表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
―地球転星― 神の創りし新世界より  作者: 挫刹
第三章 「新世界の扉」(最終章)
44/82

42.戦争を薙ぐ平和

※ご注意!

 

今回のこの文章表現には、現在人類文明の思考、あり方、

特に日本や国際社会の現在の状態を、


反社会的にではなく反世界的に、強く悪意に満ちて嘲笑する、愚弄する、貶める、侮蔑する、蔑視する、差別する、冒涜する、暴言する、否定する表現が、頻繁に含まれております。


ご注意ください。




 騒めく樹々が、夜に横切る風で涼音を揺らしている。


 宿に続く暗闇の一本道の中で、四人の少年少女と一匹の電気子猫は、

 最後尾に立つ一人の少年に視線を集中させていた。


「ところで、きみって……。

むこうの地球で今も栄えている七番目のあの世界。

ようは、

ぼくたちの出身地である、あの現代世界のことはどれだけ知ってるの?」


 皆からの視線を一身に浴びる、

 最後尾に立つ日本人の少年は呟き、集団の最先端に立つ第二世界の少年に話しかける。


「簡単な事情ならそこそこ聞いている。

キミの世界もなかなかのおしゃべりだからね。


聞いてもいない情報ことを、

勝手に転星こちらに垂れ流しつづけているよ。

知らないわけじゃないだろう?


だから調べようと思えば簡単だ。


なんなら、

ボクが現在もっている情報と、きみの知識とでも突き合わせてみようか?」


 そんな振ってくる親切な提案にも、最後尾に立つ少年、

 中学二年生の日本人、半野木昇はんのきのぼるは首を振る。


「べつにそこまでしなくてもいいよ。


その中には「日本」という小さな島国もあるってことだけ、知っててくれればいい」


「日本……それがキミの故郷の名前か……?」

「そうだね。そこがぼくの故郷だ。


小さな小さな島国の名前。


いまはそこに、すごく帰りたい。

今すぐそこに帰りたいよ。


キミとの話なんてウンザリだ。


こんな事すべてほったらかしにして、

あの故郷星ふるさとに、いますぐ飛んで帰りたいな……」


帰郷病ホームシック

ボクには分からない感情だ。


それに、そんな事はボクが許さない。


キミには、向こうに帰ってもらう前にこの第二世界でやってもらう事がある」


「わかってるよ。


だからその為の話をしているんだ。


で、その話に戻すんだけど……。


実はね?

いま、そのぼくの国では、すんごい難題を抱えていてね?


軍事力を持てないまま周囲の軍事国家から国を守る。っていう荒唐無稽な問題を自分たちから作って、頭を抱えて困っているんだ……」


「……なんだいそれ?

すごく変な話だな。

本当なのかい?」


 マグニチュード12の力を持つ赤い少年でさえ。

 昇の言ってることは信じられないようだった。


「……それで今、ボクの国はキレイに真っ二つに分かれている。

軍事力を持つのか持たないのか?っていう究極の選択さ。


ある人は持とう。と言って、

ある人はダメだ。と言っている。


それはそれでしょうがない事だ。


ぼくの国は過去にやっちゃいけないことをやってしまった。


戦争という大罪をね?

でもそれはどこの国でもやってるだろう、って認識で、

また再び軍隊を持とうって言う理屈もあるんだ。


先の戦争での結果では、ボクの国が負けた側でね?

負い目があるんだ。

そして周囲にある国々は戦勝国と被害国さ。


悪者はボクの国一つだけ。


そんで、

その時の結果として手に入れたのが……、


この剣(・・・)……ってワケなんだ……!」


 昇は自分が持つ、光学線の輪郭しかない剣を見せる。


「この剣は法律だ。


その時のぼくたち日本人の先人たちが切望した希望であり。

戦勝国たちが、その時の気分でぼくたち敗戦国に押し付けた絶望でもある。


で、

それをいままでよくも変えずに持っていたよ、ってお話なんだよね。


ぼくたち日本人という国民が、

護ろうとして、

変えようとして、

なあなあで残してきた玉虫色の法律なんだよ。

それがコイツだ。


そんな出来事の中でも、いろんな事があったよ。


廃墟から街を取り戻そうとして、

元通りにしようと思ったら、

こんどは栄え過ぎて溢れてしまった。

そんで豊かになったかと思えば、その副作用で国民は国と一緒になって病んでるし、

周りの国家からもちょっかいを出される。


過去の事を思い出せ!って、ちょっかいをかけられるんだ。


なんか、よくわかんないんだけどさ……?


その周りにある戦勝国と被害国っていうのは、

気付いたら、ぼくたち敗戦国よりも生活水準が低かったんだ」


「は?」


「貧しかったんだよ。

気付いたらぼくたち敗戦国の方が豊かになっていた。


それでやっと、

あまり豊かとは言えなかったはずの隣の戦勝国や被害国が、追い付こうとして、

追い越そうか追い抜かれるかって時が、

現在いまなんだよね。


だからかもしれない……。


周辺国家は、今も昔もぼくたちに「罪を償え」と迫ってきている……」


 言って昇は。夜空の東に浮かび始めた青い星を見る。

 その青い惑星が、昇が飛び出してきた故郷のある惑星だった。


「ぼくの国はやっぱり敗戦国さ。

敗戦国らしく、負けて悪さをした罰として「戦力」は没収されている。

でもそれじゃ都合が悪いってんで。

やっぱり戦力を持て!とも戦勝国から迫られるんだよね?

おいおい、どっちなんだよ!って文句も言いたくなるよ。


戦勝国は一つじゃない(・・・・・・)


その大戦での戦勝国は全部で五つあってね?


一つが日本から西に、水たまりみたいな海を挟んだすぐ近くの大陸に在って。

その北にもう一つ大きいのがある。

それでも問題なんだけど、


極めつけが、これだ。


ぼくの国の中には、さらにもう一つ、

西の一番果てにある超大国の軍の一部が置かれている。


この超大国が厄介極まりなくてね。

過去の大戦で実際に戦った一番の敵対国家だったんだけど。

こっちが派手に負けちゃって、基地を置かれちゃったんだ。

まあ、そりゃそうだ。


ぼくたちは降伏したんだから……。


そして、基地が置かれたまま、


何事も無く(・・・・・)、現在のここ(・・)までやってきた」


「……は……?

ちょ、ちょっとまってくれ……っ。

それで……何事も無く……?」


 驚く赤の少年に、昇は頷く。


「そうだよ?

何事も無く……だ!


そこから先は、目立った国家間での争いは起こしてないんだよ?


普通に考えてみると信じられない話だ。


戦争した。

負けた。降伏した。敵軍が来た。占領された。

基地がおかれた。


普通さ?

ここまでやられたら実際、地獄だよね?


地獄しか待っていないし!想像しかできないッ!


未来永劫、そんな地獄がずーっと続くと思うでしょッ?


でも、いまここにいる、

ぼくというこの人間が、その地獄を見てきた人間に思うかい?

こんな平和ヅラした何も考えていない無知な子供が生きてられると思う?


ムリだよ!

絶対にそれはムリだッ!


でもいるでしょ?

実際に目の前にいるんだよ!

ここに立ってる!


こんなバカ面さげた子供がさッ!


だから、

ぼくが、その証拠なんだ。

そんな不可思議な国が、あそこ(・・・)にはある……ッ!」


 そして昇は、

 あの青い故郷から、共に一緒に来た、同じ中学二年生の少女、

 咲川さきがわ章子あきこを見る。


「大戦が終わってから、まだ百年も経っていない。

五十年以上は経っているけど百年までは到達してない。

そしてぼくの歳はまだ十四だ。


だから

あの戦争はそんなに昔のことじゃない。

でもそれほど最近の事でもない。


最近のことでも無く、

昔のことでもなかったら。

やっぱり、ぼくたち子供は自分の立ち位置が分からない。


加害者なのか?

被害者なのか?


あの自分の国の豊かさが、それを分からなくさせるんだッ!

