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―地球転星― 神の創りし新世界より  作者: 挫刹
第三章 「新世界の扉」(最終章)
51/82

49.真理学



 帰り道。


 空飛ぶ箒との格闘に疲れ切った章子は、

 精根尽き果てた重い身体を押して歩いていた。


「……町の中では、箒は使っちゃダメなんだよね?」


異端審問官へレティキューターに睨まれたいのか?

止めはしないが、おススメもしないな。


ヤツラは罪を探すのが仕事だ。


今はボクがいるからヤツラも目をつぶっているが、

ボクがいなくなれば格好の餌食だぞ。


その時の解決対応に追われるのはキミじゃない。

キミらの身元引受人であるリ・クァミス人たちだ。


今のキミの立場で、彼らに恩義の一つでも感じているのなら、

軽率な行動は慎むんだな」


 赤い衣をなびかせて歩くクベルに軽口で咎められて、

 浅はかに考えていた自分の軽い行動欲求を引っ込める。


「そんなに……『重い罪』になるの?

街の中で箒に乗って飛ぶことが?」


 章子の言葉に、

 クベルは肩でため息を吐いた。


「軽いか、重いかじゃない。

『罪』自体があってはいけないんだ。


この魔導国家ラテインという国は、ここが一番、特殊なところでな。


ボクたちが住む世界、

この第二時代ヴァルディラ紀の中でも、かなり異質な国なんだよ。


この国家はヴァルディラの中で唯一、社会の法治形式が『赦法』によって形成されている」


赦法しゃほう?」


 章子が疑問に尋ねると、

 なんだ?教えていないのか?とでも言いたいような表情で、

 クベルは章子と並んで歩いていた苦笑する真理マリを見る。


「……では、

まずはこの第二紀の『社会』の授業から始めてみましょうか。


章子たち、現代世界ではあまり自覚がないのでしょうが、


基本的に『法学』上、

国家の安定を図る上で摂られる法治手段とは、根本的な源流として、

「禁法」と「赦法」という二種類の法治法式に分けられます」


 不可解な視線を寄越してくるクベルに代わり、

 咳払いして喋りはじめた真理に、章子は首を傾げる。


「禁法と赦法……?」


「そうです。

禁法と赦法。


国家、及び法律とは、

確実に、このどちらか一方の方式に則り従って、社会秩序というもの付与し確保し機能させている。


ここでいう、

禁法とは、法律で物事を禁じていく方式。

そして、

赦法とは、法律で物事を許可していく方式です。


概ね、

法治国家はこの二種類のどちらかの方式を採用して、国家内での秩序安定を図っている。


これは法律を機能させる以前にある前提条件の違いです。


文によって、

物事を禁止していく『禁法』という法律方式では、

まず、

法が何も無い状態、状況下では、

全ての意思が行うだろう、全ての行動は許さ(・・・・・・・・)れています(・・・・・)


いわゆる『無秩序』という状態ですね。

逆に言えば『混沌カオス』とも表現できる状況にもなる。


このような無秩序で自由な状況こそを、

法という『文』によって縛り、法整備していく。

これが『禁法』を採用した社会の基本的な在り方です。


では今度は『赦法』を採用した場合はどうなるのかというと。

これは禁法とは反対です。


この『赦法』によって法を築いていく社会の中では、

法律が何も無い状態では、その全ての存在、行動が完全的に禁止されているのですよ」


「……か、完全に、禁止されている?」


 放たれた言葉の意味がよく理解できない章子に、

 真理は頷く。


「そうです。

最初から全ての行動や物事を起こすことが禁止されている。

これが『赦法』制度を採用した場合の最大の特徴です。


故に、この『赦法』を社会基盤の基本法治形成として採用している、

このラテインという国家では……、

基本的に、

全ての行動をとることは、最初から禁じられている……っ!」


「え、ええッ?!」


「そうなのです。

まず、全ての行動が禁じられているのですよ?

この国ではね?


これは極論を言えば、

そこに居を構え住まう人間は、

まず呼吸をしてはいけない。

もちろん、物を食べてもいけない。

それ以前に生きていてもならないのですッ!

心臓が鼓動していてもダメですッ!

これらの事象は、それらが法律で許可されていない限り、罪に問われるッ!


