56.シュレティンガーの猫
警告!!
・このお話の回には「性的な表現」を帯びた文章が存在します。
その様な文章が少しでも苦手な方は、このお話を読まれることはお控えください。
※この今回の文章表現は全て「小説家になろう」運営さまのR規制ガイドライン(当話投稿日付けまでの)に沿って、現在のキーワード該当作の内容に相応しくあるように、著者なりに構成させて表現、描写しています。
が、
それでも、なお「性的な文章表現」に少しでも抵抗のある方は、読まれることは絶対にお控えください。
蝋燭の火に似た赤い光が、大きな寝室の中で揺れている。
白熱灯の光……。
半野木昇が「あまり好きではない」と言っていた赤い色の光……。
彼は、
白熱灯や蝋燭の灯りが等しく放つ、この「暖かく柔らかい赤い光」が嫌いなのだと言う。
暗がりの部屋を優しく照らし出す「赤い白熱灯」の光が嫌いだと。
この赤い光の色は狭い。
狭い感じがする。
だから嫌いだ。
そう言っていた……。
狭い、と。
昇はいつも、部屋の照明には蛍光灯のような「白い明るい光」を好んでいた。
白い光の色は『広い』からいい。
だから好きだと。
部屋の照明は、この白い色の光でないと落ち着かないし安心できない。
白熱灯の明かりの中にいると……逆に不安になる、怖い、と。
この昇の話を聞いた時、
そこにいた誰もが……首をかしげた。
部屋を赤く照らす白熱灯の色が……怖い……?
少なくとも、
章子はそんなことを考えたことがない。
優しい光だ……。
そう思っていた。
優しくて暖かい光。
それがぼぅ、と、今いる空間を照らしている。
章子の自宅では、洗面所でも浴室の脱衣所でも、廊下でも、玄関でも、
この赤い光がよく使われていた。
赤い色の光は落ち着く。
暖かみがある。
懐かしくすらある。
章子はそう思っていた。
それはオリルやクベルでも同じであったらしい。
赤い灯し火の色に、嫌悪感を感じたことは一度もないと。
それでも……昇は首を振った。
「ぼくは、この赤い光の色がすごく嫌いなんだ……。
この赤い色の光を見ると……いつも思い出す……」
母親の……、胎内にいた時の事を……。
この色は……、
昇という自分が、母親の胎内にいた時の……、
赤い胎児だった頃の事をイヤでも思い出させるのだと……。
かの時、
ある瞬間、
ふとした時に、
赤い熟れたスイカの果肉のような色に囲まれて……、
そんな空間に漂っていて……、
ある一瞬だけ、
確かに、
こう思ったのだ、と言う……。
「……ああ、
また、ここか……」と。
また、ここか……と、昇は思ったそうだ。
自分の母親の胎内にいた頃のある時……、
スイカの赤い果肉のような空間の中に浮いていて……、
また……ここか……、と……。
そんな昇が呟いた言葉に、
章子たちは何も言えなかった。
驚いていたわけではない。
ただ意表を突かれていたのだ。
そんな記憶は、自分たちにはない……っ。
少なくとも、章子はそんな事を覚えてはいない。
胎児だった時?
そんな記憶は自分たちにはない!
章子にとって、
一番古い記憶とは、いったいいつの日のことだっただろう……?
たしか……、
たしかもうすでに……、
立っていた記憶しか思い出すことができない……。
立つ前の記憶は……思い出せない……。
どうしても思い出すことができなかった……。
……これが、
今の章子と昇の差……。
「眠いのか……?」
「ん……」
高い大きな天蓋付きのベッドの真ん中で、
気付けば、ウトウトと舟をこぎ出していた。
「クベルくんは……?」
豪奢な布団にも被らずに、その上で章子は体育座りをしながら、
ソファに凭れている、いつも通り赤い衣の姿のクベルに訊いた。
「ボクは……眠れない」
「眠れない?」
章子が、意外にも自分という女子の存在が原因かと思って訊くと、
クベルは無関心に言葉を続ける。
「オレたち許約者は……「眠る」ということをあまりしない。
する必要がないんだ。
それ以外にも「食事」もしないな。
それはもう知っているだろう?
