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 口ずさむ軽快なリズムで繰り出されていた剣はふわっと揺らいで相手を打ち据えた。

絶妙な間をあけて飛ばされた風の槌が別の戦士を吹っ飛ばす。

魔法も武技に含まれるがこの大会では補助的にしか使用されない。

魔法は構築に時間がかかるので近接距離から開始される戦いに向かないのだ。

そのセオリーを無視してマリーンは舞っていた。

マリーンが口ずさむ攻撃魔法の詠唱リズムはカナリーが舞いながら歌っていた鼻歌を基にしている。

ジャンルはジャズ。

全体として軽快なリズムでスイングしながらヴォーカルの詠唱とトランペットの剣がアドリブを効かせる。

声フェチ、音フェチのマリーンは風魔法を使ってカナリーの音を拾い開眼した。

1小節の長ささえ一定ならば一つの音符を伸ばそうが縮めようがセッション出来る。

マリーンは不可能と言われた剣と魔法の並行使用に成功した。


 カナリーが歌った鼻歌をマリーンがジャズ、ジャズという音楽はこちらの世界にはない、としてとらえたのはカナリーの前世が平成日本人だったから。

西洋から入って来たジャズは難しいとか言われてマイナーな音楽とされる。

だけどカナリーが特殊な環境に育ったのではない。

テレビというものの黎明期、マイナーで食うに困ったジャズメンはコマーシャルソングやアニソンを作り演奏することで生活した。

だから耳に残るコマーシャルソングやアニメの主題歌の多くにジャズの魂が込められている。

そもそもそれが耳に残るのも日本古来の音楽そのものがジャズに近いから。

軽快な祭囃子の多くも太鼓のリズムではなく笛がリードする。

規則正しい心臓のビートを基盤にしているのではなく自由な呼吸、ブレスを基礎とする自由な音楽だからだ。


 強いと言われる剣士ほど相手の動きを見切る力に優れ最小限の動きでそれを受け躱す。

踏み込みがあったら次はこのタイミングでここに剣が来るだろうから半歩右へ。

ところがマリーンの斬撃は、えっもう斬っちゃうのと予測がつかない。

魔法にしても剣のタイミングを無視して飛んでくる。

上級以上の戦士たちはこの攻撃を体で受けるしかなかった。

グリズリーが素直にカナリーに殴られるのも同じだ。


 予選2試合を終えてマリーンは本戦に進む。

第1戦は特別シード出場のカーン。


 魔法はこの大会に不利だが魔法のみで本戦に勝ち上がった者もいる。

名はカルサイト、魔法理論研究の大家で出場者最高年齢、独身。

試合開始の合図とともに全方位にドッカンと一発ぶっぱなしただけ。

安全のため防御のみは魔道具を使用するこの大会、それらや本人が張る防御結界を吹き飛ばせる威力を持つ魔法を放てるのはこの人しかいないかも。

今までこのような大会に見向きもしなかった彼が出てきた理由は賞品にある。

賢者の名声に隠れた欲望を満たすため。

身分や美貌、どれをとってもこの国1のレイア王女をものにするため。

平民出身ではあるが誰もが尊敬するこの賢哲が実は望みが高すぎるムッツリスケベだとはだれも知らない。

そのスケベ、映像で見たカナリーの防具がめだちやがってと気に入らず、自分の試合まで勝ち上ればまず防具を吹っ飛ばしてやる気満々。

無意識にもスケベな男であった。

もっとも準決勝ではカナリーではなくコーラル将軍と闘う確率が高いと思っていたが。



 そんなことが起きているとは全く知らないカナリー、”姉の”レイアとともに祭りで浮かれる街へと繰り出していた。


「お姉さま、あんなところに芝居小屋がありますわ、一人芝居タローカジャとジローカジャ? 泣けるコメディーですって。面白そう」

「そ、そうね、見ていきましょうか」


 あの場に本職が紛れ込んでいたのだろうか。

さすがプロの演技、だが上手だなと思ってももうひとつ感動できないレイアは笑い転げるカナリーの背をさすっていた。


 思いっきり楽しんで二人はカナリーの部屋へ。

ベッドは一つ。


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