだ。
静寂に包まれる。
この部屋で、俺は待った。
一時間後……。
バタン。
ドアが開く。
小山内あやめだ。
「あー、久しぶりの、お風呂。けっこう、気持ちよかった」
バスタオル一枚で現れた!
ドライヤーで、乾かしたのか、髪の毛は、半乾きだった。
「色っぽい?」
小山内あやめが、バスタオル姿を見せびらかす。
セクシーだよ。
でも!
驚いたことに、すっぴんは!
透明感のある可憐な少女。
すっぴんの方がイイ!
「化粧してない方が可愛いよ」
「え、そう? 子供っぽくない?」
「うん。でも、俺は、ノーメイクの方がイイと思うよ」
「そうかなあ?」
福田さんのような美少女じゃない。
一重まぶただし、目立たない印象。
まつ毛も、短いし、少ないし、残念であることは、残念なんだ。
でも、目も鼻も口も小さくて、愛らしい。
名字も小山内だけど、本当に幼い感じの子で、童顔だ。
そして、スッキリ系でもある。
いいなあ。
この顔。
可愛くもなければ、美人でもない。
でも、惹かれる。
「ねー、私って、お風呂に入った方が可愛い?」
「そりゃ、そうだよ。入った方が可愛いよ」
「ふーん。でも、嫌いで入らないんだ。ダメ?」
「ダメだよ、ちゃんと入らなきゃ」
「わかったよ。これからは、入る。ちゃんと、入る」
小山内あやめが、小さな瞳で言った。
決して、美少女ではない。
本当は、可愛いとは思ってない。
でも、透明感があって可憐な少女の小山内あやめは、若さが漲っていた。
魅力がある。
俺は、小山内あやめの顔と体に、ムラムラした。
「あやめ、好きだ!」
小山内あやめを押し倒す。
自分でも、こんな自分が信じられない。
「やん」
小山内あやめは、嬉しそう。
ベッドで始めようとした。
その時!
「あやめ!」
ドアを開ける音と同時に、そう呼ぶ声がした。
小山内すみれ!?
見られたっ!
焦る俺。
あわてて転げ落ちた。
床に仰向けになる。
「キャ―――――っ!」
小山内すみれの悲鳴。
そして、こう言った。
「翔太君の不潔っ!」
いや。
不潔は、お前の子供だよ!
風呂嫌いの、お前の子供だよ!
「うぅ。でも、付き合ってるんだから、カラダを求め合うのは、当たり前よね」
小山内すみれは、そう言いながら、体の力が抜けてしまったような感じ。
その場に、へなへなと座り込む。
「すいません。お母さん」
とりあえず、きちんと座って謝った。
許してくれるだろうか?
そういえば、避妊のことを、すっかり、忘れていた。
うっかり、してたな、俺。
「やだ。ママ。なんで部屋にいるの?」
小山内あやめは、そう聞きながら、起き上がる。
しっかりと、自分のバスタオルが取れないよう、手で押さえていた。
「パパもいるわよ。旅行から帰ってきたの。早く帰ってきて、ビックリさせようと思ったわけ。サプライズよ。でも、ママの方が驚いたわ。パパとママがいない間に、彼氏と、ここで、セックスしようとしてたなんて」
小山内夫婦は、旅行に行って留守だったのか。
それで、泊まるように小山内あやめは、俺を誘ったんだな。
でも、今日は泊まれないなあ。
何せ、パパまでいるもんなあ。
「いいのよ、翔太君。セックスしているのは、知ってた。彼氏がいるから、処女ではないと思ってたわ」
いや。
おもいっきり、処女です。
「でも、現場を見ると、ついショックでね。この子も男を連れ込んで、親がいない間に、こんなことをするような子になったんだと思うと、悲しくてね」
小山内すみれは、グラサンとマスクで、どんな表情をしているのか、わからない。
でも、悲しい表情だろうな。
「まだ子供だと思ってたのに……」
「すいません……」
「いいのよ、謝らないで。謝らなくて、いいから、ここで見せて」
「何をですか?」
「ち」
「ち?」
「ん」
「ん?」
「こ」
要するに……。
ちんこ見せろって?