これが『赦法』を用いている国家の最大の特徴です。


では、そんな無慈悲な、

この赦法を、法律律令発生の最大の前提条件とする利点とは何なのか……お分かりになりますか?」


 真理の試して見てくる目に、

 悩んだ章子は、なんとなく思いついたことを口にする。


「もしかして……、

法の抜け道(・・・・・)が……なくなる、とか……?」


「へぇ」


 意外な声で、クベルが章子を見直した顔で見る。


 では合っているのだ。

 この答えで、この問題の解は合っている。


「その通りです。

法治手段の根幹を『赦法』によって築いていくと、

法の抜け道(・・・・・)が、まったく存在しなくなるのです。


何をやっても罪となるのですからッ!

最初から全てが禁じられているッ!

これが、

『赦法』を社会法治の前提条件として設置した場合の最大の効果ですッ!


しかし、これは同時に最大の問題をも孕むことになるッ!」


「え?」


「ありますよ?

これには法律の運用上、最大の欠点があるッ!


だからこそ、

この赦法を取り入れている国家は、

あらゆる地球上を含めたこの転星の中でも、このラテインただ一つだけなのです。


ならば、その欠点とは何か?

おわかりになりますか?」


「……最初に、

神さま(・・・)が……必要になるんじゃない……?」


 少女の割って入った軽やかな声で、三人が振り向く。


「ご明答ですよ。

オワシマス・オリル。


しかし、あなたに答えられると私が困ります。

リ・クァミスは既に『赦法』に近い法治手段を法体系として備えている。


あなたは既に答案既知カンニングの状態だ。

可能な限り、

あなたには我々の授業を見守っていただきたい」


 呆れながら真理が指摘すると、

 オリルもまた呆れたまま肩を竦める。


「仲間外れにされちゃったねェー」


 オリルの隣で、

 空中に浮いたままクロールして泳いでくる可愛い電気子ネコのトラがおどけている。


 これで町への帰り道に四人と一匹が合流した。


「神さまが……必要なの?

赦法に?」


 愛くるしい仔猫のバタバタしたクロールを水槽の熱帯魚のように観察しながら、

 章子は、先ほどの問答の続きを真理に尋ねる。


「ええ。必要ですよ。

この赦法を、法治手段の前提根源として取り入れた場合。

まず最初から法律というものが機能しないからです。


理由は、最初に法を違反した者を裁く者がまず存在できないのですから!」


「え……?

あ……、そ、そういうことになるんだ……?」


「そうです。

そうなってしまうのですよ。

最初から全てが禁じられているということは、

前提として、

誰かが、誰かを法によって裁くということすら既に禁じられているのですッ。


これでは法を管理する司法というモノすらが成り立たない。

当然、それを行使する行政も機能しない!

司法とは概ね行政上で機能します。

しかし、その行政の実動権限も「赦法」上では真っ先に禁止されている。


社会生活自体が機能しない。

法の抜け道が存在しないかわりに、全ての行動も禁止されている。


全てが動けない、のです。


これが、

この「赦法」制度というものが、

どこの国、どの国家でも取り入れることのできない最大の理由なのです。


殆どの国家は、

必然的に、法の抜け道がどこかにあることを絶対の前提条件とする「禁法」制度を採用せざるを得ない」


「……でも、この国家は違う……」


「その通りです。

赦法を法治制度として、運用させる為には、

赦法によって、これから法を取り決める前に、

その赦法の制限を受けない「神」という例外を真っ先に作らなくてはならない。


そこで最初の例外として規定した「神」が、

これから赦法によって布いた法律で違反した者を裁いていかなければならないのですから」


「だ、だけど、それじゃあ、

今度は、その「神」さまが何をしてもいいことになるんじゃ……」


 章子の懸念に、真理は頷く。


「そうです。

だから、このラテインには存在しているのですよ?

その「神」にも等しい、法に縛られない『絶対的な存在』がね?」


 真理が思わせぶりに「その者」を見る。


「……え?」


 章子が、真理の向けた視線をなぞると、

 そこには、この赤い少年の姿があった。


「オ、オルカノくんがっ?」


「……ッ、

……クベル、でいい……っ」


「ク、クベルくんが……?」


「……っッッっ、ッ!

