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人物がコロコロ変わりますがご容赦ください。

ここでカナリーちゃんLOVE、1名増えます。

 誰もが寝静まる真夜中、一応牢獄とされる小部屋でクリムゾン侯爵は小さな刃物の手入れをしていた。

煌々とつけられた明かりの下には寝台が一つ。

ふっふっふ。

少し変則的だが長年の夢がやっとかなう。

クリムゾン侯爵は包丁を研ぐ山姥のような笑みをこらえることができなかった。


 その隣の部屋、牢獄は逃亡を防ぐために転移などの魔術は使用できないように結界が張られているがその常識をあざ笑うように転移の術式が魔方陣となって浮かび上がる。


「ラピス、待たせました」

「ようこそおこしくださいました、レイア姫」


 クリムゾン侯爵をラピスと愛称で呼ぶのはいとこにあたるレイナしかいない。

ラピスラズリィ・クリムゾンそれが本名だった。


「もう一度だけ確認させていただきますが、お覚悟は固まったのでしょうね」

「ええ」

「では今限りでレイアの名は捨てていただきます」

「……」

「女であることも捨てていただ」


 公爵の言葉をさえぎって姫はぶぜんと告げた。


「確認せずともよい、記憶も人格もすべて奪い去るがいい」

「すべては国と民のため、明日からは別人、影の長として働いていただきます」


 斎王となり、この世に溜まった魂を鎮める為に霊力を使い続けるだけの生活をおくることは、常人では務まらない苦行をすることと同じ。

その為斎王候補の中には、あえて望んで過去と決別し、別人として斎王に特化する者が多い。

初めからこの世に楽しいことがあることを知らなければ現状に満足して斎王としての生活がおくれるのだ。

斎王になれとクリムゾン侯爵に言われたレイアは全てをあきらめた。

もう愛する男に抱かれることもなければ、自分の子供に乳をやることもない。

いっその事精神を別人にまで改造してもらってどうせなら男でいいや。

先日斎王として会議に出たのはあくまでもお試しとしてだった。

クリムゾン侯爵の作り上げた人格の後ろにまだレイア姫がいて自分自身の次の姿だというものを監視していた。

そしてそれが最大多数の幸せを優先し、冷徹に行動していることに満足した。


「では始めます。抵抗しないで受け入れてください」


 公爵が手をかざすと姫の目から生気が無くなっていった。

公爵の術がいくら強力であろうと本来斎王候補になるほどの人物の記憶や人格を改変したり消去したりできない。

それができるのは本人が望んで自分からそうする時のみ。


 ぼんやり立っているだけの姫に公爵は尋ねる。


「お前の名は? 性別は?」

「ラピスラズリィ・クリムゾン。男だ」


 公爵は斎王になるための知識だと偽って自分の記憶や知識を姫に少しずつ転写していた。

そして今姫の人格と記憶がなくなると現れるのは公爵のコピー。

ただしそれは今侯爵の支配下にある。

コピーは命じられて服を脱ぐ。

そして侯爵も裸になり向かい合って抱き合う。

この時になって公爵とコピーの霊力と魔力は恋人同士のように同調して、いや同一人物として同じになった。


 このいとこ同士の二人、体つきから声の質までそっくりで、顔も全くそっくり同じだった。

これはまだ赤子の時に公爵の男性部分が切り落とされていて男としての二次性徴が無いためもある。


 抱擁を解くと二人の霊力と魔力は別になり、そのまま二人は連れ立って先ほどまで侯爵がいた小部屋に入った。

一人が寝台にあおむけになって横たわり、もう一人が手にした刃物がその胸のあたりできらめく。

うめき声を聞いた者はなく、血の匂いを嗅いだものもいない。

声は結界に閉ざされ、飛び散る血潮は浄化魔法で直ちに消滅する。


 夜明け前になって部屋から公爵と姫が出てきた。

侯爵は姫の豊かな胸を名残惜しそうにもう一度楽しみキスをする。

そしておもむろに脱ぎ散らかしてあった服を着た。


 二人は秘密の恋人同士、今宵も秘密の逢瀬を楽しんでいた。

侯爵は男性として問題があるけれど二人の愛の前では問題はない。

少なくとも侯爵の記憶ではそうなっている。


「ではまた」

「あぁ」


 転移して帰って行った姫の痕跡を完全に消して公爵はトビーを呼びつけた。


「どうなっている」

「それが少し問題がありまして……」

「どうした」

「カーンはいまだ目標に接近できておりません」

「ミイシア姫の護衛に異動したのではないのか」

