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―地球転星― 神の創りし新世界より  作者: 挫刹
第三章 「新世界の扉」(最終章)
79/82

77.世界に触れる言葉



「お前は……それでいいのかッ?」


 獅子が、

 昇に向かって、そう言った。


「いいも悪いも、死者も怪我人や負傷者も出てないんだろッ?

だったら別にいいんじゃねぇの?


早く行けよッッ!


わかんねぇヤツラだな?

見逃して欲しいって言ったり、


じゃあ、見逃してやるって言ったら、

いつまでもグズグズと、そこに居やがるッッッ!!!!


逃げるのか、居たいのかハッキリしろよッッッ!!!!!」


 昇の嫌気が差す言葉に、やっぱり獅子たちは理解できない。


「まだ会話をしていても?」


 獅子が黒羊にお伺いを立てると、

 黒羊も同意して頷く。


「ええ。いいわよ。時間はまだ、ある。

気が済むまで、するといいわ。

私も、あなたたちの会話には興味がある……」


 黒羊の言葉に、獅子は頷き。

 昇は不愉快な顔を隠さない。


「お前は以前に言ったな?


『食物連鎖の中では、敵は生きていてもいい』と……。


それが……『この答え』なのか?」


「そうだよ?」


 難なく答える昇に、獅子は顎を引く。


「それは一体、どういう意味だ?

なぜ?敵は生きていてもいいのだ?

我にはやはり分からぬ……ッ?


なぜ、お前は?

我らを見逃すッ?」


「だから、それはもう言ったじゃんッ?

アンタらが自分を加害者だって思ってるからだよッ!」


「だが!

加害者を自覚したからとて、犯罪までやめるとは限らんだろうッ!」


 獅子の叫びに、昇は耳の穴を小指でほじくる。


「じゃあ?アンタラって?

次、犯罪を起こしたら、それって誰の所為にするんだよ?」


 昇の呆れた目に……、獅子は目を見張る。


「誰の?

所為にするんだよ?

おまえ、加害者なんだろ?

で?その止められなかった、繰り返して再犯しちゃったお前の犯罪は誰の所為にするんだッ?」


「も、もちろん我だッ!」


「なら、それでいいじゃねぇかッ!

あとはお前が、自分自身で苦しんで償えばいいッッッッ!!!

きっと取り返しのつかないことにはなるだろうから、

死にたいと思うぐらいの地獄には、なるだろうけどな?」


「だ、だが我は拘束された後もッ!

再度、加害者を自覚して、また人を……ッ!

犯罪をするのかもしれないのだぞ……ッッ?!!」


「させると思うかッ?」


 昇が鋭い目つきで言う。


「お、お前っ。」


「させると思うか?

加害者を自覚しているお前を?むざむざまたさせるとでも思うのか?

させねぇよ?

お前には人権も渡さないッ!

殺しもしないから、地獄で生きろッッ!!

この生き地獄でなッッ?

公開処刑にしてやるから、それでいいだろうッ?

謝っても許さないしッ!

謝っても殺さないッッ!


飼い殺しだッッッッ!!!!!


お前……今まで何人殺してきた?」


 まだ、命を食べて生きている事しかしていない、

 前科もない子供が見つめる。


「……っぅッ?……」


「答えられないのか?

答えられないぐらい殺してきたか?

なら?

お前をいま?

おれが、ここで殺してやったら?

『お前』をたった一人、殺しただけで?

お前が、その手で今まで殺してきた数え切れない人数分の数字も、

俺は一度に手に入れるって事になるよなぁ?☆」


「お、お前っ?」


 中学二年の文民な昇の嗤った言葉に、

 武官の長の獅子は戦慄わななく。


「人を何人、殺すのか?

……なんてことは実際やれば、大変なことさ。

でも、予め誰かが誰かを殺してくれているのなら?

おれはそいつ一人を、殺めただけで、

そいつが今まで殺してきた殺害者数も手っ取り早く手に入れるって寸法になるんだよな?


大手柄だろ?

どうせ、人殺しをするならさ?

やっぱり、人を一度も殺したことがない一般市民じゃなくて?

大量殺人や大虐殺をした英雄か、大犯罪者の方がいいよねッッッッッ!?


それをするだけでッ?

