永遠に結ばれるカップル
『翔太君、噴水公園の伝説は知ってる?』
『あそこの公園で、愛を誓い合った男女は、永遠に結ばれるんだって』
『愛を誓い合うって、わかりにくいけど、どうやら告白して告白が成功した男女が、永遠に結ばれるみたい』
『私は、その噂、信じてるの』
『今日ね、あの公園で、文化祭の打ち上げがあるんだって』
『私も手伝ったから、お声がかかったの』
『翔太君、打ち上げに来てくれない?』
『あの公園で待ってる』
『きっと、いい返事を翔太君は、くれるって、信じて待ってるから』
『私ね、今まで、いろんな男の子と付き合ってきたんだ』
『向こうから告白されたこともあれば、自分から告白したこともある』
『私、自分から告白してフラれたことがないの』
『すごいでしょ?』
『だから、自信がある』
『翔太君は、あやめのことを引きずってるみたいだけど、私の告白は断らないと思う』
『なんとなく、自分から告白してフラれたことがないから、そう思うんだ』
『だから、絶対に、来てね』
『待ってるから……』
あのあと、福田さんに言われたことを回想していた。
福田さんは、可愛いから告白して断られたことがないのか。
そりゃ、そうだよな。
あんな可愛い子をふるバカはいない。
誰でも告白OKするだろう。
でも!
何を迷っているんだ?
何を、ためらっているんだ?
福田さんの何が不満なんだ?
一年の頃から好きだったじゃないか?
好きだったんだろ?
ずっと、見てたんだろ?
それなのに……。
何を悩む必要がある?
告白されたら即OKだろ?
ああ!
俺のバカ野郎っ!
こんな時に、小山内あやめの笑顔が頭に浮かぶなんて!
あの……。
くっさい刺激的なニオイも思い出す……。
あんな奴のどこがいいんだ?
可愛くないし、不潔だし。
健康オタクで青汁飲み過ぎて、ハルンケアがなかったら、生きていけない女。
でも……。
料理がうまいんだよなあ。
それに、セレブで汚嬢様(お嬢様)なんだよなあ。
フツーに考えて、小山内あやめが恋愛対象なんて、ありえない。
でも、気になる。
小山内あやめが好き。
好きだけど、好きの気持ちを打ち消したくなる。
俺が小山内あやめを好きになるなんて、絶対ない!
そう思っていた。
今までは……。
でも……。
離れたくない。
小山内あやめと離れたら、毎日がつまらない。
気がつけば。
『や~ん』や『えへ』って笑う小山内あやめが、俺の生活の一部になっていた。
小山内あやめがいない毎日なんて、耐えられない!
俺は肯定したくないけど、小山内あやめが好き。
愛している。
愛してしまったんだ!
この先、福田さんと付き合っても、小山内あやめのことが気になるだろう。
ずっと、気にして生きていくことになる。
だから……。
この告白……。
断ろう……。
そう、心に決めた。
噴水公園の出入り口。
秋風が吹いていた。
涼しくなったなあ。
公園には、外灯がともっている。
福田さん。
もう来てるかな?
なんて断ろう?
俺は、出入り口のところで足踏みしていた。
「よう! 翔太」
モヒカンの龍が俺の肩を叩いた。
驚いて、モヒカンの龍を見る。
「どうした?」
「いや、何でもない」
「お前も、打ち上げ、来たんだ」
「うん。まあ、な」
「俺も来たんだ。さあ、行こうぜ」
俺は、モヒカンの龍に誘われて公園の中に入った。
俺とモヒカンの龍が、同じクラスの生徒の集まりと合流する。
「よしっ! だいたい、そろったな」
モヒカンの龍が、メンバーの顔をざっと見る。
俺も見回す。
マジメ君がいた。
でも、小山内あやめは来ていない。
福田さんも、まだだ。
「酒でも飲もうぜ」
モヒカンの龍が用意されていた酒を配る。
俺は缶ビールを取った。
マジメ君も缶ビールを取った。
全員が酒を手にする。
「それでは、劇の大成功を祝して、カンパーイ!」
モヒカンの龍が、乾杯の音頭をとる。
嘘つけ―――――っ!