自分の国の、あの豊かさ(幸せ)がさッ!」


 昇は自分の持つ剣を見ている。


「でもまだ戦争の爪痕は残っている。

街の見かけの戦禍の跡はだいぶ消えたようだけど。


見えないところではまだ残っているよ。


特に国際社会の枠組みでいうなら、くっきりはっきりと残っている。


その中の一つが、ボクの現代世界の国際社会の仕組みとも言えるんだ。

今や、その五つの戦勝国は、世界の頂点だからね。


ちょうど、きみたちが立つ位置と同じだ。


第二世界、史上最強のクベル・オルカノくん。


キミたち許約者ヴライドって呼ばれる人たちのいるそこの位置が、

ぼくたちの現代世界という七番目の世界では、五つの戦勝国が占めている位置なんだ」


「……それは、難儀だな……」


「そうさ。

そんなきみたちの世界でいう許約者ヴライド級の国家たちと、

ぼくの国、敗戦国は、戦力も持てないままに渡り合わなくちゃいけない。


そんな問題を前にして、

いまの、

ぼくたち日本人は足がすくんでいるのさッ」


「……まるで他人事だな」


「他人事?」


「他人事のように話している。

そうじゃないのか?」


「他人事だったら、きみとの決闘もなしにするよッ?」


 吐き捨てて言う昇を、クベルは慌てて自分が見誤っていたことに謝罪する。


「わ、悪かった。それは訂正する。

許してくれ。


だがどうするんだ?

キミの国の問題なんだろう?


それを解決する宛てでもあるのか?」


「……あるけど……。

アレ……でしょ?」


 アレとは、自分の事だ。

 章子は、自分を顎で指し、軽蔑して見てくる昇の顔を見て直感する。


「あんなのじゃ、あっても使えないよ。

実際使えなくて、アタフタしてるんだからね?


それで、ぼくにどうにかしてくれと頼ってきている!

まあ、やってもいいけどさ?

代償は払ってもらうよ?


「痛み」という代償はねッ!」


 昇が、ハッキリと章子を睨んできた。


「ぼくはね?

オルカノくん?


きみと〝同じ〟なんだよ」


「ボクと?」


 不思議に思う赤い少年クベル・オルカノに、昇は頷く。


「そうだよ。

ぼくも、きみとおんなじだ。


きみは同じ許約者ヴライド同士の人が仲間ではないと言っていた。

ぼくも同じだ。


ぼくもね?


〝敵〟に見えるんだよっ。


同じ日本人が〝敵〟に見えてしまうッ!」


 そして、

 敵意を剥き出しにして章子に一歩だけ近づいて迫る。


「ぼくはこれから、オルカノくん、

きみとじゃなく、


彼女、

同じ日本人の咲川さんと話を進めていくよ。


ちょっとこれから、きみたちラテイン人……、

いや、

ヴァルディラ人や、

オワシマスさんたちリ・クァミスの人たちには分からない日本国内のことや、国際社会のことも語っていくけど、分からなかったら無視してくれていいよ。


これはぼくたち日本人だけで片づけなくちゃいけないことだからさッ!」


 迫りくる昇が言い切ると、

 それに続いて章子も覚悟を決めて生唾を呑んだ。


 章子はこれから、この同郷の少年と戦わなければならない。


「咲川さんには分かっているよね?


今のぼくたちに迫っている危機と問題が。

日本の国内にも、

日本の国外にも、

色んな問題がごろごろしている。


なかでも特筆すべきは、

『沖縄』だッ!」


「……沖縄……っ」


「そうだよ。

沖縄だ……。


真理マリさんも、さっき言ってくれたじゃないか?

「沖縄の日」を迎えているって。


沖縄には米軍基地があるよね?

今も沖縄の人たちがすんごく苦しんでいる米軍基地がっ!


沖縄は先の大戦の最初の本土決戦地だ!


その沖縄の小さな土地に、在日米軍基地の大半が置かれている。


この苦しみが、ぼくたち「本土の人間」にはわからないっ!


そうだろっ?

咲川さん!」


「昇……くっ、

う、うん」


 章子はもう、遥か先の領域で待つ昇の名を呼ぶのは止めた。

 章子はこれから半野木昇という少年と対等の位置に着かなければならない。


「でもこの沖縄の人たちが言う「本土の人間」っていうのはね?

ぼくたち「名古屋県民」の事だよッ?


絶対に……日本の中枢に住む、

東京の人たち(・・・・・・)のことを指して言ってるんじゃないッ!」


「……っえっ?

え、ええッっ?」


 章子は追い付こうと思っていたそばから、想像もしていなかった糾弾に引き離される。


「違うよッ!

あの沖縄の人たちが!

『本土の人間がっ!』って恨みを込めて罵っているのはねッ?


日本の首都(・・・・・)で働いたり暮らしている、

「東京の人たち」のことじゃないんだよ(・・・・・・)ッ!


ぼくたちッ!

米軍基地が置かれていない「愛知県民」のことを言ってるんだッ!」


「そ、そんな……ッ?」


「なにを……他人事に考えてんの?

当たり前じゃないかッ!


逆なんだよッ!


むしろ東京の人たちには、沖縄の人たちの「痛み」が分かるはずだッ!

ぼくたち「愛知県民」なんかよりも、ずっと遥かに分かっているはずだッ!

簡単に想像がつくはずなんだよっ!


だって、

東京都にも米軍基地はある(・・・・・・・)んだからッ!」


「う、あ……」


「そうでしょう?

横田空域ッ!


搾取されている物が見えにくいってだけで、

あの首都圏の人たちは沖縄の苦しみが分かるはずだッ!


もしそれで分かっていないのであれば、想像力が圧倒的に足りてないだけだッ!


それで!

さも!

沖縄県の人が言っている「本土の人間」っていうのは、東京の人間だ!ていう印象を日本国民全員にバラ撒いて植え付けているッ!


方向が違う!

そりゃ、見ている方向が圧倒的に違うよッ!


彼らの怒りが向いているのは間違いなく、


東京じゃなくて!

基地の置かれていない、

愛知やッ!

名古屋だッ!

そしてっ!

それ以外の基地がまったく存在していない全都道府県市町村ッ!


そうだろうッ!

咲川さん!」


 章子は……一歩を下がる。

 どうしても、この少年に立ち向かうことができなかった。

 愛知県民であり、

 名古屋市民でもある咲川章子には耐えられない事実を、

 同じ愛知県民であり、

 名古屋市民である半野木昇が叫んでいる。


「また、怯んでくれるんだね?

そうやって事実から逃げているッ!


自分たちだけが被害者だけだと思ってるのは、きみたちだけだよ?


きみたち、日本人(・・・)全員(・・)だけだッ!」


「日本人……全員……っ」


 その言葉が、今こそ擁護している沖縄県民でさえ含まれていることを章子は痛感する。


「なんで……そんな……っ」


 なんでそんな事が言えるのだ?

 章子にはそんな疑問しか浮かばない。


 自分を否定して、誰かを肯定しようとしたそばから、

 また、その人まで否定しようとしている。


 その少年の怒りに対して……。

 章子はなぜ?という疑問しか抱けない。


「そんなの、

誰でも同じ(・・・・・)だ、ってことが言いたいんだ!


誰でも同じなんだよッ!


被害者も加害者も!

加害者も被害者もだッ!


それは沖縄の人だって例外じゃないんだよッ?


あの人たちは、基地の移設は反対だって言ってる。

基地の県内移設(・・・・)には反対なんだ。


当然だッ!


ぼくたち「本土の人間」がそう思わせることを今までしてきたんだし!

今もしてるんだからッ!


だから県外移設を主張している!


そこでぼくたち「本土の人間」はこう言い返すんだ!


自分たちの苦しみを、

今度は加害者として(・・・・・・)、ぼくたちに向けるのかッ?と!


これが!

ぼくたちの理屈だッ!

ぼくたち「本土の人間」の最悪な理屈なんだッ!


実際、面と向かって言われれば、ぼくだってそう思うさ!


沖縄の人たちだって、それがあることで苦しんでいるんだろう。

それを楽になりたいがために!

今度はそっくりそのまま、ぼくたちに向けるのかッ!ってッ!」


「の、昇……くん……っ」


 章子は……何も言えない。

 愛知県民であり名古屋市民でもある章子には、何も言うことができなかった。


 昇は、章子を責めている。

 沖縄の人たちの気持ちが分かるのかッ?と。


 だが、それと同時に、章子も守ってもいた。

 沖縄の人たちが、自分たちに向けてくる怒りと憎しみと哀しみを、

 同じ愛知県民や名古屋市民として、

 同時に懸命にも守っていた。


「でも……、それをすることを、

あの人たちは加害だとは思っ(・・・・・・・)てはいない(・・・・・)ッ!」


「え……っ?」


「思ってないよッ!

思うわけがないじゃないかッ!


彼らにはそれだけの「怒り」があるんだからッ!

ぼくたちが、あの人たちにそれだけの怒りを溜めさせて受けさせている!

溜めさせてしまっている!

そして、今も貯めさせ続けているッ!


でも手を差し伸べることは出来ないッ!

それをすることを本土の人間は竦むッ!

これも当たり前だ!

