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突然の急展開のようですが……ごめんなさい、たいしたことないです。

 ルージュの国王の朝は早いがまだ私室にいるときに謁見できるものは少ない。

緊急の使者か家族。


「入れ」


 王は入ってきた娘に思わず顔をしかめた。

娘が気に入らないからではなく、愛する娘が男性のしかも臣下が王に対する礼をとっているのを見たからだ。

王は国を守るため、この娘ともう一人息子を切り捨てた。

その計画は初期の段階から承認を与えており、目の前の娘が本質的には自分の娘ではあるものの記憶の大部分が甥のものに置き換えられていることを知っている。

消されたものはどうしようもないのだ。


「なにか願い事でもあるのか?」

「はい、ラピスの名誉の回復をお願いしたく」


 しばらく開いた間を拒否と受け取ったが違った。


「クリムゾン侯爵家へは8年前に特赦が出ておる」

「ではなぜ!」

「わからんのか」


 理解できた。

ひずんだ心のままの公爵を野に放つことはできない。

侯爵でもある自分が一番理解できる。


「せっかく来たのだ、してほしいことがあれば言ってみよ」


 王はこの娘がかわいくて不憫だった。


「では、妻をめとる許可をいただきたく」


 予想外の望みに精神的ダメージを受けてしまった王だがくぎを刺すことは忘れない。


「どこの令嬢であろうが合意の上なら好きにして良いが、無理やりは許可できないぞ」

「それはもちろん」


 王はひざまずいている娘を絶たせて抱きしめた。


「父からの願いだ、時々ここへきて顔を見せよ」

「はい」


 感動的なシーンのはずがかなりザンネン。


「ここへ来るときはひげぐらい剃ってこい」

「はい」


 肉親か恋人でもなければ見えないのだが、二人は親子だった。



 自分の部屋に戻ったレイア姫はさっそくトビーを呼び出す。


「出かけるぞっ。忍びだ。ついてこい」


 侯爵の身分証を握りしめたレイア姫はどこから見てもお忍び中の若君だった。



 その時カナリーも王宮にいた。 


 昨日久しぶりに激しい運動をして体中が痛い。

だって武術の試合って初めてなんだもの~怖いから体のリミッター全解除、つまり火事場の馬鹿力状態続けちゃったもんね、痛いよ~。

でもミランダさんってすごいわね~、私が裂けれるところぎりぎりに剣を置いてくれるんだもの、私って達人みたいに見えたかも……。

私は重要な手続きをしながら能天気なことを考えていた。

だって世の中ってなんとかそれなりになんとかなるんじゃないの?


「カナリー」

「はい」


 王宮にあるにしては安っぽい椅子から私は立ち上がって窓口に行き、出された身分証と銀貨6枚を受け取り部屋を出る。

そのまま真っ直ぐに西へ。


 王宮には貴族の戸籍を司る事務局が有る。

かなり広い部屋だ。

たまたま新しい侍女の手続きに来ていた女官長は違和感を感じて立ち止まった。

聞き覚えのある名前が呼び捨てにされたのだ。

そんなはずはない、公爵家の令嬢が呼び捨てにされるはずがないし、今日明日は授業がないはずだった。

しかし気になりその名を呼んだ向こうの方の窓口を見ると歩いて部屋を出る後ろ姿はやはりカナリー嬢のようだった。

ならば一つ受付係に注意しなければならない。

王家に次ぐ身分の方を呼び捨てにするなんて。


「ちょっとそこのあなた」

「はい」

「今出ていかれた方はカナリー・チョコット様でしたわね」

「はい、そうですが」

「公爵家のご令嬢を呼び捨てにするなんて許されることではありません」


 睨みつけた女官長に受付係は受け付けたばかりの書類を出して事務的に答えた。


「公爵家からの除籍届を受領いたしましたので除籍者身分証と救済金の銀貨6枚をお渡ししました。正式な除籍は審査がありますので時間がかかりますが、法的にカナリーは平民でしかありません」

「なんてこと……」


 奪い取るように受け取った書類をざっと見た女官長は真っ蒼になった。


「チャコール子爵様を、誰でもいいからチャコール様をお呼びして!」


 何事かと集まってきた警備兵に向かって叫ぶ。


「王宮の門すべてに伝達! 除籍者身分証を持つ者を決して通してはなりません。ただし丁重に留め置きなさい!」


 奥向きのすべてを司る女官長にもある程度の非常事態宣言を出す権限がある。

今こそ使うべき時だと思った。



 私はいきなり人数の増えた兵士たちが気になって顔見知りの近衛兵に尋ねてみた。


「何かあったの?」

「さあわかりません。とにかく緊急の通航制限がかかりました」

「じゃぁ外に出られないんだ」

「いえ、カナリー様はお通り下さい。特定の者にだけですので」

「そうなの、気を付けてね」

「はい、ありがとうございます」


 西門まで何か所かで検問をしているのを見たけど誰も止められてはいないみたい。

なんだろう。



 急に呼び出されたチャコール子爵は不機嫌さを隠さず女官長が差し出した書類を乱暴に受け取った。

めんどくささを隠さずにちらっと見て動きが止まる。


「王宮の門すべてに伝達! 除籍者身分証を持つ者を決して通してはならん。ただし乱暴なことはするなっ!」

「その命令はもう出させていただきました、緊急事態かと存じましたので」

「まさに緊急事態です。とにかくこれだけでは情報が少なすぎます。とにかくここではなんですので会議室へお運びください。おい、幹部全員会議室に召集! それから警備の近衛からも誰か来てもらえ」



