53.十二獣の宮座
※ご注意!
今回のこの文章表現には、現在人類文明の人間性、思考、あり方、状態を、
反社会的にではなく反世界的に、強く悪意に満ちて嘲笑する、愚弄する、貶める、侮蔑する、蔑視する、差別する、冒涜する、暴言する、否定する表現が、頻繁に含まれております。
ご注意ください。
第三世界ルネサンセルの中でも最大の軍事国家である、
エグリアの到着から数日後……、
ついに、彼らがやって来た、
同じ場所と、
同じ時間で、
やはり、
彼らもまた、やって来る……。
第二世界ヴァルディラの魔導国家ラテイン。
そのラテインのやや中央寄りにある大草原、
サバラ大平原の東の空に、
幾つもの「影」が現れ出した。
今回も同じように現われた大群の影は、しかし機械的なものではない。
今度は動物のように動いていた。
翼があったのだ。
翼が動いて羽ばたいていた。
鳥のような羽毛の翼ではなく。
蝙蝠にも似た翼膜と表皮の翼で。
草原に降り立つ前に旋回する巨体には、鱗と角が見える。
それが百数十体ほど。
鳥のように急降下して、
草原にやはり並び立つ、
第二世界の魔術師や騎士たちの大集団の前に次々と舞い降りていく。
竜だ……。
それは紛れもなく「竜」だった。
あの先日。
航空封鎖された港街フィシャールの廃墟の中でも目にした、
章子たちの思い描く、
代表的な「竜」という生き物……ッ!
角があり、髭があり、顎にヒレもあり、身体が緑色であり、鱗があり、手のような小さい前足があり、爪があり、赤や黄色の背びれがあり、
体系がほとんど正三角形の「おもり」のような形であり、
後ろ足がネコや犬と全く同じ形の、
あの竜の姿っ!
唯一違う箇所が、あるとすれば「翼」ぐらいのものだろう。
いま、
章子たちの見ている羊皮紙画面にも映し出されている「竜」たちの翼は、
飛竜と呼ぶに相応しいほどの、
簡単に自分たちの巨体を覆い隠すまでの大きさを誇っている。
「怪獣みたいだ……」
章子から離れた位置で、
赤いソファから顔を伸ばして見ていた昇が呟く。
確かに……怪獣のようだった。
怪獣のような、
怪獣の姿そのものでもある巨大な竜が、
あのちっぽけな人間の集まる大集団の前で、
しつけが行き届いた犬たちのように「お座り」をしている。
「……かわいい……っ」
章子が思わず呟いた言葉に、
顔を拗ねらせたのは、
隣に座っていたオリルの膝元で躰を丸めて撫でられていた電気仔猫のトラだった。
「かわいいのっ?
ボクよりもかわいいのッ?」
可愛い嫉妬を見せる子猫に少女たちは微笑んで見せる。
トラもかわいいが、
竜も可愛い。
それほどに、大人しく頓座する飛竜たちの愛嬌は愛くるしく。
愛玩したい気持ちを駆り立てる。
そんな章子たちの、
愛しさが爆発する雰囲気を、急変させる者たちは颯爽と現れた。
あれほどの愛嬌を振りまいていた竜が……表情を変えた。
表情を変えて沈静し、居ずまいを正し、
ただ整然と巨体に似合わない小さな頭を下げて、
自分たちの背中から降り立った存在たちに畏敬を払って、膝をつく。
「よい」
……という様な言葉が聞こえてくるほどだった。
飛竜の背中から降りてきた者たちが、
ぞろぞろと、林のような巨翼と巨翼の間から、待っていた世界たちの前に姿を現してくる。
現われたのは……、
動物だった。
動物たちが、竜の背から降りて、
第二世界の住人たちの前へ集まりだしてくる。
……動物……。
そう、
動物だった。
動物で当たり前だった。
動物以外で、一体何が降りてくるのか?
人は『動物』なのだから当たり前だ。
だが……、
竜から降り立った動物たちは……、
人ではなかった。
「やっぱり……っ!」
章子は絶句する……っ。
同じだった……っ!