この「眠る」、「食べる」という欲求は、
既にオレたち許約者と、
ヴァルディラの一部の人間たちは克服している。
オレたちは「眠る」ことや「食べる」という事をせずとも生きて行くことができる。
となると最後に残るのは「性欲」なんだろうな?
キミたちの世界では?
それがキミたち七番目の現代世界、第七世界の「三大欲求」というものなんだろう。
だが、ボクたち第二世界や、
いまここにはいないオリルたち第一世界から見れば、
これは『三大欲求』じゃない」
「……え?……。
三大欲求じゃないの?」
眠気眼が覚めて驚く章子にクベルは頷く。
「三大欲求じゃない。
三つじゃないんだよ。
人間という『ヒト』が生まれながらにして持っている、
生理的欲求は三つじゃない。
たしか何個だったろうな?
……食欲、睡眠欲、性欲、
それに排泄欲に……、呼吸欲だったか……。
この五つだ」
「排泄欲に……呼吸欲ッ!?」
そんな言葉など、今まで聞いた事も無かった章子は驚く。
「そうだ。
排泄欲に呼吸欲……、
これら二つの欲求が、キミたちの認識ではまだ足りてないんだ。
よく考えてみろ。
上で食べたものは下で出さないと死に繋がるほど苦しいだろ?
そして呼吸というものも、やめれば、やっぱり「死」に繋がるものだ。
この二つの欲求は、やはり生理現象とは切り離したくても切り離せない。
つまり、
生理的欲求は三つじゃない。
「五つ」なんだな。
そして、オレたち許約者は、
この五つも克服をしているし、することもできている。
ただ、
ただ……!
呼吸欲だけは、
絶対に捨ててはならないと、オレも含めた全ての許約者たちの間では「鉄の掟」とされていた」
「どうして……?」
「〝声〟に繋がるからだ、とジイさんは言っていたな。
声は必要だと。
声を発しなくなった『許約者』たちのやり取りは、他から見ると恐怖なんだそうだ。
視線と行動だけで、理解し合う存在……。
確かに……、
よく考えてみれば不気味な連中だよな……。
言葉も無く、会話も無く、何のやり取りも無しで、
ただ通り過ぎるだけでお互いの事情が全てわかっていて行動する……、
なんていう自動的なヤツラは……」
「ホントにそんな事ができるの……?」
「やろうと思えば簡単だ。
全ての連絡手段を通信魔術で行えばいい。
憶えてないか?
キミたちにも、それをやろうとしたら、そっちが拒否してきたじゃないか?
確かに、あれは正解だった。
受動反応、というものが必要なんだな……。
人とヒトとが、はっきりと関わっていくためには……」
物思いに耽りながらクベルは肘をつく。
「意思の疎通手段に、
通信魔術を使用していると、「発声」そのものをしなくなる。
一種の「テレパシー感応」というヤツだ。
疑似的な、だがな。
その通信魔術を、
魔術媒体という道具を使って行使している分には、まだいい。
問題は、『道具』も使わなくなった時だ。
それがオレたち許約者……。
オレたちは、そばに『剣』がなくても魔術は使える。
簡単な魔術ならだ。
高出力の魔術になればなるほど、近くに剣や鳥を必要とする。
とは言っても、よほど許約者同士の決闘でもなければ「剣」を必要とすることはない。
つまりだ。
ボクたちはこのままでも……『会話』ができる」
言ってクベルは遠くを見た。
「さっきから……連絡が来る……。
氷や水から引っ切りなしにな。
どうやら、他からも色々と説明や詳細を求めれられているようだ。
また熱が何かをやらかしたんじゃないか、ってな。
窓口役をやってくれている二人は今や、猫の手も借りたいほどだそうだぞ?
なにをやった?
ボクも感じた……。
キミが浴場から飛び出した後、
昇に追いかけさせてしばらくした時だ。
魔動反応が発生したと思った途端、
一気に跳ね上がった……ッ……。
あの上昇速度……オレでもムリだぞッッ?
