74.神の羊となる教え
白い山羊の太い腕が、
昇の胸部を貫いている……。
躊躇いなく、
無造作に、
何の感情もなく、
無表情に白い山羊の獣人が、
過去に黒い山羊の獣人によって貫かれた昇の胸を再び貫いている。
昇の口の端から、やはり赤い鉄味の盛り上がりが溢れて伝った。
「離しなさい。レオン……」
背後で立つ黒い羊の獣人が放つ少女の声で、
白い山羊が何かに気付くと、
主の命令で昇の胸からズボリと太い腕が引き抜かれるッ。
「…………」
引き抜かれた動作にも関わらず、反動も何も起こさないまま、
沈黙していた昇の胸には……やはり貫かれた痕はなかった。
貫かれた痕も傷も綺麗になく。
それどころか、今度は衣服にさえも穴までもが開いてはいない。
「……エネルギー相転移……使えるようになったのね?」
黒い羊が試したように見る。
「よかったわね?レオン。
あなた、あのままこの人の体を貫いたままだったら?
その貫いていたはずの出ていた腕……、
エネルギー慣性交換が切断されて簡単に地上に落ちてたわよ?」
黒羊の言葉に、白い山羊は昇を貫いていた自分の腕を見ている。
「ごめんなさいね。
まずは自己紹介から始めましょうか?
私はこの「神の羊となる教え」の主。
名前は、そうね……レモンとでも呼んで?
この子の名前よ?
本来は、この黒い羊の獣人の子の名前なんだけど。
それを今回は私の名前にもしてしまいましょう?
いま、この時の私の名前を呼ぶときは「レモン」でいいわ?
半野木昇……くん?」
問うように黒羊が呼ぶように見ても、昇はそれに返事をしない。
それに業を煮やしたのか……、
「eeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee」
「mmmmmmmmmmmmmmmmmmmmmmmmmmmmmmmmmm」
「εεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεεε」
「μμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμμ」
黒山羊たちと、
白山羊たちが一斉に、わけのわからない言葉を喋り出す。
「おやめなさい。あなた達。
ほら、まわりのヒトたちも怖がりはじめたじゃないの?
悪魔の言葉と神の言葉は「ヒト」には分からないものなのよ?」
悪魔の言葉は悪魔の言葉であるが故に、人には解せず。
神の言葉もやはり神の言葉であるが故に、人には解らない。
窘める主の言葉に、
黒い羊と白い山羊の二体、
そして、
白い羊と黒い山羊の二体が繰り出す、狂気な言語もすぐに鳴りを潜めた。
「ありがとう。いい子たちね?あとでご褒美をあげてあげるわ。
でも?あとでよ?
いまはまだ……、このワタシの未来の旦那さまとお話をしなくちゃいけないの」
言って、
濁った神の言葉と軽やかな少女の声を繰り出す黒羊が……、
昇を見る。
「下がり続けている絶対零度の変数を転星規模で、融点方向へと引き上げる力……。
それを約0.7秒……、
エネルギーにしてビッグバン約210回分……、
まさか、そんな途方もないエネルギーを直感だけで管理して、本当にやってのけるとは思わなかったわ……。
直感的真理行使。
それは……、今の私でもまだできない奇跡的超常現象……。
もちろん、今の私の本当の私……、
この惑星を創った神、ヨスベル・ニタリエル・ゴウベンでさえもね……ッッ!!」
声に……なにか歪な意思が入り込む。
「どうしたの?
なんで話さないの?
私はこんなにも、あなたとお話がしたいのに?
それとも体で会話をする?
男と女との躰での会話を……。
私も処女よ?避妊も大丈夫。しましょ?
知識はあるから。
みんなにも見せる?
いいわよ?
私は構わない。
私もあなたと同じ14歳だけど?
14歳だったら、これぐらい考えるものでしょ?
女の子だって、こんなことばっかよ?
考えてる事は?
知識や経験だけの男の子の体を、みんなこうやっておしゃべりしている……。
あなたの身の回りの女なんて、みんなそうッッッ!!!!
特にそうよッ?
妊娠の恐れから解放された女は、男と同じよ?