あの二体と、まったく同じだったのだッ!
この第二世界ヴァルディラにやって来る前。
第五世界サーモヘシアの辺境の島にあるカツォノブレイッカ山という火山で、
真理の真理学の授業を受けていた時の終わり際。
巨大な噴煙の巻き上がる横で……、
空中から章子たちを見下ろしていた、
あの二体の獣人たちの姿とッ!
「……ぅぁ……」
思わず呻いた章子の表情に、
誰もが一度は章子の様子を案じてしまう。
それほど章子の表情は恐怖だった。
恐怖が章子の感情を表わしていた。
だが、今のこの恐怖を、この場で分かち合ってくれる者は一人もいない。
ただの一人もいなかった。
「やはり……似ているのですか……?
彼らと……?」
真理の案配する声に、
章子は俯いて頷くことしかできない。
「……しかし、似ているというだけで……。
実際に見たという、その二匹は、あそこにはいない?」
真理の言葉に、
章子はまたも頷く。
「……そうですか……。
なら、やはり。
彼らに似せた「誰か」ということになるのでしょうね。
その時に、
あなたが確かに、その目で目にしたという者たちは……」
思わせぶりに吐かれる真理の言葉に、
章子はもう一度、
彼らを見た。
章子の見た彼ら。
彼らはやはり、
人だった。
人の身体をした……獣……ッ。
彼らを前にしている第二世界の住人たちでさえ驚いているのが分かる。
この部屋にいる全ての人間でさえも、そうなのだ。
真理を除いた、すべての人間が驚いて『彼ら』を見ているッ!
この巨大惑星『転星』にあるという六つの時代。
その六つの時代の中で最後となった最終世界。
六番目の文明『ウルティハマニ』の大国の片割れ、
『ムー』。
そのやって来たムーの人間は……獣だった。
獣の人型……。
人型の獣だった。
整然と横一列に並ぶ『獣人』たちの勇ましい立ち姿。
獣人……。
そう、
彼らを獣人と言わずして、何と表現するのか?
並んだ左側から、
鯨、魹、猿、牛、象、獅子、キリン、馬、豚、狼、鼠。
特色ある、
これら十一人いる獣人たちの長が勢ぞろいして、
草原に集まった第二世界の重鎮たちと会いまみえて屹立している。
背丈は、完全に獣人たちの方が勝っていた。
鯨や象など、
大型な獣人たちは三メートルか四メートルはあるのではないだろうか?
小型そうな猿や狼、鼠の獣人たちでも、
人の標準的な身長はあるように思われる。
章子がそんな事を考えていると、
ちょうど獣人たちと第二世界の住人たちとの間に割って入って、
膝をつき頭を垂れる人影が目に入った。
兎だ。
兎の獣人だった。
兎の獣人が、獅子の獣人と象の獣人の前で膝をつき、
誰かが来るのを待っている。
「あの人たちは……?」
「彼らは十二座」
「十二座?」
章子が問うと、
真理は頷く。
「そうです。
十二獣宮の十二獣の宮座。
あの十二人の人間たちは、
一人一人が、それぞれの血脈を司る獣者たちなのですよ。
鯨の彼女が海鯨宮の海鯨座の、その副座。
あの大きいアザラシ、本当はセイウチらしいのですが、
魹の彼が、水魹宮の水魹座。
それから、そのまま、
猿の人が、
斎禺宮の斎申座であり、
牛が貨牛宮の貨牛座、
象が巨象宮の巨象座、
獅子が獅子宮の獅子座、
キリンが瑞麟宮の瑞麒座、
馬が射馬宮の射馬座、
豚が戒猪宮の戒猪座、
狼が崑狼宮の崑狼座、
鼠が双鼠宮の双鼠座、
そして最後が……、
あの膝をつき、
彼らの主を待っている……、
兎が、処兎宮の処兎座」
「……主……?」
「そうです。
主です。
主といえば聞こえはいいが……、
それは、
主にして奴隷……っ、
奴隷にして神ッッッ!