そうなれば今度は、ぼくたちが「怒り」を溜め込む番になるんだからねッ?」


 解決策はここで終わった。

 沖縄の人たちの苦しみを救う解決策が無い。


 章子と昇は、そこでしばらく沈黙する。


「でも……やっぱり、なんとかしなくちゃいけないよね?


同じ日本人(・・・・・)だ……。


あの人たちはきっと、同じ日本人と呼ばれるなんてのは「絶対にゴメンだしイヤだ」って言うだろうけど……。

やっぱり同じ日本人(・・・・・)だよ……。


こんな事ずっと続けてたら……、

あの人たちの苦しみは……いずれ、ぼくたちも受けることになる……」


「……う、うん……っ」


「じゃあ、それをどうするか?っていう話になるんだけど……。


だったら、元の問題を詰めていくしかないよね?


在日米軍基地の根元の問題……。

これって一体なんだと思う?」


「……ゴメン……わからない……っ」


 問いかけてくる昇に、章子は首を振る。

 わからないなんて許されないとは思っていても、

 実際章子には分からなかった。

 だから、いつまでも首を振る……。


 変わっていない……。

 その事実が、今の章子を苦しめている。


「この問題は思ったよりも簡単だ。


米軍基地にいる人たちの気持ちを考えること……」


「米軍の人の……?」


 章子の疑問の問いに昇は頷く。


「そうだよ。

米軍基地で働いている人たちの気持ちを考えることだ!


あの人たち……いったい何を考えてると思う……?」


「わからない……」


「じゃあ、望んでいる事は……?」


「望んでいること……?」


「そうだよ?

彼らだって生きてるんだから「望み」ぐらいあるはずだ。


それはいったい何だと思う?」


 問いかけられて、章子は考える。


「豊かになること?」

「自分が物を破壊する軍人として働いてて?」


 滅びを振りまく軍人が豊かさを求めるのか?


「人を虐げる事……?」

「本当にそれが目的で、沖縄でいろんなヒドい事件や問題を起こしていると思うの?」


 違う気がする。

 人を虐げるために軍に入るのは、どこかおかしい気がする。


 思いついたことを口にして形にした途端から、

 出した答えが、すぐに次々と消去法で消されていき。

 章子は最後には自分の答えを見失っていく。


「……ぼくの答えはこうだ。


あの人たちは、

きっとぼくたちに、自分たちの替わり(・・・・・・・・)をやってほしいッ!」


「……っえ……?」


 驚く章子が昇を見る。


「そうだよ。

あの人たちはそれ(・・)を求めてるんだ。


ぼくたちに銃をとれと言っているのさッ!」


 章子はやっぱり、半野木昇に近づけない。


「……たぶんね、

ぼくたちがそれ(・・)をやれば、すぐにでも米軍は引くだろう。

基地もキレイに無くなるんじゃないかな?


他人の国を守る為に自分の「命」を捨てるなんてバカげてるからね?


今はそれを本国からムリヤリ命令されているから、

仕方なく(・・・・)やっているだけだッ!


仕方なくやってるから!

その土地に住む人たちの事なんて深く考えずに行動する!

そりゃそうだッ!

彼らの本国は日本じゃないッ!

アメリカなんだからッ!


だから、沖縄の人たちは米軍の人たちは「沖縄」の事を考えていないと言うッ!

当たり前だッ!

米軍は日本の軍じゃないッ!


それを考えさせるために日本が行動する事は、越権行為だ!

そして、それをアメリカに訴えるのも筋が違うッ!


アメリカに訴える前に、日本自体が考えないといけないよ?


アメリカは、自分の軍人たちの代わりに日本人には死んでほしいんだからね……ッ」


「……え?……」


「アメリカはね?

沖縄から手は引きたいけど、引けないんだ。

沖縄……いや、日本周辺には、

米軍以外で展開できる友好国の軍は全く、存在しないからね?


まったくだよ?

全然いないんだ!


日本は使えない。金ばかりあるくせに命だけは張れない臆病国家だ。

じゃあ、他の国家ならどうだ?

それも心もとない。

やっぱり軍は持っていても、経済は日本と同等か上であることが理想水準だ……!

しかしそんな国は、極東アジアにはどこにもいないッ!

あるとすれば、抵抗国だよ。

敵対国ではないけど、自分たちと同等の権限を持つ抵抗国だ。

そういう使えない軍事国家しか極東アジアには存在しない。


だから自分たちしか行動できる軍はいない!

アメリカはそう思っている。


これの問題の解決は、簡単じゃない。


でも、負担を減らすこと(・・・・・・・・)なら出来るだろう……ッ!」


 昇がそう言うと、章子もその答えの先は想像ができた。

 昇は言おうとしている。


 昇が剣としてもつ力の、正反対の事を……ッ。


 章子は頷く。


「その通りだよ。咲川さん。


自衛隊の存在(・・・・・・)だ。


コイツを動かせば、日本の防衛だけはまかせて下さいよ、と言う事が出来る。


それでせめて沖縄だけは自由にしてくださいと懇願する事も出来るだろう。


でもこの手段はやっぱり問題だ。

それをする事はコイツに抵触する可能性があるッ!


この、日本国憲法第九条という法律にね?」


 笑っている昇が、章子に剣を見せる。

 章子には使いこなせなかった剣だ。


「そこで問題になってくるのが、

「自衛隊の合憲性」ってヤツだ。


改憲や護憲関連での憲法論争ではよく火種にもなるこのテーマだよ。


でも、ぼくから言わせりゃ、


自衛隊は合憲だ(・・・・・・・)……ッ!」


「……え?……」


 伺ってみる章子を昇は見る。


「自衛隊の存在は合憲だよ?


ぼくの憲法解釈でなら、そうなるね?


第九条という法律を「戦薙の剣」として行使してしまう、

ぼくの憲法解釈だと間違いなく、

自衛隊は合憲となっている。


なぜなら、もし!

自衛隊が違憲だと言うのなら!

日本にある『警察』という治安警邏組織まで『違憲』の対象になるからだッ!」


「……えっ?

ええッ?」


 またメチャクチャな事を言い出した。

 章子はもはや、ついていけない子供のぼるの思考を無視しようかと諦めに憶える。


「自衛隊が違憲なら、

もちろん、

警察も違憲だよッ!


例外はない(・・・・・)ッ!

それがぼくの『法解釈』だッ!


根拠があるッ!


『テロとの戦い』ッ!」


「……あっ……?」


「そうでしょ?


この言葉ってさ?

よく聞くよね?


『テロとの戦い』


でも、これってさ?

自衛隊が対応するの(・・・・・・・・・)?」


「……あ……アアッ?

……ッ?」


 そんなバカなこと……っ。

 驚くことしかできない章子はもう、考えることがイヤになっている。


「ぼくは聞いたことがないし、見たことがないっ!


当たり前だよっ!

自衛隊は軍対軍用の組織だッ!

自衛隊の運用想定は対軍を想定しているっ!


それをさ、

相手が個人かもしれない『テロとの戦い』にも引っ張り出すの?


まあ、アリと言えばアリかもしれないけどさ……。

融通が利かなさそうだよねぇ?

小回りが利かなさそうじゃない?


だからさ。

大体テロってものが起こった時に対応する為の訓練をしてるのって……、

警察(・・)なんだよね……ッ?」


「う、そ……だぁ……っ」


 章子は怯んで昇を視る。


「で!

もちろん「テロ」っていうのは国際紛争(・・・・)だっ!

国際紛争だよね?

日本国籍以外の人が起こせば、

間違いなく、テロっていうのは「国際紛争」だッ!

で、

それ(・・)を解決する手段に、警察が武力を行使する(・・・・・・・)っ!


ハイっ!違憲だよッ!

まるっきりの違憲だッ!


疑う余地はないッ!


これは日本国憲法第九条に違反しているッ!


警察は違憲の組織だ(・・・・・・・・・)ッ!


じゃあ、どうする?

じゃあ、これからをどうするのか?って事だ……!」


 昇は章子を睨む。


 そしてもちろん。


 この幼稚で稚拙染みた文章力の文を読んで下さっている目の前の……、


 あなた(・・・)にもッ!


「う、ぁああぁ……」


 章子はまだ呻き声を上げることしかできない。


 では、あなた(・・・)ならどうだろうか?

 同じ日本人のあなたなら、他の答えや言葉があるし導けるのだろうか?


「自衛隊と警察……。

これらの組織は常に「違憲」と「合憲」の狭間にあるッ!


でも、きみたちは、

自衛隊は違憲だと言う時もあるけれども、

警察が違憲だとは決して言わないッ!

