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―地球転星― 神の創りし新世界より  作者: 挫刹
第二章 「覇都の遺産」
21/82

19.水と火


「元来、水の槍ペンティスラという鍵に与えられた真の役割とはまさに文字通りの意味での「鍵」でした」


 真理マリは歩きながらそう語りだす。


 列の先頭となって歩く真理の背後には、章子やオリルたち四人が続き、

 それら合わせて五人が歩く、そこは、

 地平線かと見紛うほどの遥か彼方に広がる稜線まで、なだらかな傾斜の登り坂が続く荒涼とした大地だった。


 第五世界、サーモヘシアの中でも最大規模を誇る巨大な成層火山。

 カツォノブレイッカ山。


 その頂上にある唯一火口までを目指して五人の少年少女たちは富士山よりも遥かに緩やかな斜面をゆっくりと。

 だが確実に一歩ずつ登り進んでいた。


「鍵、というのは正真正銘、文字通りの意味です。

閉じられた扉、あるいは封じられた箱に掛けられた錠を開けて中身を取りだすためだけの鍵。


水槍ペンティスラは「何かをきっかけ」として、予め槍内部に記録させてあった情報を元に、「それ」をそっくりそのまま、ペンティスラを発動させた惑星の、その正反対にある公転軌道上に発生させ、出現させる為だけに用意された代物だったのです。


要は記録してあった「覇都」そのものまであった地球を、元通り完全な同じ状態で別の新惑星として地球の反対側の軌道位置に出現させるという、反地球創造装置カウンターアースバシステムだったのですよ。


それだけ(・・・・)が、その水のみで象られた槍に隠された真の役割だった」


 真理は一つずつ思い出すかのように語っていく。


「彼らギガリスの民は、それだけ自分たち以外の他への可能性の姿を欲求していた。


彼らの瞳にはもはや世界の全てが0にしか映らなかった。

それは一言で言ってしまえば「想像力の欠如」です。

全てを0で覇してしまった彼らは、その先の自分たちの姿を0とすることしかできなかった。


それは現在、真理に辿り着いているオワシマス・オリル。

あなたにも厭と云うほどによく分かるはずだ。

あなたも傍にその少年がいないと「自分たちの先」が分からない。

その脇で歩く少年の存在だけが、今も0に捕らわれたあなたとあなた方の世界のこれからを照らしだしてくれるのですから。


……しかし当然、過去のギガリスには肝心の彼はいなかった。

そして、過去のリ・クァミスよりも先に真理しんりに辿り着いていた我が母ゴウベンは、その衰えていくギガリスの姿を逆に糧としていた。

その0として衰退していくギガリスを、残酷にも母こそが「ある一つの0の可能性」として端から捉え、観察して傍観していたのです。


マヌケにも他の可能性を欲するギガリスは、そんな事にも気づかずに衰滅していきます。

自分たちが一つの滅びという可能性を母に観せているという悲劇喜劇観劇にも気づかずにね。


だからそれに気づかないまま、彼らは彼らよりも重い未来に、自分たちでは描けない可能性を期待していた。


彼らには一つだけわかっていた真理があった。

それは「想像力を描く者は決して万能であった試しがない」という真理です。

想像力とは、

いえ、閃きとは常に「欠けた者」にしか掴めないと。


同時に彼らは、自分たちが0となった後の世界が、自分たちの科学技術よりも劣っていると想像することはできていた。

いえ、違いますね。

彼らは、それを想像すること(・・・・・・・・・)しか出来なかった(・・・・・・・・)

自分たちが万能()だと判じるギガリスは、それよりも先の未来だけは劣化()していると判っていた。


だから期待した。

その劣った未来では、自分たちの描けなかった可能性のいったい何があるのかを!