っざけんなよ!
エロババア!
「若い子の……翔太君の……ちんこ見てみたい……」
今の発言は、聞かなかったことにしよう。
俺は、小山内あやめの方を向く。
変態すみれの方を見たくない。
「もっと、遅く帰ってきたら、よかったわ。そうしたら、うまくいけば、見れたかもしれない。ねぇ、別に、今ここで、私もパパも食事に行ってくるから、セックスしてもいいわよ」
「ママ、本当?」
小山内すみれの言葉に、小山内あやめは大喜び。
俺は、嫌だ。
性欲が減退した。
もう……帰りたい……。
「その代わり」
小山内すみれが、よからぬことを考えているのが、わかった。
だいたい、想像がつく。
「終わったら、どんなちんこだったか、スケッチブックに描いてね」
小山内すみれは、そう言い残すと、部屋から消えた。
失せろ、ババア!
もう、顔も見たくない!
不愉快だ!
「え~」
小山内あやめは、嫌そうな顔をした。
そうだよな。
嫌だよな。
そのリアクション、正解っ!
「私は絵が下手なんだよ。うまく描けないよぉ」
もう、いい。
さようなら。
別れます。
「帰る」
俺は部屋を出る。
もう、二度と来ない。
あんな母親もこんな小山内あやめも、見たくない。
「待って、翔太」
俺は、どんどん玄関へと進んでいく。
小山内あやめを無視した。
「怒ってんの?」
小山内あやめは、バスタオル姿で追いかけてきた。
俺が玄関で靴をはいていると、横で俺を見ている。
「スケッチブックに何も描かないよ。だから、怒らないで。それに、お風呂にも入る。不潔を卒業する」
『不潔を卒業』?
そんな言葉は、聞いたことがない。
「不潔を卒業って、どういう意味?」
「だから、卒業するんだよ」
「それを言うなら、汚ギャルを卒業だろ?」
「うん。まー、同じなんだけどね。翔太が、お風呂に入れって言うなら、毎日お風呂に入るよ」
「そうか。それは、嬉しいよ」
「うん。よかった。私、これから、お風呂に入る。約束する。毎日お風呂に入るよ。翔太のために。えへ」
風呂嫌いの女に……。
毎日、風呂に入る約束をさせるのは、キツイんじゃないか?
俺、嬉しいけど、小山内あやめに、嫌いなことを強制させて悪いなあ。
「彼氏のために頑張るよ、私。頑張って、約束守って汚ギャルを卒業する。見てて」
「うん。こんな俺のために、ありがとう」
「いいんだよ。翔太、すっぴんを誉めてくれたし。私、翔太のことが大・大・大好きだから!」
「あはは。それは、嬉しいなあ。部屋に戻ろうかなあ?」
「ダ~メ!」
え?
どういうこと?
「今日は、お預け」
「なんで?」
「お楽しみは、未来にとっておく」
「未来って、いつ?」
「汚ギャルを卒業するまで、だよ」
「えー!」
「いいじゃん。そう遠くない未来だよ。今日は、ママに邪魔されたし」
「トホホだよ」
「えっへん。これで、いいのだ」
「まあ、いっか」
チュッ。
ほっぺにキスをされた。
小山内あやめは、ニコニコ笑いながら、「今日は、ほっぺにチューだけ。サービス。サービス」と、言った。
すごく幸せそう顔。
俺も笑顔を返す。
俺も、小山内あやめのことが。
大・大・大好き!
俺は、小山内あやめと、これからも二人で道を歩んでいくことになるだろう。
ずっと……。
ずっと……。
これからも……。
ずっと……。
今度こそ、本当に。
END.