口が裂けても絶対に言わないッ!


ぼくは別にそれを糾弾したいワケでも、責めたいワケでもないんだッ!

それはなぜなのか?っていうことを洗い出したい(・・・・・・)んだッ!


警察を違憲だと言わないからには、その根拠が必ずある筈だッ!

そして、その『根拠』を自衛隊は満たしていない!

つまり、

その『根拠』を自衛隊も満たせば、

自衛隊という組織は『合憲』になる!


なら、その『根拠』はいったい何だッ?」


 問い詰めてくる昇の声に誘導されて、

 半ば放心しかけの章子は半自動的な無防備の思考をめぐらす。


「警察と……『軍』の違い……?」


 上の空で呟く章子に、昇は頷く。


「そうだろうね?


警察と軍っていう組織にそれぞれ当てがわれた運用目的、役割の違いだっ。

なら警察と軍では何が違うのか……?」


「国内法規と国際法規……」


 唐突に呟かれた言葉に、昇と章子、それに周囲の人間も一斉に見る。


 呟いた張本人は真理マリだった。

 真理は落ちついた視線のまま自分の主である章子に向く。


「軍と警察の違いは、その組織に適用される法律の違いです。

それが特に、章子たちの現代社会では通例化している。


警察は主に国内法規が適用され。

軍は主に国際法規が適用される。

それに則り、従ってそれぞれの行動制限は課せられていく。


まあ、運用目的からも照らしだせば、当然そうなるでしょう。


軍は主に国外的に、警察は主に国内的に運用されるものですから。

だからそれらに対応する法律の規模も違ってくる。

と、いうだけのお話ですね」


「……その時によく出てくる「国際法規」っていう単語の意味がイマイチよくわかんないんだけど、

具体的に詳しく教えてくれる?」


 昇が訊ねると、主でもない人物の懇願に真理は一度だけ眉根を寄せるが、

 直ぐに章子の顔色をみて口を開く。


「……あなた方の概念では、

国際法規と呼ばれるものは、主に三つに分けられるらしい。


古くからある人々の国際交流だけで形作られた『慣習法規』。

国と国との間だけで定められた『条約』。

そして、

一般的な法治国家なら「理念」として通用するだろう、

どのような国家内でも国内法規としてすべからく共通している部分を指す万国概念である。

『一般法原則』。


この三つによって「国際法規」は成り立っていると認識されているようです。


その国際法規の中で、最も有名で事実上の最高で最強な拘束力を持つ、

国連憲章は『条約』に該当されますね。

国連加盟国に適用される多国間条約というものに分類される。


これら三つが主にあなた方の云う「国際法規」の内訳」


 言い終わると。

 直ぐに姿勢を正し、真理はまた綺麗な直立不動で、昇と章子の会話から距離を取る。


「教えてくれて、ありがとうございます。


と、するならだ……!

自衛隊は、国際法規ではなく!

国内法規の範疇で動けば、憲法違反にはならないッ!


これが、自衛隊が『合憲』でいられる最低条件だッ!」


 言い切った昇が、やはり章子を見て言う。


「自衛隊が合憲でいるには、国際法を適用させてはならない。

ってことは、やっぱり、

防衛目的なら『合憲』なんだよ!

日本国内で武力を使う分には『合憲』なんだっ!


国内法規は……自国内でしか適用できないんだからね?


ということなら、領土、領空、領海の中でなら、

自衛隊は侵入したものに対して国内合法的に実力を発揮できる。

発揮して行使し、拘束できる!

警察と同じようにだッ!」


「昇……くん……っ」


「でもこれには様々な制約がある。


まず一番もっとも目につく問題は、

やっぱり集団的自衛権は『違憲手段』だってことだ。

自衛隊は、他国法規や国際法規に照らし合わせちゃいけないんだからッ!


そして、この条件が浮き彫りにする最大の問題は、

『専守防衛』ということになるッ!


専守防衛は「後の先」だ。

日本国内で防衛戦をするってんだからね?

これは普通の軍対軍だったらまだ機能するけど。


いまや軍事力の主役は近代兵器だからね?


ミサイル使われたら、

この専守防衛はそっくりそのまま「本土決戦」に早変わりだ。

ミサイルはすぐに本土に着弾する。

その有事事態はすぐに本土決戦と呼ばれる戦場だよ!

専守防衛の広義である領海、領空が出る幕は完全に無いッ!


ミサイルが出て来たら問答無用で、

専守防衛は本土決戦と同義になるッ!

これを「違う」と言ってもいいけどさ?

そんな事、言ってるとまた死人だすよ?


昔の軍人さんと一緒だよ?

もう一緒にされたく……ないでしょ?


だからそれを予測しての、

敵基地攻撃なんてもっての他だッ!


そんな事は許されないッ!


ぼくたちはまず!

血を流さなくちゃいけないんだ!

ミサイルから防衛するには、

先に血を流す必要があるッ!

血を流してから!

初めてミサイルに対しての防衛は許される。


でも、これ言っちゃうと……、

じゃあ、攻撃されたらどうするんだ?っていう声が出てくるんだよね?


そうだなぁ……。

じゃあ、ぼくだったら……、

ミサイルで攻撃を(・・・・・・・・)されなきゃいい(・・・・・・・)んじゃない?」


「……え?

……ええっー」


 章子はもう呆れている。


「それをさせない為の手段は、確かにボクも持って考えてるけど、

それは、今は言わないよ?


ちょっとは、そっちも(・・・・)頭を捻って考えて下さいよ?」


 そう言って唐突に、


 現実こちらから文を読んで見ている、


 現実そちらあなた(・・・)に向かって幼い挑発をし、昇は問いかける。


「見えてるんでしょ?


この感想欄(・・・)に書き込んでもいいです。

あるんでしょ?

ぼくはよく知らないですけど。

そっちにもある(・・)と聞いてます。

別に沈黙しててもいいですけど、それは「無能」だと受け取りますよ?


こんな中二のガキに『無能』だなんて思われたくないでしょ?


答え合わせは、そうだな8月15日にでもしましょうか?

他にも宿題をいろいろと出しておきますよ?

それも一緒に考えといてください。


実はコイツ(・・・)の使い方は「もう一つ」ありましてね?


『平和洗浄』(ピース・ロンダリング)以外にも、

コイツの使い方が「もう一つ」あるんですよ?


それもたぶん、使うことになりそうです。


彼と戦うために……っ!」


 言って昇はクベルを見る。


「だから、その使い方もそっちで先に考えておいてください。

思いついたら書き込んでください。


別に誹謗中傷でも、何でもいいですよ?

それで解決できるって言うなら、どうぞご自由に。


それもやっぱり確かに!

「話し合いで解決する」ってヤツですからッ!」


「えっ?」


 茫然となる章子を、昇は軽蔑した目で見る。


「そうだよッ?

きみたちがよく言う、

問題を解決する為にやろうとしている「話し合い」ってヤツにはね?


『誹謗中傷』も含まれてるんだよッ!」


「は、はぁっ?」


 驚く章子を、それでも昇は吐き捨てる。


「話し合いっていうのは、


誹謗中傷も、

罵詈雑言も、

水掛け論も完全にッ、当然すべてが含まれてるッ!


それら全部をひっくるめて「話し合い」なんだよッ!


その罵倒だらけの「話し合い」ってヤツで、

きみたちは全てを解決しようとしている!


とんでもない理想論だッ!


そんなことッ、

ぼくには出来ないねッ!

逆立ちしたってできっこないッ!


話し合いには「ダンナの悪口」も含まれてるんですよ?

ウチの母親なんか、井戸端会議で近所の人とそんな「話し合い」ばかりに夢中です!


その話し合いだけで、子供にも重大な「家庭の問題」まで解決しようってんですから、

ほんとに笑っちゃいますよね?


だからもう、

僕は、あなた方とは交渉(・・)しかしないッ!」


 そう言って、睨んで、

 我々を見るッ!


「交渉には

罵詈雑言も誹謗中傷も水掛け論も、入り込む余地は存在しない!

そんなんで『交渉』なんて進まないし!成立しないッ!


だから……、

交渉……できますか?


あなたの平和と、ぼくの平和を交換だッ!


別にそれは日本人だけじゃなくてもいいッ!


周辺国にもいろいろ問題はかかえてますよね?


例えるなら専守防衛にも関わる、他国との領土問題だ。

それらの事案は……「長崎」あたりにでもお話しましょうか?

その方が、話にもいそうだ。


他にもまだまだ、ありますよね?

