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―地球転星― 神の創りし新世界より  作者: 挫刹
第三章 「新世界の扉」(最終章)
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59.新世界会議 -《メサイア》-




 広い回廊を章子たち四人は歩いていく。


 回廊は、

 魔導国家ラテインの首都ヴァッハの中央にある一際高い丘の上に建てられた魔導院サルランと呼ばれている巨大な宮殿の最上階にある、

 赤い絨毯の敷かれた大廊下だった。


「……なんか、すごい雰囲気……」


 章子が恐る恐る口を開くと、オリルも頷く。


「うん、確かに似てる。

あたしの学院府と同じ雰囲気が……」


 重苦しい荘厳な気配。

 それが回廊中に立ち込めている。


 まるで目には見えない霧にでも包まているようだ。


 見ると、

 端にいた昇まで縮こまっている。


「……どうしたのですか、

昇?

トイレでも近くなりましたか?


もうすぐ、私たちも入りますよ?

新世界会議メサイアが始まる会議場に……」


 すでに新世界の名立たる重鎮たちは集まっているという。

 ここには居ないクベルも、既に「第二世界」側の代表として、

 新世界会議の場に出席しており、あとは章子たちの到着を待つばかりだと思われる。


 あの太々(ふてぶて)しかった態度が、

 公の場ではどう変わるのか心底、見てみたいものだったが。

 クベル本人にとっては、


 新世界会議自体に参加することよりも、

 昇の仲間(・・・・)として、

 第一世界リクァミスの側で新世界会議に参加出来ない事の方が、よほど絶望的に耐えられない事のようだった。


『今回ばかりは……、

ボクも、第二の人間として、キミたちの敵に回れとさんざん周りから言われている……。

だからって、嫌いにならないでくれよ?

ボク、まだキミたちとはトモダチでいたいんだからさ……?』


 泣きそうな声で、

 らしくもなく、

 そんな事を言っていたクベルを思い出すと、また微笑ましい笑みが込み上げてくる。


「……ぅ、う~ん……。

やっぱり、ぼくも行かなくちゃ……ダメ?」


 すると、

 ここまで来て、

 神妙な面持ちだった昇が、この先で待ち受ける新世界会議メサイアから逃げ出すことを提案する。


「ダメですよ。

何を言っているのですか?

もう申請はしてあるのです。


このキャンセル料は高くつきますよ?

第一、第二、第三、第六世界もそのつもりなのですっ!


あなたと章子っ!この二人は「第七世界」っ!

今現在の、

あの地球文明からの使者として、この新世界会議に参加することになっている……ッ!」


 睨んで真理が言うが、

 それでも昇は嫌そうに回廊の側面にある大窓から、見晴らしのいい外の景色を眺めている。


「……じゃ、じゃあさ、それは全部、咲川さんに任せるっていうのはどうかな?。

きみのご主人様の咲川さんにね?

咲川さんは、

ぼくよりも全然優秀なんだから、

きっとぼくなんていなくても新世界の人たちとなんて簡単に渡り合ってくれるよっ」


 根拠の無い展望で、

 あっけらかんと昇は全ての責任を章子に押し付けてくる。


「……章子、あなたはそんな愚かを許すのですか……?」


 下僕である真理が、主人である章子に重ねて問う。


「、え、えっとねぇ……?

わ、わたしも……昇くんと一緒に外に出ていいかな?……なんて、

思ったりしてるんだけど……」


「章子ッ!?」


「わ、わたしも……あんまり行きたくないの。

まだ、会いたくないのよ……。


昇くんが行かないんだったら……、

わたしも真理たちの会議の間中、外の魔法の街をまた散策していたい……っ!」


 主の思ってもみない我が儘に、真理は呆れ果てる。


「なぜ今さら、それを言うのですか?

私は何度も確認しましたよね?

参加でいいですか?とっ!


その問いにあなた達、二人は確かに頷いたッ!

なのに、それを今さら!」


「だって、何度もイヤだって言ってたのを、強制的に来いって言ってきたのは、

そっちの真理さんとオルカノくんじゃないか!」


「あなた達、第七の世界の人間が来ないと話は始まらないのですよ?」

「そんなワケないでしょ?

