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本日2話目

 よ~く考えてみれば、私は貴族の恩恵を受けていない。

せいぜい様をつけて呼ばれることぐらいだろうか。

日頃から無視してくれる執事の爺さんとなんで私が結婚しないといけないのよっ!

ほんとハラタツ。

プンスカプンだ。


 あっさりと公爵家からの除籍届けは受け取られて、私は初めて正式な身分証と当面の生活費として銀貨を6枚も受け取った。

受け取った身分証は、王宮から離れる方向に対してのみ各門を通行できるようになっている。

早い話が できるだけ自分で遠くに行っちゃってね ってのが透けて見える。

それでも訳ひと月分の生活費がもらえたことはありがたいのです。

持っているのは着替えと銀貨2枚と銅貨が23枚、後はいつもの茶色いドレスに眼鏡、他には鏡の後ろにあった腕輪を一つ付けているだけ。

酔っぱらったときに鏡の後ろから何か取り出したようなことを思い出して、鏡を開いてみれば腕輪が一個だけ置いてあった。

もっと何かたくさんあったようだけど……思い出せない。


 王宮の西門を出た庶民が暮らす街は治安がいい。

だから女が一人で歩いていても怪しい店に売り飛ばそうとかするような悪人は出てこない。

当然助けてくれる正義の味方も 出てこない。

ザンネン。

お~ぃ出てきてよ~美少女ちゃんがお困り中です。

なんて実際のところ結構余裕があったりするのです。

あちらこちらに求人広告が張ってあるし、条件は読み書き計算。

はい、ばっちり。

そんなわけでのんびりとあちこち見学してたら警邏中の兵士さんに呼び止められました。


「失礼ですが、身分証をお見せください」

「彼女は俺の連れでして、俺はラピスラズリイ・クリムゾン」


 俺は真新しい貴族の身分証を兵士に見せて追い払い、さりげなく彼女の腰に回した手に力を加えて歩くように促した。

そして近くの店に連れ込む。


「お嬢さん、君みたいな若い娘が俺みたいな知らない男にホイホイついてきていいのかな?」


 俺みたいな男、いい響きだ。

俺はドカッと股を開いて肘をついて座りとなりでメニューを食い入るように見ているカナリーに話しかけた。


「ラピスお兄さまですよね、カナリーです。かなり昔ですが黒壁のダンスを練習したの、お忘れでしょうか」

 

 言われてみてラピスの記憶をあさる。

古くて古くて甘い記憶にそれがあった。


「あっ、あのときの」

「わかってたんじゃなかったんですか」


 まわしていたほうの手を振りほどいてカナリーは前の席に移った。

失敗したなぁ、こりゃ。

メニューに載っている食べ物がよくわからないので手ごろな値段のを注文するとカナリーも慌てて同じのを注文していた。


 大きな器に入った食べ物がどんと私たちの目の前に置かれる。

これがカツ丼っていうのね。

向かいのラピスお兄様が匙を持った手で行儀悪く食べろとせかす。

始めた会った時、ラピスお兄様は暗い目をした女の子に間違えそうな少年だった。

今もヒゲがなかったら女の人かと思うような美形なんだけど。

私たち母親関係でいとこだったよね。

食べ始めたらなんか向かいのことを思い出して……おいしい。


「ところでなんで求人票なんて見てたんだ?」


 私は尋ねられたままに、今までのことを全部はきだした。


 俺はカナリーの話を聞きながら足元にいるトビーに王宮との連絡を取らせた。


「なぁカナリー、一人で生活できるのはわかったけど、とにかく城へ帰れ。女官長が本気で心配してるぞ。きちんとあやまっとけよ。うん、後のことも全部片付いてる。とにかく帰れ」


 俺はちょうど店に入ってきた兵士に手を上げた。

兵士さん、この子です。


 兵士たちと一緒に帰っていくカナリーを見送ってふと我に返った。

お兄様ってちょっとポジション違うような気がする。


「旦那様、金貨じゃおつりがありません」

「うまかった、感動した、釣はいらん」


 くそっ、余韻ていうものを味わいたかったんだが。


 王宮に戻ったカナリーに女官長は黙って頭を下げた。

ただそれだけ。

除籍が取り消されればまたカナリーのほうが身分は高いのだ。

だからカナリーも黙って心を込めて頭を下げた。

それで伝わった……はず。

明日の予定として授業に第2王女の見学が付くことだけの連絡を受けた。


 事務局に呼び出されたカナリーはそこで除籍証と公爵家の身分証を取り換えた。

ただそれだけ。

銀貨が6枚足りませんと報告した事務員にチャコール子爵がだまって銀貨を渡したのも知らない話。


 チョコット城に帰ったカナリーは、久しぶりに全員で同じ食卓を囲んだ。

ハンゾーがいなくなった代わりに、釣目の怖そうなおばさんが席に座っていたけれど。




 

 




 

 


カナリーを幸せにせよ。

カナリーが幸せの絶頂に達したときに殺せ。

二つの命令は矛盾なく生きています。

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