そして勿論、ギガリスは期待するだけでは満足しなかった。

その想像できない未来時代に「自分たちも現われて見てみたい」とそう望んだのです。


その為に遺したものが「槍」だった。

正確には「槍」と「危機」ですね。


彼ら覇都ギガリスは実に狡猾だった。


上手く願望を煽る「危機」と、それに叶える「希望」を釣り合うように等しくそこに遺していたのです。

だから己を忘れ、滅びゆくギガリスは最後の最期までその「危機」をあえてそのまま放置した。

「危機」は、否応なく発揮しなければならない想像力をその当該する時代にも効率よく強いるからです。


そしてその危機から逃れようとする悲願の未来が抱く「願望」こそが、ギガリスの恣意的に用意した「きっかけ」だった。


あなた方、サナサたち、第五世界の人々には想像もできなかった事でしょう。

自分たちの救世を願う純粋な願望こそが「ダシ」に使われていたことに。


だが、それだけギガリスも追い詰められていた。

他ならぬ、自分という0に。


だから「鍵」を仕掛けたのです。


例え、その鍵によって現われる者たちが「自分たちと瓜二つの別人」であったとしてもね……」


 その真理の澄ましていう言葉に、首を傾げる声があった。


「……それが……よくわからないんだけど……」


 陶酔して語る真理マリの最中を止めたのは章子だった。


 いままでを聞いていた章子にはやはり分からない事があった。


 自分たちが死んで、それ以降の未来に、予め記録してあった自分たちを出現させたのなら、それは紛れもない本人なのではないか、という疑問だった。


 だから章子は真理に向かって問いかける。


「過去に記録してあった自分を、未来に出現させたら、それは本人になるんじゃないの?」


 だがそんな真っ当な章子の問いを真理は首を振って否定した。


「いいえ。

それは本人ではありません。

非常に瓜二つの本人によく似た体を持った、別人・・です。


なぜなら、そのあなたの隣で歩くオワシマス・オリルこそが、もはや基となった過去にいた当時のオワシマス・オリル本人とは別の人格、別の意識、別の自覚、別の意思を持った別人だからです」


「え?」


 だが改めて訝しむ章子とは裏腹に、オリルには動揺した様子が無い。


「もちろん、オワシマス・オリルだけではなく、そちらのサナサ・ファブエッラも当時に実在したサナサ・ファブエッラとは完全に別人です。

その意思という自覚や意識は、既に位置エネルギーによって完全に個別に記録され隔離されて固定され隔絶的に独自な慣性運動を呈している。

これを簡単に述べるなら、その人とそれに模された人(・・・・・・・・)との未来と過去の位置エネルギーには完全に断絶された跡切とぎれがあり、絶対に繋がってはいないということです。

だからその二者は完璧な別の他人であると証明される。

しかしそれでも、それら同じ身体だけの、違う出生死置点に始まり終わる違う絶対温度軸、要は違う時間軸にいる二人の人物がもしも同じ自覚位置、意識位置の流れを持つ全てにおける同一人物であるというのなら、