だって、今も転星の人たち、

向こうの地球から引っ切り無しに来ている通信してくる声を無視してるじゃないか。

なのに、ぼくや咲川さんの声だけは聴きたいって、それおかしいよね?

都合がいいよね?


それは、そっちにとって都合がいいだけだよね?って言ったのに、

キミたちは、ぼくたち二人は特別なんだと、特別扱いしてここまで連れてきた!」


「……そこから先は「痴話ゲンカ」にしかならないから、

大人の対応を見せてくださいと言いましたよね?」


「残念だけど、ぼくはまだ子供だよ。

子供だから、土壇場で気が変わるのさ。

急に気が変わっても、そっちにとっては、ちっとも影響のないどうでもいいことでしょ?


別に、この先の会場で待っている人たちには、こう言えばいいよ。


第七の人間は、敵を前にして恐れをなして逃げ出したってさッ!」


「あなたはッ……、それでいいのですかッ!?」


「いいよ」


 昇の断言に、真理は失望の色を広げる。


「ぼくはそれでいいッ!


これから、

そっちの、その先に行っても、

そこに「ぼくの価値」はないッ!

ぼくが欲しいものは、そこにはないッ!


そんなんなのに、そこにぼくが行っても意味はないでしょ?

でも……、

できれば咲川さんにはこのまま、新世界会議には出て欲しいんだけど……?


咲川さんとぼくでは……やっぱり違う(・・)からね……?」


 昇がぎこちなく訊ねて言うと、章子も首を振る。


「……ううん。わたしも、自分で決めるッ!

わたしは昇くんと行きます。

行きたいのっ!


だから、ごめんなさい真理。

わたしも、敵を前にして逃亡するから……っ」


 情けない逃避行宣言をする二人に、

 真理は深いため息を吐く。


「……ッぃ、

やれやれッ。

これでまた私一人が、悪者扱いですよ。


まあ、いいですよ。

クリスマス・プレゼントです。


わかりました。

どうぞ、二人で気が済むまで「駆け落ち」してください。

後始末は私がしておきます」


「ちょ、ちょっと真理……ッぃ?」


 勝手に章子と昇の身の振り方を決められて、

 第一世界の使節でもあるオリルが真理を責める。


「リ・クァミスからは、文句は言わせませんよ?

文句がおありなら、実力で来てもらって結構ッ!


どうぞ?

相手になりましょう、オワシマス・オリルッ!」


 ヤケ気味に、八つ当たりにして睨む真理に、

 今度はオリルまでも自分の意見を提案し、章子たちに便乗しようとする。


「……そ、それならね、真理……、

あたしも昇と一緒に行きたいんだけど……」


「あなたまで、なんてダメですッ。

私だって昇と一緒に行きたいんだ!


しかし、これ以上メンバーが欠けることはなりません。


あなたには……、

これから主に裏切られた私、共々!

昇という存在が欠けてしまったことの責を、

期待していたクベルたちから、こっぴどく受けてもらうッッッ!!!」


 断言する真理が、

 怖い貌で章子と昇を睨んで逃す。


「ほら、

逃げたいなら、いますぐにでもお逃げなさい。

時間は稼いであげます。


お返しは、昇の精子こどもでいいですよ?

昇の精子を私に頂ければ?

それで、

私はあなたの子供を授かりますからッ?」


「そんな事、わたしがさせないからっ!」


「さすがは我が主、咲川章子だ。

いいですよッ?そうです。

そう来なくてはッ!

主とは、下僕を顎で使う者なのですッ!


あなたの恋路には、邪魔者は一人たりとも存在させはしませんよ?

この私がね?