「それが護衛の当番時間とカナリー様のいらっしゃる時間が合いませんでして」


 もちろんこれはカーンがライバルになっては大変とマリーンが当番をずらしたのだった。


「そのくらいなんとかせよ」

「はっ」

「行けっ」

「はっ」


 全く使えんやつだといつものように頭を振るクリムゾン公爵から、トビーはあわてて逃げだした。

逃げたトビーを見もせず、この国を守るため、非情に徹して仕事を片づけていった。


 レイア姫の侍女は仕事熱心で姫が寝ていいと言ってもいつも隣の部屋で一人が当直していた。

しかし護衛武官ではカーンだけだが侍女たちには全て異動が有って今日は珍しく近くにはだれもいない。

それでも結界を張って誰にも内部が分からぬようにしたレイアは着ていたものを脱ぎ去る。

初めて得た自由に衣服などで拘束されていたくなかった。

傷一つない美しい豊かな胸を見せびらかすように素っ裸でレイアは狂女の様な笑い声をあげていた。

そしてその笑い声は唐突に止まる。


「やれやれ、新しい第3席様の最初の命令が偽王女を幸せの絶頂で殺せ、でしてねぇ。恨まんで下さいよ、公爵様」


 影は倒れた女を飲み込み消える。


 早朝、新しく当番になった侍女が顔を洗うための水の入った器を持ってレイア姫の部屋に入った時にはもう姫は起きだして窓辺の椅子に腰かけて手紙のようなものを読んでいる所だった。


「これをモス様のところへ」

「はい」


 新しい侍女は影の事務官だった。

今日から影の本部はここに引っ越すのだ。

全ては計画通り。


 本来王女に仕事などないが、今は影の仕事がある。

クリムゾン侯爵の知識は使えるのだが決済すべき書類の量が多い。

食事も書類を見ながらつまみやっと一区切りついたのがお昼過ぎ。

もともと重い胸のせいで肩が凝りやすいレイア姫は、午前中ずっと机に向かっていたために体を動かしたくなった。


 侍女に声をかけて部屋を出る。

途中ミイシア姫の部屋の前を通り、立哨中のカーンに敬礼されるが何の感慨もない。

体は元に戻ったが心は公爵に改造されたまま、ただレイア姫が拒否したために彼女の記憶と人格が消えなかっただけ。

拒否したことを公爵に悟られないようにを悟られないように姫は最小限度の思考操作を公爵に掛けた。

最小限度で済ませたのは、ビリジアンの酒を取り上げて術の有効性は検証済だったが危険は冒せなかったからだ。

それに侯爵の仕事を引き継ぐ者も真に必要だったから。

別れは昨日済ませてあり、二人は無言ですれ違う。


 なんとなく近衛の訓練場の貴賓室まで来たレイア姫は窓から身を乗り出してさわやかな風にあたる。

レイア姫の視線が無意識に追っていたのは女性兵士ばかりだったのだが、見ているとその内の一組の試合が始まった。

試合なのか演武なのか区別のつかない見事なそれは勝負がつかずに引き分けた。

剣を持った一人は近衛兵、部隊長の徽章をつけている。

問題はもう一人、魔力の流れも霊力の流れも全く感じられない。

あれはもしかして……カナリー・チョコット。

この建物に入ってきたカナリーを自分の目で確かめるべく、おそらく向かうであろう上級貴族向けの控室へ足を向けた。


 不必要なほど重厚なドアの前に立ち入るのが王族だと知らせるためのノックをする。


ターンタタン。


 少し待ったが返事がないので中に入る。

中にいた人物は着替えの真っ最中。

その光景にレイア姫は思わず固まってしまうが、顔を上げた相手と目が合ってしまう。

ノックを聞きのがしてしまったと判断した相手が先に謝った。


「失礼いたしました」

「いいのです、シャワーで聞こえなかったのでしょう。それより先ほどの試合、見事でした。名は?」

「カナリー・チョコットと申します」

「そう」


 レイア姫は慌てて着替えを急ぐカナリーを置いてそのまま部屋を出てしまった。

顔はこわばり胸はざわめく。

まともに目が合った。

目を見てしまった。顔を見てしまった。

下着だけの……それはいい。

とにかく顔を見てしまった。

目に焼き付いてしまった。


 火照った顔はおそらく真っ赤になっていることだろう。

レイア姫は全速で自分の部屋に駆け込んだ。

そのままベッドにもぐりこみ荒い息を落ち着かせようとする。

男が女に感じる性衝動、全く理解の外にあるものに憑りつかれたレイア姫は体調不良だと残る半日をそのまま過ごすことになってしまった。





 







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