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夜。西谷は北沢の事が一気に心配になった。もう少し自分が粘っていれば、自分自身がもう少し人情味溢れた人間だったならば、等と後悔の念は尽きない。そんな事を今更考えても遅いのだが、西谷はあれこれ考えた。何もしないよりかはマシなのか、それとも精神を保つためなのか。何れにせよこの先どうすれば良いのかを考えている。そうしている内に数時間が経過してしまった。
一方、北沢は精神的に傷を負ったまま家に辿り着き、そのまま何日も敷かれたままになっている敷き布団(敷き布団と言ってももうボロボロで原型を留めてないのだが)の上に倒れ込んだ。一体どうすればいいのか、もう無理かもしれない、どうせ駄目だろう、北沢は悲観的な事しか思い浮かばなかった。同時に自分の意志の弱さに苛立ちを覚えてくる。昨日だったか一昨日だったかはこの学校を立て直すと心に決めてたではないか、それを一日で諦めてしまうのか?そう考えてる内にもう外は闇に包まれていた。星一つ無い曇り空だ。夕方は晴れていたのだが。
夜十時過ぎだろうか、突然北沢の家の門扉が激しい音を立てた。半ば眠りかけていた北沢は突然の音に驚いた。北沢は身なりをほんの少しだが整え、玄関へと向かい、外に出てみた。
「・・・どなた?」
「どなたは無いだろ。」
西谷だ。
「悪いけど今日は話せる気分じゃ無いの。帰って。」
北沢は西谷にそう言って家の中に戻ろうとした。が、西谷は北沢の腕を掴んで阻止した。
「な、何すんの!?」
北沢は当然の如く声を荒げた。
「・・・東亜高校の近くで火事が発生した。放火らしいが詳しくは警察が捜査中だそうだ。巷で『まーた東亜の生徒がやらかしたか。』とか、『やっぱあの高校駄目だよなー。』とかの声が聞こえまくりだ。東亜の生徒だと犯人を決め付けてるみたいだな。」
北沢は西谷の言葉に愕然とした。此処までだとは流石に予想出来なかった。世間の目も痛い。北沢は何も言わない。いや、言えないのである。
「気持ちはわかる。じゃあどうすればいい?辞めるのか?」
「! ・・・修吾までそんな事言うの?」
北沢は西谷の若干辛辣な言葉に若干涙ぐんでいる。
「まで?他にも言われたのか?」
北沢はこくりと頷いた。
「それってもしかして・・・蘂川、か?」
北沢は驚きを隠せなかった。何故西谷が蘂川の事を知っているのか?理解出来なかった。一体どういう事なのか?北沢は困惑してしまった。これに西谷は感づき、話続けた。
「夕方、偶々会ったんだよ。蘂川も、どうやら北沢の事心配してたみたいだぞ。」
「・・・そう。明日謝らなきゃね。」
「で、又辛い事聞くが、これからどうするんだ?」
北沢は何も言わない。まだ整理がついて無いのだろう。
「結論が出ないなら別に構わん。だが、そうしてて何時の間にか季節が進んで終いに辛いまま高校を卒業する、そんなのは嫌だろ?」
「それは嫌だね。」
西谷は明日には決めとけよ、と北沢に釘を指して高校の方角だけ煌々と輝いている外を歩いていった。