ただね?
妊娠の可能性もなくなると……女は性欲もなくなるのよ?
おかしなことに……っ?
人間の女と男との性別的な関係の中では……妊娠なんて邪魔なはずなのにね?
妊娠が目的でもないのに、関係を持ってッ!
いざ、もう妊娠しない身体になったとわかると……男と関係したいとも思わなくなるの。
なぜかしら?
でも、あなたは……、
こういう事を話し出す、あけすけな女が嫌いなのよね?
サナサ・ファブエッラ……。
ああいう子が好みなんでしょ?
あなたは?
大人しそうな、子作りをする時にどんな顔をするのかもよく分からないような秘惑の子っ?
知ってる?
あの子ね?
もう処女じゃない……のよ?」
青い少年の心を弄ぶように、
想像力豊かな少女が虚偽を囁く……。
「誰としたと思う?
どんな顔で?
どんな声でっ?
どんな動きでッ?
あら?あなたの私だけの愛しい愛しいオチンチンが、勃っちゃったかしら?」
想像力豊かな未成年の14歳の少女が、
小さい弟でもからかうように、『事実』を囁く……。
「やっぱり男ね?
童貞のくせに、処女が処女を失う所を想像して発奮しているッッッ!!!!!
そういう感情をコントロールするのって、大変でしょう?
私たち、
女や男の子供は、自分の意思とは無関係に、勝手に二度目の性徴で成長していく自分の体の凶器を理解することもできずに、
いつも、こういう処理の方法も分からない煩悩感情で悩んでいるのに?
大人たちは何も分かってはくれないのだもの?
で?
私たち、子供たちが、
こういう、幼い心でいたい「思い」を置いてけぼりにして、
躰だけが成長していってしまう話を、子供たちが見える場所で相談することも禁止しているッッ!!!
いいと思うわよ?
それで?
大人だったら当たり前よッッ!!
大人はいいわよね?
自分たちは分かってる!って顔をしていればいいんだから?
子供の見えないところで、性欲の発散をしているのだから?
じゃあ子供も?
大人の見えないところで、それをやっていればいいのかしら?
きっとそれでいいわよね?
親が帰ってきたら、見慣れない靴がある、って話?
ふふふ。
中学生なら当たり前よっ!!!
好きでしょ?
女の体?
14歳の女の子の私も大好きよ?
男の子のあなたの体?
でもやっぱり……、
精子が邪魔よね?
精子さえなかったら、よかったのにね?
そうよッ!
男には、子供が欲しい時だけ「精子」を出してもらうのッ。
そうよッ!
それがいいわッッ!!!!
当たり前じゃないッ!
そんな器用なことも出来ない男の方が「クズ」なのッよッッッ!!!
それが乙女の私の純情な性少女の望みッッ!!!!
……だから?
気になってたんでしょ?
あの子の事?
サナサ・ファブエッラ。
じゃ?
あの子は、あなたの事をなんて考えてたのかしらぁッ?」
黒い羊の顔が笑って言う少女が、少年を嘲って見る。
「これを見ても?
まだ答えてくれないの……?
半野木、昇……?」
言って、ねだって見せたのは……、
黒羊の手の平で、光学線の文字で回転する、この文章……。
神羊教法典 第七説
1.神羊教者は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、教権の発動た
る戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段とし
ては、永久にこれを放棄する。
2.前項の目的を達する為、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。
教の交戦権は、これを認めない。
警告!!
・このお話の回には「性的な犯罪表現」を帯びた文章が、
『性表現の直接的な描写』ではなくッ!
『登場人物たちの発言』という形の描写方法によって存在していますッ!
その様な発言や文章表現が少しでも苦手な方は、
今更ながらで大変、恐縮ではありますが、このお話を読まれることはお控えください。
※この今回の文章表現は全て、
「小説家になろう」運営さまのR規制ガイドライン(当話投稿日付けまでの)に沿って、
現在のキーワード該当作の内容に相応しくあるように、著者なりに構成させて表現、描写しています。
が、
それでも、なお「性的な文章表現による犯罪描写」に少しでも抵抗のある方は、
読まれることは絶対にお控えください。




