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「おじさん! この中で一番高いのちょうだい!」
「おおっ? 何だ何だ? 払えんのかいな。そんなんゆうてもなあ、うーんとなぁ、この壺が一番高いで」
「いくら?」
「三千円」
「買った――――!」
「まいどありー」
おじちゃんが嬉しそうに笑う。
少女はその笑顔を見てもっと嬉しそうに笑う。
「おーい坊主、そんなんじゃ売れへんでー? もっと宣伝せなアカン。大声出して! 誰も買うてくれへんで」
「…………」
「なんや、返事くらいせえよ。おっちゃんは親切でゆうたげてんねんからな」
「…っさい」
「あ? なんやて?」
「うっせんだよ!」
「あぁ!? 何やて! …まぁ、ええわな。ええわええわ、オッチャン優しいさかいな、許したる。そやけどなぁ、俺はお前の商品絶対買うたらん!! あそこの姉ちゃんなら買うてくれるかもな! ほんならな! しっかりやりや小僧!」
おじさんは憤慨した様子だったが、青年を気にするように去って行った。
青年はおじさんの後ろ姿を睨みつけた。
場所はそう。
月に一度開かれる、フリーマーケット会場。玄人公園。
――――そこには、
笑顔を買う女子高生と、
自作の小説を売る、目つきが頗る悪い青年が、
存在していた。
***
うわ、まずい。
そう呟いた禽茄仲美は大きな壺を落とすまいと必死に片手で抱えながら一方では財布を持ちその中身を覗き込んでいた。
う、わあ。いつの間にこれだけになってしまったんだ。
残金、実に二十五円。
駄菓子ぐらいしか買えそうもない。
うそ、ウソ、嘘! いつの間に、本当いつの間に。つい先ほどまで、この中には野口英世さんが七人は滞在していたはずなのに。…どうして!
肩を震わせ嘆き悲しむ、禽茄。
それは、あんたが使い込んだからやろ! とツッコミを入れてくれる親友は今は不在。というか、禽茄の誘いを鼻であしらったのだった。禽茄の趣味を金をドブに捨てるようなものだと言い張る親友、御神あすなは一度誘われてこのマーケットに来て以来、来なくなった。御神は極度な守銭奴である。