変わらない 5
「…え」
目元に伸ばした手が捕えられた
「優しくしてあげるよ?」
じりじりと壁に追いつめられる
視界いっぱいに見えるのは…
職員室で会った先輩だ。
あの時は、王子様みたいな本当に優しげな笑みを浮かべていたのに、ずいぶんと印象が違う
例えるなら、暴君のような……あれ、どっちみち王様ってこと?
ただ、こっちのほうが人間らしい
なんて、頭の中で悠長に考えていると、肩が壁にぶつかって、もう、一歩もさがれないことを知る
「先輩……」
「残念。時間切れだ」
耳元でそう聞こえると、図ったようにドアが開いた。
入ってきたのは写真部の資料を持った月島先生だ
先輩はというと、何事もなかったかのように澄ました顔で写真整理に勤しんでいる。
「やっと部室に来てくれたんだね。…水野さん?顔、どうしたの?すごく赤いよ」
どうって…
頭に巡るのはたった今まで近くにあった顔……
覗き込んでくる月島先生の顔が、先輩のそれに重なって余計に熱が上がる
「運動不足ですよ、水野は」
困り果てた私で遊び飽きたのか、先輩は助け舟を出してくれた
だけど、そんな理由って……
「3階分を駆け上がったらこのざまですよ」
反論しようにも、その他の理由が思いつかない
しかも、体力がないのは本当のことだし
「若いうちからそんなんじゃ、大変だよ?」
月島先生は憐れなものを見るような目をこちらを見てきた。
ブフォッという音とともに、肩を震わす先輩が視界の片隅に映ったが、私は無視を決め込んだ。