クベルでいい(・・・・・・)』と言ったッッ!」


 怒鳴ったクベルが、対応に困惑する挙動不審な章子を苛立ちで睨む。


「で、でも……っ!」


「っ、

なんでキミたちは、そうまでして「くん」付けで呼ぶことに拘るんだ?

昇もそうだっ!

ボクをいつまでも「オルカノ」と呼ぶッ!

くん付けでだッ!

いい加減、そんなのはガマンの限界なんだがっ?

このボクのもっと親密になりたい、この溢れだした親愛な思いと気持ちが分からないのかッ?」


 大声でツンデレを叫ぶクベルを、

 章子は口元を引きつらせて笑う。


「え、ええ?

ごめんなさい。


でも、わたしたちって、それで慣れてるから……」


「昇も同じ事を言っていたな。

それが、そっちの国での親密度を表わすための習慣で表現なんだとっ。

じゃあ、くん付けで呼んできたらそっちには壁がないっていう事だなッ!と問い詰めたら、真っ先に逃げやがったぞッ?

アイツはッ!

やっぱり「壁」があるんじゃないかッ!


ほら!

なら、

キミも一回、昇を呼び捨てで呼んでやってみたらどうだ?

咲川章子ッ!


アイツにもこれと同じ事を勧めたら、全力で首を振って断固拒否してきたが。

なんかアイツ、

一度でもキミを呼び捨てで呼べば「生涯の契り」になるとでも思い込んでんじゃないのかっ?」


 吐き捨てたクベルの言葉を、

 顔を歪めた章子は反射的に背けて聞く。


 ……それは……、

 ありえる話じゃないだろうか?


 章子だって、昇を呼び捨てでは呼べない。

 呼べばきっと、


 そう、きっと……。


 のぼ……っ、


 っ……だめだ。

 想像しただけで、

 その先にあるかもしれない、笑いの絶えない将来の像まで浮かんでしまう。


「……キミたちの国って、相当メンドクサイ国なんだな……っ」


 顔を隠した章子の初心な反応を見て、

 クベルは嫌気いやけを顕わにして言い捨てている。


「……まあ、

それがこの国の答えだ。

ラテインは、ボクたち許約者ヴライドという存在に、神の座を与えた。


ボクたちはこの国で何をしてもいい。

殺人でも、犯罪でも、何でもだ。

今ここで、

キミたちの心と体を、裸にして鷲掴みにし好き放題にしてもなッ!


もちろん、

それをすれば、すぐにリ・クァミスとの外交問題は起きるだろう。

単純なパワーバランスだけでいうなら現在のリ・クァミスの力は到底、ボクには及ばない。

やろうと思えば、ボク一人の力で屈服させることは、彼らの手を捻るよりも簡単だと見積もってもいる。


だが、それをやっても、

やっぱり後々、面倒クサイんだな。


航空封鎖で最初に会った時の事を覚えているか?

あれがボクたちの権限の象徴の一つだ。


あの時、ボクがしていた行動ことを、

ラテインの航空騎士エア・ナイトのヤツらは何も出来ずに見ているだけだっただろう?

でもあれな、

実は、「見るな」って指摘すれば(・・・・・)航空騎士団アイツラをいつでも罪に問えたんだ」


「え……?」


 途方もない告白を聞いて、章子は心を騒然とさせる。


罪が作れる(・・・・・)んだよ。

ボクたちの、この地位と権限はな?


そして、

作った罪に、好きな罰を与える事だって自由自在に出来る。

最悪だろう?