それこそが正にあなた方の云う「他人への転生」に他ならない」


 真理はさらに続ける。


「ですがね、

それは今の現実現在世界の仕組みのままでは絶対に不可能だ。


例え転生現象の一番の成否を分ける鍵とも思える「熱転移」という手段をもってしてもまだ不可能なのです。


これは最初に断っておきましょう。


真理学における、否数学の否数法とは、

現実世界での、

他者への転生を完全に否定し、

自己への輪廻を強制的に肯定します。


つまり、「生まれ変わり」や「来世」というものは自己への帰結のみにしかは発生しない。


なぜなら、

もし仮に、

この現実世界で「他者への転生」が成立し発生し得るというのなら、

この現実世界では絶対に起こらなければならない現象が、「熱転移」の他にあともう一つだけ必要なのですよ。


そして、

その現象がこの現実世界で実在し顕在していれば、

その時こそ「他者への転生」はこの現実世界で完全な自然現象となって発動できる。


ですが、その現象はこの現実世界では絶対に起こらないし起こることも完全に無い。

事実、

実際に今も起こってはいないのですからね。


逆に言えば「それが起これば」現実世界での他者への転生は実現と説明と証明が可能となる。


しかし、その想像され予測される現象を語る時は今ではない。


その前に語らなければならない話など山ほどあるッ!」


 そう言って、下界から緑が忍び寄りつつある岩肌の続く傾斜の途中で立ち止まった真理は、

 左腕を真横に美しく伸ばす。

 その真横に伸ばされた手の先からは、何も無い空間からスラリと細長い一振りの水色に透明な槍が結晶の様に自転しながら縦にして現われた。


「サナサは見た事がありますね。


これが水槍ペンティスラの実物です。

これはその複製品レプリカ


本来の存在データを基に、私がいま複製して出現させたものです。


そして、……実はこれと対になる物が覇都ギガリスにはもう一つ存在しました。


それがコレです」


 そう言って、今度は右腕を正反対に伸ばして、

 白色に輝く同じ形、同じ大きさと長さをもった槍を魔法で出現させる。


「これはホスケイトス。


火槍ホスケイトスといいます。


本来、水だけでできた槍ペンティスラにはもう一つ、正反対の態質だけ(・・・・)で拵えられた槍もあったのです。


それがこの槍、火槍ホスケイトスです。


そしてこの二振りを合わせて、初めて真の一組に創られた媒体具とする。


しかし、彼らギガリスの期待した未来へと遺されたのは、水の槍一振りだけです。

ほのおの槍ホスケイトスにはその役割が与えられることはありませんでした。

それには理由があります。


願いを叶えるという動きには常に「生」、

「生み出す」という動作を発生させなければならない。

それを機能的に実行する事を「火」という形態に求めることには非常に都合が悪いのです。


「火」には燃やすという機能じしょうしか起こせないのですから。


だから願いを叶えるという役割は「水」という素態にだけ与えられた。


水には「生み出す」という機能も備えるからです」


 そして真理は静かに目を瞑る。


「だから見かけ上(・・・・)

水と火は正反対の性質であるように思われてしまう」


 その一言で周囲の空気がガラリと一変する。


 それを感じて章子は怯んだ。


 知っている。

 章子はこの空気の変化を知っている。


違いますよ(・・・・・)

水と火は本来、同質の物です。


真理学上・・・・

水とほのおは全てまったく同じ性質にあるものなのですよ!」


 その眼を開けて、怒気にも似た威勢を放つ真理の大きな声を聞いて、

 章子は瞬時に身構えた。


 章子だけではない。

 その隣にいたオリルも即座に心を構え、章子と同様に真理に立ち向かう態勢に入っている。


 始まるのだ。


 アレがまた(・・・・・)

 唐突に始まろうとしている。


 それが何なのか、訳も分からずに戸惑っている背後にいるサナサと、そのサナサに対峙する真理との間には、

 不承不承と申し訳なさそうに昇が護るようにさり気なく割って入っていた。


「いい反応です。

章子にオリル。


ですが半野木昇、あなたはサナサに近づき過ぎです。

もう少し離れてください。

でないと私が妬けてしまう。


まあ、それはいい。


……それではみなさん、心の準備はいいでしょうか?


始めますよ。


真理学の授業の時限じかんです」


 威圧を放つ真理が章子たちを見渡して言う。


「いま、身の程を弁えず、

愚かにも、

私はまた大きな啖呵を切り、大口を叩き、そして、とてつもない大風呂敷を広げてしまいました。


水と火は同質であるというね。


それはもちろん、あなた方、全ての人類が現実現在に生きるこの現実世界での、全ての燃え盛る火と全てに満ち溢れる水のことを指して言っている。


そしてそれが、あなた方がいつの世も究明してやまない「生命の起源」をも炙り出します。


それを立証できないとあなた方はお思いでしょう。


いいえ。

立証し、実証して見せて差し上げますよ?


キレイに完膚なきまでに論破して御覧に入れましょう。


水と火は絶対的に同じ物であるとね。


あなた方の大好きな「論破」という言葉を結果にして!」


 さらに真理は高空を仰ぎ見て、章子や他の全てを含めた全世界の全てを対象として、

 執拗に挑発をし続ける。


「それでもまだ、

できないと。

あなた方はそう高をくくっている事でしょう。


だがよく思い出して欲しい。


今までの私が述べてきた現実世界の仕組みを、あなた方は完全に否定することができたのでしょうか?


光より速いものの存在を!

時間の流れる性質を!

この現実世界がただの1つの一進法だけで成り立っているというその論拠を!


そんな馬鹿馬鹿しい根拠を、信じられない思考で。

それでもまだ否定したいと考えている。

だが!

それが出来ない!


なぜならあなた方にその代わりとなる理屈が思いつかないからです。


位置エネルギーは光よりも速くはないと!

未来と過去は、重さと軽さでは決して区別されてはいないと!

この現実世界は絶対にただの1つの一進法では成り立っていないと!


そう否定することがどこかで出来ないでいる。


だからそこで目を逸らしている。


しかし、あなた方はそれでいいとは思っていない。

思っていないでしょう?


当然です!


だから代わって私が主張しておきましょう。


これはあなた方、現実世界に生きる人々にとっての格好のチャンスだと。

これは絶好の貴重な機会なのです。


なんのチャンスか分かりますか?


