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視点が次々と変わりますが、大丈夫ですよね。

 今日は婚約の式典と披露宴があるってことで、王宮からどやどやっと派遣されてきた侍従や侍女たちに入れ替わるように私たちは追い出された。

お嬢様は正式な祝宴には出席できませんからなどとベンにねちねちと言われて。

公爵様なんて今はお呼びしている|(敬語)けど、最近はほとんど話もしてないけど、けどけど、赤ん坊だったトーシュの世話をしたのって私なんだからねっ。

乳母って何人か雇ったけどおむつの交換とか私がしたんだからねっ。

一通り心の中でプンスカ怒ってから城を出た。

今日はお仕事、お仕事。

ミイシア姫が待っている。


 私生活とお仕事はスパッと切り替えるべきだと思う。

だからっていきなり目の前にミイシア姫が……

はい、怒りで思考がちょっと停止状態に……。

私がまとっていた本気の殺気に目の前のミイシア姫はかわいいお目目を真ん丸に見開いてプルプルしている。

記憶をトレース、うん今着任の挨拶をしたところ、ちょうどいいタイミング。


「ミイシア……6さい」

「はい、よくできました。挨拶ってもともと敵味方識別のために……」


 にっこり笑ってこのかわいい生き物を抱っこ、よしよしいい子いい子と頭をなぜて授業に入る。

はい、ダンスを含む、上流階級の礼儀作法ってのが私の授業です。

それで最後に楽しく踊ってお終い。

もちろん姫のお相手は私が颯爽と勤めましたです。

そのために今日はいつものスカートじゃなくてパンツスーツ、はい茶色で色気ありません。


「カナリー様、本当に鞭はお使いにならないんですね」

「ええ女官長様、必要ありませんから」

「そのようですわね」


 初日だということでずっと見学していた女官長にどうも鞭の代わりに威圧で進める教育方針だと誤解されたような気がする。

この国ではたとえ相手が王族でも授業中に限り教師は鞭を振り上げることができる。

ある意味進んだ考え方だと思うけど、鞭で言い聞かせる教師って三流以下だと思うのよね、私は。

もちろんしかるべきは真剣にしかりつけますけれど。


「カナリー様、今日はレオン様の斎王就任式典がございますので、午前中の授業とさせていただきましたが明日からは午後にお願いいたします」

「はい。今日はありがとうございました」

「こちらこそありがとうございました」


 そんな風に午前という時間があっという間に過ぎて、お昼。

約束していたマリーン様と王宮の西門で落ち合ってお食事。

もちろんキャシーも一緒。

相変わらずちらちらとキャシーの胸に流れるマリーン様の視線も無料で食べれるご馳走が目の前にあれば気にならない。

悲しいことにすっかりビンボが身に沁みついてしまってる。

繰り返すけど私は公爵家ご令嬢なんだって。


 お昼からは暇なので誘われるままにマリーン様たちの訓練の見学。

わかってます、私を誘うともれなくキャシーもついてきますからね。

後ろを歩くキャシーにちらちらと意識を向けるマリーン様に案内されて訓練場の門をくぐった。

すご~い。


 せっかくカナリー様をお誘いできたのに、案内できる場所が訓練場というのが情けない。

自分たち近衛兵にはほとんど休暇がないのが悲しいところだが、逆に休暇であればカナリー様に会えない。

何とももどかしいことだ。

しかしこの侍女が邪魔だ。

どうしても後ろを歩く侍女に意識が行く。

彼女さえいなければ……カナリー様に告白するのに。

ってできるのか、俺、がんばれ。


 訓練場の門を開けると、カナリー様の口が声を出さずに すご~い と動いた。

思わず心の中でガッツポーズ。

ここにお連れしたのは間違いではなかった。

訓練場といえばだだっ広い広場を想像する人が多いがここは山あり谷あり岩場、沼地あらゆる地形がそろっていてそこで兵たちが命がけの実戦訓練をしている。

そのためある程度見苦しいというか汚らしい者たちも多く存在する。

だから貴族の女性で顔をしかめる方もいる。

だがここは国を守るために少しでも強くなろうと兵たちがあがく場所なのだ。

泥だらけ血だらけの兵たちに対する素直な賛辞は武人にとって何よりありがたい。


 一番手前で格闘訓練をしていた部隊が小休止に入ったようだ。

フェイスガードや体を覆う防具で分かりにくいがあれは女性の部隊。

一人がこっちに気づき手を振った。


「お兄様~」


 私はミランダ・マリーン、近衛で小隊長をしている。

訓練場で小休止しているとき、見学席を兼ねるメインハウスに見慣れた青い訓練服が見えて、いつものように思わず手を振った。