どこが大成功だったんだぁ!
小山内あやめのドレスが破れて大惨事だっただろ!?
それで、本人は恥かいて来てないじゃんっ!
俺も嫌だったよ!
あんなことがあったからなあ……。
「面白い劇だった」
「本当、よかったよね」
「小山内さん、おばさんパンツ可愛かった」
「マジ、超ラスト笑ったよー」
「超ウケた」
「あれ、なかったら面白くなかったよね」
「さすが小山内さんだよ」
「すごい」
「先生たちにも好評だったらしいよ」
「ビリって破れたの、最高だったよね」
口々に、クラスメイトが喋る。
あれは惨劇だった。
……と、思う。
俺が、クラスメイトの会話を聞きながら、ビールを一本飲み干して、次の缶ビールに手を伸ばした時。
「翔太君」
福田さんに名前を呼ばれた。
福田さんは遅れて来たようだ。
とうとう……。
この時が……。
来たか……。
「返事を聞かせて」
福田さんは大きな瞳を輝かせていた。
うわっ。
すごい可愛い。
俺、この子、ふるんだ。
こんな可愛いのに。
なんて愚かな男なんだろう……。
「ごめん。俺、やっぱ無理」
「そう。残念。私のことは気にしないで」
「ほんっと、ごめんね。俺、バカだから、他の奴と違うんだよ」
「ううん。バカじゃないよ。バカなのは、私。翔太君の気持ち、知ってるのに、なんで告白したんだろ? もしかして、あやめに勝ちたかったのかな?」
「え?」
「翔太君が、あやめのこと好きだから、なんとしても振り向いて欲しくて、告白したのかもしれない。告白すれば、見てくれるかなって。好きになってくれて付き合えるかなって。バカだよね」
「そんなことないよ」
「初めてだよ。告白して断られるの。あやめには勝てなかったなあ」
いや。
勝ってるよ。
福田さんは小山内あやめに勝っている。
100人いたら、100人中100人が小山内あやめではなく、福田さんを選ぶよ。
小山内あやめは、くっさい女だから。
ニオイが不快だから男は嫌がるよ。
アソコ、性病でかゆくて、かくし。
堂々と、かくし。
でも、1000人いたら、マジメ君みたいな変わり種がいるだろうから、わからないなあ。
俺も小山内あやめじゃないと、ダメなんだ。
小山内あやめと過ごした毎日が楽しかったから。
忘れられないんだ。
「私、もう帰るね」
福田さん……。
気持ちに応えられなくて……。
ごめん……。
それから……。
俺を好きになってくれて……。
ありがとう……。
「じゃあね、翔太君。またね」
福田さんは明るかった。
スッキリしたのかなあ?
くるっと俺に背中を向ける。
福田さんは夜空を見上げた。
しばらく、見上げている。
やげて見上げるのを、やめて前を向いた。
「前を向いて歩いていこう」
福田さんは、そう言うと、歩き出した。
俺は、その姿を見つめる。
福田さんは速足で歩いて、公園から消えてしまった。
あー、行っちゃった。
悪いことしたかなあ?
でも、俺が好きなのは小山内あやめだからなあ。
ところで。
どうするんだよ、俺?
小山内あやめは、あれでも彼氏持ちだぞ?
マジメ君がいるのに……。
俺がそのマジメ君の姿を探す。
あれ?
いない。
マジメ君、もう帰ったのか?
俺が探し回っていると、モヒカンの龍が俺を手招きする。
?
なんで呼ぶのか、わからないが、とりあえず、行ってみよう。
モヒカンの龍に近寄った。
「津島学が待ってるから行け!」
マジメ君が?
どこで?
「お前が体育祭の打ち上げで夜を明かしたところだ」
モヒカンの龍は、そう告げると、他の奴らの輪の中に入っていった。
なんで?