そこのその少年と「同じ景色が見えているのかもしれない」あるいは「それを超えて見ているのだ」というチャンスです。


これはね。

あなた(・・・)方の真理こたえを試す絶好の機会なのですよ。


そこの少年は分かっています。

当然ね。

水と火が同質であることも。

そして、

この現実世界で人が他者へと転生できる為には、一体どんな現象が必要不可欠であるのかも。


だからこそ私が吐かせて見せます。

誓いましょう。


水と火が同質である所以は私から語りますが、


それが可能であれば他者への転生現象の条件を全て満たすだろうその現象がなんであるかだけは、必ず彼の口からゲロさせて見せます。


あなた方の目の前でね。


そしてそれが散見される前に、あなた方が自力で彼と同じ答えに、

あるいは超える答えに辿り着くことが出来れば、

それは同時にあなた方が彼と同じ景色を、または超えた景色をこの現実世界で観ることが出来ているということに他ならない。

それがこの機会を上手く勝ち取った者への報酬です。


まあ、試練の難度に比べ、受け取れる報酬価値は無価値にも等しいものですが、

それ以上に、それはあなたの真理を理解している度合いを証明することに違いはない。


そして都合よく。

その為の手段が、この小説投稿という機能には備えられている。

感想ページという場所がね。


おっとこれはこの虚構の中の話ではないですが続けましょう。


いいでしょうか?


奇特にもこれに興味を惹かれたのなら、そこに書き込んでみればいい。

そちらのあなた(・・・・・・・)が思うこの世に生きて感じる、現実世界にある真理への感想こたえを。

勿論、今までやこれからの私の発言や物語の内容に同意したり反意した感想を書くこともあなたの自由だ。

それがあなたの感想こたえであるのなら。


ただし!

そのあなたの感想こたえの中で「主張」や「疑問」や「質問」をこの物語やこの物語を綴る著者に対してぶつけて記載して投稿してみせても、

それに私やこの著者が答えたり応えることは一切無いし、ありません。


これは断言しておきます。


それは例えあなたの疑問や質問、主張であっても、あくまでこの物語や著者に対する「あなたの感想こたえ」であり、決してこの著者が感じて抱く「疑問」や「課題」ではないからです。


そのあなたの感想こたえの中で抱くあなたが感じた疑問かんそうへの答えは、あなた自身で見つけるしかないし、あなただけにしか見つけられない。

だからこそ、

仮に、その質問や主張という形の感想にこの著者が何かを答えたとしてもそれは著者だけの答えであり、あなたの答えとは決してならない。


あなたの真理こたえはあなた自身だけでしか見つけられない。


だから私もこの挫刹という著者も、あなたの貴重な感想しつぎには歯痒くも何も応えないし応えられない。


それはよく憶えておいてください。


この物語の感想ページに刻もうとするあなたの言葉は、あなたがこの世界を捉えている真理への証明にしかならないということを。


だから、

その行為は絶対にこの著者の為にはならないし、為でもないでしょう。

それは必ず、他ならぬあなたの為にしかならない。

この過酷で苛烈な現実世界で生きるあなたの為にしかね。


情けは自己の為なれば。です。


それはこの私が断言する。


……それではどうぞ奮って、この機会をあなた(・・・)の為にお気軽にご利用下さい。


期限はそうですね。


この今の話が投稿された頃、その次の月には円周率3.14と同数字の刻日が訪れますね。

その日の、この話が投稿された刻と同時刻に、


水と火が同質である理由は私からお答えしましょう。

答え合わせはその時です。


そして、他者への転生が成立するには足りない現象が何であるかはその翌月です。

その月の頭には、公然と主張した虚構ウソがまかり通っても許される日がやってくる。


その日の同時刻に、彼から直々に吐かせてみせます。

我が主、咲川章子に誓って、この真理わたしが。


しかし、物事には不確定事項がある。


特にこの著者には『「挫折(・・)」』グセがある。


愚かにも、

もし、私がここまで豪語して、

それでもこの著者が挫折し、未投稿として逃げた暁には。

それを非難する資格があなた方には存分にある!


その時は躊躇わなくていい。

その時は完全にこの物語の著者に非があり、楽しみにしていたあなた方こそが完全な被であるのだから。


だから、

楽しみですね?

実に……。


その時に、

吠え面をかくのは、あなた(・・・)と私の果たしてどちらなのか。


いずれ訪れるその日を待ち遠しくお待ちください。


では、始めましょうか!


反論というの智識を再装填し!


ここはあなた方の真理を試す時ですッ!」


 そう言って両隣に水と火の二つを従える真理はあなた(・・・)から目線を外し、改めて章子たち四人に向き直る。


「始めましょう?


起立し、起礼し、着席して。


今までの航海の中でも垣間見えながら出し惜しみしていた。


真理学の授業を……」


 その言葉と共に、授業開始の真理のチャイムは鳴る。


 今再び、

 あなたや章子たちの目の前で、

 

 真理学の門は開こうとしていた。



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