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カナリーちゃん、いよいよもて始めます。

当て馬と悪役も出てきます。

 私、カナリーは一人取り残されて命の危機にある。

白雪姫みたいに森の中において行かれたのではない。

ここは最も治安がしっかりしている王宮の中。

私は今日から第七王女のミイシア姫に作法やなんやかんやを教えるためにここに来ただけ。

だったらなぜ?

はい、怪しいのは私です。

私、実は誰もが身に着けているはずの身分証を持ってないのだ。

洗礼を受けたり、社交界にデビュ-したり、そして王国貴族として正式登録されたりする10才の誕生日の前日、両親は馬車の事故で死んだ。

そのどさくさで貴族の仲間入りに必要な儀式は何一つ行っていない。

身分証がない女、はっきり言って不審人物が私です。

普段は一応これでも私は公爵家の令嬢だから誰かお付の者がいる。

その者がカナリー・チョコット様お通りになりますと声を上げればお付の身分証は調べられても私のそれが調べられることはない。


 ここまで案内してくれた女官が別の女官に呼ばれて少し待っていてくださいと、どこかへ行ってしまってひとりぼっち。

うろうろするわけにもいかず、一人ぼんやりしていたら……。


 ドンッ!


 いきなり壁に押し付けられた。

のど元には抜身の剣、相手は近衛兵。


「何者だっ!」


 びっくりも、怖いも何もない。

私はただ固まった。


 どれだけ固まっていたのかわからないけど、やっと声が出る。


「カナリー・チョコット、ミイシア王女様の教師として今日からここに勤めることになりました」


 公爵家の名乗りをあげたら、兵士は私からから離れひざまずく。


「失礼いたしましたカナリー様」

「いえ、お勤めご苦労様です。迷い込んだわたくしがいけないのです。」


 うん、身分証はいらなかったみたい、公爵家おそるべし。

兵士がおずおずと差し出した眼鏡をかけなおし、案内してくれるという彼の後について歩いた。

あ……。

思い出してしまった。

自分がなぜこの眼鏡を掛けているかを。

小さい頃はずっとお母さんに言われ続けていた。


「カナリー、これは絶対はずしちゃだめですからね」

「どうして?」

「これを外してくれるのがカナリーのお婿さんだから……」


 お母さんの占い、だったんだ。


 そう思うと何となく前を歩く彼が気になる。

うちのベンと違って同じ筋肉質ってグループに入れたくないような無駄のない引き締まった体、あのひげは私的わたしてきには無かったほうがいいんだけど、なんというかあの強い瞳。


 うん、やっぱり無理。

チョコット家の占いだし。

今日ちょっとだけ夢に出てきてもらうだけで我慢しよう。


「カナリー様を案内してきた、よろしく頼む。カナリー様、ここからは彼らが案内いたします」


 立ち止まったそこは警備兵の詰所、考え事をしていたらもう着いちゃった。

ヤァお久しぶりと奥から挨拶してくださったのはマリーン様、近衛兵の小隊長は全員貴族で全員小さい頃私ダンスの練習してたんですよ。

貴族の男子はたいてい6才くらいからダンスを習うけど、このお相手に同じ年頃の女の子は厳しい。

この年頃は女の子のほうが発育がいいからどうしても体格が合わない。

そこで3才からダンスを叩き込まれている私。

やはり男子としては、リードするほうが気分いいみたいです。

もちろん女の子たちのお相手はそれこそ年上の男の子たちが務めるので問題ないのです。

そんなわけで知り合いを見っけて、うっほい、不審者よさらば。

宮中では女官や侍女たち、若い女性も沢山いるのですが、最小限度の接触しかしてはいけないらしくって、

以外にも無味無臭の全く色気のない職場とのこと。

明日からの打ち合わせを女官長|(私のほうが身分が上)と簡単に済ませてて、私に付けられた侍女のキャサリンに控室やらひととおり案内されて要件を済ました後、キャサリンと連れ立ってまた兵士の詰所へ。

お茶やらお菓子やらたっぷりだされて、さっきの兵士さんのことなどすっかり忘れたんだけど……。


 お昼、マリーン様に誘われて王宮の西、庶民の街に食事に出た。

庶民の街といっても本当の下町はもっと西、王宮の近くは公園のようになっていて大きな池の横の小さい丘の上にはおしゃれなレストランなどがありちょっとしたリゾート地のようになっている。


