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「リアちゃ~ん、こっちこっち」


 やっぱり姫様だった。

陛下にはもう会うなって言われたのになんで?

王女殿下が粗末な侍女の制服を着て手を振っている。

ちょこんと鼻にのっけた眼鏡を乗せただけ、誰もそれが王女様だと気が付かないで礼もしない。

普通に通り過ぎているのが不思議不思議。

確かにいつもの美しいからかわいいにコロッと印象が変わってるけど、でもそれだけで気が付かないってなんで?


「何でレイア様が?」

「姉妹なんだから敬語使っちゃだめよ」


「お父様が何を言ったか知らないけど私は私」


 よくわかんないけど父娘で何かあったらしい。

もしかして親子喧嘩にまきこまれて平民に落とされちゃったのか、私。

べつにいいけど。


 そのままレイア様に引っ張られて王宮を出て小さなレストランに。

席について早々と『黒壁』で『名もなき戦士』を踊るための剣舞の練習を見せてほしいって頼まれた。

ミイシア様が見たいって言ったんだろうけどそんなことより……。

そんなことより……。


「今日の午後から空いてますからいいですけど……」


 どうしても聞きたい、確かめないといけないことがある。

私の真向かいでおいしそうに安っぽいランチのパスタをほおばる姫様に思い切って声をかける。


「もしかして、昨日迎えに来てくださったのって……」

「私だよ? 覚えてない?」


 それだけ言うと姫様はスープをすすってうんとか頷いている、おいしかったらしい。

やっぱり昨日やらかしちゃった後始末を姫様にさせちゃったんだ。

聞きたいことはその先のことなんだけど……。


「ごめんなさい。もうお酒は飲みません」

「たいへんだったんだからぁ。リアちゃん激しかったし」

「ごめんなさい。えっ??」


自分の胸をつついて見せる姫様、え?


「いっぱいつけられちゃったから一つお返しに付けちゃった~」


ええっ!

口をパクパクさせてる私。

キスマークについて聞こうと心の準備をする前の攻撃にノックアウトされた。


「冗談よ」


そんなぁ。

なんかレイア様とっても軽く、じゃなかった明るくなってるのはいいけど私で遊ぶのはやめてほしい。



 待ち合わせの場所、影の誰かが姉役を担当するはずだったのにレイアの名前にしたことでカナリーは私が姉として来るものだと信じていたみたいだった。

昨日のことをすっかり忘れているみたいで剣舞の練習だと理由をつけてカナリーを連れ出すことに成功した。

それで結局闘技場で出番を待っている。


 今カナリーが身に着けているのは王宮に飾られている『名も無き戦士』とそっくりな革製の軽鎧。

絵と異なるのは顔を保護するマスクと参加証の腕輪。

女の子だから顔にけがしちゃいけないよね と着けさせたけどよく似合う。

立ち姿がなんかもうパシッと決まっていて……もうほれちゃってるんだけど、すっごくかっこいい。

ネタで出場したなんちゃって戦士に見られるかもしれないけど他人の評価はどうでもいい。

私だけの戦士。

予選一戦目の相手は9人、将軍が達人をそろえた。

もっとも正規軍に紛れ込んでいる影は達人しかいないんだけど。

カナリーの剣も彼らの剣も刃引きがしてあって本来は切れないはずなんだけど彼らの腕はカナリーが今身に着けている防具をたやすく切断、貫通する。

中てることができれば、ね。


 今回は予選なので防護結界が張られた訓練場の中。

観客は入れないけど映像が王都のあちこちで見られるようになっている。

祭りを盛り上げるための映像を最も熱心に眺めているのは賭け札をまだ買っていない連中。

優勝者と準優勝者を当てるだけの単純なものだが、確率は低い。

大会を通して一人一枚だけ買える賭け札は、予選第1試合前に買うとわずかパン一個の値段で買えてしまう。

予選第2試合の前だとその10倍と、試合が進んで賭け札は買えるが後で買うほど値段が一気に上がる。

払い戻しは賭けに投じられた総金額にさらに国が1割足して合計額を口数に応じて当たりくじを持った者に分配されるのだ。

だからどの試合の前に誰を買うかが重要で、好きな者たちは目を食い入るようにして予選を眺めている。

本来ならば賭けとは胴元が手数料を引くのだがこうすることで民間のギャンブルを成り立たなくしている。

ともあれ第一戦でそのまんま『名もなき戦士』の名で登録したカナリーに賭けたものは私だけだろう。

予選第1試合の他の出場者全てが正規軍兵士だし、第2試合で間違いなく北の英雄、血狂いのグリズリーが勝ち上がってくる。

それを押しのけての本戦出場はまずない。

そこを突破しても本戦第1試合は相手が前回優勝のシード選手でもう確定されているコーラル将軍。


 勝負にあまり関係ないからと見る人も少なくなった映像の中でいかにも仮装しましたと言わんばかりの

カナリーが勝つとはだれも思わなかった。

神聖な闘技の場をけがした不埒者を懲らしめようとしたのか一斉にほかの出場者が襲い掛かっても誰もが不思議に思わなかった。

何の気負いもみせずにカナリーは歩を進め構えただけ。

次の瞬間には倒れた参加者が足元に積みあがっていただけ。

映像をいい加減に眺めていた市民は驚き停止し爆発した。


オォ~ッ


 映像の続き、カナリーの控室は別の2か所でだけ音声付きで流れていた。


「兵士さんたちだって聞きましたけどもうちょっと演技のできる人にしてください。なんか型にはまって単調でそれにいっぺんに来るからつい殴っちゃったじゃないですか」

「ごめんねもう一回お願い。次は一人だけだけどちゃんとした強い人だから」


 強い人、グリズリーと対戦が決まった相手は全員棄権していた。

彼は手加減できないことで知られすぎている。










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