一人殺しただけで?

大量の殺人数が手に入るッッッッ!!!!


殺したい奴は、やっぱり選ぶべきだよな?

そうじゃないか?


いちいち殺人をした事もない人間を、一人ずつわざわざ殺していくよりもさ?

やっぱり?

殺した人数を沢山もっている殺人鬼から殺していかないとね?


そいつたった一人殺しただけで?

いったい何人の首の数まで手に入るんだろ?


一度、人を殺して見たかった?って?

いやいや?

俺だったら?たった一人の人間を、一回、殺しただけで?

地球の全人口の数の殺害者数をかっさらっていくねェッッッ!!!!!!!」


 そして宣言する昇は、獅子を見る。


「この場合さ?

殺人をする時の、

故意か過失か、なんて話は無意味だし?

関係ないんだよ?


故意だろうが過失だろうが、罪は罪さッッッ!!!

日本ウチの国は、ここがおかしくてねッ?

故意か過失かで量刑が決まる(・・・・・・)んだ。


故意か過失か、って基準で、罪の重さが一気にガラリと変わるんだよッッッ!!

特に日本ウチの場合は、そうなんだッッ!

過失よりも『故意』の方が、罪が重くなるッ!


だからみんな、「加害者ではないッ!」と言って『故意』を否認して否定するんだよ?

それが『当然の権利』としてあるんだってな……ッッッ!!!!!!!


でも、ぼくから言わせりゃッッッッ!!!!


故意だろうが過失だろうが、罪は罪さッッッ!!!

殺人でもッッ!

強盗でもッッ!

事件でもッッ!!

事故でもッッ!!

何でもなッッッ!!!


問題はその後(・・・)の対応だッッッ!!!!


ぼくだったら量刑を決める(・・・・・・)なら?

故意か過失か、ではなくッ?

その後の行動(・・・・・・)で『量刑』を判断するッッッッ!!!


故意でも過失でも?

どちらでも事件を起こしてしまった後に?

隠蔽では無くッッ!!!!


救命っッッッ!!!!!

防犯に動くことっッッッッッ!!!!!


それで量刑を決めるんだッッッッ!!!


それができてりゃあねぇ?

故意でも過失でも、どっちでもいいんだよ?

次の対応をどうするか?なんだよッッッ!!!!

重要なのはっッッッ!!!!!

そこで量刑を決めてやることだッッッッ!!!


それなのにさ?

これを?

日本ウチの国は、

故意か過失か、なんかで『量刑を決めてやがる』からヒドイ事になるッッッ!!!!


自分は加害者ではないッ!と、事件を起こした加害者が主張して泥沼にするんだよッ!」


「な、ならば、

今ここで我がお前に『故意』で斬りつけても、お前は何も言わないのかッ?」


「は?言うに決まってんだろッッッ?????

でも、

そんなの「過失」の時でもおんなじだろッッッ?????!!!!!!!!!


お前が故意でもやっても、過失でやっても『同じ(・・)』だろッッッ!!!!!!!!

じゃあ、聞くけどさぁ?

おまえ、オレを今、故意で危害くわえたら、

その後、どうすんの(・・・・・)よ?」


「な、なにィっ?」


 昇の睨みに、獅子は怯む。


「故意で危害を加えた後の、このオレをどうすんの?

逃げるの?隠すの?トドメ刺すの?

それともオレを病院に運んでいく?


じゃあ仮に、おれを病院に運んでいくとする?

するとだ?

お前はそれさえすれば、「無罪で済む(・・)」とでも思うのか?

故意に危害を加えても、すぐに病院に連れて行けばそれでお前は無罪放免?

いいや?

それで?お前が無罪放免になるなら?

俺がお前に同じ事をやっても『無罪放免になるッ!』ってことになるんだよッッッ!!!

だから?

お前が故意で、俺に怪我させて病院に連れて行って?それで無罪になるなら?

俺も?

お前がおれを病院に運んでいる最中に?

俺もお前を故意で危害を加えるんだよッ?

当たり前じゃないかッ!

それでお前が無罪になるならッ?

おれもそれで無罪になるッッッ!


同じ怪我、負って、

一緒に病院に行くだけだッッッ!


それだけの話だッッッ!!!


あのね?