あなたの成就した恋路には、私がそのおこぼれを預かるのですから。

二人して昇を堪能しましょう。

その時がきっと楽しみだ。


ああ、そうそう。

()に辿り着いたら……、

きっと、あなた達の力になってくれる人物が現われます。


その方を頼りなさい。


今日一日……、きっとあなた方を退屈になどにはさせてくれませんでしょうからね?」


 笑って片目で愛を瞬く真理が、章子たちを負いやりにかかる。

 すると、そこで、

 章子の視線が、

 オリルの両腕に優しく抱かれながら、

 その胸にしがみついて、こちらをじ、と見ている電気仔猫のトラの視線と重なった。


「トラちゃんは、どうする?」


 章子が訊くと、

 章子たちに着いて行きたそうにしている電気子ネコのトラは首を振った。


「……ボクは……、……ここに残る。

ボク、お母さんが心配だもん。

でも……ぼく、お父さんも……」


 心配だから……、と。

 トラが寂しそうに昇を見ると、

 それに昇が何かを言う前に、トラも自分で自分の今の心を伝えるために口を開く。


「だから、お父さんも……あんまりハメ外しちゃダメだよ?」


 子供には似つかわしくない思わぬ優しい忠告に、同じ子供の昇は絶句する。

 同じ、遊びたい盛りの子供とは思えない発言だ。


 その様子を見て章子たちは微笑ましく笑うと、


「そっか、じゃあ、ここでお別れだね……」


 章子が、ここで別れる真理を見た。


「ありがとう、真理!」


 叫んで真理に感謝を告げる章子が、昇にも声を掛ける。


「行こ。昇くんっ」

「えっ?ほ、本当に、咲川さんも来るのぉっ?」


 それは想定していなかった昇が絶叫するが、

 やはり渋々、駆けだした章子の後を追いかけて走り、金魚のフンのようについて行く。


「……いいなぁ……。章子と昇……」

「……さて、感傷に浸っている場合ではない。

私たちには、

私たちのお仕事があります。

大きなお仕事が待っていますよ?

後で、あっと言わせてやりましょう。ちょうど真理ワタシの気は立っている……」


 笑っていない怒りを持って、

 真理とオリルはそれぞれの会談せんじょうに向かう背中を後ろ姿にして。


 章子たちと昇の二人は、魔導院サルランの巨大階段を慌ただしく駆け下りていく。


「ちょ、ちょっと、そんなに慌てて降りると転ぶよ?」

「いいじゃない?

早くしないと、またやっぱり参加しなさいって言われるかもしれないしっ」


 喋りながら息が切れる。

 弾む心で鼓動が早くなる。


 これからどうしよう?

 昇と二人っきりだ。


 ジャマ者はもういない。

 やりたくない仕事は全部、押し付けてきた。


 これから夜までの予定が、まるまる空いた。


 未来が白く、明るく開けている。

 章子には、そう見えていた。


 これから、

 今日一日は、絶対に楽しいことしか起こらないんだと。


 そう思って、

 一気に一階のロビーまで駆け下りた時。


「……あ……っ、章子さんっ!」


 ……声が……した……っ。


 懐かしい声がした。


 懐かしい人懐っこい声が、

 章子を見つけて大きく手を振って駆け寄ってくる。


「どうしたんですか?

たしか章子さんたちは、今回のこの新世界会議メサイアの主役級の中心人物たちでしょうッ?

それが、どうしてこんなところに……?」


 いるのか?

 とは、とても思っていない顔だった。


 この顔は分かっている。

 章子たちがメンド臭いコトから抜け出してきたことを間違いなく、

 したりと分かっている顔だった。


 この底抜けに明るい笑顔に……また会えるとは思わなかった……っ。


 喜びが、

 かつてない程のこれ以上ない喜びが溢れだすのを隠し通すことができずに……、

 章子も声を詰まらせて、声の主に走り寄る。


「……っ、ジュ、ジュエリンさん……っ!」

「はい!

ジュエリンですよッ!


ジュエリン・イゴット・アリッサです!


また、お会いできましたねッ?

お久しぶりですッ!

章子さんッ!そして昇くん(・・)もっ!」


 ソバカス、ビン底メガネ、オレンジ髪の三つ編みで軽やかに笑う魔女っ子少女のジュエリン・イゴット・アリッサの登場で。


 物語は、大きく動きだす。


 章子と昇の、長い長い新世界の一日が……。




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