これがオレたち、許約者ヴライドに与えられた権限の一つだ。

オレたちは全てをすることが許されている。

しかし、それは、この国だけのことか?と問われれば、それも間違いだ。


魔導国家ラテインは、

この第二世界、ヴァルディラ紀の中でも誰もが認める三大国家の中の一つだ。

ラテインはすでにヴァルディラ紀の中にある全国家の頂点の一つに位置している。


つまり、三大超国家の一つであるラテインという超大国で好き放題できるオレたちは、

「禁法」に則っている第二紀の他の小国家内でも合法的に好き放題できるというワケだ。


それは、

ラテインと同等の格式を誇る他の二大超国家内でも例外じゃない。


現在、このヴァルディラ紀の中に存在する三大超国家は、

北東部を領土とする魔導国家である、この『ラテイン』と、

北西を占める聖主国家『ゼレシア』、


そして、南の最大王朝『へブラ』だ。


この三大超国家が、

逆三角形の形をした第二世界で最大の大陸であるオアフテラを、

キレイに三つに分けている。


ボクたち許約者ヴライドの権力は、その三大超国家の中でもやはり頂点だ。

彼らの国に入れば、彼らの国民も支配階級のヤツラもイヤでも道を空けてくれるだろう。


しかし実際、崇められているボクたちからすればそんな彼らの国には入りたくない。


ボクたちの願いは、むしろ逆なんだ」


「え?」


 章子の意外な素振りの顔に、クベルは力なく笑う。


「聞いてないのか?


人は、神を奴隷にする生き者だ、とッ!


それはオレたち許約者に対しても例外じゃないんだ。

人間ヤツラは願いを祈る。

祈る生き者(・・・・・)なんだ。

もちろん、それを『罪』だ、と、

許約者側が断罪することは簡単なんだ。


でも、それはやっててもキリがないんだよ。


好例を出そう。


ラテインの中にだって当然、許約者ヴライドの下にも権力者がいる。

ボクたち許約者を除けば、ラテインの最高権力者はヤツラだ。


ソイツラが何か悪さをしたとしよう。

するとソイツらを裁けるのはボクたちしかいない。


だが、その悪人はボクたちに悪事を働いたわけじゃない。

やったのはその下の身分のヤツラに対してだ。


法律を最大の権力として対応する中で一番難しいのが、ここ(・・)だッ!


頂点という者はな?

頂点の下にある身分のヤツラが、更にその下に権力を向けた場合、無力なんだ。

法の頂点は、頂点に逆らったヤツは簡単に裁けるが、頂点より下の人間が更に下に向けた悪事には対応しにくいんだ。

だがドミノ倒しで、一番、悪事の被害を受けた最も最底辺の奴らは、ボクたち許約者ヴライドを頼ることだろう。それしか手段はないからな?

だがそれは「赦法」の構造上、赦されてはいない。


それにはボクたち許約者が、自主的に(・・・・)動いて気付いて対処してやるしかないんだよなッ!

下の者はボクたち許約者に懇願することさえ禁止されているのだからッ!


それでもヤツラは救済を祈ることはやめないだろう!

それしかないのだからッ!

だからオレたちは耳を塞ぐっ!

そんな最下層の下のヤツラの意見なんて、こっちがまともに聞いていられると思うか?

応えていたらキリがないっ。

そうだろう?

庶民の総人口なんて三大国家を合わせても二十億は下らない!

そんな多種多様なヤツラの意見をイチイチ聞いて、細かく対応するんだったらバッサリ行くさッ!

こっちにはそれだけの権力があるんだから!


しかし、それをやると最後には『全てを絶滅させよう』って結論ことになるんだよ。

根絶やしにしたくなるんだ。

残った決断は「もう国なんて無くてもいいだろう」っていう嫌気しかない答え、ただ一つだ。

ボクたちの間では、今でもこの結論を何回も出す事があるし、過去でも出していたようだ。


イタチごっこさ。


結局、ボクたち許約者は、国を残すという結論しか出すことはない。

国を失くしたら、あとに残るのはボクたち許約者だけだからな。

許約者だけが残ってなんになる?

たったの七人(・・)しかいないんだぞっ?


だったら、

もはや許約者さえも、いらないだろうって摂理こたえしか残らないさっ!」


 心底、自分の世界にウンザリしている、

 クベルの投げやりな叫びは、章子を悲しい気持ちにさせていた。


「それで……結局、現在いまはどうなってるの?」


「ご覧の通りだよ。


何かあれば、許約者は国家の最高権力者を裁く。

当然、ラテインから握らされた権力通り、第二世界の全国家の中では好きなだけ行動もする。


国に縛られない個人である許約者たちは自由でいたいから、

国事などは全てその国家の最高権力者に丸投げする。


これが太古に結ばれた許約者と第二世界全国家たちとの間でまとまった取り決めだ。


だが、

その当時の許約者たちは、もう一つ、ある新しい約束ルールをヤツラに強いたッ!」


「ルール……?」


 章子の問いに、クベルは答える。


「もめ事を探せッ!というルールだ。

これをそれぞれの国の最高権力者たちに架したんだ。


これを犯せば(・・・)権力者おまえたちを裁くとッ!