『故意に危害を加える』ことが量刑の判断になるのならね?

『故意に病院に連れて行く』ってのは、なんになるんだよ?って話になるんだよッッ!


なんでさ?

故意に危害を加えることでは罪が重くなるのに?

故意に病院に行かせることでは、罪が軽くならないワケ?

同じ『故意(・・)』だろ?


よくわかんないんだよな?

ここがッ?


故意に病院に行かせた。

過失で病院に行かせた。


……ん?……、

……あッ?

ここかッ!

ココだったわッ!


過失で病院に行かせた、が成り立たないんだッッ!


過失で病院に行かせた時は、もう危害を加えてる後だもんな?

怪我をさせて?病院に行かせたときッッ!

そんな場面しか成り立たないッ!

あー、それでかぁっ!


それで、

故意ってヤツは、危害する時も奉仕する時も故意で成立できて、発生できて?

過失ってヤツの時には、危害する時にしか成り立たないのかぁッ?

奉仕している時には、『故意で奉仕する(・・・・・・・)』ことはできても、


過失で奉仕する(・・・・・・・)』ってことはまず無いもんな?

あるとしたら、お店で店員さんが「釣銭を間違えた」時ぐらいか?


でも、これってさ?

やっぱ同じだよね?

過失も故意も同じなんだよッ?


その故意か過失かによって発生する、

または発生した事件の結果がッ、

損害か、利益かの違いでしかないッ!


つまり犯罪の量刑を判断しなくちゃいけないのは、故意か過失か、でじゃない(・・・・)んだッ!

それを起こした時にッッ!

そいつがその状況を防ぎたいのかッ!

それとも促進させたいのか、なんだッ!


だって、

故意で犯罪やっといて、起こした後は、それを防ぎたいって?

それ、おかしくね?

防ぎたいんだったら?故意でやってちゃダメだろうッッ?!!!

そりゃ『過失』でないとムリだよッッ!!!!


で?

自分の起こした犯罪の結果を、さらにそこから犯罪をしても、犯罪者の自分には辿り着けない『完全犯罪』へと昇華させて達成させたいなら?

そりゃ『故意』だよね?


だから別にさ?

過失か故意かは、どうでもいいんだよね?

犯罪を犯したお前が、また同じことを繰り返したいのか?

繰り返したくないのか?

っていう、

それだけなんだよッ!


で?

お前らっていま、どっち(・・・)なんだ?」


 昇が冷たい視線で聞くと、

 獅子たちは黙っている……。


「……。

……ならさ?

それが『答え』だろ?


お前らもう、繰り返したくないんだろ?

だったら、それは『過失』だろ?


例え加害者でも、同じ事を繰り返したくなかったらそりゃ『過失』だ。


まあ?加害を繰り返したくないんじゃなくて、

『自分が捕まる』事だけが嫌で、それだけを繰り返したくないってんだったら?

そりゃ『故意』だよね?

犯罪をすることは繰り返してもいいと思っていて?

自分が捕まる事だけは繰り返したくないと思ってんならさ?


だって、

自分が誰かに危害を加える事を繰り返したくなかったら、捕まるしかねぇんだもんさ?


これは戦争と一緒なんだ。


戦争ってのはな?


常に外交の選択肢の一番、最初にある(・・・・・)モノなんだよな?」


「な、なにィッ?」


 昇の唐突な言葉に、獅子たちは目を丸くする。


「そうなんだよ?


戦争って行動はな?

歴史上、

常に外交上の選択肢の一番、最初の最優先にあったものなんだよ?


それを何回も歴史の中で、何度も悲惨な戦争で繰り返してきて?

だんだん外交手段の最後になっていったのが、今の現在なんだッッ!!


だって俺たちや、たぶんお前たち第六でも同じだろ?

思い出して見ろよ?


俺らや、お前らの太古の時代の姿って、

最初の外交手段で取る一番初めの選択肢って、

まっさきに戦争だったんじゃないか?

交渉や話し合いじゃなかっただろ?

まず戦争をしよう!だっただろ?

きっとそうだろ?

で?

後から、戦争は、外交上の最終手段になっていったんだよッ!

血を流し過ぎたからだッッッ!!!

歴史の中でなッ!


それで、

故意から?過失に変わっていったんだッッ!

