29
カナリーに駆け寄りたかったけれど私はこの場所を離れることができない。
私が呆然とカナリーを見つめている間に王太子としての挨拶部分は終わり話は大会の出場者募集要旨に入っていく。
「……予選免除者はまず先の大会で優勝した……。それからもう一人近衛を含む国軍より特別に一名。彼が選ばれた理由は彼が群で一番の実力者であるからではない。ここで警備している諸君にも書いてもらったが ”もし優勝出来たら何を望むか” で最も大それた望みを書いたからだ。優勝できなかった場合は一か月の間近衛懲罰規定外規定に従って罰を受けてもらう……まぁ祭りだから彼のことは温かい目で応援してやってほしい」
なんなんだ、その大それたことって?
誰なんだ? 大それたことを書いたのは?
それより近衛懲罰規定外規定ってなんだ?
そんなのがあるのか?
トイレ掃除だよ。
などというざわめきがいったん収まったのを見てお兄様は言葉をつなぐ。
「では軍を代表する勇者を発表しよう。近衛王宮警備所属 カーン・ウー。勇者の望みは ”レイア王女を妻にほしい”……」
観衆がどっとどよめく中、紹介されて進み出たカーンは来賓と観客に向かって一礼しただけですぐ下がる。
何がどうなっているのかわからない。
思考停止して立ちすくむ私を取り残して式典は終わった。
「えっ! カナリーがそんなことを⁉」
式典の後お兄様に呼び止められた私は上機嫌のお兄様からとんでもないことを聞かされた。
カナリーが喪服に身を包んで国王陛下のもとに押しかけた⁉




