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 日が落ち星々が瞬きだす前に衛兵たちはもう薪に火をつけかがり火をたく。

点火を命じられて走り回る小隊を率いるのは本来南の砦の騎士団長、こんなつまらぬ役を与えられるべき者ではない。

このかがり火も結界となっておりそこから一歩踏み出すともう中の音さえ聞こえない。


 国軍から選抜された精鋭が守りを固め、さらにほぼすべての影まで守備に就いている舞踏会の会場にあってチャコール子爵は不安な心を抑えきれなかった。

あいつ現れない。

あいつの気配が全くしない。

そう、チョコット家の影守り、ハンゾーの名を継ぐ者。

国民すべての平安よりあれはチョコット家の一人の命を優先するはずだ。

全く接触の気配が感じられないのが限りなくチャコール子爵の不安を掻き立てる。

たった一人でこの警戒を突破できるはずはないのだが……。

しかしあの伝説が本当ならば……。



 男たちの乱舞は終わりそれぞれ中央を離れているがまだバラードが続いている。

ただパーカッションが小さく名残のリズムを響かせており何とも言えない余韻を残す。

その音がフェードアウトして消えた時。


タンタンタン!

タンタンタン!


三拍子


タンタンタン!


それに応じて三拍子!


 王太子の手拍子に王が応じて『黒壁』第1部『光の祭典』の序奏が低く流れ出す。


「おぉ~」


 招待客からどよめきが起こるのは国王が今日デビューしたばかりの幼い姫の手を取り真ん中へ進み出たから。

本来序奏中に声を立てるなどもってのほかだが、感嘆や称賛の声ならば失礼とされない、むしろ喜ばれる。

各国の大使たちや踊りに自信があるものたちはパートナーの手を取りそれぞれの位置に着いた。

そして神が作曲したと伝えられる天上のワルツが始まった。


 難易度の高さを全く感じさせずに優美に踊る踊りたちを全く見ようともせずチャコール子爵は会場の反対側に立つ二人に全神経を傾けようとして失敗していた。

どちらからも目を離せない、優先順位がつけられない。

その焦りで彼だけが指揮者を核とした演奏者や踊り手の魔力の同調から外れていた。


 あふれるまでの光の乱舞、霊力や魔力が見える一般人には会場はまさに『光の祭典』の場だった。

思考の調べで同調した人々の魔力はそれぞれの霊力を光としてそれぞれの色できらめかせ暗闇を圧倒する。

刺客であるトビーは唯一影を持つチャコール子爵の影に逃げ込んでいた。

影がなくなればトビーも消滅するしかない。

ただ陰に潜み、機会を見て刃を突き刺すだけの簡単な仕事。

そう命じられた任務はトビーにとって命を懸けるものとなっていた。

最も別の理由ですでに命がけではあるのだ。


 荘厳な祭典も終わりは存在し訪れた静寂を一人の手拍子が引き裂く。

タンタンタンタン……。

トントントントン……。


 会場の果てで一人手拍子を打つクリムゾン侯爵、それに合わせて小さくうなるパーカッション、軍靴の響き。

魔軍の登場に人々は逃げ出し退く。

侯爵は手近な近衛兵から剣を受け取り一人『魔王』を舞いながら少しずつ進む。


ターンタタン


 軽やかに手を打ち鳴らしたのはミイシア姫、彼女が真ん中に進み出ると同時に軽やかなマーチが流れだす。

『王女』

妖精のような軽やかなステップが始まる。


 大勢の中何人かがその異常に気が付いた。

最初に動いたのは最低音の大太鼓の彼。

ただひたすら神経を研ぎ澄ましてリズムを追い自分の出番を待っていた彼だけがそれに気が付いた。

姫がわずかに遅れている。

体力の限界が……。

彼はためらいなくばちを振り上げ下ろした。

もしかして音楽家としての生命は終わったかも……。


「突撃!」


 入るはずのない号令、かけたのは王太子。

彼が打ち鳴らしたのはさっきまで男たちが踊っていたあのリズム。

男たちが姫を取り囲み踊りだす。


 魔王と騎士たちの勝負はあっけなくついた。

この世界のじゃんけんは魔王、姫、戦士。

魔王は姫に勝ち戦士に負ける。

姫は戦士に勝ち魔王に負ける。

姫の軍は姫を出し、魔王を出した魔王に負けを認めてしりぞいた。

残されたのは倒れ伏した姫

本来ソロを続けたあとここで倒れるのだが……。



 アッと思った時にはドラムが入り、倒れかけて姫に王太子殿下が駆け寄った。

さすが司令官殿です。

打ち合わせもないのに見事に姫を包み隠してる。

さすが騎士たちです。

これは私も頑張らないと。


 私も剣を受け取り進み出る。

私の振り付けは言葉にしてすごく簡潔。

姫が魔王を倒す魔力を練り上げるまで、舞いながら魔王の斬撃をさばき続ければいいのです。


 流れ調べのリズムから離れることはなく読みやすいとしても魔王が放つ斬撃はどの武人から見ても必殺である。

多少武の心得があろうともあれには押し負ける。

魔王の踊り手はそう見せないとならない。

つまり本気の剣劇を浴びせねばならない。

戦士はこれを軽やかに受け流さないとならない。

しかも美しく。

これが『名もなき戦士』の踊り手がいない理由。


 剣をふるいながら浮かび上がるのは私の人生。

ほんと走馬燈のようだ。

つまらないつまらないと思っていてもこうしてみれば結構楽しかったこともあるのよね……。

このまま最後まで踊り続けることができるならほんとこのまま死んでもいい。











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