なんで俺が呼び出されるんだ?
マジメ君、俺を呼び出して何をする気だ?
文句でも言う気か?
俺は、言われた通り、その場所まで移動する。
何が待ち受けているのだろうか?
そこは、人気がない。
暗闇に包まれている。
ここは、クラスの奴らがいるところから、少しだけ離れている。
だから、静かだ。
俺は低木のところで待つ人影に気づいた。
マジメ君だ。
「来たよ」
俺が声をかける。
マジメ君と向き合った。
「待ってたよ」
「なんか用なの?」
「うん」
「小山内さんのこと?」
「うん。話があるんだ」
「何?」
とは、言うものの。
マジメ君は言おうとして、ためらっている。
俯いて、悩んでいるようだ。
「きゃはははっ!」
「あははははっ!」
同じクラスの女子のバカ騒ぎが、ここまで聞こえてきた。
みんな酒が入っていてイイ感じだ。
いいなあ。
俺も早くそっちに行きたいなあ。
「実は……」
マジメ君が沈んだ口調で話し始めた。
「悟ったんだ。僕じゃ、小山内さんを幸せには、できないって」
「マジメ君……」
「今日ハッキリとそれが、わかったんだ。舞台で僕が小山内さんにキスをしようとしたら、森野君に止められてキスはできなかった。その森野君が立ち去ろうとしたら、小山内さんは追いかけようとした」
「そうだったな」
「それで、ドレスが取れてパンツ丸見えになった小山内さんは追いかけるのを、やめると思った。でも、パンツ姿でも、恥も外聞もなく追いかけていこうとしたんだ。僕が必死で止めたけどね」
「俺を追いかけようとしたのか? 小山内さんが?」
「そうだよ。悔しいけれど、パンツ姿でも、追いかけていこうとしたんだ」
あんな格好でも……。
俺のために……。
小山内あやめ……。
嬉しいよ……。
やっぱり一番好きなのは、小山内あやめだ……。
俺の目頭が熱くなる。
小山内あやめの行動に感激した。
「小山内さんが本当に好きなのは森野君だ」
「そうかもしれない。俺のこと、追いかけようとしたのなら」
「森野君も、まんざらじゃあ、ないだろう?」
「まあ、正直に言うけど、惚れちまったんだ。あいつに」
「そうか。そう思ったよ。福田さんからきっと、心変わりしたんだろうなって」
「マジメ君が本番で実際にキスするって言うのを聞いて、気が気じゃなかった。あれから、夜、寝れなくなったんだ」
「安心して。プライベートでも僕は小山内さんに指一本、触れてないから」
「え!? 付き合ってるのに!?」
「そうだよ。小山内さんとは、まだ何もしていない。彼女が嫌がったんだ」
よかった。
ということは、まだ処女なんだ。
それ聞いて、すごく安心した。
マジメ君は、諦めたかのように、力なく、笑う。
きっと、小山内あやめと別れるつもりだ。
もう、別れを告げたんだろうか?
「小山内さんには、別れを言ったのか?」
俺の問いかけに、首を横に振った。
まだ、言ってないんだ。
「これから、メール打つよ」
そうして、片手にはケータイ電話を持っていて、メールを打ち始めた。
ケータイで別れを言うのか。
メールを打ちながら、マジメ君が「さ・よ・う・な・ら」と口パクで口を動かす。
『さようなら』か。
小山内あやめに、サヨナラするんだ。
本気なんだ。
決意は固いんだな。
「僕が、ここまで、するんだ。もし今度、小山内さんを泣かせたりしたら、その時は……」
「その時は……?」
「許さないよ」
もう、泣かせたりしないよ。
絶対に。
「送信っと。これで、終わり」
メールを打ち終わったようだ。
二人は……。
今日……。
この瞬間……。
別れた……。
「森野君に譲る」
マジメ君が断言する。
ありがとう。
マジメ君。
「ピピピっ」
マジメ君のケータイが鳴る。
おそらく、メールの着信を知らせる音だ。
ケータイ画面を、マジメ君が見る。
ケータイ画面を見ながら、こうつぶやいた。
「小山内さん……」
それは、小山内あやめからの返信のようだ。
何が書いてあるんだろう?