しかし、それさえ違反しなければ、何もしない。

これがオレたち許約者と現在の第二世界の全国家たちとの間で契った約束ルールだ。


この約束ルールは、

「禁法」上ではあまり意味がない。

禁法は、物事を法律で禁止していくやり方だからな?

物事を法律で禁止していくのが本来の仕組みなのに、

法律で物事を強制していくのでは効率が悪いし、意味も薄い」


「あ、ああ、……うん」


「だが「赦法」では、そうはいかないッ!

『もめ事を探せ』っていうことはな?

それ以外の行動は許さないって意味なんだ」


「え?」


「『もめ事を探す』こと以外は何をしてもダメなんだよ。

もめ事の内容を聞くのも!

調査するのも!

発見することも!

隠蔽することも!

もちろん、

放置をすることも、

解決させることもな?


ただ探し出せ。


それだけを実行する事を許している。

と、いうことはな?

それ以外はさせねぇよ?ってことなんだな。

つまり、

探さないって選択肢はないんだよ。

それはオレたち許約者が許さない。


いつまでも、もめ事を探し続けていろと。

それだけを永遠に全ての国家に仕事として科している。


もちろん、もめ事を増やすことも減らすことも禁止だッ!」


「で、でもそれじゃやっぱり……」


「そうだな。

ただ探すだけだったら何も解決はしない。

そのままだったら増えていく(・・・・・)

もめ事なんてのは、勝手に増えていくもんだ。


ヤツラは当然、増えていく「もめ事」を全部、探しだす為に走り回り、疲労困憊していくだろう。

インフレーションさ。


だが、

休むことは許さない。

そんなことはボクたち許約者が許さない。

もし、ヤツラが探し損ねた「もめ事」が、

運悪くオレたちに一度でも微かに届けば、「もめ事を探せ」というオレたちの法律にヤツラが違反したということになるからだ!

赦法の中では「放置もするな」って意味でもあるからな?


ヤツラは赦法が抱える矛盾という矛盾の地獄の中で苦しみ続けるだろう。


そこにまたオレたちが、

新たに「権力者たちが不利になる条件でなら、モメ事を解決してもいい」という権利だけをヤツラに与える……っ」


「不利に?」


「そうだ。不利にだ。

赦法ではそれだけしか許しはしない。

禁法だったら、これはこう解釈されるだろうな?

『権力者たちが不利になっても権力の無い者がさらにもっと不利になってしまえばいい』とかなんとか。

だが、それは赦法ではダメだッ!

不利になるのは権力者だけだからな。

不利になる権利(・・・・・・・)は権力者のみにしか与えられていない。

権力の無い者には、もちろん不利になる権利だって無いんだな。


これが現在のラテインの法律的構造だ。

もめ事は常に探せ。

解決したかったら権力のある者から不利になれ!

不利になるなら何でもいい。

その強弱は最高権力者に任せるさ。っていう話になるのさ。

これに違反したら、ボクたちがバッサリだ。


ボクたちは気付いた時に、ヤツラの頭の首だけを刎ねればいい。


だから今の所、

ボクたちは口笛を吹いて世捨て人で暮らしていけてる」


「……という事はいま、わたしがこの町中で箒を使って飛ぶと……?」


「それで事故でも起こせば、

異端審問官ヘレティキューターがすっ飛んできて、キミにこう言ってくるだろう。

『審問す』(エクスキューズ・ユー)……と。

キミを不気味に指差して、そう言うはずだ。


この言葉を聞いたら、キミは絶対に口を開け!

とにかく「何か」は答えろよ?

沈黙する権利は無いッ!

それをやれば、その時点で『沈黙罪』という罪が成立する!

ヤツラは、その事象を異端いはんと審断するだろうっ!