 全員が集ったのは約20分後、その間にもチャコール子爵は指示を出してチョコット家の情報をある限り集めさせた。


「諸君らに集まってもらったのは他でもない、チョコット公爵家に重大な不正が行われた疑いがある。カナリー・チョコット公爵令嬢から除籍届が出された。理由は婚約の拒否だ」


 それだけでは何のことかわからなかった幹部たちだったが、手書きで複写された関係書類を見て理解し、驚いた。

これは許されるべきではない。


 貴族の家庭では家長が絶対的な権限を持つ。

国の威光も家庭内には入らない。

貴族の子弟である限り、家長の決めた婚約には従わねばならない。

よほどのことでない限り、泣こうが叫ぼうが婚姻は執り行われる。

ただし、『貴族である限り』ということなので貴族の身分さえ捨ててしまって家から縁を切ればその限りではない。

平成日本人から見ればなんだそんなことでいいのかと思うかもしれない。

しかしこの世界では貴族が身分を失うことは死を意味する。

プライドなどの精神的な物は別にして、現実的に貴族は身分が高いほど生活力無ないのだ。

自分の食を賄う手段がない。

だから罰として除籍されるのではなく、自ら除籍したものはほぼ例外なく自害した。


 ところでカナリー嬢はなぜそこまで追い詰められたのか。

添えられた破られた婚約届出がそれを明白にしている。

相手の名はベン・ケイ、70を超えた老人、身分は執事。

明らかに横領の匂いが漂っている。

すぐにトーシュ・チョコット公爵の身柄の確保を目的とした部隊が派遣され、そのあとに財務その他の調査部隊が続いた。



 チョコット公爵、身柄確保。

侯爵の証言。


「カナリーはどこ? まだ帰らないんだ。えっ、その紙? うん僕が署名した。わかってるよ字ぐらい読めるよ、カナリーの婚姻届でしょ? だってベンが言ったんだもん。ほかの人と結婚したらこの城から出て行っちゃうけどベンと結婚したらずっとここに居るって」


 カナリー付侍女キャサリン、身柄確保。

数日前に王家より派遣されただけのため事件には無関係なのは明白である。

キャサリン通称キャシーの証言。


「カナリー様とハンゾーさんと3人の生活です。公爵様たち3人は食べ物も全く別に分けていました。はい、そのポトフが昨日の残りです。カナリー様の衣装ですか? ご両親のものをご自分で仕立て直してるっておっしゃってました。今日持って出られた物ですか? そうですねはっきりしませんが、そこの引き出しに入っていた下着の替えが少なくなっているようです。お金はそうですね、銀貨が3枚ほど、少ないとおっしゃってもうちはビンボだからぁと笑っていらっしゃったので、はいそうです。え?この鏡の後ろにある物置には何が入っていたかですって? さぁなんでしょう。とにかくお出かけになるとき持って行かれたのはそんなに大きくないかばん一つでした」


 料理人ロウ・サンジン、その証言。


「わしは公爵家にふさわしい料理を作っていただけじゃ、最高の素材で最高の料理をつくる、それだけじゃ。なに、材料費? そんな物知らんわい。まあいいものは高いのが当たり前じゃ。ビリジアンの酒?

ああ、公爵様は飲まんよ。ベンもじゃよ」


 執事ベン・ケイの証言。


「ワタクシとカナリー様の婚約ですか? 公爵様がこの国一の男でないととおっしゃいましたので、恐れながらと申し出ました。このひげ、この筋肉、私が一番です。もっといい男がいると? はっはっは、嘘ですなそれは、見たことがありません。このひげは手入れにビリジアンの酒を使っておりますからな、あれをケース単位で買う者は誰もいないとビリジアン家の者が言っておりましたぞ。それにいくらお金が必要かですと? 必要な金は必要なだけ使うにきまっておるでしょう」



 チャコール子爵は頭を抱えた、この馬鹿どもをどう罰すればいいんだ。

金銭感覚と常識がなかっただけ。

閉鎖的だが辺境随一のビリジアン家とつながりを持つための投資と言えば言えないこともない。

現にビリジアン家との婚姻が進んでいるのだ。

法を犯していると言えばカナリー嬢あての親書を渡さずいることぐらい。

困った。


 考えた末に結論を出した。


「そのポトフをあっためてロウに飲ませてやれ」


 そのポトフは舌が肥えたチャコール子爵がうなるほどおいしかった。


「おい、誰か王宮からカーンを連れてこい、ベンの調書をとらせよ」


「その、その髭の手入れはどうやって」

「ん? ひげの手入れ? そんな面倒なことを誰がするんだ」


 結局チョコット家には王宮から信頼できる家臣を派遣されることになっただけでなんのおとがめもなかったが、チャコール子爵はわざとつまらないことを考えていなければ気が狂いそうな焦燥にかかっていた。

除籍を望んで自害したものは例外なく妖魔化している。

唯一の救いは、名高いハンゾー・テイラーの名を受け継ぐものが退職届を出して姿を消していることだ。

彼が何とかしてくれることを今は期待するしかない。


 しかしあれほど早く警戒させたのに門を素通りさせるとはなんという馬鹿どもだ。

それにこの非常時にカナリー嬢に付いているはずのトビーは何をしておるのだ。












お次はわかりきった展開だったりして。

はっはっは。

本命が冷遇されております、彼出番あるんやろか。

彼の希望はハッピーエンドタグと○○タグがないことだけ。

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