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 ん~♪んん~♫ん~♩


 俺は鼻歌を歌いながら上機嫌でひげを剃る。


「カーン入ります」

「おぅ、そこでちょっと待ってろ」


 こればかりはカーンにしか頼めない。


「少しよろしいでしょうか」

「なんだ?」

「このまま私が作戦に加わっていてよいのでしょうか」

「進捗がないことか?」

「はい。妖魔の殲滅戦に出たほうが効率が上がると、ぐふっ」


 振り向きざまに放った俺のフックを受けたカーンは背後の壁まで吹っ飛んだ。

音は結界で遮断してある。

俺は作業に戻った。

しばらくして内臓を痛めて血を吐いたカーンが立ち上がる気配がした。

俺が許可を出していないのでカーンは治療を行っていない。


「お前、俺と闘って勝てるか?」

「いえ……」

「つまり魔王や魔人に対してお前は無力で役立たずだ」

「はい」

「つまり少しでも魔王発生を少しでも妨げる可能性がある作戦で使いつぶしても問題がないわけだ」

「……」


 さてと、俺はカーンに向き直り霊力を流して治療した。

口元についた血を舐めとりそのままキスをする。


「あなたは化け物になった私でもときめく最高の男なの。切り札のつもりなんだから頑張ってね」


 私はカーンの胸をチョンと人差し指でつついて部屋を出るように促した。



 カーンは再びレイア姫の護衛に戻っていた。

新しく採用された女性兵士が配属されてきたために玉突的にはじき出されたのだが、不都合が合って追い出されたなどの不名誉を避けるためにあえて元のレイア姫の護衛に戻ったと記録されている。

実際のところレイア姫の人格を呼び戻すのにいちいちカーンを呼びつけていられないからそうなったのだが。



 カーンが出ていったのを確認して私はまた鏡の前に戻った。

カナリ-にはそのまま素顔が見えちゃうのよね。

普通は新婚の時にしか使わないけど……と化粧品など手に取るのだった。

今日の目標、ダンスの授業を見学するという名目でカナリーの身体能力を見極めること……完璧。

だから、踊れる靴を履いて、カナリーを抱きし……違う、抱きしめられて踊るの。

私は踊るような足取りで部屋を出て、そこに控えていたカーンを引き連れてダンスの練習場へ足を運んだ。



 釣目のおばさん、レンテンマイエルさんの説明ではチョコット家の収入はむやみな贅沢ができないように、現物支給になりますってことだった。

むやみな贅沢ってなんだろ?


 朝、王宮へ向かう前にはレンテンマイエルに男役っぽい衣装を上から下までじろりと走査されてまぁいいでしょうと送り出してもらった。

昨日スカートはいてたから……やめよう。

とにかぁく、今日はミイシア様の姉君が見学されるのだ。

お相手するのにはこれが最適なのだ、うん。


 ミイシア姫の姉君、レイア姫は訓練場でお会いした方だった。

一度うちの部下が失礼したようですからとその兵士さん、カーンさんとおっしゃいました、を紹介していただいたりしてから練習に入った。


 そして……体を動かした後は休憩ではなくて、おしゃべりにさりげなく必要な知識を混ぜて……なのですが、レイア様がお話してくださった。



「そうですね。ダンスで恥をかくのは外交上の失点にもつながりますので最高難度ですが『光の祭典』までは覚えていただきたいですね」

「ミイシアだったらもうちょっと頑張れば『光の祭典』踊れるんじゃない」

「ええ、もう少し練習が必要ですが、大丈夫だと思いますよ」

「『光の祭典』ってなぁに? お姉さま」

「『黒壁の戦い』って知ってるでしょ。あれを題材にしたダンスなの。最初に神の祝福を表す『光の祭典』を踊って次に魔王が攻めてくる『嵐の夜』、そしてまた『光の祭典』にもどるの。『嵐の夜』は『壊れ楽器』なんて言われてるわね」

「どうして?」

「『嵐の夜』は魔王、王女、名も無き戦士の3人だけで踊るんだけどあまりにも難しくって踊れる人がめったにいないの。だから特別にリクエストされたら、舞踏会のホストが恥をかかないように楽器が壊れて演奏できませんってするの」

「ふ~ん、それで特別なリクエストってどんなことするの?」

「『光の祭典』はワルツだから、タンタンタン、タンタンタンって手拍子をするの。それでホストが同じくタンタンタンと受けると前奏が始まるわ、踊れなければその間に壁際まで逃げるの。遅くまで舞踏会が長引いてしまったらホストが最初に手拍子を始めたりするわね。その時はみんな3回たたいて逃げてお終い」

「じゃあ『嵐の夜』は?」

「『光の祭典』が終わった後1分間音を出さないでじっとしてるの。普通はそれでお終い、魔王の軍が攻めてこなかったという訳。逆に拍手しちゃうと魔王の軍の足音が聞こえるってことで曲が始まるのね。これも踊れなければ壁まで逃げるの、誰もいなくなりそうなら楽器が壊れちゃうの」

「踊るときの合図は?」


 そこでレイア姫は私の方を見た。


「魔王、王女、名も無き戦士の三人だけで踊るのですが、踊るときの合図は踊れるようになってからです」

「けち~、先生は踊れるんでしょ?」

「ええ」

「お姉さまは?」

「王女なら踊れるわ、でもレオン兄様が斎王になったから魔王を踊る人がいないわね。王や王太子が悪役踊るわけにいかないし」

「クリムゾン侯爵様なら大丈夫だと思います」

「そんなことより、一度『光の祭典』踊りましょうよ。お相手お願い。合図するわね」


タンタンタン、タンタンタン。

タンタンタン。


 前奏が始まり私は姫の手を取った。

4人しか奏者はいないけどそこは王家直属の楽団員、奏でられた調べは格調高く飾り気のない練習場を包みここを光の場とした。

複雑なステップを踏みながらも気品を失わず、神が考えたとしか思えない優雅な振り付けは見ている者の魂まで奪いそう。

私は完全に踊りの男役に入り込んでラストにブチューと熱く姫様の唇に!

やってもた!


「し、失礼しました!」

「……ぃぃのです」


 真っ赤になったレイア姫様は、予定がどうの、何かおっしゃられて逃げるように出て行かれた。

後に残されたミイシア姫はかわいいお目目を真ん丸にしていらっしゃいましたが……。


「先生! 私もそれ踊りたいです!!」


 キラキラお目目でそうおっしゃられました。

ミイシア様、ご熱心なのはいいのですけど、お昼はきちんととりましょう。

それから午後は別の先生がいらっしゃるはずです。

私も待ち合わせがありますし……。





 







もちろんダンスバトルはあるのです

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