戦争もッ!

犯罪もな?


だからさ?

別に敵は生きててもいいんだよ?

食物連鎖の中でもなッ?」


 断言して言う昇を、やはり獅子は理解できない。


「ダメだ。まだ理解できんぞッ。

それでは到底、納得できん!


もう一度訊くッ!

なぜ、食物連鎖の中では敵は生きていてもいいのだッ?」


 それを聞いて、昇はもう一度ため息を吐く。


「はぁっ……、

その理由はもう本当は、とっくにすでに分かってんじゃねぇの?」


 だが、獅子はそれでも昇に訊ねる。


「……お前の口から……我は聞きたい」


 獅子の懇願に、昇はやはりため息を吐く。


「なら訊くけどさ?

地球ウチの世界には、こういう言葉がある。


『獅子は兎を狩るのにも全力を尽くす』っていう、この言葉だ。


これってさ……、そっちのアンタラでも当て嵌まんの?」


 昇が、

 獅子そのものでもある獣人、本人に訊くと。

 本人も頷く。


「む、無論だッッ!!!

我ら『ムー』でさえ、それは同じ事っッ!!!

如何に敵が小さくッ!

か弱き者だったとしてもッ!

敵である以上ッ!手加減はしないッッ!」


「じゃあさ?

その時の兎は、なんて考えてると思う?」


「な、なにィッ?」


「だから?

お前らは、獅子として全力でウサギを狩るんだろ?

じゃあ、その全力で狩られるウサギの方は、その時に何を考えてると思う?」


 訊ねられた獅子は、その問いに答えられない。


「いい?

いつも獅子に全力で狩られている側のウサギはね?


いっつも、こう考えてんだよ?


〝早く、満腹になった(・・・・・・)ライオンの前を横切りたいッッッ!!!!!!!〟


ってなッッッっっっっ!!!!!!!!!」


 叫んだ昇の言葉で、

 獅子は思わず、あらぬ方角を見るッッ!


 それは、真横の方角、

 今は見るも無残な、天井の吹き飛んだ新世界会議メサイアが行われていた場所、

 魔導院サルランの宮殿の最上階にある、壁さえも壊された一つの大広間だった……。


 そこでは、

 集団の先頭に立って、

 防御魔法陣を展開させている真理マリによって守られている、


 衣服のほころんだ、ありとあらゆる人間たちが茫然と立ち、

 獅子たちの様子を、ただじっと見つめている。


「……ハリオン……」

「……ラピリ……ッ」


 そこに壊された広間の一角で、自分の主の横に控えながら、

 獅子の名を呼んで、祈るように見つめる兎の獣人がいた。


 獅子たち同胞が、これから見捨てていく自分たちの主と兎の姿が…。


 その様子を見て、昇はポリポリと頭を掻く。


「兎は満腹になったライオンの前は素通りできるんだッ!

まあ、草食動物なら全般的にそうだろうな?


一番、最大で最悪の敵のライオンなのにだッ!


だからさ?

食物連鎖の中でも敵は生きててもいい(・・・・・・・・・)んだよ?


敵が満腹でいれば(・・・・・・)な?」


 問題は、

 その獅子の腹を、どうやって満たせばいいのかという手段だけ。


 だから兎は……、獅子を満腹にする為に、

 自分の仲間を犠牲にするしかない、……のだが……?


「でも生憎、ぼくはウサギじゃないんでね?

だから、

何も犠牲にさせずに満腹にさせてみせるよ?


お前ら……このぼくの『()』の腹をさ……ッ?」


 その為の……この平和(・・・・)……。


 こんな下らない少年の言葉が、世界に触れる。


 世界に触れて動かそうとしている……。


 触れただけで世界を動かす、この言葉は、

 きっと、それだけで奇跡だろう。


 そんな放っただけで、

 世界を動かす奇跡の言葉を……。


 人はそれを……魔法と呼んだ……。



「……のッ!昇くんッッ!!……」


 主人公が、現われた。

 少年の魔法の言葉で、この物語の真の主人公(・・・・・)が……、


 少年を呼ぶ一人の声で……、

 空に立つ全員が見たのは、


 街の廃墟によって目立った丘の坂の上で立つ、肩で息せき切って現われた一人の少女だった……。




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