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 俺はカナリーの入場直前に会場に入り、壁を背にして存在感を低くした。

まったく無くすと警備の奴らが黙っていないから。


 カナリーが姫をリードして軽やかに踊っている。

作戦は成功したみたいだ。

舞踏会の前にカナリーは自分でもわからないほど緊張していた。

初めての舞踏会なのに最高以上の物が求められ失敗できない。

そこで俺はカナリーと賭けをした。

ごちゃごちゃっと踊るビギナーのダンスをコントロールしてパートナーチェンジの相手を思い通りにすることができるかと。

ラズベリー侯爵からの厚かましい依頼は、できる限り自分の息子ペアの近くで踊ってほしいと言うだけのことだった。

そして今、彼女が出来ると言い切った神業が今目の前で行われている。

これが上級者ならばちょっそした動作でアピールして相手の進行方向を変えることは比較的たやすい。

それがガチガチに緊張している初心者に行うのだ。

俺は万雷の拍手の中、誰も気が付か無ないだろう神業に拍手を送った。


 カナリーのデビュー後、最初に踊ろうと足を踏み出して固まってしまう。

あいつ男装してるじゃないか。

普段より何割増しかの胸をしてるが、あれを俺が誘うのは許されるのだろうか。

そんな杞憂はカナリーが瞬時に衣装を変えたことでなくなってしまう。

見事だ。

俺だって欠損部位を復活させるぐらいの治療魔法を使えば一瞬にして短く切った髪は長く伸び、胸は膨らんでひげが落ちてレイアの姿になれる。

もう一度掛け直すとラピスに戻れるのがわかったのは今朝のことだ。

それまでは切ったり剃ったり苦労したのだが。

ラピスはやれやれと首を振り、十分以上に気合が入ったカナリーの手を取って踊りの輪に入っていった。


「久しぶりだな」

「ええ」


 久しぶりとは言ったもののそんな昔のことではない。

カナリーはラピスの練習相手になるために、そこが牢獄だと知らされないまま何度か連れてこられた。

ラピスの心の安定には同世代との交流が必要だと判断されて。

ラピスは穏やかな人格者に育っていったが想定外のことも起こった。

性衝動がないから安全だと考えられていたラピスが純粋にカナリーを愛したのだ。

誰にも知られてはいけない恋は破局を迎える。


「カーン、お前がカナリー・チョコットを娶れ。それですべて解決する」


 そしてトビーに殺せと命じた時にラピスは壊れた。

ラピスの記憶をすべて受けついた自分だからこそ分かる。

ラピスは自由になりたかったのではなく、別人になってカナリーを忘れたかっただけだと。

だからカナリーに関する記憶は全て俺に移した。


 つまり俺がこんな化け物になった原因はカナリーにあるといえるし、実際ラピスと別れてすぐに呪縛を解かれた俺はカナリーを憎んだ。



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