マジメ君は、メールを読んで、かすかに笑った。
そして、俺にケータイを見せる。
ケータイには、ただ、シンプルに。
「別れてくれて、ありがと」
と、文字が表示されていた。
短文だなあ。
つーか。
よっぽど、別れたかったんだなあ。
「もう、僕は行くよ」
「帰るのか?」
「うん、帰って泣く」
「そっか。なんか悪いこと、したなあ?」
「いいんだ。森野君だから、譲るんだよ。他の奴だったら、僕は別れたりしなかった」
「なんで?」
「それは、君が好きだからだよ」
「好きだから?」
「うん。前に、アイスピックの栄二さんに教室で恐喝されていた時、君が助けてくれたから」
「そんなこともあったなあ」
「それに、僕が朝早く教室で、小山内さんと森野君がイチャつくから悩んで泣いていた時に、優しい言葉をかけてくれたじゃないか」
「そういえば、相談に乗ろうとしたら、俺が原因だったんだよなあ」
「嫉妬していた時期もあったけど、男の僕から見て、君は好感が持てる男だよ」
「そんな誉められると照れるなあ」
「森野君、よく考えてみると、僕たち、いろいろあったね」
「そうだなあ」
「この公園でも、夏休みに偶然、会ったね。あの時は、恥ずかしかったよ。僕は裸だったからね」
「あの後に、俺は刺されたんだよなあ」
「そうだったね。あんなことがあって森野君が、いなくなるんじゃないかって想像して、こわかった」
「あれで、1ヶ月も入院した」
「僕は、入院中、イライラした。小山内さんがなかなか会ってくれなかったから」
「俺が小山内さんを独占してたんだ」
「それで、小山内さんを怒ったんだよ。本当は、森野君を怒りたかったんだけどね」
「そうだったのか。2学期から文化祭まで、マジメ君の俺に対する態度は、こわかったなあ」
「嫉妬心で意地悪をいっぱいしたよ。今日も森野君の前で、キスの濃厚なのを見せつけてやろうと思ってたんだ」
「そうなのか。でも、気が変わったんだな」
「うん。もう、いいんだ。小山内さんのことは、忘れるよ」
「マジメ君、ごめんな」
俺が、小山内あやめを横取りしたから謝る。
まだ、小山内あやめを横取りしてないけど……。
俺が、横取りしたようなもんだよな……?
「君なら、いいよ」
そう言って、俺の肩をポンっと、優しく叩いた。
俺の脇をすり抜ける。
「また、学校でね」
最後に、そう言い残して、マジメ君は公園から姿を消した。
夜の闇に消えたんだ。
急に、孤独になる。
また、クラスの奴らのところへ戻ろうかと、奴らの方を見る。
奴らは、ケラケラと大声で笑いながら、ダンスを踊ったりしていた。
パワーが溢れてるなあ。
俺は疲れたよ。
どっと疲れが襲いかかっていた。
ここのところ、寝てないからだ。
俺は、低木の陰にあぐらをかいて座った。
土の地面がひんやりして尻が冷たくなる。
「ふぁ~」
俺の大きなあくび。
眠くなってきたなあ。
ゴロンっと横になる。
あー、これから、どうしよっか?
俺は、小山内あやめに、どうやって告白しようか?
告白って、したことないんだよなあ。
昔の彼女は俺に告ってきたからなあ。
小山内あやめも俺に告ってきたら、楽なんだけどなあ。
告ってくるかなあ?
もしも、告ってこないなら、俺が告らないとなあ。
でも、どうやって?
マジメ君がケータイで別れを言ったように、俺もケータイで好きって言おうかな?
その方が、楽だし。
メアド、知ってるし。
メールで「好き」って、伝えちゃう?
いや、電話の方がいいか?
電話で、なんて言う?
俺とまた、付き合わない?