中国となら、南京虐殺問題がある。

犠牲者数は確か30万人でしたっけ?それは大変だ。

広島と長崎、それに沖縄ではそれぞれ何人の犠牲者を出してしまいましたっけ?

同じ日本人でも憶えてないんですよ?すみません。

だって、あの人たち、やられた光景はイヤって程、教えてくれますけど、

そこで何人やられたかなんて強く言わないんですもん。それじゃ憶えられませんよ。

え?それと比べられるのはイヤだ?

でも比べないと、ぼくは中国(あなた方)戦争いたみなんて分かりませんよ?

日本じぶん戦争いたみと、中国あなた戦争いたみとを比べないと、

ぼくは、あなた方に向けてしまった、過去のあなたの痛みがわかりませんよッ?

自分に痛みを感じる痛覚がなかったら、他人の痛みなんて分からないでしょうッ?


数を出すなら、日本こちらも数を出すし。

数を出さないなら日本こっちも数は出しません、っていう。

これは、それだけのお話です。


これ、交渉ですよ?


簡単でしょう?

それがホントか?ウソか?なんて別の話ですよッ!

そんなのは後でいくらでもわかります!平和になればね?


あとは他の国にもありますよね?

あんまり常任理事国以外の国は名指ししたくないんですけど、

近所のよしみです。

同じ国連加盟国でしかない、


韓国や北朝鮮にだって、日本は揉め事を抱えてる。


でも韓国の従軍慰安婦関連の議題はもう「問題」じゃない!」


「えっ!」


 驚く章子を、昇は一瞥する。


「悪いけど、もう従軍慰安婦関連の議題は『問題』じゃないよ?

それはもう終わった(・・・・)


「お、終わってないッ!」


「じゃあ、これは何だッ!」


 そう言って、ぺらりと見せたのは光学線で描かれた日韓合意文。


「これは『合意』のはずだッ!

それとも韓国の人たちは、

これさえも、

強制だった(・・・・・)』とか言っちゃうのかな?」


 怖い笑みで、全てを見る。


「そうかっ。

これは強制だったかッ!

こんな合意まで強制だったのかッ!

それがあなた方、韓国さんの言う『強制』ってヤツなんですねッ?」


 章子は……怯むっ。


「合意まで「強制だった」なんて言われちゃあ、もう何も出来ないよ。

でも!

韓国の人はまだ(・・)それを言ってはいない!

それだけが唯一の救いだ。


別に「韓国が合意しなければよかったんだ」なんて言うのは簡単だよッ!

結果論だと言ってしまえばそれまでだッ!


だけど、もう合意はしてしまったんだッ!

だからこれからは、

ぼくはぼくに誰かから従軍慰安婦関連で何かを言われてもコイツを見せるだけだ。

この紙切れ一枚、見せるだけ。

二国間での合意だからね?

他の国が別にそれに文句言ってもいいですけど、それ部外者ですよ?

あまり部外者は巻き込みたくないんですよねぇ。ぼくは。

二国間の議題ですから。

だって……他国同士での問答なんて、巻き込まれて辛くありませんか?

巻き込まれてる人も?」


 そう言って昇はあなたを気遣い、憐れみで見る。


「あと、韓国からの従軍慰安婦関連の「求め」は全て「要求」と受け取ります!

「求め」はすべて「要求」と見なしますッ!

それには一切、応じないッ!

それへのすべての解答は全て!

この紙切れ一枚を見せるだけですッ!それで終わりです!

これは「法解釈」だッ!

法解釈は、二国間の条約でも例外じゃないですよ?

法の世界では「法解釈」が頂点ですからね?


もし、それがおイヤだっていうなら、「法解釈」を駆使して『交渉』してきてください?

頑張って考えてください。方法はちゃんと残されています。

でも、交渉はね?

実利を相手に見せないと(・・・・・・・・)動きませんよ……ッ?


そんな大きな動きが、最近も(・・・)ありませんでしたか?

なんか、慌てふためいてたみたいですけど……?」


 そして昇は、全てを試して見る。


「ですから、最後は北朝鮮。あなたの国です。

そちらとの課題にも、もちろん取り組んでいきますよ。

こっちが持つ、あなたの国との課題は拉致問題だ。

そして、

そちらが主張して要求するのは、過去の大戦の戦争被害。


拉致問題は難しいですね。


これはあなた方には頑なだ。


だからまず……日本の拉致被害者家族の方と交渉してみましょうか?」


「……えっ?」


 章子は、

 昇が見てくる、自分の背後を見た。

 その場所には誰もいない。

 だが、半野木昇は確かにそこを見つめて訴えかけている。


「伝わっているかどうかわかりませんが、

拉致の被害者家族の方へ、


ぼくはあなた方を助けることはできません。

ぼくは実際に被害を受けた人間ではありませんから。

でもその「苦しみ」は、同じ日本人のぼくにとってもやっぱりすごく「辛い」んです。

だからヒントを、交渉として助言しようと思います。

なんか偉そうに言ってますけど、そこは凄く謝ります。

本当にすみませんっ。でもこれしかないので許してください。


で、続けるんですけど。


北朝鮮の人は、おそらくあなた方の「報復」を恐れていますッ!

それをあなた方も言われなくても分かってるってぐらい分かってるんですよねっ?」


「昇くんッ!」


 叫ぶ章子を昇は制す。


「やっぱり北朝鮮の人たちはね?

拉致被害者家族の人たちが言う、

「帰してもらうことだけを望んでいる(・・・・・・・・)」っていう言葉は、絶対に信用してないんだッ!」


「う……」


「あの人たちはそんな被害者家族の言葉は完全にまったく信用していない!

なぜなら、自分たちだったらそれをやる(・・・・・)からだッ!」


「え?ええっ?」


「するんだよ。

自分たちだったら、相手に拉致された被害の報復はするんだッ!

必ず、するし、仕返しもするんだよッ!

だから相手も当然、それをすると思っているッ!

これはいくら、

こっちの日本の拉致被害者家族の人たちが「絶対に報復はしません!」と断言しても無駄なんだッ!

なぜなら、彼らもそんな言葉は当然、「言う」からだッ!」


「そ、そんな……っ」


「これは日本側がどうこうすれば解決するっていう問題じゃないッ!

北朝鮮側だったら「する」っていう問題なんだッ!


で!

それを日本にはして欲しくないッ!

でも、自分たちはするんだッ!


拉致被害者を帰して欲しいと要求する。最初は「報復しません」と言う。

その後、実際に帰還が果たされる。時間が過ぎる。喜びは最初だけで、失われた時間が徐々に悲しみを憎悪に変える。

気が変わって、報復にでる!

この一連の動きを、北朝鮮が被害者側だったら、それを自分たちもやるんだよ。


気が変わってしまう(・・・・・・・・・)んだ。

誰でもあるでしょ?

気が変わることなんて?


それを、一度くらい日本側だってやった事があるんじゃないですか?


別にそれを責めたいわけじゃないんです。

誰でも、やるんですからッ!

そんなのは誰だってやるんですッ!


で、肝心の自分もするだろう北朝鮮側の最初の恐れている行動が、

実際に日本が最初に要求してきていることと一致しているッ!

ここで前提が最初から一致しているんだッ!


彼らは、日本が同じことをすると信じているッ!

理由は、自分たちだったらするからだッ!


彼らは日本の言ってる事を信じていないワケじゃない(・・・・・・・・・)ッ!

それ以上に自分の国がすることを信じているんだよッ!


他人よりも自分を信じる。それが人間だ。


この場合、日本側からは何を言っても無駄だ。

彼らは、自分というものに捕らわれている。

自分がすることを信じている。


イジメっ子の理屈とおんなじだよ。

自分はしてもいいけど、人からされるのはイヤだっていうあの理屈だ。

こういう時に、子供の時にやってた事が裏目に出る。


ここまで来ると、日本側が取れる手段は二つに一つだ。


泣き寝入りか、強制介入!」


「……ッ……」


 章子は歯噛みして下を睨む。


「泣き寝入りは最悪だ。

そして、

強制介入は分かりやすい。

これはそっくりそのまま武力介入でしかないからだッ!」


「う、うん……」


「武力介入の方は、自衛隊の問題と直結だッ!


で!

ここで繋がるんだッ!」


「え……ッ?」


「ここで繋がるんだよッ!


拉致被害者と拉致被害者家族の人たちの平和もんだいとッ!

沖縄の人たちとの平和もんだいとがッ!」


「は……?

……へ?

ぇ……ほぇ……ええッ?」


 放心に驚く章子を、

 昇は剣を宙に放って舞って掴むッ!


「ここで繋がるッ!


