表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂時計の少女  作者: しんみ
第二章 改心
6/11

-6-

 午後。北沢は教室に着席する。落書きが一杯一杯に書かれている黒板。割れかけの窓ガラス。塵が散乱した床。時たまガラスの破片が靴底に突き刺さる。足裏から僅かながらに血が出る。痛みに耐える。しかしながら、午後になってから生徒がぞろぞろ集まって来る。こんな時間に、である。

 なんでだろう?と北沢は思った。が、聞きたくてもとても聞けない。一般人には遠すぎる存在なのだ。

 「・・・なんなんだろ。」

 北沢はぽつり誰にも聞こえない位に言った。聞く勇気なんてない、あるのは弱気だけ。北沢は半分焦燥感があった。

 教員が入って来た。嗚呼、やっと授業が始まるのか、という安堵があった。開始三分までは。三分までは、である。

 授業が始まる。教科は数学。前で淡々と黒板に数式やらを書く教員・・・、それを書き写す生徒・・・、そんな極普通の光景はここには無かった。広がるのは罵声や讒言ざんげんだけだ。「馬鹿。」や、「死ね。」や、「帰れ。」等、取り上げたらきりがない。如何せん人数が午前中よりかなり増えたためか、午前中よりも目立つ。

 授業が始まってから約三分、まあ正確には始まったとは言えないのだが、授業は・・・終わった。いや、終わらせた、の表現が適切かもしれない。もう教室には教員の姿は無い。生徒だけだ。北沢は困惑した。当たり前の反応である。となれば職員室に北沢は行ってみた。

 当然の如く誰もいない。代わりに昨日もいた不良が居座っていた。もう泣くしか無かった。本当は慟哭どうこくしたかった。こんな凄惨な状況で錯乱しない方がおかしい。北沢は限界まで気持ちを押し付けて人知れずすすり泣いた。

 「何泣いてるの。」

 おや、誰だ、誰だ私に声かけたのは。振り返ると蘂川が立っていた。

 「・・・何?」

 「何って、いきなりそんな泣いていたら普通気になるから、多分。」

 「・・・慟哭してもいい?」

 「理由は?慟哭する程なら余程の事?」

 蘂川は若干問い詰めるかのように北沢に問いかけた。北沢は泣いているからか、はっきりしない声で、

 「・・・こんな学校、もう嫌になる。正直、予想以上に。」

 あ、これはもう結構まずいな、と蘂川は思ったようだ。参ったな、返答が出ない。何て返そうか・・・。蘂川は困惑している。

 「・・・それで?」

 蘂川はああ、しまった。逆効果かもしれぬ。と後悔してしまった。

 「それでって・・・言わなくても解るでしょう?」

 北沢がさらりと返すと、蘂川は更に困惑してしまった。更に悪い事に段々と思考が支離滅裂な方向性になっていった。言い換えれば思考崩壊である。

 「そうだから、彼方はどうするの?現実から逃げる気?それじゃあただの弱者でしょう?逃げ出したい気持ちは解るけど、それに屈してその後どうなるの?そんな考えじゃ一生まともに生活出来ないよ。」

 やけになった蘂川は北沢にきつい発言を浴びせてしまった。

 「・・・どうすればいいんだろう、私。」

 北沢は呟いて走っていってしまった。泣きながら。

 「あ、ちょっと!待ってよ!私も言い過ぎた!言い過ぎたったら・・・。待ってよーっ!!」

 蘂川はとにかく去って行く北沢に思いつく限り叫び続けた。が、それが北沢の耳に届く事は無かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