とか。
彼氏にして。
なーんて、ちょっと、軽いか。
いざ、告白ってなったら、告白の言葉が浮かんでこないなあ。
告白って、難しいなあ。
「ふぁ~」
また、大きなあくび。
眠いなあ。
寝ちゃおうかなあ?
仮眠だったら、いいよなあ?
今夜はよく眠れそうだし。
ええーい!
眠いから、ここで仮眠してやろう!
おやすみなさーい。
俺は重いまぶたを閉じた。
☆☆☆
くさい!
くさ過ぎる!!
なんなんだっ、このニオイは!!!
俺は、悪臭で飛び起きた。
目を開けると……。
朝日がまぶしい。
どうやら朝のようだ。
辺りを見回すと、俺は低木の陰にいる。
どうして外にいるんだ?
まったくもって、理由がわからない。
そうだ。
俺、仮眠するつもりで、公園で寝たんだった。
もう、朝が来てる。
って!
小山内あやめ!?
俺の真横で寝てたのか!?
くっさい。
って思ったら、いたのかよ!
前にも、こんなことがあったよな?
これって、デジャ・ヴ?
いや、体育祭の打ち上げの次の日の朝も。
こんな感じだった。
つーか。
なんで小山内あやめ、いるわけ?
小山内あやめが目を覚ます。
「やん!」
何が『やん!』だよっ。
起きろっ。
小山内あやめが起き上がる。
俺を見て笑った。
「なんで翔太いるの?」
それは、こっちのセリフ。
小山内あやめが、なんで俺の隣で寝てたのか、聞きたいよ。
「昨日の打ち上げ、来てなかったよね?」
小山内あやめに聞かれた。
いや、来てなかったのは、小山内あやめの方じゃないか。
「俺は打ち上げに参加してたけど、ここで寝てしまったんだ」
すると、小山内あやめが驚いた表情をする。
こんな話をし始めた。
「私は、打ち上げに遅れてきたんだ。寝過ごしてね」
「じゃあ、打ち上げに参加したんだ」
「うん。私が打ち上げに参加した時には、翔太はいなかった。だから、来てないって思ったんだ」
「いや、ここに、いたんだ」
「そうなんだ。知らなかった。えへ。また、昨日は飲み過ぎちゃってぇ、ここでぇ、寝ちゃったみたい」
小山内あやめは、くったくのない顔で笑う。
俺も笑った。
俺たちは笑いあう。
でも……。
地面のあちこちに服が置いてある……。
小山内あやめ……?
また……脱ぎ散らかした……?
「小山内さん、また服が散らかってるよ」
俺が指摘する。
小山内あやめは、気づいて立ち上がる。
「やだ。私ったら、学習能力がないんだから」
そう言って、取りに行こうとする。
でも!
また、上はブラウス、下はパンツ一枚だった。
しかも……。
また、おばさんパンツ!
本当、学習能力がない女だなあ。
もう、おばさんパンツ、はくなよっ。
人に見られて、恥ずかしくないパンツ、はけっ!
「きゃっ!」
自分がパンツ姿であることにも気づいて、焦っている。
安心しろ。
もう……見慣れたよ……。
「エッチ! パンティー、エロい目つきで見ないでよっ!」
見てねーよ!
エロい目つきで、見てないからっ!
見慣れた目つきで、やや軽蔑しながら、見てたんだよ?
「もう、やだぁ。みんな、私のパンティー、見るんだもん。見せたくて見せてるんじゃないよ。白雪姫の時も、見られて超嫌だった」
「あんなことがあったのに、よく来られたね。打ち上げ……」
「だって……翔太が……えへっ……」
小山内あやめが頬を赤らめる。
何だよ?
俺が、どうした?
「翔太が……えへ……」
「俺が何?」
「やん。私の口から言わせるつもり?」
「何を?」
「もう、意地悪さんなんだから!」
俺は、意地悪してるつもりないよ?
小山内あやめに意地悪したっけ?
意地悪した覚え、ないよ?