「ここの魚料理はちょっとしたものでしてね、川魚特有の臭みもなく、ただ唯一の欠点としてはおしゃれすぎてご夫人同伴でないと入りにくいことですかな、いやなかなか来る機会がないのですよ」


 あまり女性慣れしていらっらないのね、とぎこちないジョークで盛り上げようとするマリーン様を見て思う。

マリーン様は伯爵家の三男、私はあのヒゲじゃまだな~と思うけど、日本へ連れてきてもいい男で通る。

確か私より四つ上。

時々視線が私の横のキャサリンの胸に流れるけど、彼女はお忍びとはいえ貴族と同席している緊張のためかその視線に気が付いていない。

なぜかこの世界の男たちって視線を隠さないのよね。

3回に1回くらいしか流れてこない私の胸への視線に、私はにこやかに食事を勧めながらもプンスカ怒っていた。


「この次はぜひもう少しお時間をとっていただきたいものです。あの小舟もなかなか楽しいものですから」


 レストランから出た私達からは美しい風景が俯瞰でき、目の前に広がる池には若い男女が乗るボートが何艘も浮かんでいた。

そういえばこの世界のデートスポットって見たことがなかったわねぇ、なんて羨ましそうに見てたら見覚えのある姿が女性の手を取って舟に乗り込むところだった。


「おや、カーンが女性を誘うとは珍しい。いやお相手がいたから付き合いが悪かったのか……。」


 マリーン様ってあの方に対抗意識でもあるのかしら、わざわざ聞こえるようにおっしゃらなくてもいいのに。

うちの占いって外れるもんだと思っていた私は、マリーン様のほうが気になった。


 あとはもう城に帰るだけなのでマリーン様にここまで馬車を回してもらっていた。


「明日はまた別のところにお誘いしたいのですが、いかがでしょうか」


 なんて社交辞令にはい、などとできるだけかわいく答えて馬車に乗り込む。


「えっ? キャサリンも来るの?」

「はい、ずっとお仕えするように言われておりますので。それからキャシーとお呼びください」


 びっくりした一方納得した。

そうか、私を誘うともれなくキャシーが付いてくるんだ。


 一方、詰所まで戻ってきたマリーンは部下たちに取り囲まれた。


「隊長っ、どうでした?」

「やはり婚約指輪は無かったぞ」

「おぉぉ~っ!」

「明日の食事も約束したぞっ!」

「おぉぉ~っ!」

「それからいい声だったっ!」

「おぉぉ~っ!しかし声フェチはいいですけど会話中に横向いたりしなかたですよね?」

「うっ、それはしてしまったかも、だがしかし、結果としてはまずくないっ! カーンに邪魔されて失敗はしたが、取り残されて心細い姫を助ける作戦までたててくれた諸君に感謝するっ! 明日もがんばるぞっ!」

「おぉぉ~っ!」



 一方、残念な報告をする者もいた。


「クリムゾン侯爵さま、偶然だと思いますが俺の上に酒瓶を乗せられまして、今日は一日その下で動けず……」

「まぁよい。日が落ちたら姫はこちらへ転移してくることになっている。それよりカナリーは仕損じるな。必ず幸せの絶頂を見極めて殺すのだぞ。カーンが邪魔なら一緒にやってよい。魔王はそれほどの脅威だ」


 確かにそれほどの脅威だ。

この世に魔王は二人もいらぬ。

斎王の洗脳も思い通りに進んでいるし何の障害もない。

明らかな無実を着せた罪人が本当に謀反をたくらまないと信頼するとは何たるお人よしどもだ。

ほぼ全てが計画通りに進んで機嫌のよいクリムゾン侯爵は乾杯のために酒を取り出してふと違和感に包まれた。

もっと良い酒があったような……。


 クリムゾン侯爵の違和感の元、ビリジアンの酒瓶は空になってレイア姫の部屋に転がっていた。

影であるトビーは、唯一光に弱かった。

特に瓶でひずんだ光が当たると動けなかった。

 

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