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影の本拠は牢獄にある。
カナリーを寝かしつけた私はその場から転移。
本部の広間では私の部下たちが叱責を受けている所だった。
大声を張り上げているのがコ-ラル将軍、小さくなっているのがカーンとトビー。
「カナリーが魔に落ちる危険性を考えれば慎重になるのはわかる。だが全く進捗がないのはどういうことだ。貴様らには任せておけん。任を解き我らの補助を命ず。良いな」
途中から広間に入って来た私に戸惑いながらも将軍はそう言い終えた。
他のメンバーも驚きの視線を投げつける中、私は将軍より上座の第三席へ。
驚いたのは私の変化かそれともここに来たことか。
「何を驚く? 私は解任された覚えはないのだがな」
本来コーラル将軍の職掌は魔獣や魔人が影のみの手に負えなくなった時に正規軍をも動かすことのみなのだが、上位者である私を超えて指図するのは無効なのだが……私は将軍の介入を承認した。
「トビーらの任は解き、つぎはコーラル将軍に任せよう。ただし舞台はこちらで用意する」
ただいかなることがあっても作戦の実務は私の職掌だ、譲れないし譲ってはならない。
そして部下をけなされた私と将軍の会話は喧嘩腰の乱暴なものになる。
「まずカナリーを武術大会に出場させる。一次予選でカナリーと当る対抗者を全て将軍の手の者とするから全員で押し包んでしまえばよい。予選会場は結界で包まれるからカナリーが魔に落ちても被害は限定できる。それでいいだろう」
「確実性を期す意味で納得はできるが、全員で押し包めというのはあまりにも我騎士団に対して失礼な話だ」
「騎士団を侮るわけではないが、実際の戦闘はそちらのよろしいようにされて結構だ。ただし騎士の名誉を持ち出すならばルール上の敗北は受け入れてもらうぞ。負けの判定が出たら任務の達成のために見苦しくあがかずに退場してもらいます。部下がだめなら将軍自ら責任を取ってもらうことになる」
「任務は完ぺきに果たして見せるさ。ただし確実にカナリーを大会に参加させろ。訓練場や演習場以外に部下たちを動かせないのでな」
「それは任せてもらう。それとどのような結果が出ても最終的な責任は私がとる」
「うむ」
それ以後の会議は他に重要な案件はなく淡々と進み、私は部下二人を連れて自室に戻る。
「改めて命ず。トビー、カナリー関係に任を離れ通常待機にもどれ」
トビーが立ち去ってもカーンは残っている。
「カナリーを幸せにせよと命じてあったはずです。失望しました。通常待機、私の護衛任務に戻りなさい」
そういって背を向けた私の頭頂から股間に掛けて朱の直線が走った。
チャキンと剣を鞘に納める音が後ろで鳴る。
「姫様、お許しください。姫様しかカナリーを大会に参加させることはできないでしょう。私もすぐ後から参ります」
カーンは今まで何もしなかったのではない。
カナリーを守るためにずっと心の刃を影の幹部全員に突き付けていたのだ。
それがカナリーを守ることだと信じて。
その刃をふるわなかったのは単に確実な機会がなかっただけ。
そして今カーンはカナリーが絶体絶命の危機にあると判断し、油断しきった私に刃を向けた。
真っ二つに断ち割られた衣装が足元に落ちる。
振り向いた裸体にもう朱の線は無い。
ピッと音がして今度はカーンの首の外周を朱の線がつないだ。
私は武器を持っていない、手で触れただけ。
そして使った術は本質的にカーンと同じでより洗練されたもの。
驚愕を浮かべたまま固まるカーンにしなだれかかった。
「一言だけ。一言 好きだ と言ってカナリーを抱きしめればすべては終わっていたのです」
「な、何者だ?」
「私は進化するためにあなたが私の体内にに残したものと交わって生まれなおしたもの」
そう私はレイアであってもうレイアではない。
「大会に優勝したならカナリーのこと、お義母さまと呼んであげてもいいわよ、お父様」
そう、私はカーンの正面から首に一周回る傷を浅くつけただけ。
痛みもほとんどないはずだ。
カーンから一歩離れて再度命じた。
「命令は伝えたはずだ。カナリーに関する任務は放棄せよ。大会では死力を尽くして優勝するように」
カーンが出て行って一人だけの部屋、何もない部屋の隅を見つめる。
「私が責任をもって対処します。そういうことにしましたからいいですわね、おじいさま」
全く離れた別の部屋、娘を無くした男が水晶から見つめてくる視線を外した。