沖縄の人たちとッ!

拉致被害者の家族とッ!


さらには、これから来るッ!

広島の人たちや、

長崎の人たちや、

名古屋も、

愛知も、

東京も、


日本全国の全ての平和がねぇッ!」


 そして昇は全てに唱えるッ!


琿无エクサムッッッっっっ!!!!」


 叫んだ昇の声で、

 章子や、日本人の全ての隣に、


 昇と同じ「剣」が現われる……。


 日本国憲法第九条という、姿の無い「剣」が。


 もちろん。当然。

 このヒドイ文章力の文を読んで下さっている、


 あなた(・・・)のその隣にも…………ッ!


剣界(ソルディア)……っ?!!」


 呟いた、熱の許約者、クベルの言葉。

 その名は魔導国家ラテインに伝わる、由緒正しき決闘術式。


「剣をとれッ!平和を装填しろッ!」


 昇は今こそ。


 全ての日本人を見て、

 全てを叫んで命じて見据える


「それは平和です。

特に全ての被害者(・・・・・・)にとっては、なけなしの平和だッ!


それを交渉の道具にしてくださいッ!


その剣は……あなた方にも使えるッ!

使えるはずだッ!

同じ日本人であるのならねッ!


だから、

ぼくも、あなた方に交渉を持ちかけますッ!


いきなりの交渉を持ちかけますよッ!


それでは、まずは!

拉致被害者家族の人へ!

あなた方はこれから、

「報復をするぞ」と、その言葉をしっかりと北朝鮮に明言するべきだし宣言するべきだ!

そうすれば、少なくとも彼らは「報復をされるかもしれない」という不安だけは無くなります。

憶測だけは止めるでしょうッ!

必ず報復されると分かっているからですッ!

そうすれば安心して、「どういう報復をされるのか」だけ(・・)に専念して警戒するでしょう。


次に、

沖縄の人へ!

あなた方の土地には素晴らしい言葉があるッ!

ぬちどぅ宝』という言葉です。

この言葉の中にある、「命」とは何かという事をハッキリさせて頂きたいッ!

その『命』とは、

人間だけの『命』のことを言ってるんですか?

それとも、

地球上に生きる全ての『命』のことを言ってるんですか?

そこをハッキリさせてくださいッ!

そこをハッキリさせてくれれば、

あなた方を苦しめている基地問題もハッキリできますッ!

なくなるか、そのままかをハッキリできるッ!


この答え合わせは、いまここでしましょう。


もし、

『命どぅ宝』の命が、

人間だけの命を指しているのなら……基地問題はそのままです。そのままそこに残りますッ!

あなた方は、安心して被害者のままでいられるだろうッ!

しかし!

『命どぅ宝』の命が、

地球上の全ての命のことを指して言っているのなら!

きっと必ず!基地問題は解決できるでしょう!沖縄本島から基地がなくなることだって可能になる……かもしれないっ。

すみません……。断言はできません。でも、なくなる可能性は高くなるッ!

なぜなら、地球上の全ての命が「宝」であるというのならッ!


あなた方、沖縄の人は……絶対に「加害者でしかない」からだッ!」


「昇……くんっ……!」


「加害者だよ。

沖縄の人たちだって加害者だッ!

全ての命が宝だったら、沖縄の人たちだって例外じゃないッ!


そのお宝を他から奪って生きてるんだッ!

例外だなんて言わせないッ!


その誇りを見せてくださいッ!


そして加害者であれば……米軍の代わりだってできるでしょう!

同じ加害者なんですからねッ?


命はすべて……『同じ』宝ですよッ!


人間も!ほかのムシケラもねッ!


その「命」を食べて生きてるんですよッ!ぼくたちはッ!

だから沖縄の人たちも加害者です!


それとも?

『いただきます』とでも言えば、免罪だとでも思ってるんですか?

『ごちそうさま』と言えば、食べられた生物は許してくれると思いますか?


『人間さまに美味しく食べられて、死んだ生き物も幸せだろう』とか、

あなたもそういうこと言っちゃうクチなんですかッッッ?


そんなんだったら、

ぼくは、そんなあなた方にこう言っちゃいますよ?


『美味しく食べてやるから……死んでくれませんかッ?』ってねッ?」


「の、昇くんッッッ!!!」


 その言葉はダメだっ!

 その言葉は絶対に言ってはダメだッ!


 例え、心に思っていても、その言葉は言ってはダメなのだっ!


 その言葉は……っ、

 その言葉は「沖縄の人」にとって……、


 いや……それ以上に「人間のすべて」にとってっ!

 言ってはならない言葉なのだとッ!


「何だいっ?

他の生き物には「美味しく食べてもらえて幸せだろう」とか言っちゃうくせに?

自分たちがされるのはダメなのかいッ?


面白い理屈だねぇ?

同じ(・・)「宝」とは思えない思考回路だッ!


まあ、その気持ちもわかるよ?


ウチの家族の一家団欒の時でも、

こういう話をしたら似たような反応しか返ってこなかったからね?」


 そう言って、暴言を向け続けてあなた(・・・)を見る。


「その時の、ウチの親父が放った言葉を教えてあげましょうか?


そんな話を食事中にされたら、

『食ってる飯がマズくなるッ!!!』とか言ってくれやがりましたよっっっっ!!!!


あのクソ親父はッっっっっ!!!


あはっ

あははhっはhhっはははっははっははhっはhっははっははkはああああははははっはっはっははっははっはhhっはhhっはっははっははっはっはっははhはははっはははっはははっははははあっっっっ!!!


メシがっ!

メシがマズくなるんですってッ!


これを言っちゃうと、

食べてるメシがマズくなるからやめろ!とかホザいてましたよッ!


ウチの親父はッっっっっ!!!


きっとあなた方、

沖縄の人も同じ気持ちでしょう?


美味しくご飯を食べたいですもんね?


マズいメシなんて、食べたくないですもんね?


でもですね?


ぼくは食事中に、

あなた方、沖縄で起こった事件の話をテレビ越しで聞いたりなんかしていると、

その食べてるご飯が美味しくないんですよッッッッ!!!!」


 叫ぶ昇を、

 章子はもう、……目を逸らして見ていられない。


「ご飯、美味しくないんですよ。

あなた方の苦しみで美味しくないんですよっ。

それって、

主食やオカズにされてる「命」も一緒なんですよッ!


ハンバーガーに挟まれて、タレの水分でシナシナ、ベシャベシャになってるレタスを見ると、

人の溺死に見えるッ!実物なんて見たことありませんけどね?


そして、

スーパーなんかで売られてるパック詰めの「海老」なんてのは首なし死体だッ!

ブラックタイガーってエビには、生きてる時は「頭」があるなんて初めて知りましたッ!


こんな無知な子供が、こんなワケわかんないコト言ってんですよッ!


そりゃメシもマズくなりますよッ!

だから食べられるために奪われてしまった命が、美味しく食べてもらいたいと考えているなんて!

そんなのただの妄想ですよッ?


じゃあ、どうして欲しいのかっ?


それも……考えといてください。

敗戦の日(・・・・)に答え合わせをします。


ぼくが今まで奪ってきた「命」を、

ぼくはどう勝手に介錯しているのかって事をね?


だから沖縄の人たち、あなた方も加害者だ。

自然に感謝していたってスジ違いですよ?

加害者の事実は消えませんよ?

そして、加害者を自覚すれば米軍基地も無くなりますよ。


米軍の人たちは「代わりになってくれる加害者」を求めていますからね?


……もちろんっ、

その時には、あなた方だけにはさせません。

ぼくも同じですから(・・・・・・)


ぼくも沖縄の人たちとまったく同じで……加害者ですもん。

だから、その時には、一緒に加害者になりますよ?


これも……交渉です……。


今度は(・・・)、あなた方だけにはさせやしないッ!


同じ加害者として、なるべく先に前に出て、

今度はちゃんと(・・・・・・・)逃がします(・・・・・)からッ!」


 視線だけは強くして言う昇を、章子はまだ直視できない。


「それで……、


今度は広島と長崎です。

あなた方の望みは「核廃絶」だ。

それの最短距離を教えます。

あなた方のそれぞれの日時に、

それとは全く関係の無い「沖縄」や「拉致被害者家族」の事を取り上げてください。

そうすれば、きっと「沖縄の人たち」や「拉致被害者家族」の人たちも「核廃絶」に今よりももっと協力して動き出してくれますよ?


そうすればきっと近道でしょう?

関係の無い人まで「核廃絶」のことを考えてくれている。

これ以上の近道なんてないでしょう?


