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 昨日からカーンが役に立たなくなった。

困った。

任務で役に立たなくなったのではない。

そんな意見も上がってきているが、違う。

カーンは俺がレイアに戻る役に立たなくなった。

顔を近づけると、胸がときめいてレイアが出てくるはずなんだが、出てこなかった。

おかげで男同士でキスしちまったぜ。

思いっきり気分が悪い。

誰が何と言おうと俺はノーマルだ。

おかけで今日もミイシアのところに見学に行こうとしてもそれができない、くそっ。

もし俺がこんな状態でなかったなら今頃また……。

カナリーとダンスを……。

そしてまた熱い口づけを……。

いやだ、また思い出しちゃった。

えっ? もうこんな時間?

ん~もう間に合わない……。



 冷徹な貴族と可憐な姫、自分は目の前の上司の本質が可憐な姫のままだと断言できる。

たとえ男の言葉を使い、こうやって男の俺が見ているのに恥ずかしげもなく下着一枚の上半身裸で右に左にうろうろしていても、だ。

もし彼女の本質が別人に引きずられて魔に傾いたら、俺が彼女を処分せねばならない。

それが彼女のお願いだから。



 え~とテーブルの準備は良し……お菓子の準備、よしっと。

昨日の今日であわただしいけどもうすぐお祭りだから仕方がないわね。

カナリーのお茶会デビューだから私とミイシア、それからルーナお姉さま。

とりあえずそれだけ。

でもビアンカに嫁がれたルーナお姉さまがいらしゃれば格式としては最高のものになるわ。

序列としてはお姉さまが今もお母様の次だもの。

あ、カナリーたちが来たみたい。


「もう『黒壁』を習っているの……」


 ミイシアがお姉さまにカナリーを紹介した。

とってもくやしい、私が紹介したかったのに。


「カナリ-、まだ舞踏会デビューがまだなのですか」

「そうなのです、今更初めての白リボンをつけるわけにも……」

「前夜祭のパーティーならちょうどいいんじゃありません? ミイシアがデビューしてその先生としてなら白リボンをつけていてもおかしくはありませんわ」

「それでしたら『光の祭典』は少なくとも、そうね『王女』を踊りなさい。カナリーに『戦士』をおどってもらうから」

「ねえレイア、『魔王』はどうするの?」

「ラピスならできるわ」


「そういえばあなた公式の舞踏会には出られないのでしたわね」


 いきなりルーナが話題を変えたとカナリーは思ったが実はそうでゃない。


「斎王補ですから仕方ありませんわ」


 レイアも斎王ですからなどとレイアとしては参加できないが、クリムゾン侯爵の参加を否定していない。

結局、自分が出れないと言いながら楽しそうなレイア姫だった。

カナリーと『魔王』が踊れるのは自分しかいないのだから。

クリムゾン侯爵の名が招待客とされていることはすでに確認済だったから。

男ならば、一人で会場に入っても問題はない。

カナリーのために作らせた衣装に合わせて自分の衣装の色合わせも済ませてある。


 舞踏会に出ることは貴族にとって遊びではない。

招待するにもされるにも決まりごとが有る。

舞踏会に招待されると主催者が参加者の名簿を全員に配る。

自分が主催する時は今までにもらった名簿の中からのみ招待することになっている。

それが定着していて最初の名簿がどうのこうのと野暮ったいことは誰も言わない。

とにかく、名簿外から初めて招待されるときには白いリボンをつけることが義務となっている。

別に下手だから注意の目印ではない。

新しく貴族社会に入ってきたものをみんなで見極めるための目印にしているのだ。

上位の貴族ならば白リボンでも颯爽と踊れて当たり前の世界なのだ。

ペアを組む相手も白リボンをつけるので名簿にはデビュー同様に白リボンとして載ることになる。

このとき、白リボンのペアを組むのはダンスの教師でも良いことになっている。

有名な教師を自慢する意味合いもあるが、ダンス教師が自分たちの売り込みのためにそう誘導したことが大きい。

とにかく、国の作法師範であり公爵家のカナリーならば、男装して姫をエスコートしても許されるのだ。

むしろそれほど位の高い人物に師事しているならば、そうしない方が不自然だ。





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