ヤツラ、異端審問官には「問いただしてもいい」という国家権利が与えられている。

そしてキミには、基本的に「聞く」ことも「しゃべる」ことも「沈黙する」ことも許されてはいない。それらは全て禁止されているんだ。

だからこその、この『赦法』なんだからな?

この状況下で、キミが異端審問官から「審問す」と訊ねられた場合、

この「聞く」と「喋る」という権利だけがキミに与えられて付与されて発生することになる。

そこでは、沈黙は禁止されていても聞くと喋るという権利だけは発生した状態になるんだな。

すると、

キミは「訊かれたらしゃべらなくてはならない」という状況に陥ってしまったことを意味するんだ。


あとはその喋った内容次第だ。

想像はつくだろう?

これ以外にも相当、色々あるからな?

違反を異端と見なす異端審問官には、他にも様々な権利が許されている(・・・・・・)

キミが何かをすれば(・・・・・・)するほど、

全てを禁じる赦法によってガンジガラメにされていくだろうよ?」


「つまり、この法律って……。

最初から『なにも、しなければいい』ってこと……?」


 章子が目を丸くして言うと、

 クベルも苦笑する。


「それは少し違うな。

何もするな、じゃない。

『事』は起こすなっ!という事だ。


別に町中で箒に乗りたいなら乗ればいい。

それで問題を起こさない自信があるならな?


だが、それが人目にでも付けば、この町の人間は騒ぐだろう。

ほら、問題は起こった。


キミは騒いだ人間の方がおかしいと言うか?

だがキミが何もしなければ、騒いだ人間は騒がなかった。

ほら、その問題を起こしたのはキミなんだ。

問題を起こしたキミは、解決(・・)の為に裁かれる。

権力者が、手間(・・)をかけてキミを裁くという《不利(・・)益》を被ってな?」


「なら、問題が起こらなければ、何をしてもいい?」


「当たり前だろ?

問題が起こらなければ何をしてもいい!

それは禁法でも赦法でも同じのはずだ。

だが、赦法上でそれができるのは、この許約者ボクたちだけだぞ?

ボクたちだけがそれを許されている。

だから許約者ヴライドなんだからな?


ボクよりも下の国のヤツラは「もめ事」や「罪」は絶対に探す様に出来ている。

それがこのラテインという魔導国家に始まる全ての第二世界国家に押し付けられた最大法規だッ!


その最大戦力を誇るこの魔導国家と戦っても、まだ勝てる気でいるのなら……、

やってみる価値はあるんじゃないのか……?」


 試して見てくるクベルに、章子は宙に目を逸らす。


「メンドくさ……ぁ……」


 女子中学生らしい感想を言ってしまった。


 相当にメンドくさい国だ

 夢の国が、瞬く間に現実のつまらない国になってしまった感想だった。


「この国では「権力」こそが最大の価値を持っている。

しかし、権力を手に入れるためには、不利になる必要があるんだよ。

それが「仕事」ってヤツだ。


だから権力のあるヤツは仕事に追われる。

その分、人の権利も好き勝手できる。

許されている範囲でなら、だ!」


 同じような話を、どこかで聞いた。

 随分前に感じる、まだ二週間も経っていない筈の遠い記憶だ。


「じゃあ、今の()の「仕事」は?」


 章子が悪びれなく問うと。

 クベルは酷いしかめっ面になった。


「それを今、探しているッ!

何でもしてもいいって言うのは、意外と肩身の狭いもんだ。


おかげで、自分がヒトだったことまで忘れていた。


オマエになら分かってくれるか?

章子?


ボクがこれからしなくちゃいけない仕事が?」


「そんなの、自分で考えてよ」


「まったくだ」


 クベルが笑って答えると。

 章子もつられて笑ってしまった。


 これからどうすればいいのか?