彼ら、彼女らの崇める神とはッ!
神であると同時に奴隷でもあるとッ!」
怒り込み上げる真理に、
章子は疎む。
「人とは……、
自分の崇める神を、
万能の奴隷のように虐げるものです……ッ。
そして、
虐げた奴隷には、絶対に神の力が備わってなくても、また不満でさえあるッッッ!」
それが人という者。
この言葉の意味も……。
我々には、よく分かることだろう……。
「彼らには『一つ』の目的があった……。
それを今、語ることはない。
今はまだ、
彼女の到着を祝いましょう……。
彼女もまた……仕組まれた生命……なのだから……」
それは母。
いや、母になる前の『祖母』。
ついに我々の前に彼女は降り立つ。
「あれが正真正銘の『ムー人』。
あの周囲にいる十二獣も含めた獣人たちは、正確にはムー人ではありません。
周りにいる彼らたちは、
ただの
ムーと、
アトランティスの混血。
レムリア人です……」
「レムリア……人……」
章子の呟いた言葉で、
降り立った彼女は姿を見せた。
姿は全くの人、
人間だった。
白い衣を纏った女性の人間。
そして当然、年齢は章子と同じ14歳だった。
ただ、カラダは……。
金髪の碧眼である……、
美しい白人の女性……。
「きれい……」
数日前にも見た、金髪の姿を見て、
息を吐く章子を、
真理は忠告する。
「彼女は……奴隷ですよ?」
「え……?」
「生奴隷です。
性奴隷ではなく、生奴隷。
彼女は生まれながらにして、
産むことを定められた。
彼らの真の主にして……、
真の奴隷を産みだすという、呪われた『定め』を負ったね?」
それは時に、
『産む機械』とも、言い捨てられる時がある。
人を産む機械。
かつて章子が生きていた世界で、
章子たちと同じ同性の者たちが憎み、挑み、戦い、
忌み嫌ってきた言葉。
「しかし、
彼女は、
『神を産む機械』です。
神と言う名の主を、
彼らの為に産む、
機械と言う名の『生命』。
これから産みだされるだろう神の性別は既に決まっています。
女です。
そして、その女神を産む宿命を背負った彼女もまた。
現時点では『神』の座に位置するッ!
皮肉なことだ……ッッッ!
神とは奴隷であり、
奴隷とは神だったッ!
人種の話をしようッ!
黒人だから奴隷?
白人だから神?
ならば黄色人種ではッ?
逆に今度は、
白人が奴隷で?
黒人や黄色人は神なのか?
しかし、
所詮、神は奴隷であり、
奴隷には結局、神が求められるのだッ!
それが、あの「第六世界」では究極となったッ!
人種など関係ないッ!
女がいなければ何も出来ないッ!
所詮、男など種馬に過ぎない。
その種馬を性奴隷にして、
そんな肉体でさえもまた母体にまでして生奴隷にしたのがッ、かのアトランティスだッ!
今のアトランティスは、もはや「国」ではない。
あの国は……、
すでに「雄だけで子孫をふやせる」……ッ!」
その言葉の意味が、よく汲み取れず、
章子はまだ、声が出せない。
「雄を母体に出来るのです。
あの国にはもう、言葉が通じない。
だから戦った……、
彼らは……っ。
そして滅びた……。
アトランティスも、
ムーもっ!」
太古の戦を語る、
真理が……章子を見る。
泣きそうな顔で、章子を見る。
女の体と黄色人種の躰を自分で選んで造った顔で、章子を見るのだ……。
「今度は……、
あなたの番です……。
あなたと……、
かれの番……。
……女も男も関係ないッ!
ここからッ!
全ての命と、命が『一つ』になる戦いがッッッ……ッ!」
……始まる。
※ご注意、
十二獣の宮座の名称は、突如、変更となる可能性があります。
予めご了承ください。
2019/05/24
サブタイトルを「時代の名は『ムー』」から「十二獣の宮座」に変更しました。




