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第4話 カミングアウトは唐突に

 北の地を統べる『魔王』――――それは世界中に存在する多種多様な魔物(モンスター)達を治める、力強い者に与えられる最強の称号。

 荒くれる彼らをその圧倒的なまでの力でねじ伏せ従わせ全てを跪かせる、誰もが知るこの世界の影の支配者。到達不可能とされる北大陸の果ての城・アステリオン城の最上階で全てを見据える孤高の存在。



 そんな存在の前で土下座しながら思う。攻撃力も防御力も皆無なくせに元魔王様を拉致するとかどんな勇者だろう。いや実際はただの一般人なのだけど。

 アリアはふと脳裏に浮かんだ本物の「勇者」の笑顔を振り払う。レグスにはどこがと言われたばかりだけど、私の基本の性質は普通の一般人だ、と自負しようとしてやめた。そんなのを自負するとか切なすぎる。


 そもそも勇者に城から引きずり出され、一般人に簡単に拉致される(元)魔王ってどういう事。今は牧場主見習いだけど、とその最強の称号を持つ筈の存在には首を傾げずにはいられない。

 つまり、何が言いたいのかというと。


(何このまさかの死亡フラグ……! それも羞恥で死ねるタイプ!)


 師弟フラグの次に立ったソレは、最初に折れた筈の恋愛フラグから凄まじい程に遠ざかっているというか何というか。せめて友情フラグあたりにしたいけど、どうすれば戻せるかわからないジレンマに頭を抱えた。むしろ修正可能なのかこれは。

 途方にくれた目の子犬の前で途方にくれる。とりあえず目に見えない筈の空気と視線が痛い。


 訪れた沈黙にお互い固まっていると、遠くから聞こえた鳴き声に我に返って再び深々と頭を下げる。土下座って意外と苦しい体勢だったというのは出来れば知りたくなかった事実だ。


「ほんとーにごめんなさいっ」

「……?? 先程から一体どうしたっていうんです?」

「いやだってほら、いきなり連れてきちゃったし。世間一般的からみればこれって拉致だよなぁ……と思って」

「ああ、その事ですか。気にしていませんよ、家でもよくある事でしたから」

「悪気はなかっ……え、うん?」


(よくある事って…………拉致が?)


 のほほんとした言葉に思わず首を傾げる。魔王城の魔物達の間では犯罪が横行していたのだろうか、と自分がイメージする高レベル魔物達を思い浮かべる。うん、驚くほど違和感はなかった。

 思案するアリアの様子に気づかずレグスは続ける。


「ガーデニングや編み物をしていると、魔王らしくないからやめてくれと問答無用で連れ戻されるんです。それが嫌で隠れていたら、終いには客間に軟禁されましたけど」

「それは拉致というよりは当然の心配というか……」


 『魔王』の威厳の心配とかレグス自身への心配とか、その他諸々の意味が含まれていそうだ。


「……うん、とりあえず、素敵な趣味をお持ちです……ね?」

「はい、今度一緒にいかがです?」

「それは是非」


 少し嬉しそうなレグスは自分がどれだけ衝撃的な事を言ったのかわかっていないに違いない、と渇いた笑いを浮かべながらアリアは思う。

 ガーデニングや編み物という趣味は「レグス」としては違和感はない、むしろよく似合う。でもそれが「魔王」としてなら別問題だ、恐怖の存在がそんな平凡な事してたら逆に怖い。むしろ自分が彼らの立場だったら確実に転職を考える。


 それまでイメージしていた高レベル魔物達はみな厳つくて力強い感じだったのに、実は苦労しているんだなぁ……と思った瞬間にイメージが音を立てて崩壊した。

 そして魔王が配下を相手にかくれんぼとか、彼らの胃と頭皮にどれだけストレスを与えていたんだろう。


(というか魔王を軟禁する配下って、本物の下剋上……だよね?)


 目の前の不思議そうな子犬を必死に魔王らしくしようと奮闘する魔物達の姿が目に浮かんで、アリアは思わず目頭を押さえる。その苦労が報われなかったらしい事はレグスを見ればよくわかった。


 世界にとってはありがたいんだけど、なんかもう、お疲れ様ですとしか言いようがない。


「つまり振り回されるのには慣れているので大丈夫です、気にしないでください」

「うん、とりあえずよくわかった」


 脳内の魔物達と、ミラに奮闘する自分とを重ねて思わず合掌。

 まさかの魔物事情は戸惑いを通り越していたたまれないものだった。レグスとミラに似ている所があるかもしれないとは思ったけど、まさか他人を振り回す所がそっくりだとは何というか……複雑すぎる。


 別に知りたくもなかったまさかの魔王城のドタバタ具合に憐れみしか感じないのは何故だろう。見てはいけないものを覗き見てしまったというか、別に無理に聞き出したわけでもないのにこちらが申し訳なくなる不憫さというか。


 ……何でただの一般人か魔物を不憫に思っているんだろう。うん、それこそおかしいよね?