 章子とクベルも。

 それ以外の真理とオリルと電気猫のトラも探している。


 その答えは、とうとうすぐに見つかった。


「浮気だッ!!!」


 トラの大きく叫んだ声で、帰り道を歩く章子たちが正面を見る。


 そこは町の中の商店街のような通りだった。

 軒先が続く左側の店の入り口の一つから、


 一人の少年が、三人程の女子たちに囲まれながら出てきたのだ。


「あ……、」

「げ……」


 少女たちの見つけてはならない声と、

 少年の見つかってしまった声が、文字で重なる。


 少年は半野木昇だった。

 その昇に、この町メルヘンの住民と思しき三人の田舎娘魔女っ子少女たちが群がっている。


「ヴ、許約者ヴライド……っ」


 町娘の一人が、気付いた昇からクベルに近づこうとした時。

 二歩ほど接近すると、

 すぐに顔面が蒼白になって、昇を置いたまま、

 心配する仲間たちと一緒になって通りの先へと走り去ってしまった。


「なにやったの?」


 この奇妙な状況を怪訝に見る章子は、

 走り去っていた少女たちの消えた場所を今も睨んでいるクベルに訊く。


「歩数ダメージってヤツだ。

呪術カースの一種だよ。


一歩近づいてきたら、ソイツの周囲の気温を一、二度上げるっていう初歩の呪術だ。

それをかけてやったんだよ。

今の場合は、一度や二度じゃなくて、一歩で六度ほど上がるヤツだけどな。

それで、ボクの機嫌は分かるだろうって話だ。


昇ッ!

お前も気を付けろよっ。

オマエ、ボクを下したんだから、この町では超有名人だからなッ!」


 クベルの言葉に、

 昇は更に絶望した表情をする。


「丁度いい。


ボクからも一つ、お願いがあるんだ。

真理人」


「……これは珍しい。

全てが許された許約者である、あなたが、

私にお願いを?

クベル・オルカノ?」


 笑って言う真理に、クベルは頷く。


「ボクにも授業をしてくれないか?


真理学エメシス……。


その噂の授業をして欲しい。

ボクにはまだ分からない事がある。

それを知る為の、噂の(・・)その授業をして欲しいんだ」


「なにか、わからない事でも?」


「ああ、

絶対零度。

あれの今も下がっている原理がまだよく分からない。

そして、もう一つある。

水の吸熱反応だ。

いや、吸熱反応というよりも、その副産物だな。


〝水は、吸収した熱をその水の内部で「あなた(・・・)」に変換し、その変換した「あなた(・・・)」によって発生した熱をさらにまた再回収している〟


っていうアレだ。

アレ、

水の許約者(ワスア・ヴライド)にはできないそうだ。

アイファはソレ(・・)ができないと言っていた。

水の力なのにだっ!

それはなぜだ?

水の許約者は、水の出来ることなら全てが出来る。

しかし、アレは出来ないと言っていた。

わからないんだ、と!


どういうことなんだ?

摂理学ティエトではわからない。


なら、

真理学エメシスなら分かるのか?


どうなんだ?

答えてくれ!

シン真理マリッ!」


 熱の許約者であるクベルが問うと、

 真理も、思わせぶりな顔でクベルに答える。


「言ってもいいですが。

それには相当な覚悟が必要になりますよ?


いいんですか?」


 いつもと同じ怖い声が、

 場を支配する。


「覚悟が?」


「……ええ。

覚悟が要ります。


それでもいいですか?


きっとそれを話せば、あなた方は間違いなく出会ってしまう(・・・・・・・)から……」


 言って、

 真理はいつも通り、


 このヒドイ文章力の文を読んでいる現実の我々(・・)にも向かって警告する。


あなた(・・・)方はきっと、悪魔(・・)と出会う」


 その悪魔の名は……。


「……『マクスウェルの悪魔』に……」






《推奨とお知らせ!!》



 次回と次々回の「-地球転星- 神の創りし新世界より」は11月11日を更新予定としております。


 その日までに、いつも愛読くださっている読者の方々には、

『マクスウェルの悪魔』と植物の行う『光合成』について、よく予習をされておかれますと、次回と次々回の虚構の物語はより一層、お楽しみいただけるかと思いますので、強く推奨すると共に、この事をお知らせいたします。


 いつもご愛読くださり、誠にありがとうございます。



《11月10日、訂正と追記!!》


 11月11日に次回と次々回を更新するとお知らせしていましたが、

 著者の不甲斐ない文章の構成能力の為、『光合成』に関連する「次々回」の更新のみ、11月11日ではなく11月22日へと変更とさせて頂きます。


 突然の更新中止となり、誠に申し訳ありませんが、何卒、よろしくお願い申し上げます。






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