14 二人だけのオフ・クリスマス(3)
高良さんと同じクラスだったから三年生の時だ。
その日は教員に頼まれて校舎の裏手に何か取りに行った。何を取りに行ったかは今となっては全く覚えてもいない。
部室の集まる平屋の建物の裏を通らなければならず、初めて足を踏み入れた。
次の日は学校中が騒ぎになっていて、訊いてみると部室荒らしがあったという。
全ての部室の窓が割られて、金目の物が全てなくなっていたらしい。
監視カメラなどもなく、ただ僕がその辺りをうろついていたのを見ていた、同じクラスの数名の生徒の証言で僕が容疑者扱いされた。
僕は何もしておらず完全に不当な扱いだった。
クラス中が沈黙して、誰も僕をかばう人はいなかった。ただ高良さんだけが
「永井君は関係ないでしょ。先生に頼まれて通っていただけでしょ」
と、その学生達に反論してくれたから、事なきを得た。
誰でもなく急に高良さんが声を上げてくれたから、どういう気持ちで助けてくれたか不明なままだった。
「ねえ中学三年の時、部室が荒らされた事件があったの覚えてる?おれが疑われて」
「そんなことあったっけ?うーん、思い出せない」
彼女は本当に思い出せないようだった。
僕自身が今の今まで忘れていたし、彼女が忘れていてもしかたがない。
たとえ助けてくれたとしても、彼女にとってそれほど重要ではなかったなら、覚えていなくても仕方がない。
「あの時、高良さんがかばってくれたんだよ。どういう気持ちでかばってくれたのかちょっと知りたくなった」
「そうねえ。その出来事自体覚えていないからなんとも言えないけど。今理由を見つけるとすれば、それは永井君が本当に無実だったからじゃない?」
「信じてくれていたから?」
「うん、だから疑われるのが我慢できなかった、のだと思う」
「そうだね。今さらだけど、改めてありがとう」
「いいの。そういうのって、私自身も救われる気がするから。真面目にやっている人が大切にされる方が」
クリスマスが去って、足早に新年の装いに変わりつつある街並みをしばらく歩いた。
途中で横浜開港資料館の前を通った。遅い時間のため閉まっていたが、大きく広がるたまくすの木が中庭に見えた。
江戸時代からそこにあり、大火でほとんど燃えたものの根から再び成長した木だ。
歴史の教科書に出てくる、ペリーが横浜に上陸したときの絵の右隅にあるあの小さな木。百年以上をかけて建物の上に飛び出る程の巨樹となった。
これまで幾度となく数え切れない人々の波瀾万丈な人生を見つめてきたが、この夜はエンジン音もひそやかな通りの、迷える男女のこびとを見下ろし、行く道を微笑ましく見守っていた。
交差点を左に曲がり、少し進めば大さん橋だった。大さん橋の先まで渡った。