キミか、昇かのどっちかだろう?
アレ……、どっちがやった?」
吐け。
と迫ってくる視線を受けて、
章子はまた曲げていた脚を抱きしめる。
「……昇くん……だと思う」
魔動。
あの太陽を消そうとしていた時の事だろう。
昇が太陽に向けて手を翳した時。
「……マズイな……」
クベルが一人、顔を俯けて弱音を吐く。
「マズイ……?」
章子が訊くとクベルは頷いた。
「ああ、マズイな。
今のアイツ、ボクでも止められないかもしれない。
追い付けなかった。
あの魔術出力の上昇速度に追いつけなかったんだ。
このボクが……っ」
口に手を当て、
次の一手に悩んでいる。
「やっぱり、けしかけておいて正解だったな。
アイツの躰ひとつで、
昇の心が引き留められるのなら、安いもんだ。
オリルには悪いが……女の体は利用させてもらう……。
恨むなら昇が男だったことを恨んでもらおう」
冷徹な言葉を聞いて、
章子は、ここにはいない二人を想像して、
更に顔を両膝に埋める。
「ぅへへへへぇぇえ、
……ぼくがぁ、お兄ちゃんなんだぞぉう……」
という可愛い寝言が、暗がりの部屋に響き渡った。
見ると、章子が枕元で体育座りをしている大きなベッドの真ん中の位置で、
膝を横に曲げ、「乙女座り」をしている透けない方のネグリジェ姿の真理が、
美しい太腿の上で眠らせている電気子ネコの丸い背を撫でている。
「電気ネコでも……眠るんだね……」
章子が呟くと、真理は猫の背を撫でながら口を開いた。
「今はそういう身体にさせてありますからね。
この子の体には、今はワザと周期が作ってある。
……そうでもしなければ……、この子は一晩中、昼間と同じ利かん坊のままですよ?」
「それは……いやだなぁ……」
章子が笑うと、真理も電気猫のトラの寝顔を見ながら笑って言う。
「気になりますか……?
離れた部屋の二人が……」
真理の言葉に、また自分の膝を強く抱きしめた。
「ボクは気になるな。
あの二人、どうやって子作りをしだすのか興味がある。
それとも、もうしているのか?
今が真っ最中なのか?
それとも、もう終わったか……?
……だが、それを想像しても、あまり興奮はしないな。
やはりボクにとっては「性的興奮」というものは遠くにあるようだ……。
キミやキミたちみたいに、
今を知れないその人の今が、
どんな状態で、どんな夜天を味わっているのかを想像して一喜一憂するなんてことは、
夢のまた夢のようだ……」
「……あまり、そういう発言はつつしんだ方がいいですよ?
クベル・オルカノ?
この物語を綴っている著者は一度、
それ関連の描写で一発「イエローカード」を貰ったようだ……」
「なんだそれは?
この物語の著者?
それはキミの母だと言うゴウベンという者のことか……?」
クベルが怪訝に言うと、
真理はさて……、とシラを切って、
ハラハラしながら今も彼女たちを描写している著者の精神を弄ぶ。
「……シュレティンガーの猫……、という言葉があります」
唐突に呟かれた聞き慣れない言葉は、
章子の目を覚まさせるに十分だった。
「シュレディンガーの猫……、
これは「マクスウェルの悪魔」や「第二種永久機関」と同じ、思考実験による一つの試みによって生まれた名前。
この『シュレディンガーの猫』という思考実験の意味するところは、今の私やあなたの心と同じですよ?
章子……。
このシュレディンガーの猫とは、
密室状態の内部で起こっている内容とは、離れた場所や状態からでは想像することしかできない……。
という事を言っている思考実験です。
つまり、
今の私たちの状態で言うなら……。
今の離れた部屋で二人っきりとなっている14歳の未成年者であるただの少女と少年のオリルと昇が、
まだ処女や童貞のままなのか?