「そう言うなら、言わせてもらうけど、翔太だって、私とマジメ君がキッスをしようとした時に、『やめろ』って止めたじゃん。あれ、なんで?」
『キッス』って言うな。
『キス』と言え。
「さあ、なんでかな?」
俺が、はぐらかす。
なんか恥ずかしい。
『好きだから』って告白するの、照れる。
ここは、小山内あやめに告白させるよう仕向けるしかないな。
「あの時、体育館を出ていった俺のこと、追いかけようとしたのは、なんで?」
「えーっと……それは……」
「それは?」
「どうしてか、忘れちゃった」
「とぼけるなよ、小山内さん」
「えへ。それよりも、その『小山内さん』って呼び方は、やめて」
「え?」
「ずっと翔太は、『小山内さん』って呼んでるよね?」
「そういえば、そうだった」
「それ、嫌。私は、前から気になってたんだ。だから、下の名前で呼んで」
「下の名前って、たとえば、どんな名前がいいの?」
「あやめ姫」
っざけんなよ。
呼べるかよ。
俺は、苦笑しながら、こう言葉を返す。
「小山内さん。それは、嫌だよ。呼べないよ。他に候補はない?」
「うーん。それなら、『ハニー』とか、どうかなー?」
「それも無理……」
「え! 私は翔太を『ダーリン』って、これから呼ぶよ。だから、呼んでよ」
「正気で言ってるの?」
「うん!」
力強く『うん!』って言われても……。
バカと思われるじゃん……。
『ダーリン』と『ハニー』って……。
かっこわる……。
「どうしようかな?」
「呼んで! 呼んで!」
「悩むなあ」
「チューさせてあげるから」
何っ!?
告白もまだなのに?
「私とチューしたいんでしょ?」
すっごい自信だね。
まー、キスしたくないわけではないよ。
俺の彼女になる人だから。
したいと言えば、したいんだけど。
「チューしたいなら、いいよ。ほら」
小山内あやめが目をつぶる。
俺に、キスしろと唇を向ける。
マジ?
今、ここで?
俺がドキドキしながら、小山内あやめの唇に唇を寄せる。
あと……。
ちょっとで……。
キス……。
と、いうところで……。
くっさ!
ごめん……。
キスできない……。
キスするには、くさ過ぎる。
小山内あやめの唇は、無理だ。
諦めよう。
乙女心を傷つけたくないから、その代わりに。
おでこに、キスしようと、前髪を上げた。
チュっ。
おでこに、素早く、キスを落とす。
素早く、臭いから離れた。
ドキドキした。
このドキドキは、愛しているドキドキと、くっさい恐怖のドキドキ。
二重のドキドキ。
小山内あやめは目を開けた。
「もう、意気地なしのダーリン。おでこキッスなんて遠慮しないで、唇にしても、いいのに」
小山内あやめのキスの感想。
遠慮してないよ?
純粋に、臭いから避けただけ。
いつの間にか、俺を『ダーリン』と呼んでるじゃねーか。
呼ぶな。
「その『ダーリン』は、やめようよ」
「えー! じゃあ、なんて呼ばれたいの?」
「無難に『翔太』って今まで通り、呼んで。俺も『あやめ』って呼ぶ」
「じゃ、決まり。それで、いいよ」
「じゃ、これから、あやめ。よろしくな」
「や~ん。付き合うのぉ? じゃあ、好きって言ってよぉ。愛してるって言ってよぉ。翔太から、聞きたーい!」
「ちゃんと、言うの?」
「うん。ちゃんと、言うの。正式に付き合うんだから!」
「俺から?」
「どうしても恥ずいなら、二人で同時に、『大好き! 付き合おう!』って告白しあおうよ」
「わかった、オッケー!」
俺と小山内あやめは見つめあう。
小山内あやめは満面の笑み。
二人で、いっせいに、こう言った。
「『大好き! 付き合おう!』」
~愛を誓いあった二人は~
~永遠に結ばれる~
by噴水公園の伝説
END.