(ほ、ほんともう、わけわかんない……魔王とか魔物って恐怖の象徴の筈なのに)


 そんな彼らに脱力しかしないって一体。

 あまりにも濃すぎる内容に癒しを求めても、当のモコモコ達が近くにいなくて更に黄昏る。何となく見捨てられた気分になってレグスを見上げると「どうしたんです?」と首を傾げられた。むしろ貴方のあまりの魔王らしくなさに対して全力でその言葉を返したい。

 きっと「悪い事をしたら魔王に連れ去られて食べられてしまうんだよ」と口を酸っぱくするお母さん達もビックリだ。人間を食べない所か配下に軟禁される魔王と、そんな彼を魔王らしくさせようとする配下達。そんな彼らを怖がる子供がいたら見てみたい。むしろミラが知れば爆笑する。


「そういえば、聞いてもいいですか?」


 ゆるりと向けられた視線と言葉に頷く。衝撃的すぎる暴露話の後だからもう何を聞いても驚かない気がする。さあどんとこい、今ならきっと何でも答えられる。

 まあミラと違って突飛な事を言いだす人じゃないし、と思う私はこの短時間で少しはレグスを理解できていると思う。


「ミラの何に対してあんなに怒っていたんです?」

「あ、そういえば元々はその話だったっけ。あまりに脱線しすぎたね」

「本当ですね」

「……いや、嘘でもいいからそこはフォローしようよ」

「無茶を言わないでください」


 今のどこに無茶な要素があったんだろう、と空を見上げて思う。

 やっぱり理解は難しいかもしれない。


(何で怒ってたんだっけ……。えーっと……あぁそうだ)


 ミラがドアを壊すのは本人も言ってた通り、それこそいつもの事だ。今のドアが何枚目の貴い犠牲かなんて数えるのも難しいくらいだし、他に歴代の被害者を数えるとしたらキリがない。

 じわじわと痺れてきた足を崩して体育座りにすれば、何故かレグスも足を曲げて体育座り。少したどたどしい様子が可愛いけど、体育座りした事がなかったってどんなだろう。


 ふと城の豪華な一室で体育座りをする魔王の姿を思い浮かべて――――頭を振る。うん、ナイわ。レグスが体育座りした事なくて良かった。


「私、さっきドアが壊れた事に怒ってるんじゃないって言ったよね」

「ええ、ですから何を怒っているんだろうと思って。せっかく帰ってきた幼なじみでしょう? どこに怒る要素があるんです?」

「だからだよ」


 感情(いろ)のない灰色に映る、情けない顔から目を逸らす。

 思い出すのは、ミラが突然旅に出た日の事。


「ちょうど一年前ぐらいかなぁ。突然旅に出るって言いだしたミラを止めようとしたの。結局止められなくて、結果としてここにレグスが居るわけなんだけど」

「まあ獣を野に放つような事ですからね。私でもきっと止めると思います」

「や、違うよ。まあ確かにそういう意味もあったかもしれないけど、そんな立派な理由じゃないの」


 首を傾げるレグスに苦笑する。

 あの時私が手を伸ばしたのは、世界のどこかで見知らぬ誰かが台風の被害を受けるのを止めようとしたからじゃない。

 ――――ただの私のエゴだ。


「ミラが旅に出てから私はここに一人で、たまに来る行商さん以外に話す人もいなくて」

「はい」

「居たら居たでとんでもない事しでかすから安心かなって最初は思ったけど、でもいつ帰ってくるかわからないのにただ待ってるって難しくて……ミラがいなくなってから私、この世界に一人ぼっちな気がしてね。ミラが、私が、誰にも知られないまま、このまま死んじゃったらどうしようって」

「…………はい」

「あんなのでも私にとっては大事だったみたいで」


 伸ばした手は届かなかった。

 行かないで、と言いかけた声は出なかった。

 一人が嫌で、置いていかれたくなくて、行ってほしくなくて。ただ、それだけ。


(汚いなぁ、私)


 膝に顔を埋める。

 あんなにミラに振り回されてると被害者面をしておきながら、ミラに縛られ振り回される事に満足している自分。

 そんな歪んだ自分が情けなくて、でもこれが自分で、熱いものがこみあげる喉をぐっと押さえた。


(…………あ)


 ふと頭に触れた温かいものに、上げかけた頭を止める。ためらいがちにぎこちなく動く、シマ子さんを撫でていたそれ。その動きに比例するように内側からじわりじわりと「何か」が満たされていくような感覚が不思議と心地良い。

