61.酉卯線の囃し
螺旋を描く、
予兆は目まぐるしく、
回り、
回り、回り、回り、回り、回り、回り、回りながら。
迫り、
廻転し展開する円線は幾重にも重なって、高速に回転しながら、
動きだす舞台へと収束していく。
それが何度も、何度も、何度も、
幾度にも度重なって……。
核心の地へと集まっていく。
瞬間、
蛸の触手のように、いくつもの鎖が上空に巻き上がった。
爆発。
巻き起こった爆煙によって散らばった欠片たちが、用意された位置に辿り着く。
始まった。
戦いが拍動する拍子に乗り。
彼らと彼らは、自らだけの装備を携え。
高空で
己だけの専用の武器を手に振るい、
それぞれがそれぞれの相対すべき相手と相立つ。
待機する、
はやる鼓動が、どよめく鼓動に襲いかかる。
相手を知る為の、
様子を見るための時間は遺されていなかった。
開かれた戦闘が加速する。
次から次へと、
既に劣勢を強いられた七色の剣で立つ側は……、
次第に仲間同士の距離を空けられ、孤立を深めていく……。
剣は斧に、
剣は錨に、
剣は杖に、
剣は槍に、
剣は鉞に、
剣は棍に、
剣は槌に、
しかし数は、まだ余る……。
用意された数に炙れてしまった獣たちが……凶器を持て余して他の獲物を探し始める……。
それが許されし剣を持つ側の気を散らせた。
散ってしまった集中力は油断となって窮地を作る。
押されていく……。
傷が増えていく……。
傷を負わされたことなど何年以来だろう……?
いや……、そもそも過去に誰かと剣を交えたことがあったのか?
そんな事を考える暇もなく……、
剣たちは押されていく……。
世界の端へと追いやられる……。
守るべき自分たちの故郷が、知らない世界によって踏みにじられていくッ!
狂喜に沸き立つ敵の彼方で立ち上る煙の柱が、
一つ二つと……、増えていく。
その下で叫び声も上がっている。
阿鼻叫喚……。
地獄が作られていく。
自分たちの平穏だった世界が地獄に変えられていく……っ。
……されていくッ!
怒りが……、
降ってわいた何処からともない怒りが、
剣に乗せて振りかざしたのを……、逆に意思の重さで弾かれたッ……。
「……ァッがッ?……」
感じた哀しみと口惜しさも構わず、
二撃目が来るっ。
史上最強の赤い歯応えを期待する二撃目が、難なく放たれて……、
防ぐことが出来ないと誰もが悟り……、旋風が渦を撒いて、
狙いを定めて急所に迫りくる二撃目が、
あらぬ方角から来た力に弾き飛ばされたッ!
「なッ?」
一閃が奔るッ。
「……何だッ!」「新手ッ!?」「誰がッ?」「速いッ」「追えないッ?」
「どこから?」「別のッ?」「援軍ッ?」「違うッ?」「該当なしだとッ!」
「あの出力ッ!」「誰だッ?」「一騎ッ?」「まさかっ?」「識別章号の故障ッ?」
「……やられたっ?」「双鼠座がッ?」「撃墜だとッ?」「データにない基体ッ?」「新型かッ……?」
突然、割って入った、
空を裂く瞬く間の閃光によって……、
離れていった軌跡として残った光の尾が……命を帯びて。
龍として戦慄くッ!
〝戦薙の剣が発動した!!〟
閃光が虚空を切るッ。
切って、様子を見ながら弧を描き、離心率を保ったまま、
再度、撃ち合う鎖の一つを弾き飛ばして、
動きを止めた瞬間を狙われていたッッッ!!!
背後から襲いかかる斧をッ!
半野木昇は振り返って、己の「剣」で受け止めるッ!
「……貴様ッ!
貴様かァッ!?」
吠える獅子が、昇の眼前に顕れていた。
だが、半野木昇はそんな獰猛な声など聴きとる事ができない
ぶつかった気圧と気圧の針が振りきれて反転するッ!
「貴様ッ!貴様がやったのかッ?
貴様があれをッ!?」
声よりも、獅子から漂ってきたその空気に衝撃を受けていた。
昇は気付く。
……それは用意された出逢い。
「……貴様ッ、いったい何をしたッ?」
叫ぶ獅子のどこまでも轟く太い大咆哮が、新世界の空に響き渡った……。
待ちに待っていた、この出来事の発生に……、
世界のどこかで誰かが笑う。
「……っあ、ぁあ……」
酉卯線は卯酉線。
酉と子によって間に挟まれた戌が亥へと新たな変遷を遂げて始まったばかりの、
最初で最後の初めの時に……、
とうとう事実に気付いて呻きを上げた声が、迸る酉卯線となって子午線を貫く……。
祀りは打って変わり、
囃しとなって……祀り囃子に……。
欠けていた欠片は、ここで揃う。
「……そんな、これが……っ」
空中で衝突する二つの星が、
拒絶と融合を求める超新星の爆発環を放ってせめぎ合う!
……そうだ、少年ッ。
目の前にいる、その者こそが、
『人類の進化』を仕組んだ者だっ!