これも交渉だ。


さて、

そんじゃ最後は日本国外だッ!」


 頭をポリポリ掻いて、昇は遙か遠くを見る。


「北朝鮮の人、

ぼくは同じ日本人の拉致被害者家族の人たちに、

あなた方から受けた拉致被害の「報復は必ずする」と断言しろと唆しました。


今のあなた方は、この発言を聞いて全ての窓口を閉ざしていることでしょうね?

そして取り返しのつかない形で憤慨している。

まあ、それはそれで当たり前のことです。別にそれはいいんです。


こっちの目的は、そちらの「不安」を取り除くことにあるんですから。

報復されるかもしれないという「不安」をですよ?

そして、

事実、そんな不安はもうないでしょう?

確実に報復は受けるんですから。


とすると、残った最後の心配は、

これから、あなた方が「どういう報復を受けるか」だ」


「え?」


 驚く章子を昇は見る。


「どういう報復を受けるのか?

今のあなた方はその事で頭が一杯だ。

でも安心してください。


日本は、あなた方には、ちゃんと報復をします。

その報復をちゃんと受けていただきます。

でも、その報復は、あなた方が恐れている『報復』のやり方じゃない(・・・・)っ!」


「は……、はあ?」


 また、昇が何を言い出すのかが分からない章子は、顔を上げて昇を見続ける。


「あなた方、北朝鮮の人には、

あなた方、北朝鮮には出来ない形での「報復の形」を受けてもらうッ!


その『見本』を、いまから日本側こちらから先にお見せします。


拉致被害者の帰還は日本側の望みだ。

そして反対に、

あなた方、北朝鮮の方にも「望み」がありますよね?


日本に過去の戦争の責任をとってもらうという積年の「望み」がッ!


しかし、それは北朝鮮の人たちだけの望みじゃない。

北朝鮮だけじゃなくて、

韓国、

中国、

ロシアなんかも混ざるかもしれない。


だから、それらも全てひっくるめて、

最も身近な常任理事国である「中国」という大国を代表者として対応しましょう。


中国の人、あなた方は今、北朝鮮と韓国とロシアなどの代表だ。

それらの国を代表して、日本に戦争責任をとらせようとしている。


もちろん、その責任は取ります。


ただし!

もう「おカネ」は支払いません!」


「昇くんッ?」


「賠償金はもう支払いませんっ!

おカネじゃ、あなた方の「恨み」は晴れないでしょう?

だからもう「おカネ」は払いませんっ!


たとえ、「おカネ」で解決できると、あなた方が言ってきても、

こっちはもう二度と払いません(・・・・・)


おカネで解決できるなんて、こっちは思ってませんからッ!」


「え?」


 声を出す章子を昇は見る。


「おカネで解決できるわけないでしょ?


失った命を「おカネ」で解決できたらね?

そりゃ「保険金殺人」だッ!」


「そんなッ!

違うッ!

それは絶対に違うッ!」


「ほんとにぃ?」


 昇はなお疑って見る。


「家族が死んで!

その死の代わりに「おカネ」が入って来てッ!

それでそのお金でほくそ笑んでたら……それ……保険金殺人でしょ!

家族を失った悲しみで、代わりに入った金がずっと使えないってんならまだ分かるけど……。


もし、人の死によって入ってきたおカネで家族全員が喜びでホクホクしてたらね?

そりゃ保険金殺人と一緒だよッ!


例えばいま!

ぼくの家族が、あの地球で、

ぼくが居なくなったことで、お金が入って、

みんなだけでホクホクしてたら、今のぼくだってそう思うさッ!

家族を憎むぐらいにそう思うだろうッ!


だからそれは保険金殺人だ。

家を飛び出してこの転星という惑星ほしに来たボクが言うんだから間違いない!

しかも今、問題にしてるのは、

自分から家出した人間じゃなくて人に殺された人のことだよっ!

だったら、なおさらホクホクなんてできるわけないだろう!

それでホクホクしてたら、やっぱり保険金殺人だッ!


いらないダンナ殺されてホクホクするかもしれないウチの母親と一緒だよッ!

いや、実際そんな事はしないんだろうけど。

たとえるなら、そんな感じだっ!


だから「おカネ」では解決できない!

ぼくはそう言っているッ!


もちろん、これの反論として「おカネ」で全てが解決できるという人も出てくるだろう。


まあ?

際限なく(・・・・)「おカネ」を積めば、問題は解決はできるだろうねぇ?


だいたい「おカネ」で全てが解決できると思ってる人間って、

出す「おカネ」の上限、無制限で考えてるからね?」


「え?」


「払えるおカネの上限を無制限にすれば、そりゃ大方の問題は解決できるさッ!

もちろんそれだったら「戦争責任」だって「おカネ」で解決できるだろう。


もちろん……?


払い続けていればね(・・・・・・・・・)ッ……?!!!」


「ぁ……そ、いや、あぁ……ぁ……」


 なんでそんな嫌味な言葉がポンポン出てくるのか、

 もはや章子は呆れるしかない。


「なんかよく聞くよねぇ。


おカネ、

いつまで、

何回、

払い続ければいいんだ?って。


賠償金の話になるとさ?


そりゃ、おカネで解決しようと思ったら「無制限」でしょう?

おカネは「無制限」に出せば、なんでも解決できると思ってんだからッ!


だから、

おカネを払い続けてる間は、戦争責任は解決だッ!

でも、おカネってさ、消えるんだよね?

使い切ったら消えるんだよ。

おカネは使ったら、キレイに消えて無くなるものなんだからね。


なんか寂しがり屋らしいからね?

おカネって。

で、消えたら、また解決していないってことになっちゃうワケだよ!

解決していた「おカネ」が、もう無いんだもんね?

だから、おカネで解決したいならまた補充するしかないよねぇ?

だっておカネはそこに存在していないと意味がないんだからさぁッ?

無制限じゃないとおカネでは解決できないんだよ?

何事もね?


そして、

もしそれで「上限有り」の「おカネ」で解決しようと思ってんならね?


そりゃ、一生、

おカネじゃ解決……できないよ(・・・・・)?」


「う……ぁぁっ」


 章子の絶句も構わず。

 半野木昇は資金というものの限界を断言する!


「出す「おカネ」の上限を決めちゃったら、

そりゃ「おカネ」では解決できない物も出てくるだろうさ。

だっておカネが足りないんだからさッ!

おカネが足りなかったら、それはその時点で解決できてないって事だッ!

で、無制限だったら解決できる!

これが、

おカネの解決方法の論理ロジックだよ!


だからおカネで全てが解決できると思ってんなら、

永遠におカネは無制限に払わなくちゃいけないんだよっ!


でも、ぼくはおカネじゃ解決できないと思っている側の人間だっ!

だからぼくはもう!

おカネは払わないッ!


だから!

中国の人や、その他の国の人たち!


ぼくはこれから!

お金では買えない価値(プライスレス)」!……っていうヤツで!

あなた方への戦争責任の賠償をしますッ!」


「えッ……ッ?」


 お金では買えない……価値……?


 章子が思いを呟くと昇は頷く。


「そうだよ?

たとえば……平和……とかでね?」


 言葉が、実利を生む。


 実利が……、

 生まれようとしている。


 何もない所から、

 半野木昇は実利を生み出そうとしている。


「たとえば、こんな「平和」による賠償方法はどうですか……?


中国あなたの国民は、

きっと自分たちの国が住みにくいと思っていることがあるでしょう。

日本人でも自分の国が住みにくい、なんて思うことはよくありますからね?


それが暴動にもなって大事件になってしまうと、

鎮圧に走り回るのも一苦労のはずだ。


じゃあ、その不満を溜め込んでいる中国の国民のみなさんに日本ぼくはこう言うんです。


〝あなた方の国って……住みにくくないですか?〟って」


「昇……くんっ」


「もちろん、これは中国の政府の人からして見れば、

国家転覆煽動罪だッ!

内政干渉も甚だしいッ!


だからそれと同じ事を、

中国政府あなたにも、こう提案するんですよ?


〝あなた方の国民って、扱いにくくないですか?〟ってねッ?」


「なんて……ことっ」


 章子はもう絶句しかない。


「これは両者に実利がある筈のお話だ、


中国の国民にも、政府にもね?


中国の国民は政府に不満がある。

中国の政府は国民に不満がある。


国民が国民なら、国も国だし、

国が国なら、国民も国民ですよ。

それは万国共通の悩みでしょう?


でも……、

ぼくの手にかかれば、

その万国共通の悩みも一挙に満足かいけつさせることができるかもしれませんよ?


『共通の平和』として……解決できるかもしれないッ!

