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砂時計の少女  作者: しんみ
第一章 入学
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-2-

 夜、北沢は一人でお茶漬けを食べていた。理由は前述の通りである。一人で食べるご飯は矢張寂しい。が、だからといって他に身頼もない。これが何時もの北沢の日常である。なのだが、

 「え?誰だろ?」

 普段は鳴ることは無い呼び鈴が鳴った。

 「おーい、北沢!またお茶漬けか何か食ってんだろ!」

 西谷である。普段西谷は北沢の家に行く事はまずない。北沢は何故来たんだ、と言いたい所だったが、そこは堪えて、図星だ、と言った。

 「ちょっと上がってもいいか?」

 「え?あ、構わないけど・・・。」

 西谷は玄関を上がり、囲炉裏のある茶の間に入った。相変わらず古い家だ、最後に来たのが一年前だったか、と西谷は懐かしがりながら思っていた。

 「それで、何か用?」

 「・・・どうして東亜高校に入ったんだ?それが分からないと夜も眠れない。」

 北沢は固まった。どうやら心の奥に隠していた事を見事に西谷に突かれてしまったらしい。

 「・・・恥ずかしい理由よ。」

 「恥ずかしい理由?何だそれは。答えになってないと思うが。」

 「・・・私ね、高校に進学しようと思ったんだけど、私の家族は普段家にいないでしょう?だから誰も言わないし干渉もしない。だから気付いた時には既に九割九分の高校が願書提出の期限を過ぎていたの。だから自分なりにどうしても高校に行きたかったから頑張ってまだ大丈夫な高校を探した、そしたら東亜高校が見つかって、詳しくその学校を調べずに願書を提出したのよ。そしたらいきなり『入学通知』ってのがポストに投函されていたの。」

 「そして、入学したって訳か。」

 「まあ、そういう事・・・私って馬鹿よねえ・・・。」

 北沢は自嘲した。北沢からすれば、なんて私は馬鹿なんだ、なんて私は愚かなんだ、っていう気持ちが西谷に話したら一気にこみあげて来たのである。

 「元気出せって。そうくよくよしてると運が逃げるぞ。」

 西谷が励ますと、北沢は少し深呼吸をして西谷にこう返した。

 「そう、ね。これ以上私から運が逃げたら待っているのは死、かもしれないしね。」

 何時もの北沢じゃない、暗澹あんたんとしている、やっぱりショックなのか?と西谷は考えていた。まあ無理もないか、全く知らずにこんな高校に入ってしまったんだから、とも考えた。

 北沢は北沢で、このままくよくよしているのも駄目だ、何とかしなければ、学校をこれ以上腐敗させてはならぬ、と西谷に言われる事をああ言いながらも考えていた。

 「それで、どうするんだ?辞めるのか?」

 西谷の不意な問いかけに北沢は動揺して食卓の上に置いていたコップの水をこぼしてしまった。

 「待ってよ、いきなり考え事をしてる最中に言わないでよ!」

 北沢はつい勢いに任せて怒鳴ってしまった。だが直ぐに落ち着きを取り戻した。

 「あ・・・ごめん。」

 「あ、いいよ。気にしてないし。」

 北沢が重い口を開いた。

 「やっぱり私、学校に通う。」

 西谷は少し動揺する素振りを見せた。無理もない、あんな学校に行くと言い出したのだから。

 北沢は続けた。

 「だってさ、さっきあんな事言ったけどさ、やっぱり私だって逃げてばかりはいられない。現実逃避はしたくない。それに・・・。」

 北沢が言葉に詰まらせた。言葉が出ない。出したいけど出ない。言っても仕方ない気がする、言うべきだ、また叱咤される、分かってくれる、そんな二つの気持ちが北沢の頭を支配していた。

 「それに、何だ。」

 西谷の問いかけに北沢は反応しなかった。いや、反応できなかったのだ。矢張北沢の脳内はまだ気持ちが二転三転してるらしくまだ情緒不安定な状況だった。

 「とにかく、まあ学校には行くんだな。」

 西谷の問いかけに北沢はこう言った。

 「志半ばで挫折しなければ、の話だけどね。」

 「そうか、じゃあ俺はもう帰るが頑張れよ。」

 北沢は西谷を笑顔で送り返した。只北沢の内心は未だに不安を抱えていたのは言うまでもないが、同時に西谷にまだ居てほしい、一人じゃ寂しいという今まで経験しなかった気持ちが出てきたのであった。

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