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この世界の食べ物っほとんど地球と同じ、名前が違うだけ、だけど翻訳するとニンジンはニンジン。
ニンジンさん、おいしい。
ジャガイモさん、おいしい。
でっかいお肉、おいしい。
おいしいものを食べると幸せになり心が弾む。
だからこの際、刺すような周りの目は気にしない。
「私のほうからお誘いして申し訳ありませんが、ここしか知らないのです」
「いえ、新鮮ですし、おいしいです」
私の前で大きな体を小さくしているのはカーンさん。
ここは下級兵士や侍女たちの食堂。
長~いテーブルに座っている私たちの周りは空席がお堀のように取り囲み、その外側からの特に女性陣からの視線が痛いです。
だがしかぁし、ボリュームたっぷりほんとおいしい。
私の目指す料理と共通するのよね、これ。
会話はあまり弾まない。
うん、共通の話題がないのよね、残念。
うん、話題話題、そうだ有ったよ、レイア姫様。
やっと会話が動き出したとき、女性兵士が3人、私たちの席の近くで足を止めた。
「チョコット様、同席させていただいてよろしいでしょうか、今こちらしか空席がありませんので」
一応、私はゲストなのでめでカーンさんに尋ねる、知り合いなんだけどいい?
カーンさんがうなづいたので、女性兵士、ミランダさんたちが座った。
私の隣にミランダさん、うん、それはいいけどなんでカーンさんの両隣にあとの二人が……挟み込まなくてもいいのに。
確かにこの方が話が弾みましたが、カーンさんミランダさん、後の二人と会話が止まっていきます。
私の隣に大きな男の人が座ったのです。
「失礼」
「ぇええっ!」
俺は来るべき建国祭の準備でごった返すルージュ王国へノワールの国王陛下の名代としてやってきた。
肩書は将軍で軍功でもらった一代限りの伯爵。
要するに軍功を上げてこれ以上出世されたら大変と、手柄を立てようがない外国への使節に任命された。
礼儀とか作法とか全く知らねぇ俺を外交に使ってどうするんだと言いたいが、その無理が通ってしまった。
飯を食うにも順番がとか音がとか煩いこと。
聞けば兵士の食堂は常時戦場ということで礼儀は二の次らしい。
正直あまり期待はしてなかったのだが、あまりにもうまそうな匂い。
あまりにも……うまそうな……匂い。
それに釣られて俺はふらふらと……。
俺はふらふらと……。
ふらふらと……。
「失礼」
気が付けば跪いてそのうまそうな女性の手を取り……、ペロリと舐めた、うまい!
「ぇええっ!」
「俺の嫁になってくれ」
「ぇええっ!」
手を舐められて凍りついた私より先にミランダさんが驚いて大きな声をあげた。
そのおかげで私は大切なことを思い出せた。
北の蛮族がするプロポ-ズ。
された方が断る場合声をあげてはならない。
思い出してよかった。
その蛮族は略奪婚も当たり前。
声を出したらたとえそれが否定でも了承とみなしてしまう。
夫や婚約者がいてもそれは同じで、彼らにとって邪魔な人物は殺してしまえば問題解決。
私は作法通りに黙ってハンカチで舐められた手を拭いて、作法通りに目の前にあるでかい顔をぶん殴った。
ありゃま。
グーでおもいっきり殴ったパンチは狙ったほっぺではなくあごの先をかすって……白目をむいてぶっ倒れた大男。
この人だれだろ?
うん、気にしないことにしよう。
この後作法では……何にも決められてないわね。
起こさないようにそ~っと逃げよう。
食堂の前で別れようとしたけどカーンさんが思いっきり落ち込んでしまっていた。
あのでっかい人、きっとまったく悪意が無かったんだよ、だから仕方がないよ、って意味の言葉でミランダさんたちに慰められて近衛の詰め所に帰って行った。
なんかいろいろあって疲れちゃった、早く帰って寝よっと。
でも残念、帰ったら新しく届いた衣装の確認と整理が待っていた。
倹約するんじゃなかったの? ってレンテンマイエルさんに聞いたけど最低限度の必要分ですって。
パーティドレスとかちょっとしたお茶会用のドレスなんて……なんて……。
本日一番ダメージを受けてしまった。
「カナリー様、レイア様からお茶会のお誘いが届いています」
カナリーふっかーーーーっつ!
今日は楽しい、一日でした、まる。
夕方になって目を覚ました大男、茶色の服を着た女性のことを尋ねても誰も知らないと言う。
嘘をつかれている様子もない。
それもと~ぜん、その時間帯に休憩に入る兵士さんたちとは会ったことがありません。残念でした、まる。
その日、現れた妖魔、過去最短記録で退治されましたとさ、おしまい。
半日ベッドにもぐりこんで身もだえしていたお姫様、せっかくのお膳立てを生かせなかった部下のことを聞いて大笑い、ただ大男が求婚したと聞いて、……。