コレを使えばね?


この力は「おカネ」じゃ買えないでしょうッ?

いくらおカネをかけて積んで払ってでも欲しい「平和あんてい」のはずだッ!


それを先の大戦の戦争責任の「賠償」として提供しましょう。


どうです?

この話に一口、中国さんも乗ってみませんか?」


 笑って放つ悪魔の交渉を口遊む昇を、章子は竦んで見る。


「と、まあ、こんな感じの事を……、

拉致被害の報復として、

北朝鮮の人にもやってもらうワケですよ。


ぼくが日本だったら間違いなく、北朝鮮のあなた方にこういう報復をしかけます!

ぼくたちは、あなた方には拉致被害の報復として、

責任をもって「平和」という『賠償』を払ってもらうことを要求するッ!

だから安心してください。


お金を払えとは言いませんよ?

同じ事をされろとも言いません。


謝罪はきっと、あなた方の口から自然と出てくることだろう。

自分たちに与えられる残酷なほどの平和過ぎる平和をその身に受けてね?


平和になれば「天国」になると思っていたら、大間違いですよ?

平和の中にも「地獄」はあります。

そりゃあ、もうヒドイ地獄がありますよ?

自分の今までしてきたことが、「平和」の中では地獄になるんです。

自分の命を絶ちたくなるくらいの「平和な地獄」に。


平和の中で飼い殺しにしてあげますよ。


戦力も持てない「平和」の中でね?


だから、あなた方には我々を「平和」にして頂きますッ!

受けた被害は、

日本からの報復として平和を賠償として請求させてもらうッ!

その方法は日本こちらが教えますッ!


それはコイツが教えてくれますからね?


これは北朝鮮あなたたちでは絶対に出来ない「報復」だ。


だから安心して、日本の報復を受けてください。

日本ぼくを平和にさせてください。

その為の「おカネ」も「軍」も必要ない。


あなた方には「平和」という価値で払ってもらう。

あなた方が「平和」になることによって!


これがぼくが日本だった時の『日本』のする報復ですッ!」


 報復を宣言する昇が、全てを見る。


「さてと、

これであらかたの交渉は終わったかな。


こんな子供の交渉じゃ、国際問題の解決なんてなんの役にも立ちはしないだろうけど。

でも、だいたい、

ぼくが言いたいことは、そこそこは分かってもらえただろう。


それじゃあ、


「沖縄の日」の最後の仕上げだッ!


真理さんッ!」


 叫んで昇は、章子の下僕であるはずの真理を呼ぶッ!


 真理にもその呼ばれた理由は分かっていた。

 だから語る。


 戦争とはどういうものなのか?


 『戦争の定義』


 かつて、一年前の我々を最大限に侮辱し、冒涜し、追い詰めた、

 ある日の「長崎の日」にも宣った、一つの言葉の一部始終を。


「……あなた方、

人間の言う『戦争状態』、

あるいは『戦争状況』とはね……?


『双方が、双方の捕食者であり(・・・・・・・・・)、または被捕食者でもある状況』を言うのですよ。


これが、あなた方の最も求めていた、

戦争というものの完全な定義です。


だから、あなた方は、戦争は悲惨だと言う。

戦争は悲惨だから、やめようと言う。


で?

止められますか?


被捕食、いわゆる「被食」という被害が出れば、あなた方は『加害』に転じる。

転じざるを得ない。


威嚇を超えた捕食という加害をね?


あなた方は草食ではなく、「雑食」なのだから。

それは途轍もなく貪欲な雑食だ。

その食欲には「底」がない。


食欲に「底」のある肉食動物よりも尚、性質タチの悪い「雑食」ですよ。


その底なしの「雑食」が加害には転じない?


まさか?

威嚇という最低限の防衛的な加害にも転じずに?


そのまま、

食物連鎖と同じ、さらにか弱い者にその矛先を向ける?


それもしない?


では、強きを挫く?

強きを挫いて、強きを加害する?


それを、せめて、

威嚇だけの比較的平和的な加害で済ませる?


しかし、強きはそれを威嚇だけだと済ませるでしょうか?

強きは、同じ強きであるあなた方の息の根を止めにくるでしょう。


それだけ、立ち位置的には対等なのだから。


そしてさらに、

強きを加害すれば、

その時、その強きは被害者となりますよ?

同時に、そこであなたは加害者となる。


そこで、

あなたが『宣戦の布告者』となるのです!」


 そして真理は昇を見るッ!


「ほら?

戦争の始まりだッ!」


「さあっ!

交渉の始まりだッ!」


 昇はいまこそ再び、

 世界の敵となって再度に立ち塞がるッ!


 その姿を目にして、

 語る真理は、さらに悪意で目を据える。


「……それとも、

お話し合いで解決しますか?


捕食という加害を加えられても必死に耐え抜き?

お話し合いで解決を?


その時に、話し合いの為の会食の場は設けれらますか?

酒宴は催されますか?


その肴は……いったいどこから(・・・・)……?


その入手は……加害ではない……?


まあ、いいですよ。

それでお話し合いをしていって……。


そのお話し合いだけ(・・)で、

あなたのお腹がいっぱい(・・・・・・・)になればいいですね(・・・・・・・・・)……?」


「なってやるさッ!」


 昇は、真理のかつての問いに自ら答えっ!


 全てを睨んでそう宣言するッ!


「なってやるよッ!


交渉だけで、お腹いっぱいになってやるッ!

いや!腹八分目が理想的かなっ?


でも

そんなのはどうでもいいよッ!


戦薙エクサムッッッ!

分かっているな?

これから全ての戦を薙ぎ払うぞっ!


よかったねっ!

クベル・オルカノくん!


ぼくは確かにきみと決闘しようッ!


マグニチュード12の!

史上最強の!

隕石級の災害を引き起こす!

許約者ヴライドのきみと決闘するッ!


その時は、過去の戦争でぼくたちが敗けた「あの日」だッ!」


「……うれしいよ。

半野木昇。


ボクも、ボクの全力を持ってキミに立ち向おう。

その日がすごく楽しみだ。

ぼくの望みがやっと叶うッ!」


 両者相立つ、闇夜の道で、


 やはり日本人の少年は、


 最後にはきちんと、

 我々(・・)にも向くのだった。


「……というワケです。


その日までに、出された宿題の答えは考えておいてください。


夏休みの宿題は結構出てますね?


なんでしたっけ?


・日本が、どこの国から撃たれるか分からないミサイルから撃たれない方法。

・日本国憲法第九条の「もう一つの使い方」

・食べられる「命」は、食べてくる「命」に対して、どういう感情を持っているのか?


ぐらいでしたっけ?


では、

あとはこれ以外に、さらに他のもう一つの宿題も出しておきます。


実はこの日本国憲法第九条という法律はですね?


〝被害者〟には使えないんですよッ!」


「あっ……」


 気付いて昇を見る章子は、今日何度目かになるか分からない驚きの声を上げる。


「……これはね?


被害者には使えないんです。

この法律の文章は「被害者」には使えないんですよ。


これは「剣」ですからね?

『剣』は被害者には使えないでしょう?

剣ってそういう用途に使う道具じゃないですもんね?


じゃあ、なぜ?

この法律は『剣』なのか?


その理由が何故かも、考えておいてください。


ヒントは、コイツの三つある欠点の中の一つにあります。


コイツにはですね。

『復讐者の望みは叶えられない』って欠点があるんです。

その欠点が、被害者がこの法律を使えない理由です。


では「敗戦の日」までに、その理由を見つけておいてください。


この!



 日本国憲法 第九条


 1.日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動た

   る戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段とし

   ては、永久にこれを放棄する。


 2.前項の目的を達する為、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。

   国の交戦権は、これを認めない。



という文が、なぜ!

「被害者」には使えない『剣』なのかという理由を。


この宿題の答えは、憲法の専門家である「憲法学者」という人たちでは、たぶん解けません。

でも、犯罪心理学を齧っている人になら、すぐにでもその理由がわかっていただけると思います。


そういう(・・・・)文ですから。

この法律に書かれている文章の内容は。


答え合わせは、「敗戦の日」です。


ではまたお会いしましょう。


たぶん、次は……」


 そう言って昇は、素っ気ない視線の真理を見て言う。


「広島の日でしょうから……」


 戦争と平和の決戦が始まる……。





・この物語はフィクションです。


・この日本国憲法の使用方法は理想論です。


 使用上の注意をよく読み、用法 用量を守って正しくお使い下さい。


・今回の日本国憲法第9条の全文は全て、Wikipediaさまの文章より抜粋させていただきました。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