キーマカレー
一人暮らしと自炊の関係は、切れ味の鈍った包丁のように、切っても切れないものである。
社会人として一人暮らしをするにあたり自炊は節約の基本であるが、それ以上に自立の第一歩でもあると感じている。自分の食べるものを自分でつくる。分業が進み、外食が浸透した現代社会においては、ある意味これが自給自足だともいえるのではないだろうか。
事実、ぼくはこれまで実家暮らしをしていたのだが、料理などほとんどしたことがなかった。しかしこのたび一人暮らしをし、自炊をするなかで、数々の新しい知識を得た。
それは、ジャガイモは冷凍してはいけないだとか、キノコは火を通すと結構水分が出るだとか、アスパラガスは保存するときに立てるといいだとか、そういうものだ。
しかし、切っても切れないといったものの、ぼくの周りを見るに、自炊をしないひとというのも、当然いる。
その理由の大半は、面倒だというものだ。たしかに研修中であり、今後引っ越す可能性が高い身としては、移動の際に運ぶものはすくないほうがいいだろう。
だが、なかには、「料理が下手(苦手)だから」というひともいる。
ぼくはこの言葉を耳にするたび、本当にそうだろうかと、疑問に思う。
というか、そもそも料理において、「下手」というものはないとすら考えている。なぜなら、レシピを見ながらそのとおりにつくれば、失敗はまずありえないからだ。
もちろん、大根の皮が綺麗にむけないだとか、そういうことはあるだろう。しかしそれは料理が苦手なのではなく、手先が不器用なだけではないだろうか。だいたい、皮をむくのが下手ならば、むかなければいいと思う。自分で食べるぶんには、たいしてかわらない(ちなみに、ぼくは大根の皮をむかない。面倒くさいからだ)。
時間をたっぷりかけ、計量スプーンやタイマーを用意しひとつひとつ丁寧にやれば、料理は上手にできるはずだ。そのためにレシピがあるのだから。
もし純粋に料理が苦手というひとがいるならば、それは、レシピを見ずにつくってしまったり、追加でオリジナリティを出そうとしてしまったがための失敗がほとんどだと思う。
では、料理が得意なひと、というのはどういうことか。
ぼくが思うに、料理が得意というのは、実際につくってみなくても味が想像できるひとのことだ。プロの料理人、もとい創作料理家というのは、それができるからこそプロたり得ているのではないだろか(あくまでも私見である)。
一般的な「料理が上手いひと」の部類の話でも、これはいえると思う。完成する味を再現することができるから、結果として速やかに、手際よく料理をすることができる。また、新しい料理をつくることができる。
と、ここまでえらそうにつらつらと述べてきたわけだが、「そういうおまえはどうなんだ」と思うかたもいるかもしれない。
他人の料理の手腕を目にする機会があまりないためどうしても主観的にはなってしまうが、ぼくにとって料理をすることは、どちらかといえば得意分野に入ると思う(なかなか回りくどい言い方である)。
もちろん、最初からそう思っていたわけではない。
「自分は料理が得意なのかもしれない」と感じたのは、キーマカレーをつくったときのことだった――そう、ここまではすべて前置きに、否、食エッセイ的にいうならば、仕込みにすぎなかったのだ。
正確には、二回目にキーマカレーをつくったときのことだ。
結論からいえばぼくは、それををつくるさい、レシピを見ず、かつ、夏野菜風に仕立てあげたのだ!
……しまった、こうして書いてみると、全然大したことがない気がしてきた。そもそも、こうして書かずとも大したものではないのかもしれない。やばい、なんか恥ずかしい。
恥ずかしいが、消すのはもったいないので(というか、これを消すとネタがなくなる)、ちゃっちゃと残りを書いてしまおう。
そもそも読者の方々は、キーマカレーは御存じだろうか。
挽き肉とタマネギを炒めたものに少量の水とカレールーをくわえ、煮込んだもの。それがキーマカレーだ。
なにかキーマカレーというとどこかオサレな印象を与えるようだが、所詮はカレーである。つまり、つくるのはとても簡単だということだ。
せっかくなのでざっくりとレシピを書いておくと、挽き肉とタマネギを炒めたものに少量の水とカレールーをくわえ、煮込む。……さきほど書いたものとなにもかわらなかった。カレールー以外の味付けとしては、ニンニク、ケチャップ、コンソメ、それに(調味料ではないが)牛乳。あと、隠し味にインスタントコーヒーをくわえると色艶がよくなる。量は適量で。
……いまのでわかった(かもしれない)。
ぼくの場合(というか、たぶん料理が得意なひとの場合?)、味付けが適当なのだ。なんというか、「たぶんこれくらい入れればいいだろう」だったり、「これを入れればもっとよくなるだろう」というのが、わかる……のだと思う。
料理が苦手なひとだったり、初心者のひとは、レシピ通りに調味料などをはかってからつくる。しかし、それは面倒くさい。だから、料理に苦手意識を持つのではないだろうか。
ならば、ここから導ける結論はひとつ――ぼくは料理が得意だ!
……なかなかひどい結論だった。
しかもこれ、食エッセイと呼べるのだろうか?
明らかに自慢話 (にもなってないかもしれないが)なので、すこしでもこれを食エッセイに近づけるために、苦し紛れながら、キーマカレーの三段活用を紹介したいと思う。
一日目は、そのまま食べる。で、残りは冷凍する。冷凍のさいはジップロックに入れてもいいが、解凍のときに一人前を取り分けるのが面倒なので(台所の角にガンガンと叩きつける必要が出てくる)、牛乳パックを活用することをオススメする。
牛乳パックのうえ部分を切り取り、底にラップを引き、カレーを注ぐのだ。解凍時は中身だけを取り出せばいいという寸法である。
で、二日目は、そのように取り出し解凍をしたキーマカレーに、お湯と麺つゆを注ごう。そう、カレーうどんである。お好みでホウレンソウ(冷凍でオッケー)だったり、揚げ物(スーパーの惣菜でオッケー)を乗せれば、完璧だ。
そして三日目は、ご飯と一緒に炒めてしまおう。前もって作っておいた炒り卵とコーン(冷凍でオッケー)を入れれば、カレーチャーハンのできあがり。
それでも余ったら、チーズと組みあわせればいい。パンにキーマカレーを乗せチーズで蓋をしてトーストしてもよし、パンをご飯にかえれば焼きカレーだ。チーズとカレーの相性の良さは異常。
……さて、こんなところで、すこしでも食エッセイっぽくなったことを期待しつつ、今日はこの辺で箸を――ではなかった、筆を置こう。