振り返される手を見て思わず私はそちらに走り寄ってしまう。


「お兄様、今日は早いのですね」


 声を掛けて初めて気づいた。

お兄様の隣の地味な人が女性だということに。

この方がお兄様の部下たちが言っていたカナリー様ね……。


 私の前にゆらりと立つカナリー様。

なんやかんやとご挨拶をしていただけのはずがこうなりました。

場所はさっきまで格闘訓練をしていた場所、カナリー様は防具は付けていらっしゃいますが手に武器はありません。

そう、私は何かわからないけど我慢できなくなってカナリー様に挑戦してしまったのです。

私は当然のようにいつもの訓練用の剣を構えます。

兵士と女官でハンデが逆だと思うのですが、カナリー様がこう押し切ってしまわれた。

護衛兵が剣を持つのは当たり前、女官は無手が当たり前。

確かにそうですけど……。

反論しようとしたらお兄様が私の頭をポンとたたかれました。

はい、余計なことはもう言いません。


 私の前のカナリー様は恐ろしく存在感が……無かったのです。

私は実戦をまだ経験してませんけど、試合の数だけはたくさん積み上げてきました。

試合だというのに氷のような殺気を吹き付けてきた方、山のような威圧で押しつぶそうとしてきた方、いろんな方と対戦しましたが、カナリー様のような方は初めてでした。

目の前にいらっしゃるのに存在感がないのです。


「始めっ!」


 審判役のお兄様の声と同時に魔力で筋力を上げて踏み込みました。

まったく強化魔法を使う気配のないカナリー様に、馬鹿にされたかとつい本気で剣を振りぬいてしまいました。

これが当たると防具の上からでも骨が砕けてしまいます。

しまったとか、ごめんなさいとか一瞬頭をよぎりましたが体は無意識に第2撃を放っています。

空振りしたのを頭が認識せぬ間に腕が剣を……。


 あれは誰?。

訓練場を見渡せる貴賓室、レイア王女が供もつれずにその戦いを観戦していた。

一人は剣、明らかに必殺の意思を乗せ嵐のように畳みかける。

もう一人は無手、軽やかなステップで舞うようにかわす姿、美しい。

身に着ける防具から二人とも女性だということはわかる。

防戦一方だった流れが変わろうとした時。


「それまでっ!」


 止まって良かった。

ミランダがなぜかカナリー様に突っかかってなんとなくし合うことになった。

カナリー様は運動しやすい服装をしていらっしゃったのだがここで汗をかきに来られたのではない。

それをあのおバカ妹は……。

試合が始まって驚いた。

なんとあのバカは初手から必殺を込めて剣をふるった。

止められるわけ無いじゃないか。

だが次の瞬間、俺は目を見張ることになる。

カナリー様の華麗なる舞が始まった。

この国では最上級のダンスの名手だとは聞いていたが、ミランダの剣の乱舞に合わせて……。

あれは風に舞う花びらだった。

だから決して風が花びらを傷つけることはない。

その花びらが風を引き裂こうとしたように感じた。

それで思わず制止の声を上げたのだがそれで良かったのだろうか……。

とにかく、カナリー様がミランダ以上の使い手であることは証明された。

これであの父上も反対することはないだろう。

俺は必ずカナリー様を妻に迎える。

あとは二人の身分差だけか~。

それが一番問題だ。


 勝手に嫁になることがマリーンに確定されたカナリーはめったに使用されない上級貴族向けの控室でシャワーを浴び身支度をしていた。


 うぅ~怖かったよ~。

それだけしか記憶がありません、はい。

ちらっとミランダさんの剣が閃いたと思った時から記憶がございませんです。

汗なのかちょっとちびったのか、着替えを用意していてよかったです。

下着をつけて、次は髪を乾かそうと頭を上げて……目の前に人が!。


「失礼いたしました」

「いいのです、シャワーで聞こえなかったのでしょう。それより先ほどの試合、見事でした。名は?」

「カナリー・チョコットと申します」

「そう」


 その方は何もせずにそのまま部屋を出て行かれた。

向こうは私を知らなかったけれど、当然私は知っている。

レイア姫様。

いろいろ見られちゃったけど不可抗力、よね。

私は置いてあった眼鏡を掛けた。


 やはりあれがカナリー・チョコット。

目に焼き付いたカナリーの姿にレイアの胸はざわついた。

あれがカナリー。

 

レオン様:もう一人の斎王候補だった王子様です。


斎王になったはずのレイア姫、なぜこんな所でこんな事をしているのか、実はとんでもないことになっていたのです……次回!

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