ヒューのお着替え
※「激情と変化の兆し6」の後
「さて、今後の話もあらかた終わったところで、早速着替えようか。ヒュー」
「えっ!?今ですか?」
上機嫌なにこやかな顔でそういった篤美をヒューが驚いたように見た。周囲の男達もキョトンとしている。
「だって適当に子供用の服を買ってきたから、大きさとか似合うかとか分からないし。どうしようもなく合わなかったら、また買ってこなきゃいけないでしょ」
「……う、確かにそうかもしれませんが……ケディ達が帰った後でも……その、いいんじゃないかと思うのですが……」
「駄目」
「……何故でしょう?」
「だって、居た方がなんか面白いじゃない」
「なんか面白いって……」
ヒューが盛大に顔をひきつらせた。篤美が服を押し付けると、助けを求める ように騎士団の人間達を見まわしたが、彼らは慎ましく目を反らし、誰一人としてヒューと目を合わせる者はいなかった。ヒューは裏切り者……と小さく呟くと、諦めたように溜息を吐いた。
ニヤニヤとする篤美が手振りで風呂場の方へ誘導すると、肩を落として心底嫌そうな顔でとぼとぼと歩いていった。ケディが呆れた様な、面白がるような顔でニタニタしている篤美を見た。
「楽しそうだな」
「まぁね」
------
ヒューが着替えるのをお茶でも飲みながら待とうと、ウィルにお茶を入れるよう頼んだ。快く了承した彼が台所に移動しようとするのを見送っていると、風呂場に行ったヒューが顔を真っ赤にして居間に飛び込んできた。
「アーチャ!!」
「何だい?」
「こここここ、これ!女の子用じゃないですか!?」
「あぁ。可愛いだろ。お花のアップリケつき」
ヒューの手には女児用のバックにお花が咲いてる可愛らしいかぼちゃパンツが握られていた。
それを見た瞬間、ケディとウィルは吹き出し、バルトとヴォルフは気の毒そうにヒューを見た。
「それ以外にヒヨコさんとワンちゃんとネコちゃんのもあるよ」
「……なんで女ものなんですか!?スカートを穿くのは仕方がないとして、下着くらい普通に男ものでもいいですよね!? そこまで女装に拘る必要ないですよね!?」
「やぁねぇ。誰かにスカートの中身を見られた時どうするのよ」
「8歳の女の子のスカートの中身なんて誰が見るんですか!!」
「それくらいの年頃の男の子って大概女の子のスカートめくりとかするじゃない。それに世の中には年のいかない女の子のスカートの中身を見たがる変態さんも存在するのよ?」
「〜〜〜〜〜っ!!!」
反論できないのであろう。ヒューが怒りか羞恥かで、真っ赤な顔をして黙り込んだ。それを見てケディがゲラゲラ笑い転げている。
篤美はニタニタ厭らしく笑った。若者達は同情するように気の毒そうな顔をしながら、そっとヒューから視線を反らした。
「ま、諦めな」
ニヤニヤしながら篤美がヒューの肩をポンッと叩くと、ヒューが諦めたようにガックリと項垂れた。
篤美がヒューの両肩を持ってクルリと方向転換させて風呂場の方に向かって背中を押すと、ヒューは素直に足取り重く歩いていった。
その背中には言いようがないほどの哀愁を漂わせていた。