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15 火星と地球の恋人(3)

ここから見える景色には様々な人生がある。


川崎駅周辺や武蔵小杉方面にはそれ自体が小さな都市のように、タワーマンションがいくつもみえる。そこに住む夢を叶えた人たち。


多摩川台公園の古墳。きっと太古の昔から誰かが住んでいた。


近くに目を落とせば競馬場や競輪場。そこにも夢を追いかける人たちがいる。そしてそれに熱狂する人たち。


堀之内で社会から隔てたように働き、それでもそこに自分の居場所を見つける人たち。そしてそれを支える人たち。


世界的に有名な企業のビルも見える。


賑やかな銀柳街は上から見ると全く違ってみえる。


飲み屋の客引き。静かな住宅街。コリアタウン。労働者の町、公団住宅。


そして高良さんの父親が入院している病院。


多摩川の下流にかけて六郷橋、大師橋、スカイブリッジ、そして羽田空港。日本を支える物流が行き来する。


僕らもいつかこの町のどこかで、誰かのために仕事して、たいしたことのない人生を過ごしていく。


SNSやメディアに頻繁に取り上げられるような成果を出したいという野望が、ないわけではない。


けれど陰ながら人一倍誰かのために尽くす高良さんやアイさん姿を思い浮かべると、そんな自分の姿が滑稽に思えた。


もちろん有名になって目立とうという、そういう生き方も悪くはない。


真吾は天才的な感覚でそうなっていく気がする。


でも自分が本当に求める生き方は何だろうかと、彼女を見ていると突きつけられる。


もっと素直に生きる方がいいかもしれない。


ふと頭の中心の暗闇に、ほのかなろうそくの火をともすように言葉が浮かび上がった。


「火星人って地球人と付き合えるのかな?」


僕の奇妙な質問を不思議がる様子もなく、高良さんは自然に解釈出来たようで、こう返事をした。


「裸の自分を見せる勇気があるならきっとね」


それは文字通りの意味ではないとわかっていても、彼女の右太ももの内側にあるほくろが思い浮かんだ。


僕は何かいけないことを知っている気がして、どきりとした。


「いいえ、相手のそのままの姿を直視できる勇気があるなら、かな。自分と違う姿形であっても受け入れられるのなら」


今の居場所を大切にして、しがらみから逃れられなくなるのは不幸だろう。


今の居場所を大切にして、どうであれ自分の居場所を見つけられれば幸福だ。


真吾のように旅立って本当の居場所を見つけるかもしれないし、居場所を見つけられずにたださまよい続けるかもしれない。


僕らは一通り景色を眺めた後、なにか心が解放された気持ちのまま展望室のエレベーター前に戻った。


降りるエレベーターでは、彼女はもうこめかみを壁に押しつけてはいなかった。

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