それとも性的に「経験済み」となっている最中なのか、それともなってしまった後なのか、
それを、
直接、
この目で見るまでは、
その中で起こっている出来事は確率的にしか予想することができない、ということを説明してくれる思考実験なのです」
「そ、そんなのっ、わたしは……っ」
いやらしく煽情的に性を発言する真理が、耳と目を背ける主に向く。
「……では、
ちょっとおジャマして見ましょうかね?」
「え……?」
意表を突かれて、
章子が呟いた時にはもう遅かった。
真理が、恐らく当の本人たちが居るだろう方向を向いて目を据えている。
「……ああ。
もしもし」
〝……なに?〟
オリルの声が響いた……。
「お楽しみ中、すみませんね?
今、意中の彼はあなたの上ですか?それとも下ですか?」
〝……ケンカ……、売ってるの……?〟
すごい……苛立った声だ……。
「いま、あなたは裸……?」
〝だとしたら……?〟
「そちらの室内の映像を、こちらでも映し出して構いませんかね?」
〝…………〟
慌てていない……。
「昇……?」
遠くで布団がガサつく音がする。
「聞こえていますよね?昇?
オリルと一緒に寝ていたんじゃないんですか?
〝そ、そんな事するわけないでしょおぉぉっぉぉぉっぉぉぉぉ!!!!!!〟
耳をつんざく大声が響いた。
「今は、みなが寝静まりつつある夜ですよ?
大声はつつしんで」
〝だ、誰が言わせてんだよぉ……〟
まったく、といった最後の言葉で、布団を被り直したように深く潜り込む音がする。
「ひょっとして……お邪魔でした?」
〝……あたしたちの戦いはこれからよ?〟
オリルの負け惜しみに、真理は苦笑する。
「では、
そんな励みある未来の「お父さん」「お母さん」には、さらに励ましのあるお言葉でもさし上げてみましょうかね?
ね?
……ほら、ト~ラ?」
真理が自分の太腿でゴロリと寝っころ返る、
微睡みまみれの電気子ネコの脇腹をポンポン叩く。
「……んぅ?
んぅへへえぇぇぇえ……、ボクがぁ……おねえちゃんなんだぞぉ~~ん。
おねえちゃんのいうことはぁ、ゼッタイなんだかんなぁ~~ん?」
お前は、オスとメスのどっちなのだ?
〝だって……、どうする……?〟
〝よぉ~し、お父さん、ガンバっちゃうぞ~、って……絶対に頑張ってやらないからなッ!!!!!〟
〝昇ッッッ!!!〟
〝え?やめて、こっち来ないでッ!何服脱ごうとしてんの?ね?
そっち、つけてッ!
そっちでこの部屋の映像、今すぐにつけてッ!はやくッ!〟
「さっきから、ついてますよ?」
そこでブツンと音声だけが途切れた……。
……沈黙が、空間を支配している。
「……これは、この後の方がヤバくないか?」
「わたしもそう思うんだけど……」
章子とクベルの刺すような視線を、
しかし真理はどこ吹く風で躱している。
「まあ、大丈夫でしょう。
あの部屋にいるのは……あの二人だけではありませんからね……」
真理の思わせぶりな顔が、今は凄く恐く見える。
「たしか、
オリルには、他にも「火の犬」がいるんだったな。
あと「水のイルカ」も……」
クベルが、
オリルが電気猫のトラ以外にも隠し飼っている「生命」を言い当てていく。
「それらだけではありませんよ……。
私の姉もね……?」
真理の一言で、場が静まり返る。
「……キミの姉、神落子といったか……?
だが、そんな存在は、まだオレたちの前には姿を現していないぞ?
章子の付き人としてキミがいるのだから、確かに昇にもいるんだろうが……、
ソイツが今も現われていない、っていうのは一体どういう事なんだ?」
クベルが言うと、真理はしばらく間を空けて口を開く。
「姉は……、まだ我々の前に姿を現すことはできません」
「できない?」
章子とクベルの問いに真理は頷く。
「それには条件があります。
姉が我々、赤の他人の前にも姿を見せるときは、
半野木昇が、自分自身の意思で我々の側から離れようとする時……」
「それって……」
「そうですよ?
