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残念なことに舞踏会では同じ相手と2曲以上続けて踊ってはならないという不文律がある。
カナリーがほかの男と踊る、嫉妬で狂いそうだ。
俺はさりげなくカナリーの首筋に唇を当てて印をつけた。
他の男どもの目につくようにだ。
予想外の痛みにカナリーは一瞬目を見張ったが、賢い彼女は俺の意を受け取ってくれたと思う。
しかし仕返しなのか、曲の合間にカナリーが軽く俺の右耳をツンとついばんできた。
かわいいやつ。
2曲目が終わるとカナリーは大慌てで控室に向かった。
襟元の大きく開いたドレスで俺がつけたキスマークは隠せない。
踊り足りないカナリーのことだ男装して出てくるしかないじゃないか。
俺は柱の陰に入って自分の部屋に転移して目をつぶる。
俺はレイア、俺はレイア、私はレイア、私はレイア……。
大急ぎで着替えて会場に戻り、カナリーが入ってくるはずのドアの陰で待つ。
用意してた分私のほうが早かった。
また男装に戻して入って来たカナリーに挨拶すると今日は出ないと言ってあったためかたいそう驚かれたけれど、そのまま手を取って踊りの中へ。
これほどの名手にリードされるのも楽しいけれど、それがカナリーとなんだもの。
つい楽しすぎて調子に乗ってしまった。
曲の終わりにカナリーのまねをして耳をツン。
動揺させすぎたかしら、2曲目が終わってカナリーが私の耳にツン。
今日はもう他の誰とも踊りたくない。
レイアのままだと誰かに誘われるから早く戻らなくっちゃ。
大急ぎでクリムゾン侯爵になった俺は目立たぬように壁際からデビュタントの少女たちと踊るカナリーを見つめていた。
あわてすぎていてその時は全く気が付かなかった。
俺の両耳に淡いピンクの何かが付いていることを。
霊力と魔力のためにお互いに顔を見ることができないこの世界で、唇に紅をさすなんてことをする人間がいるとは思わなかった。
カナリーとしてはそれは絶対に必要だと思って口紅の自作までしたのだったが。




