15 火星と地球の恋人(1)
「お金がないからお返しできる物がないけれど、私の知っているとっておきの秘密の場所を見せてあげる」
と高良さんから連絡を受けた。
年が明けてしばらくした日だった。研究室には真吾の姿はなく、他のゼミ生と一緒に発表会に向けて準備を進めているときだった。
期末にはその時点での研究成果を発表する機会があり、そのために真吾の作りかけたロボットを、何かしらの形でとりまとめなければならなかった。
僕は必死に取り組んでいた。
誰もがなにかを抱えていた。それでも折り合いをつけて、それぞれ未来や将来に希望を持って進み出していた。
彼女からの突然の誘いに少し戸惑ったが、何かの想いが伝わってきた。
でも自分の心に素直になれば、発表会へのプレッシャーから少し逃げ出すために、ただ単に高良さんに会いたかったのだった。
彼女とは京急川崎の駅前で待ち合わせた。彼女が到着するまでの間、ついこのまえ彼女とここに来た日を思い出していた。
『ここでキスしてくれない?』
あの言葉は記憶の違いだったのだろうか。
あの午後の経験は、もう何年も前の出来事のようで、もはや現実味が薄れてきた。
また同じことを訊かれたらと、漠然とその瞬間を頭によぎらせていた。
高良さんが現れると、こっちこっちと言って、僕の手を掴んで引っ張っていく。
どきりとする暇もないまま引っ張られて、小走りでどこかに向かう。
「ちょっと待って。どこに行く気?」
「いいところ。着くまでは秘密」
と彼女は少し悪戯めいた目をして、僕をここではないどこかに連れ出すような気分だった。そうして行き着いた場所は川崎市庁舎だった。
「え、ここ?」
「うん、ここ。でもがっかりしちゃ駄目だよ。実はこの上に展望室があるんだ。そこからの景色を見せたくて」
と言い、彼女はするすると入っていき、エレベーターを呼んだ。