あの時です。
あの時、昇が自分自身を「いらない命」だと言い張って我々の前から消えようとしていた時です。
あの時、この子が昇を引き止めていなければ……、
姉は我々の前に、万然と姿を現していた事でしょう……」
そう言いながら、トラの背を優しくなでる。
「その姉が、まだ我々の前に現われていないということは、
昇も今はまだこちら側にいる気がある、ということです。
しかし、それも時間の問題……」
「……なら、丁度良かったのかもな。
これでオリルが昇の気でも惹いてくれれば、もう少し時間を稼ぐことはできる……」
「時間を稼いでどうするのです?」
「なに?」
真理の物言いに、クベルは眉根を寄せた。
「時間を稼いでも意味はない。
どれだけ時間を稼いでも、肝心の「対抗策」が永遠に作れない。
我々は誰も、半野木昇を凌駕する可能性をもっていないッ」
言い切ると、真理はそこで一旦、息を吐く。
「現在の半野木昇の真理学適性値は『0』です。
『0』なのですよ?
普通は、誰であれ1か2は持っているものなのです。
それが彼は完全な0だった!たったの0!
……いませんよ?今まで、そんな人間はッ!
過去の真理学の覇都ギガリスでさえも、そんな人間は存在しなかったッ!
彼は、世界の何処かに「0」があれば、自分の「0」とを合わせて新たな「1」を作りだすッ!
「1」という「10」をッ!
彼の真理学適性値は「0」でもあり、同時に「∞」でもあるのですっ!
我々は……誰も、彼には追い付けない……」
そして、視線を沈めて顔だけを章子に向ける。
「いい事を教えておいてあげましょう。
章子。
彼はね?
処女厨です。半野木昇は好みの女の「処女」の躰にしか興味はない。
これは内緒です。
だから彼を諦めていないのであれば、未経験の操というものは大切にしておいた方がいい。
いつどこで逆転できる機会があるか分からない。
何を隠そう、私もその一人ですから……。
油断してはいけませんよ?
私があなたのしもべだからと言って
さっきのオリルと昇の声が、本当に本人のものか、どうかもわかりませんからね?
私のライバルである、あなたを安心させるために仕掛けた罠かもしれない……」
真理の忠告に、章子は何も答えられない。
「ちょうど……、
オリルや昇がいないのはいい機会だ。
彼女や彼がいると話しにくいこともある。
その中の一つが、これからのこと」
「……これから……?」
「そうです。
これからのこと……。
これから始まるでしょう?
第一、第二、第三、第六と。
主な四つの四大世界が集まり!
ここ!第二世界で!
新世界史上初の新世界会議……メサイアがッ!
しかし、
この新世界会議の場で主に語られることは……、
外交や軍事、経済ではない……」
「戦争や経済じゃない……?」
「ええ。
いま、この大陸に集まった、
第一、第二、第三、第六世界では、すでにそれぞれの世界での「経済」という概念は超越している。
彼らは「豊かさ」を求めてはいない。
経済や軍事力バランスは最重要の課題ではないのです。
これから、
メサイアの為に集まった彼らや、
そこのクベルたちが話し合わなければならないのは……、今ある『生態系』についてですッ」
「生態系……?」
「いまある六つの時代の生態系が一つになる……。
今回の、この最初の新世界会議では、間違いなくコレが最重要の議題となるでしょう。
すでにあらゆる時代の生物は、あらゆる世界にあった大陸へと侵蝕してきている……。
侵犯……」
それは、
この転星という巨大惑星を創りし神が、予め企図していた新世界への掲示。
「我が母ゴウベンはそれを予言していました。
いえ、予言していたというよりも、そうなるように計画していた。
母には分かっていた。
六つあった時代は、決して一つに集めてはいけなかったということをッ!」
それでも、
あえて神は、その禁忌を犯す。
「神の箱庭……。
なぜなら、
それをすれば……、人はいつか「もう一人の誰か」になれてしまうから……」
「やっぱり君は……、」
クベルの当然から出た言葉に、真理は頷く……。
「ええ……、
私はそうです」
真理は座って抱くトラを撫でる。
「私は性別が選べる……」




