37.マグニチュード12
「とはいえ、
先には大袈裟にも、ああは言ってしまいましたが、
実際問題。
これはすでに、戦争にもならない」
睨み合う竜と少年。
今にも始まろうかという、
両者を見下ろせる高台の上から、
目下で繰り広げられようとしている光景を見つめて、
真理は言う。
「……その答えは簡単です。
マグニチュード3。
つまり、
M-3級の力を持ったまま闊歩しているだけの巨大生物と、
M-12級の力をいつでも発揮できるただの人間とでは、
その実行できる出力規模が余りにも違い過ぎるからです。
戦争の定義とは、
この虚構の中では、すでに過去に、完全にハッキリとさせてしまいましたよね。
〝双方が双方の『捕食者』であり、『被捕食者』でもある状況〟
これを『戦争』と呼ぶのだ、と。
しかし、その定義に当てはめるなら……。
M-3級の生物と、
M-12級の人間とでは、
はたして、
〝双方が双方の捕食者〟……足り得るのでしょうかねェ?」
嗤って伺いながら、
真理は、我々を見て断言する。
「ムリです。
それはムリですよ。
ムリですよね?
たかがM-3級の地震と、
あのM-9級の超災害であったはずの「東日本大震災」ですら遥かに凌ぎ、
それのさらに約三万千五百倍の破壊力さえ発揮してしまう、
地球を真っ二つに出来る力、
M-12級の最終災害とが……、
同じ捕食者同士になれるわけがないでしょう?
その光景は、完全にあの「食物連鎖」の領域でさえ、簡単に飛び超える。
M-3級のあの竜が、威嚇でしか抵抗できない喰われるだけの「草食動物」はおろか、
M-12級のあの少年でさえ、威嚇さえする必要のない、喰うだけの「肉食動物」それ以上の存在にしかならないのですよ。
その力の差は……、
単純計算で見積もっても、
31兆4千億倍……もの開きにはなるのですからね」
「さ……三十一兆……四千億?」
途方もない数字を聞いて、
放心するしかない章子を、真理は隣で流し見る。
「そうですよ?
あのM-3級の災害規模の塊であるドラゴンと、
あのM-12級の「ただの少年」とでは、
それだけの力の差が歴然としてあるのです。
そんな者同士が戦ったところで、
戦争になると思いますか?
なりませんよ。
なるわけがありません。
むしろそんな戦争の中で、みみっちくも起こる戦闘や虐殺にさえもなりはしない」
「え?」
「当然でしょう?
それだけの力の差があれば、
それはすでに虐殺にもならないし、
侵略にさえもなりえません。
さらには、
それよりも最も基本的で根本的な、
「捕食」や「屠殺」という食物連鎖にすら、なることがないッ!
なぜなら、
「彼」はすでに、
『食事さえもしなくていい』人間なのですからっ」
言って、真理は睨んだまま見据える。
「では、
仮にそうだというのであれば、
この状況は、これより先ではどうなるのか?
……よく見ておくといいですよ?
彼は、
あそこにいるだけで、
あの竜を下す……ッ!」
真理の目に、強い意思の色が浮かんだ。




