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式典に出ていたカナリーが喪服を着ていた。
トーシュ・チョコット侯爵が普通の正装しているだけなのに。
チョコット家の親戚ではありえない。
一体誰が死んだの?
疑問は式典後にすぐに晴れた。
「クリムゾン侯爵が急逝された」
「……」
私がしげしげそちらを眺めていたのでお兄様からその理由を教えてもらった。
なんだろう? この胸騒ぎ。
クリムゾン侯爵は私のいとこ、しかし会ったことも無いのでよく知らない。
家格が釣り合うのでカナリーと婚約していたことは知ってるけど……。
胸の奥がざわざわする。
なんだろう?
何か忘れてるような……。
そう言えば今日は自分の胸がとっても重く感じる。
一夜で大きくなるはずもないのに。
重さに反比例して胸の中が空っぽになったような……気持ち悪い……。
私は自室に戻るや警備のカーンを引き入れる。
ちょっとした火遊び。
王女と警備兵の危険な関係はたぶんばれないと思う。
だってお互いの霊力も魔力も同調させていないから。
私は斎王にならされる反発で無理やり手近にいたカーンを誘いこんで危険な関係になった。
そう、あのデートの後で。
頭が真っ白に燃え尽きてしまうような時間を二人で過ごした後何気なく定時に届く宮廷ニュースを見る。
カナリー・チョコット公爵令嬢が婚約者の後を追って自殺したらしい。
へ~、私もそんな恋がしてみたい。
身分だけは高いチョコット家と私はほとんど繋がりがない。
だからそんな感想しか出てこなかったんだけど、どうして?
なんで私泣いてるの?
「姫様、時間です」
私には他国からの来賓をもてなすという公務がある。
いつの間にか愛人から兵士に戻ったカーンが私をせかす。
もうカーンたら優勝賞品に私を望むなんて。
胸がほっこりあったかくなる。
私は全く気が付かなかった。
霊力と魔力で見えないカーンが悲しい目で私を見つめていたのを。
只の王女である私は気が付かなかった。
私の影に潜んだトビーがひたすら術を掛けていたのを。
もちろん知らなかった。
私の様子をずっと魔法の玉を通して見ていた国王陛下がため息をついたのも。