 その心地良さに自然と安らぎながら、ふと思う。こんな歪な自分を受け入れてくれた気がしたのは錯覚だろうか――――。


「私は、関係とか、絆とか……私とか。が、壊れそうになった事に怒ってる」


 振り絞った声に訪れた沈黙。さっきも訪れた沈黙は、でも今度は痛くなかった。


「…………寂しかったんですね」


 ぽつりと呟かれた、暗闇に浸透する穏やかな声。普段ならきっと反発していたかもしれない言葉にそんな気が起きなかったのは、その声に同情の響きがなかったから。


 今朝会ったばかりで何でこんな話してるんだろうと思いながら、でもその心地よさにどうでもいいかと思考を投げ出す。きっとレグスにはリラックス効果があるに違いない。


「大丈夫です。一人ぼっちなんて事にはなりませんし、貴方達の関係も貴方も壊れません。ミラは帰ってきたし、今は私という弟子もいるでしょう?」

「うー……レグスの女たらしー」

「それは酷い言い様ですね」


 おどけたような声にクスクス笑いながら顔を上げる。ゆっくり離れた手に覚えた寂しさを隠して、今朝見たミラの満面の笑みを思い浮かべる。

 歪んで、被害者面して、素直じゃなくて、普通で。でもきっと誰よりもそんな情けない私を受け入れて、隣で笑い続ける幼なじみ。なら私は、今まで通り「このまま」だ。

 変化せず、ただそこに立って――――受け入れるだけ。


「でも、本当に大丈夫ですよ。一緒にいてくれると言ってくれた貴方の傍から、私が離れるわけないじゃないですか。ずっと一緒にいますよ」

「…………ありがと」


 柔らかく目元を緩める姿に微笑む。こんな私だけど、でもきっとレグスも受け入れてくれるんじゃないかと思うのは気のせいだろうか。

 優しい雰囲気の彼を見ながら、何となくそう思って――――でも言葉にはしなかった。


(だって、はじまったばかりだもんね)


 立ち上がって草を払う私と同じように立ち上がって、高くなった灰色を見上げて思う。

 もっとお互いの事を知って、理解して。受け入れてもらうのはそれからで良い。だって時間はたっぷりあるんだから。

 

 にっこり微笑んだ私に「元気になって良かったです」とやっぱり淡々と言うレグスにあれ、と首を傾げた。さっきの答えって、結局レグスの質問の答えになってない気がする。

 自分がミラに何を望んでいるか、の答え。それは。


「結局は謝ってほしいのと、ただいまって言ってほしいのと。私が今、ミラに求めてるのはその二つかな」

「……ただいま、ですか?」


 そんな事? と呆気にとられた様子のレグスに思わず膨れる。私にとっては全然「そんな事」で済ませられない、とても大事な事だ。


「だって行ってきますって言って出て行ったんだよ? なのに一年ぶりに会った幼なじみへの挨拶が『おはようハニー』とかいうふざけ具合……っわけわかんないのは当然だと思う!」

「……あれはふざけてるのではなく本気だと思いますが」

「それならそれで腹立つ!」


 ぶめぇぇ!


「わ、お怒り? やばっ」


 うるさい、と言わんばかりのゆきえさん達のじとりとした目に背筋が凍る。以前彼女達を怒らせた時、延々と追っかけ回された事を思い出して青ざめた。実はその日の夢にまで出て来たお怒りの羊達は、私にとっては若干トラウマだったりする。

 そしてそれ以来、私が眠れない夜に羊を数える事はなくなった。だって柵を飛び越え追いかけてくる羊の様子に訪れるのは眠りじゃなくて寒気と恐怖。動物の怒りって怖い。


 そろそろ移動しよっか、と呟いた私に何かを察したらしいレグスと共に、私達はソロソロとその場から逃げだした。



 一般人と、勇者と、魔王。これからどうなっていくかなんてそれこそ誰にもわからないんだから、自分達なりに平凡に、精一杯歩んでいければいいと思う。

 フラグを変化させるのも回収するのも、これから、それからだ。



「でもなんかさっきのって、愛の告白みたいだね」

「そう言われればそうですね。まあ“お見合い”ですから問題ないのでは?」

「あ」


 レグスの言葉に今更ながら思い出す。

 どうしよう。


 …………お見合いの事、すっかり忘れてた。


 今回はアリアの内心暴露です。

 心情を吐露させるって難しい……。


 「ここくどいよー」とか「この表現おかしくない?」という部分がありましたらお気軽に言ってください。涼羽に出来うる範囲で対応させていただきます。


 とりあえず、ここまで読んでくださってありがとうございました!

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